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【遅すぎですよ彦星君】第3章 「星は答えを急がない」

この物語は、5人のヒロインから1人を選ぶ企画恋愛シナリオ

『報われなかった恋を読む場所』 

第4弾 水城 凛音(みずき りおん)の物語です

このシナリオのメインヒロインは、各ヒロインのスキ❤の合計で決定します

では、本編をどうぞ


約束の時間より少し早く着いた私は、見慣れ始めた場所で足を止めた

今日で三日目
同じ待ち合わせ場所
昨日までなら周囲を確認していたはずなのに、今日はなぜか先に空を見上げていた

星が見える時間ではないのに……
どうしてだ?
考えているうちに約束の時間を過ぎた。だが、凛音さんは来ない

日和さんも遅れた
月さんも遅れた
そして今日も……

三人連続なら、意図的な可能性はある
だが……確証はない

その時、声が頭をよぎった

あの子:「彦星君」
幼い彦星:「何?」
あの子:「空を見て下さい」
幼い彦星:「空? 曇ってて何も見えないよ」
あの子:「はい……でも、今日は見えなくても、星はそこにあります」
あの子:「だから、焦らなくても大丈夫ですよ」

そこで途切れた
顔も名前も分からない
私はもう一度、空を見る

彦星:「……今日は見えなくても、星はそこにあります……か」
凛音:「遅れてすみません、彦星さん」

振り返ると、凛音さんが静かに立っていた

彦星:「あ、いえ……」
凛音:「ただ、十五年前にあの子が待っていた時間と比較すれば、今回の待機時間はかなり短いですね」
彦星:「……はい?」
凛音:「理論上、大きな問題ではないと思います」

まず整理しよう
遅刻したのは凛音さん
待ったのは私

なのに……なぜ私が申し訳ない側になっている?

彦星:「なぜ十五年前のあの子と比較したのでしょうか?」
凛音:「比較は大事です」
彦星:「大事かどうかを聞いたわけではないんですが……」
凛音:「では、移動しましょう」

話題を変えられた
いや、待て。これは逃げたのか?
それとも本人の中では終わったのか?

彦星:「そう……ですね……あっそうだ。私と凛音さんの思い出の場所に行きましょう。何か思い出すかもしれません」

凛音さんは周囲を確認した

凛音:「ここですね」
彦星:「…………」

凛音さんは私を数秒見つめた

凛音:「冗談です」
彦星:「今の間は何ですか?」
凛音:「反応を確認していました」
彦星:「やっぱり確認してたんですか?」
凛音:「今の反応を見る限り、本当に記憶がない可能性は高そうですね」
彦星:「冗談まで確認材料に使いました?」
凛音:「使える情報を捨てる理由はありません」

そう言って、凛音さんは歩き始めた
この人、冷静ではある
ただ、その冷静さで妙なことまで成立させている気がする

案内されたのは、村の中でも空が広く見える場所だった

彦星:「ここは……いいですね」
凛音:「視界を遮るものが少ないです。時間帯と空の明るさを考えれば、観察には適しています」
彦星:「季節で見え方も変わりますよね?」
凛音:「はい。ただ、条件は分けて考えた方がいいですね。季節だけでなく、時刻や方角も影響します」
彦星:「なるほど」

話しやすい
知らないことを誤魔化さないし、私が知っていることまで説明し直したりもしない

彦星:「凛音さんは、星が好きなんですね」
凛音:「はい。興味深い観測対象ですから」

予想通りの答えだった
だが、凛音さんは空を見上げたまま続けた

凛音:「同じ夜空を、十五年前の人も、百年前の人も見ています」
凛音:「届かない光なのに、人はそこへ名前を付けて、物語を残しました」
凛音:「きっと……手が届かないからこそ、忘れたくなかったのでしょうね」

私は少し黙った

さっきまで時刻や方角を整理してましたよね
今は人の願いを語ってませんか?

彦星:「凛音さん」
凛音:「何でしょう?」
彦星:「さっきまで、観測条件の話をしてましたよね?」
凛音:「はい」
彦星:「今は、人が星に託した思いの話になってませんか?」
凛音:「そうですね」
彦星:「……かなり話が変わってませんか?」

凛音さんは少し考えた

凛音:「変わっていないと思いますが?」
彦星:「そうなんですか?」
凛音:「星を観測することと、人が星を見上げる理由を考えることは、切り離せないと思います」
彦星:「観測する理由まで含めるんですか?」
凛音:「含めない理由がありますか?」

彦星:「いや……普通は、もう少し分けて考える気が……」
凛音:「分けることは可能です」
彦星:「ですよね」
凛音:「ですが、可能であることと、適切であることは同じではありません」
彦星:「……なるほど」
凛音:「納得しましたか?」
彦星:「説明は分かりました」
凛音:「では、問題ありませんね」
彦星:「そういうことにしておきます」

話は通じる
説明も分かる
ただ、この人の「論理的」は、私が思っていたよりずっと星空に近い場所にあるらしい

空が暗くなるにつれ、星が見え始めた

凛音:「あの位置なら、季節との関係から考えて……」
彦星:「はい」
凛音:「もう少し暗くなれば、周囲の星も確認しやすくなります」
彦星:「やっぱり、時間も重要なんですね」
凛音:「重要です。ただ……星は見える瞬間だけ存在しているわけではありません」
彦星:「また少し話が変わりました?」
凛音:「変わっていません」
彦星:「即答ですね」

凛音:「昼も、曇りの日も、星はそこにあります」
彦星:「……はい」
凛音:「人が見失っている間も、消えずに残っています」
彦星:「それは天文学の話ですか?」
凛音:「もちろんです」
彦星:「本当に?」
凛音:「なぜ疑うのですか?」
彦星:「いえ。凛音さんがそう思うなら、それでいいです」

凛音:「曖昧な納得ですね」
彦星:「これ以上聞くと、神話まで行きそうなので」
凛音:「神話も重要です」
彦星:「やっぱり行くんですね」
凛音:「星座を語る上で、避ける理由はありません」
彦星:「では、聞きます」

凛音:「随分素直ですね」
彦星:「凛音さん、星の話をしている時は楽しそうなので」
凛音:「……私は必要な説明をしているだけです」
彦星:「そういうことにしておきます」

その横顔は、さっきまでより僅かに明るかった
不意に、記憶が揺れる

あの子:「彦星君、この星には物語があるんですよ」
幼い彦星:「また難しい話?」
あの子:「難しくありません。最後まで聞いて下さい」
幼い彦星:「長い?」
あの子:「……少しだけです」
幼い彦星:「姫ちゃんの少しは、ものすごく長いからなぁ」
あの子:「今回は本当に少しです」

夜空を見上げ、嬉しそうに星を語る少女
内容はほとんど思い出せない
それでも、その声を聞いている時間が嫌ではなかったことだけは残っていた

凛音:「彦星さん?」
彦星:「あ……すみません」
凛音:「何か思い出しましたか?」
彦星:「少しだけ。昔、星の話をしてくれた子がいた気がします」
凛音:「そうですか」
彦星:「でも、顔は分かりません」
凛音:「では、無理に結論を出す必要はありません」
彦星:「凛音さんらしいですね」
凛音:「見えない星も、存在しないとは限りませんから」
彦星:「……それも理論的な話ですか?」
凛音:「当然です」
彦星:「分かりました」

何でも理屈で考える人だと思っていた
たぶん、それ自体は間違っていない

彦星:「凛音さん」
凛音:「何でしょう?」
彦星:「星の話をしている時……少しおかしくなりますよね」
凛音:「気のせいでは?」
彦星:「そうですか?」
凛音:「はい。私は極めて論理的です」
彦星:「……そういうことにしておきます」

この人の理屈は、星を見上げると時々、本人を置いたままロマンの方へ歩いていくらしい

そして本人だけが、そのことにまったく気付いていなかった

凛音さんは、歩きながら何度も足を止めた
何かを見つけても、すぐには答えを出さない
見て、考えて、それでも分からなければ……

凛音:「現時点では判断できません」
彦星:「意外ですね」
凛音:「何がですか?」
彦星:「凛音さんなら、何でも答えを出すと思っていました」
凛音:「情報が不足している状態で結論を出す方が不自然です」
彦星:「なるほど……じゃあ、私の意見も言っていいですか?」
凛音:「もちろんです。可能性は多い方が検討しやすいですから」

私は少しだけ笑った
先程から彼女に観察されるたび、試されている気がしていた
だが……今は、少し違って見える

彦星:「凛音さん」
凛音:「何でしょう?」
彦星:「待っていた時に、少し思い出した事があります」
凛音:「聞かせて下さい」
彦星:「ある女の子に言われました。今日は見えなくても、星はそこにあるって」
凛音:「他には?」
彦星:「焦らなくても大丈夫だと」

凛音:「少女の顔は?」
彦星:「分かりません」
凛音:「立っていた位置は?」
彦星:「そこまでは……」
凛音:「空の明るさは覚えていますか?」
彦星:「曇っていたことだけです」

凛音:「声の印象は?」
彦星:「安心した……と思います」
凛音:「思います?」
彦星:「そこは曖昧です。でも、嫌な感じではありませんでした」

凛音さんは状況を整理していた

凛音:「……その記憶だけでは判断できません」
彦星:「やっぱり、そうですよね」
凛音:「はい。その会話も、現時点ではあなたの記憶に基づく情報ですよね」
彦星:「取り調べを受けている気分になってきました」
凛音:「カツ丼でも用意しましょうか?」
彦星:「そういう問題ではないんですが……」
凛音:「では、続けます」
彦星:「続けるんですね」
凛音:「ただ……思い出したという事実自体は、無視すべきではありません」

私は凛音さんを見る
否定もしない
都合よく肯定もしない

ただ、私自身も掴めない記憶を、一緒に見ている

彦星:「顔は覚えていません。内容も全部ではないです」
凛音:「はい」
彦星:「でも、声を聞いて安心した感覚は残っています」
凛音:「それも重要な情報です」
彦星:「感覚でも?」
凛音:「感覚だから排除する、という判断も論理的ではありません」
彦星:「……かなり頼りになりますね」
凛音:「現時点では妥当な評価だと思います」
彦星:「そこは普通に受け取るんですね」

夜が深まり、星が増えていく

凛音:「あの星は、見かけ上は近く見えます」
彦星:「実際はかなり遠いですよね」
凛音:「はい。互いに遠く離れています」
凛音:「昔の人は、星の並びに人の姿を見ました」
凛音:「本当は、互いに遠く離れた星です」
凛音:「それでも一つの物語として結び付けた」
彦星:「……凛音さんらしい話になってきましたね」
凛音:「そうでしょうか?」
彦星:「続けて下さい」

凛音さんは空を見上げた

凛音:「人は……離れているものほど、繋がっていてほしいと願うのかもしれませんね」
彦星:「そう……かもしれませんね」
凛音:「……彦星さん」
彦星:「何でしょう?」
凛音:「覚えていないことは、なかったことになると思いますか?」

私は少し考えた

彦星:「ならないと思います」
凛音:「理由は?」
彦星:「私が忘れているからといって、相手まで忘れていたことにはなりません」
凛音:「はい」
彦星:「私には何もなかった十五年間でも、相手には違った可能性がある」
凛音:「……そうですね」
彦星:「だから、思い出せるなら最後まで知りたいです。分からないまま逃げたくはありません」

凛音さんはすぐに答えなかった
やがて、静かに頷く

凛音:「その回答なら……少なくとも、現時点では十分だと思います」
彦星:「現時点では……ですか」
凛音:「今後の情報で評価が変わる可能性はあります」
彦星:「厳しいですね」

別れ際、私はもう一度空を見上げた
隣の凛音さんが、一つの星を見つけて僅かに表情を和らげる
その瞬間、記憶が揺れた

あの子:「彦星君、聞いていますか?」
幼い彦星:「聞いてるよ……話は難しいけど」
あの子:「では、もう少し簡単に説明します」
幼い彦星:「まだ続くの?」
あの子:「もちろんです」

楽しそうな声
難しい星の話
当時の私は、ほとんど理解できていなかった

それでも、その時間は心地良かった

凛音:「彦星さん?」
彦星:「……少しだけ、思い出しました」
凛音:「そうですか」
彦星:「でも、まだ顔は思い出せません」
凛音:「焦る必要はありませんよ」

凛音さんは少しだけ目を細めた
そして、それ以上、彼女は何も言わなかった

別れた後も、今日の姿が頭に残っていた

理屈で一緒に考えてくれた姿
そして……星を見つけて嬉しそうにした姿

彦星:「理系の人達って、もっと現実しか見ない人達だと思ってた」
彦星:「でもこの人は……星を見ると、誰より夢見がちになるらしい」


水城 凛音(みずき りおん)のイメージソング


凛音の物語はいかがでしたでしょうか
下記リンクは凛音の設定資料を元にした物語です
凛音についてさらに詳しく知りたい方はこちらでご確認下さい

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