完成よりも……残るもの 担当:ジェントル・ヴァーディクト(Gentle Verdict)【#ケンタウルスお題に参加するってよ】
この物語のイメージテーマです
聴きながらお楽しみ下さい
それでは本編をどうぞ
工房の中央で、最後の工具音が止まった
リオノワール:「……完成ですわ」
クロミツ:「いや、まだだ。ここの調整が甘い。あと0.3ミリ……」
リオノワール:「か・ん・せ・い・ですわ」
クロミツ:「しかし……」
リオノワール:「完成度とは、終えるべき場所で終えることまで含みますの」
普段は優雅な彼女だが、職人同士となると話は別らしい
0.3ミリより重い圧が工房を満たしている
アステリス:「え……なにこの空気……あーし、帰っていい?」
アメリア:「外も少し湿ってきましたし……帰るなら、今かもしれません」
ノクティエル:「安心してください。帰る必要はありませんよ」
アステリス:「それ……安心できるやつ?」
ノクティエル:「よろしいでしょうか?今……私も確認しましたが、問題ありません。ですから完成と判断して大丈夫だと思います」
クロミツ:「まあ……君まで言うなら仕方ない」
クロミツが工具を置いた
アステリス:「っしゃー! じゃ、打ち上げっしょ!」
アメリア:「打ち上げ……ですか?」
アステリス:「完成したんだから祝うじゃん? なんか食べて、飲んでさ!」
リオノワール:「賛成ですわ。働いた後には相応の区切りが必要ですもの」
クロミツ:「私は別に……」
アステリス:「クロミツ!!今日は『別に』禁止!」
クロミツ:「なぜ君に禁止されるんだ」
ノクティエル:「では、行きましょうか。ここに残る理由もなくなりましたから」
クロミツ:「選択肢を消してから誘うのはやめてくれ」
時刻はすっかり遅い
店を探したところで、灯りの残っている場所は……なかった
諦めず店を探していた所……1台の自販機を見つける
その自販機の前で、五人が並ぶ
アステリス:「……三ツ矢サイダーしかなくない?」
ノクティエル:「十分だと思いますよ」
アメリア:「炭酸ですか……いいですね。少し蒸してきましたから」
リオノワール:「では、それにいたしましょう」
クロミツ:「異論はない」
アステリス:「決まるの早っ……まっいっか……じゃ、五本ね!」
工房へ戻り、完成品を囲む
透明なボトルの中で泡が上っている
キャップをひねれば
ぷしゅ
と五つの音が少しずつずれて重なった
アステリス:「んじゃ、完成を祝って……かんぱーい!」
リオノワール:「乾杯ですわ」
アメリア:「乾杯……ですね」
ノクティエル:「お疲れさまでした」
クロミツ:「乾杯」
アステリス:「クロミツ、声ちっさ!」
クロミツ:「聞こえれば十分だ」
アステリス:「こういうのはテンションが大事なんだって!」
一口飲む
冷えた三ツ矢サイダーの炭酸が、長い作業で固まっていた身体を内側から弾く
アステリス:「っはー! これこれ! なんか今日めっちゃうまくない?」
アメリア:「空気が重くなっていたので……余計に爽やかに感じるのかもしれませんね」
リオノワール:「こうして眺めますと、美しいですわね」
クロミツ:「重要なのは安定性だ。見た目だけ整っていても意味がない」
アステリス:「また始まった」
リオノワール:「美しさは完成度から生まれるのです。つまり安定性も美しさの一部ですわ」
クロミツ:「それなら否定はしない」
アステリス:「そこ意気投合すんの!?」
クロミツ:「それに……このボトルもよくできている」
アステリス:「ん?」
クロミツ:「炭酸飲料は内圧を考える必要がある。容器は軽さだけでなく、圧力への耐性や密封性も……」
アステリス:「なんでペットボトルの構造語ってんの!?」
クロミツ:「いや……君が飲み物を用意したからだろう」
アステリス:「えっ……あーしのせい!?」
アメリア:「ふふっ……」
アステリス:「アメリアまで笑ってんじゃん!」
ノクティエル:「クロミツが楽しそうなので、これが最善なのでしょう」
アステリス:「じゃあ、あーしのツッコミは!?」
ノクティエル:「必要だと思いますよ。ないとクロミツがずっと話しますから」
クロミツ:「まだ容器の底部形状について話していない」
アステリス:「ほらぁ!」
なるほど。完成祝いというものは、完成した物について語る時間とは限らないらしい
リオノワール:「……でも、不思議ですわね」
アステリス:「なにが?」
リオノワール:「完成した瞬間より、今の方が嬉しいですわ」
三ツ矢サイダーの泡だけが、静かに弾ける
アメリア:「……分かる気がします。作っている間は、ずっと次のことを考えていましたから」
クロミツ:「完成した以上、明日からは使う側が評価する。私たちの仕事は終わりだ」
ノクティエル:「だからこそ、今くらいは喜んでもいいのだと思いますよ」
アステリス:「……あーしも」
リオノワール:「まあ」
アステリス:「な、なにその顔! あーしだって思う時あるし! ほら、飲むよ!」
誤魔化すようにボトルを傾ける
アステリス:「……うまっ」
クロミツ:「アステリス……それはさっきも聞いた」
アステリス:「いや……こうゆうのは何回言ってもいいじゃん!」
完成したものは、明日から役目を持つ
けれど今夜だけは……
五人で三ツ矢サイダーを飲んで、笑うためにそこにあった
