【そのアプローチ、教科書に書いてあった?】第3章 「ミラーリングで同調せよ!作戦」
第3章テーマは、ミラーリング効果
ミラーリング効果は【人は、自分と似た行動・言葉・感情を示す相手に対して、無意識に親近感を覚えるという心理。相手の行動や姿勢を自然に模倣することで信頼や共感が生まれる】というものです
しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります
それでは、第3章 「ミラーリングで同調せよ!作戦」をお楽しみ下さい
前回のあらすじ
その日、朝の教室に入った瞬間、空気に違和感があった
俺の席の隣に、やたら静かな存在がいた
いつもなら朝からテンションが高いあいつ──皆瀬まひる
だが今日は、姿勢が正しく、表情もなく、目線は一点を見つめたままだ
「……どうした」
「…………」
返事がない。耳にはイヤホンも入っていない。寝てるわけでもない
無表情、無言、無動作
まるで──鏡だ
「……なにしてんだ、お前」
「……同調です」
小さく、機械のような声で返ってきた
「同調?」
「あなたのペースに、合わせてみようと思って」
まひるは、こちらを見ずに言った。顔だけは無表情を保っている
「私、昨日気づいたんです。あなたって、感情の波がほとんどない」
「今さらかよ」
「だから、私も……同じになれたら、何かが伝わるかもしれないって!」
「……えっと、それ“個性消しにかかってないか”?」
「“個性のミラーリング”です!きさらぎモードです!」
なんだそのモード名は。語感だけ強い
その瞬間、机の上に置かれた彼女の文具が目に入った
──全部、俺と同じだった
無地の黒い筆箱、黒ボールペン、無印のノート
それどころか──今日の髪型も、地味なポニーテール
「それ……真似してんのか?」
「はいっ。あなたが“黒”ばかり持っていることに気づいて」
「黒って、ペン買いに行ったらだいたい最初に置いてある色だぞ」
「そこが深いんです。主張しない色に、個性がある!」
なんか詩人っぽいこと言い始めた
「……で、なんのために?」
「伝わるか、試してみたいんです。言葉じゃなくても、感覚で」
そう言って、彼女は急に沈黙した
まばたきの間隔すら俺と合わせている
……ちょっと怖い
「…………」
「…………」
まじで喋らなくなった
二人で10秒以上、無言。完全に空気が止まった
周りの女子がざわつき始める
「え、なにあの空気」「喧嘩してんの?」「え、付き合ってる?こわ…!」
違う。全部違う
「……まひる」
「…………まひるモードです」
「やめろ。その呼称、寒い」
「感情を消すのって、難しいですね……。今、顔の筋肉つりそうです」
「やらなきゃいいだろ、それ」
「でも……私のこと、少しは気になってくれました?」
表情がないまま、声だけが少し揺れていた
その瞬間、俺はちょっとだけ口角が上がりそうになったけど、ギリで耐えた
「……気にはなるな。毎日、方向性が狂ってるから」
「それ、褒め言葉として受け取ります!」
──褒めてない
ただ、俺の横に並ぶようになったこの奇妙な影は
気づけば、他の誰よりも“同調してくる存在”になっていた
そして、その存在が──妙に、気になる
昼休み、俺はいつものように中庭のベンチに向かった
教室にいると視線が気になって集中できない──主にひとりのせいだが
だがその静けさも、今日は長く続かなかった
「失礼しまーす、如月モードでーす」
満面の無表情で登場したのは、やはり皆瀬まひるだった
「お前、それ“無表情”って言っちゃってる時点でアウトだろ」
「いえ、“意識的な無表情”です!表情筋、殺してきました!」
その言い方が既におかしい
まひるは俺の隣に腰を下ろし、同じ姿勢で背筋を伸ばす
さらに、同じタイミングで水筒を開けて、同じリズムで飲んだ
「……まさか、それも?」
「はいっ!あなたの飲み方、昨日3回観察しました!」
観察してたのかよ
「あと、昨日の昼食が“ツナマヨおにぎり→味噌汁→唐揚げ”の順だったのも覚えてます!」
「……なんで順番まで覚えてるんだ」
「きさらぎ式食事ルーチン、完全コピーしてきました!」
どこで命名してんだ、それ
「ちなみに、今日の私の弁当も同じメニューにしてあります!」
彼女が広げた弁当の中には、見事に同じラインナップ──かと思いきや
「……唐揚げ、なぜか紫だが?」
「えっ!?あっ、母が“赤しそで色付けしたら可愛いかも!”って……!」
「だいぶ失敗してるぞそれ。俺のと並べると犯罪現場感が出る」
「しそで……血の色……!?」
「言わせたのはお前な」
まひるは顔を赤らめながら、必死にツナマヨに逃げていった
完全ミラー化は、遠いらしい
沈黙。風が吹く
ふと、彼女がカバンからノートを取り出した
「ちなみに……私、今日のあなたの行動、8割当てられると思います」
「は?」
「このあとの購買、迷った末に“あんパン”選びますよね?」
「……いや、今日はカレーパンの気分だったが」
「うそっ!? えっ、違うってことは……わたし……!」
「落ち着け」
「わたし、ズレてた……っ!?同調失敗!?」
過剰反応だった。表情筋死んでるどころか、全開だった
「……無理に合わせようとすんなよ」
俺は小さく言った
「真似されるより、お前が勝手に喋ってた方が、らしいし」
彼女はきょとんとした顔で、こっちを見た
「え、それって……“私のままでいい”って意味ですか?」
「言ってねぇ」
「でも、ニュアンスが近い!」
「うるさい。表情、戻ってるぞ」
「それはっ……もう、限界ですぅ~~!」
そう叫んで、まひるは顔を机に埋めた
“同調”どころか、テンションは完全に別世界だった
でも──たしかに今日も、妙に気になる存在だった
俺が無表情でも、こいつが勝手に動いて、勝手に熱を上げてくれる
それがたぶん──ちょっと、心地よかった
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