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【遅すぎですよ彦星君】第2章 「一礼の向こうにある約束」

この物語は、5人のヒロインから1人を選ぶ企画恋愛シナリオ

『報われなかった恋を読む場所』 

第4弾 姫川 月(ひめかわ るな)の物語です

このシナリオのメインヒロインは、各ヒロインのスキ❤の合計で決定します

では、本編をどうぞ


指定された場所へ着いた時、昨日よりは落ち着いているつもりだった

同じ場所
同じ待ち合わせ
違うのは、今日ここへ来る相手が姫川 月 さんだということだけだ

約束の時間を過ぎても、月さんは来ない
私は腕を組み、目の前の景色を眺めた

十五年か……

何かないか
少しでもいい……何か思い出す物は……

あの子:「彦星君」
幼い彦星:「何?」
あの子:「約束は守って下さいね」
幼い彦星:「約束ってそんなに大事?」
あの子:「はい……約束は、人を安心させるものですから」

そこで途切れた
私は思わず後頭部をかいた

約束は、人を安心させるもの

なら私は、その安心を十五年間も……

月:「遅れて申し訳ありません、彦星さん」

振り返る
派手な金髪
華やかな服装

だが、月さんは私の前まで来ると、きちんと足を止め、丁寧に頭を下げた

彦星:「あ、いえ。少しくらいなら……」
月:「でも……少し待つ時間というものも、時には必要かもしれませんね」
彦星:「……はい?」
月:「十五年と比べれば、今日の待ち時間は短いでしょうから」
彦星:「……」
月:「どうかなさいましたか?」
彦星:「いえ……何でもありません」

謝罪されたはずなのに
なぜ私が反省しているのだろう

いや、待て
まず整理しよう
月さんは遅刻した
私は待った

普通なら、文句を言う権利は私にある
なのに、この状況で文句を言えば……
十五年という数字が背後から殴ってくる

月:「お待たせしたことは事実です。ご不満があれば、遠慮なく仰って下さい」
彦星:「言えるわけないじゃないですか」
月:「そうですか。では、参りましょう」
彦星:「切り替えが早いですね……」

この人、礼儀正しい
礼儀正しすぎて……逃げ道がない

彦星:「そう……ですね……あっそうだ。私と月さんの思い出の場所に行きましょう。何か思い出すかもしれません」
月:「ここですね」
彦星:「……え?」
月:「ここが、十五年前に待ち合わせをした場所なのでしょう?」
彦星:「それは……そうですけど」
月:「でしたら、最も思い出が残っていても不思議ではありませんね」

言葉が詰まった
そういう意味か

ここは、あの子と約束した場所だ
私が思い出せないだけで、本来なら最初に何かを思い出してもおかしくない
つまり月さんは、丁寧に確認している

一番の思い出の場所に立っているのに、まだ思い出せませんか?……と

彦星:「……月さん、もしかして結構厳しい人ですか?」
月:「冗談です。ついてきて下さい。歩きながら思い出すこともあるかもしれません」
彦星:「あの~今の質問への回答は?」
月:「行きましょうか、彦星さん」
彦星:「……はい」

やはり厳しい
そして、月さんに案内され、歩き始める

通りへ入ると、すぐに向こうから年配の女性が歩いてきた

月:「こんにちは。今日は暖かいですね」
年配の女性:「あら月ちゃん。こんにちは」
月:「先日はありがとうございました」
年配の女性:「いいのよ、あれくらい」
月:「いえ。助かりました。改めてお礼を申し上げます」

深々と頭を下げる
私は思わず月さんを見た

彦星:「……随分、丁寧なんですね」
月:「そうでしょうか?」
彦星:「その格好だと、もう少しこう……」
月:「こう?何でしょう?」
彦星:「……すみません。今のは私の偏見です」
月:「そうですか」
彦星:「怒らないんですか?」
月:「彦星さんは今、ご自身で気付かれました。でしたら、私が責める必要はありません」
彦星:「……そういうところです」
月:「何がでしょう?」
彦星:「いえ、何でもありません」

少し先で、月さんが突然足を止めた

月:「彦星さん」
彦星:「はい?」
月:「こちら、落とし物ではないでしょうか?」

道端に落ちていた小さな持ち物を拾い上げる

彦星:「そうみたいですね。近くの店に預けますか?」
月:「それも一つの方法ですね。ただ、まずは少し確認してみましょう」
彦星:「持ち主を探すんですか?」
月:「はい。困っているかもしれませんから」

月さんは近くの人へ、一人ずつ丁寧に声を掛け始めた

月:「失礼いたします。こちらにお心当たりはありませんか?」
通りすがりの男性:「いや、知らないなあ」
月:「承知しました。お時間を取らせて申し訳ありません」
彦星:「月さん、そこまでしなくても……」
月:「そうですね。ですが、持ち主が近くにいる可能性もあります」
彦星:「……なるほど」

やがて、慌てた様子の小さな女の子が駆けてきた

小さな女の子:「それ、私の!」
月:「そうでしたか。では、お返ししますね」
小さな女の子:「ありがとう!お姉ちゃん」
月:「いいえ。無事に戻ってよかったです」

月さんは、女の子にまで丁寧に頭を下げた
その瞬間……胸の奥で、何かが揺れた
大人へきちんと頭を下げる、小さな少女

周りの子供達が遊んでいても
その子だけは立ち止まって挨拶をしていた
けれど……顔は見えない

月:「彦星さん?」
彦星:「……少し、思い出したかもしれません」
月:「そうですか」
彦星:「驚かないんですね」
月:「記憶が戻る可能性を考えて、ここへ来たのでしょう?」
彦星:「それは、そうですけど……」
月:「でしたら、喜ぶべきことですね」

穏やかな声だった
私は月さんを見る
派手で、近寄りがたく見える

なのに……

言葉も
態度も
行動も

妙なほど丁寧だ

そして、その丁寧さが……なぜか十五年前のあの子と重なって見えた

月さんと歩き始めてから、私は彼女の行動を意識して見るようになっていた

月:「こんにちは。先ほどはありがとうございました」
店員:「こっちこそ。また寄ってね」
月:「はい。失礼いたします」

店を出る時にも、月さんは軽く頭を下げる
少し先では、道を譲ってくれた小さな男の子にも同じだった

月:「ありがとうございます」
小さな男の子:「う、うん」
彦星:「……相手が子供でも変わらないんですね」
月:「何がでしょうか?」
彦星:「その話し方です。もっとこう……相手によって変えるのかと思っていました」
月:「子供でしたら、雑に扱ってもよいのでしょうか?」
彦星:「いや、そういう意味では……」
月:「では、問題ありませんね」
彦星:「……はい」

まただ
丁寧なのに、妙に逃げ道がない
だが、これまでとは少し違って見えた

月さんは礼儀を守りたいから丁寧なのではないのかもしれない
目の前の相手を軽く扱わないために、結果としてこうなっている

その時、店先から強い声が聞こえた

苛立った男性:「だから、早くしろって言ってるだろ」
若い店員:「申し訳ありません、順番に対応していますので……」
苛立った男性:「客を待たせるのが仕事か?」

月さんが足を止めた

彦星:「月さん?」
月:「少し失礼します」

静かに店先へ向かう

月:「申し訳ありません。少しよろしいでしょうか?」
苛立った男性:「何だよ」
月:「お急ぎなのは理解できます」

男性の言葉を否定せず、月さんは続けた

月:「ですが、その方も順番に対応されています」
苛立った男性:「関係ないだろ」
月:「はい。私に直接の関係はありません」
彦星:「……」
月:「それでも、申し訳ありませんが、それは相手の方に失礼です」

声は穏やかだった
怒っていない。威圧もしていない
それなのに、一歩も引いていない

苛立った男性:「説教する気か?」
月:「いいえ。あなたにも事情があると思います。ですから、お急ぎであることを伝えるのは問題ないと思います」
苛立った男性:「だったら……」
月:「ただ、その事情を理由に、別の方を傷付けてよいとは思いません」

男性が黙る
月さんは勝ち誇ることもなく、ただ待った
やがて男性は小さく息を吐いた

苛立った男性:「……悪かったよ」
若い店員:「いえ……」
月:「お話を聞いていただき、ありがとうございます」
彦星:「月さんまで頭を下げるんですか?」

店を離れてから尋ねると、月さんは不思議そうに私を見た

月:「突然会話へ入ったのは私ですから」
彦星:「でも、間違っていたのは……」
月:「誰かが間違えたからといって、私まで礼儀を失ってよい理由にはなりません」
彦星:「……なるほど」

この人は、怖いほど正しい
そう思っていた
でも違うのかもしれない

正しさで相手を追い詰めたいのではない
誰かが雑に扱われることを、そのままにできないだけかもしれない

しばらく歩いた後、人の気配が少ない静かな場所で足を止めた

月:「少し休みましょうか?」
彦星:「はい」

短い沈黙の後、月さんが私を見た

月:「彦星さん」
彦星:「何でしょう?」
月:「約束を守れなかった人は、謝れば終わると思いますか?」

私は答えられなかった
また十五年前の話だ

いや、待て

適当に謝れば、たぶん月さんにはすぐ分かるはず……いや違うな

彦星:「……終わらないと思います」
月:「そうですか」
彦星:「謝罪は必要です。でも、失った時間は戻りません」
月:「はい」
彦星:「私は十五年前のことを覚えていない。あの子が何を思っていたのかも分かりません」

月さんは何も言わず、私の言葉を待っていた

彦星:「だから、分かったようなことは言えません。ただ……今できることを、一つずつ積み重ねるしかないと思っています」
月:「思い出せなかったとしても?」
彦星:「それは困りますね」
月:「……」
彦星:「でも、困るからやめるのは違うと思います。少なくとも、軽く済ませるつもりはありません」

月さんはしばらく私を見ていた

月:「承知しました」
彦星:「それだけですか?」
月:「はい。今のお答えを聞ければ十分です」
彦星:「……少しは信用してもらえました?」
月:「それは、これからの彦星さん次第ですね」
彦星:「厳しいですね」
月:「そうですか?でも……約束ですから」

その言葉に、胸の奥が揺れた

あの子:「ありがとうございます」

誰に対しても笑顔で頭を下げる、小さな少女

顔は……曖昧だ
でも、その姿だけは先ほどより近い
別れ際、月さんは私へ丁寧に一礼した

月:「本日はありがとうございました、彦星さん」
彦星:「こちらこそ、ありがとうございました」
月:「では、失礼いたします」

遠ざかる背中を見送りながら、私は小さく息を吐いた
派手で近寄りにくい人だと思っていた
でも……実際は、誰より礼儀正しく、誰より相手を雑に扱わない人だった

彦星:「見た目で判断するなって言葉があるけど」
彦星:「この人ほど、その言葉を全力で突きつけてくる人も珍しい」


姫川 月(ひめかわ るな)のイメージソング


月の物語はいかがでしたでしょうか

下記リンクは月の設定資料を元にした物語です
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