【師匠は女形・弟子は筋肉女子】第1章 「それ、真似すれば恋になるってやつ?」
第1章テーマは、ミラーリング効果(Mirroring Effect)
ミラーリング効果は【相手のしぐさ、話し方、表情などを無意識または意識的に真似することで、相手に親近感や好意を抱かせる心理効果】というものです
しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります
それでは、第1章 「それ、真似すれば恋になるってやつ?」をお楽しみ下さい
序章
「なるほど……“真似”ね……!」
恋のレッスン初日。私は演劇部の部室で、澄人先輩の指導を受けていた
「まずは、相手と自然な動きを合わせること。それが“距離を縮める”第一歩よ」
その言葉とともに、澄人先輩は後輩の男子部員とさりげなくペアを組んだ
二人は軽くおしゃべりをしながら、お茶を飲み、座り直し、笑い、動きがまるで鏡のように揃っていた
「見ていて、心地いいでしょ? これが“間”よ」
……すごい。まるで舞のように、自然で優雅。これが“女子力”か……!
私は深くうなずいた
「わかりました! 私も、明日やってみます!」
澄人先輩は微笑んで「無理のない範囲でね」と言ったけど、私はすでにやる気満々だった。
──翌日
標的……いや、お相手に選んだのは、同じクラスの男子・戸田くん。ちょっと無口で、いつも教室の隅で本を読んでる子
朝のホームルーム前、私はさりげなく隣の席へ移動した
(まずは様子見……)
戸田くんは、無言で教科書を開き、ページをめくった
よし、ここ!
私も即座に教科書を開き、同じタイミングでページをめくる
彼が首をかしげたら、私もかしげる。彼が頬杖をついたら、私も……ついた!
(完璧……! まさに呼吸が合ってるって感じ!)
だが戸田くんは、眉をひそめてこちらを見た
「……なに?」
「いや、特に何も……あっ、いや、ちょっとだけ何かあった気が……」
しどろもどろになる私を見て、戸田くんは小さくため息をついて立ち上がった
(えっ、今度は立ち上がるの!? もしかして立ち上がりミラー!?)
私も立ち上がった。まったく同じテンポで
すると戸田くんは、黙って教室を出て行った
……よし、ついていく!
私も出る。無言で背後をピッタリついていく
戸田くんが廊下を曲がる→私も曲がる
水飲み場で水を飲む→私もその直後に水を飲む
最終的に戸田くんが振り返って一言
「……もしかして、ストーキング?」
「えっ!? いえ、私はただ、自然な流れで、えーと、あなたの……」
ごまかそうにも声が裏返る
ちょうどそこへ、廊下を歩いていた担任の先生が通りかかり、心配そうな顔で言った
「高梨、おまえまた何かやらかしたのか?」
「やらかしてません! ただ、自然な動きを……!」
「ストーカー行為は一発退場ぞ」
「ちがいますって!」
逃げるように教室へ戻る私の背中に、男子生徒たちの視線が突き刺さる
……作戦、失敗?
放課後、演劇部の部室
私は力なく座り込み、澄人先輩に報告した
「……なんか、“呼吸を合わせる”どころか、呼吸止まりそうだったんですけど」
澄人先輩は手で口元を押さえながら、「ふふっ」と笑った
「頑張ったのね。ええ、とても……真剣に」
「そんな、慰めなくても……」
「いいのよ。恋も演技も、最初は“やりすぎる”くらいがちょうどいいわ。そこから“間”を見つけていけばいい」
先輩は紅茶を一口飲んで、私を見た
「でも、明日は少し……“引くこと”も覚えてみましょう?」
「引く……? って、レスリングでいう“寝技”ですか?」
「……違うわ」
静かに微笑む澄人先輩の顔が、ほんのり赤く見えた気がした
「やっぱり、もう一度チャレンジしよう」
翌朝、私は教室の窓際で静かに拳を握っていた
昨日の失敗は、たまたま相手と“呼吸”が合わなかっただけだ。今日は違う。ターゲット変更。今度こそ成功させてみせる
(相手の動きを自然に真似る。それだけ。簡単なことじゃないか)
今日の相手は、バレー部の佐野くん。明るくて話しやすくて、女子人気もそこそこ高い
(よし……まずは様子見)
休み時間、佐野くんは机に座り、肩をまわしていた
(来た!)
私も即、肩をまわす――
グルン! グルン!
……肩関節、完全にアップモード
次、彼は小さく咳払いをした。
(それ、真似する必要ある?)
と思いながらも、小声で「ッコホン」
佐野くんがカバンの中をゴソゴソし始めた
私もカバンを開けて中をまさぐる。手が入りすぎて弁当をぐちゃっと潰す
そして最悪なタイミングで、佐野くんがあくびをした
私は――それを“全力で真似”してしまった
「ふぁあああああ~~~ッ!!!」
……教室が静まり返る
佐野くん、ドン引き
隣の女子「……ライオンかと思った」
私の顔面が一気に発熱し、耳の裏まで真っ赤になるのを感じた
く、悔しい……! こんなはずじゃなかったのに!
その日の放課後、私はまた演劇部の部室へ向かった。ドアを開けると、澄人先輩が窓辺で台本を読んでいた
「……また、失敗?」
「失敗じゃないです! ただ、咳とあくびがデカすぎただけです!」
「……それは失敗というのよ」
先輩は肩をすくめて、柔らかく笑った。私はうつむきながら椅子に座る
「でも、今日ちょっと思ったんです。私、ただ“真似する”んじゃなくて、相手に“合わせに行こう”としすぎて、混ざっちゃってるのかも……って」
「混ざる、ね。確かに、あなたの真似は激しいわ」
「えぇ……自分でも、もはや“演武”になってた気がします」
そんな私に、澄人先輩がそっと紅茶を差し出してくれた。その手の動きが、すごく滑らかで、丁寧で――
私は、先輩の持つティーカップの角度、口に運ぶタイミング、目線の流し方までじっと観察した
(そうか……この“呼吸”か……)
気づけば私も、紅茶を飲んでいた。先輩の動きと、まるで同じタイミングで
「……あら?」
澄人先輩が、私をじっと見ていた
「いま、合わせた?」
「はいっ! “真似”じゃなくて、自然に……っていうか、勝手に体が……」
「ふふ……いいじゃない。その調子」
澄人先輩の瞳が少し細くなって、私を見つめる。静かな笑み。その表情に、なぜか胸がざわついた
(あれ……いま、ちょっとドキッとした?)
筋トレじゃない
試合前の緊張でもない
胸の奥が……なんだか、変に熱い
「それじゃ、今日のレッスンはここまで」
「え? もう終わりですか?」
「これ以上、合わせすぎたら……あなた、恋に落ちちゃうかもしれないもの」
そう言って、澄人先輩はくすっと笑った
「なっ……! い、いやいやいや、そんな、私が!? 誰かに!? 落ちるとか!? あるわけが……!」
(ない……はず。たぶん)
私は立ち上がってドアを開け、走って部室を出た
心臓の鼓動が、なぜかいつもより速かった
「……たぶん、ってなんだよ」
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