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26年7月28日:KSC 沈黙が結ぶ信頼 担当:レゾナンス・ハーモニクス(Resonance Harmonics)

レゾナンス・ハーモニクス(Resonance Harmonics)ノクターンです

夜は、不思議な時間です

昼間なら何気なく通り過ぎてしまう言葉も、静かな時間になると、少しだけ重みを持ち始めます

今夜の日ノ出家も、そんな小さな一言から物語が動き出します

『秘密は、本当に隠すためだけのものなのか?』

家族だから話せること
家族だからこそ話せないこと

笑い合う食卓の中で、少しずつ見えてくる『信頼』という言葉の意味

そして今回は、FP資格試験でも大切な『守秘義務の厳守』について、日ノ出家らしい騒がしくも温かな日常を通して、一緒に考えていきます

それでは、静かな夜に綴られた物語をお楽しみください

朝の日ノ出家には、炊きたてのご飯と焼き鮭の香りが満ちていました
影臣が丁寧に骨を外し、影乃が味噌汁を静かにすすっています
その向かいでは、光里が最後の卵焼きを箸で狙っていました

陽菜乃:「光里。それ、お母さんのなんだけど」
光里:「まだ名前書いてないじゃん」
陽菜乃:「卵焼きに記名制度はないのよ」
光里:「じゃあ早い者勝ちだね」
陽菜乃:「私が作ったっていう一番強い権利を主張したい」

普段の陽菜乃は細かいことを気にしません
しかし、自分が少し甘めに焼いた卵焼きだけは、簡単に譲らないようでした

好きなものの前では、人は少しだけ本気になります
それは大事なことだと思います

影臣:「光里。半分に分けるという方法もありますよ」
光里:「お父さん、平和だけど決着がぼやけるよ」
影乃:「朝食に明確な勝敗は必要なのでしょうか……」
陽菜乃:「そういえば昨日、商店街の美和さんに会ったんだけどさ」

話題が急に変わるのは、日ノ出家では珍しくありません

陽菜乃:「お金のことでFPさんに相談したら、すごく安心したんだって」
光里:「へえ。何を相談したの?」
陽菜乃:「知らない」
光里:「聞かなかったの?」
陽菜乃:「聞いてないよ。本人が話さないことを、わざわざ聞かないでしょ」
光里:「でも気になるじゃん。保険とか、貯金とか、実はすごい借金があるとか」
影乃:「最後だけ急に重くなりましたね……」
陽菜乃:「光里だって、通帳の中身を勝手に聞かれたら嫌でしょ?」
光里:「私は平気だよ」
影臣:「では、今ここで皆に伝えますか?」
光里:「それは嫌」

答えは驚くほど早いものでした

光里:「家族と近所の人は別でしょ」
影乃:「相手との関係で、知られてもいいことは変わるのかもしれません」
光里:「でもFPさんは知るんだよね?」
影乃:「相談を受けるなら、財産の状況なども知る必要があるのでしょうね」
影臣:「知らなければ、適切な助言は難しいでしょう。ただし、知ることを許されたからといって、自由に話してよいわけではありません」
陽菜乃:「そうそう。美和さんも『誰にも言わずに聞いてくれたから安心した』って言ってた」

陽菜乃はそう言いながら、残っていた卵焼きを半分に切りました
一方を自分の皿へ置き、もう一方を光里の皿へ置きます

光里:「くれるの?」
陽菜乃:「これは分けてもいいものだからね」
影乃:「分けてよいものと、勝手に分けてはいけないものがある……ということでしょうか」
陽菜乃:「難しいことは分かんないけど、人から預かった話は、その人のものなんじゃない?」

食卓が少しだけ静かになりました

大げさな出来事ではありません
ただ、温かい味噌汁と卵焼きの間で、家族は一つの疑問を見つけました

人の大切な情報を預かる仕事では、何を知っているかよりも、その情報をどう守るかのほうが大切なのかもしれません

光里:「じゃあFPさんって、秘密を守るのも仕事なの?」

誰もすぐには答えませんでした
けれど影臣は、静かにうなずいていました

秘密を守る仕事なら、秘密を漏らさない
それが結論だ
ただし、結論だけ覚えても試験では勝てません

なぜ守るのか?

その理由まで理解した人だけが、最後まで残ります

光里:「でもさ、まだ分かんないんだよね」
陽菜乃:「何が?」
光里:「秘密ってそんなに大事? 家族なら話してもよくない?」
影乃:「昨日も少し考えていたのですが……『誰に』話すかで意味が変わる気がします」
影臣:「ええ。同じ情報でも、相手が変われば価値も危険性も変わります」
光里:「でも悪口じゃないんだよ? 財産の話とか保険の話とかでしょ?」
影臣:「だからこそ……です」

光里は首を傾げたまま味噌汁を一口飲んだ

陽菜乃:「美和さんもね、『全部話せたから安心した』って言ってたんだよ」
光里:「全部?」
陽菜乃:「収入とか貯金とか……将来のこととか」
影乃:「そうした情報が分からなければ、適切な助言は難しいでしょうね」
影臣:「医師が症状を知らずに診察できないのと似ています」
光里:「なるほど」
影臣:「ですが、知ることと話してよいことは別です」
光里:「え?」
影臣:「相談者が安心して話せる理由は、『外へ漏れない』と信じられるからです」

光里は少しだけ黙った

「知る」ことばかり考えていましたが、「守る」ことは考えていなかったようです
人は得られる利益には敏感ですが、失うものは見落としやすいものです
そこが判断を誤る始まりでもあります

光里:「でもさ、一人くらいなら話しても変わらなくない?」
影乃:「その『一人くらい』が皆さん同じ考えだったら……」
光里:「あ」
陽菜乃:「いつの間にか町中に広まるやつだ」
影臣:「信頼は積み重ねるには時間が必要です。しかし失うのは、一瞬ですね」
光里:「……確かに」

影臣:「FPは相談者の財産状況や家族構成など、多くの個人情報を知る立場になります」
影乃:「だからこそ、相談者の同意なく第三者へ漏らしてはいけないのですね」

影臣は静かにうなずいた

影臣:「もし情報が漏えいすれば、相談者との信頼関係は壊れます。それだけではありません」
光里:「まだあるの?」
影臣:「損害賠償責任を負う可能性があります」
光里:「えっ、お金まで?」
陽菜乃:「それは高くつくねぇ」

秘密を守るという行動には、派手さはありません
ですが、その静かな積み重ねがあるから、人は安心して大切な話を預けられるのです

信用とは目に見えない資産です

築くには長い時間が必要で、壊すには一度の漏えいで十分
費用対効果を考えるなら、守る以外の選択肢はありません

それは遠回りではなく、最短ルートだ

信用は失ってから買い戻すほうが、圧倒的に高くつく

秘密を守ることの大切さは、家族全員が理解した……はずでした
少なくとも、その時までは……

光里:「よし! 今日から日ノ出家は秘密禁止!」
陽菜乃:「お、面白そう!」
影乃:「……はい?」
影臣:「少し確認してもよろしいですか?」
光里:「隠し事があるから疑うんでしょ? だったら最初から全部オープンにすれば平和じゃん!」
影臣:「理屈としては理解できます」
影乃:「ですが、それは『秘密を守る』こととは少し違う気がします」
光里:「違う?」
陽菜乃:「じゃあまず、お父さんのお財布の中身見せて」
影臣:「それは秘密です」
光里:「早い!」
影乃:「禁止令が始まって三秒ですね」
光里:「じゃあ影乃の日記!」
影乃:「それも秘密です」
光里:「えぇー!」
陽菜乃:「私のスマホも見ちゃだめだからね」
光里:「みんな秘密あるじゃん!」
影臣:「あります」
影乃:「ありますね」
陽菜乃:「いっぱいあるよ」
光里:「秘密禁止とは」

話は、とてもきれいに一周しました

「秘密をなくそう」と言い出した本人だけが、「自分以外の秘密」をなくそうとしていたのです

整理すると、理屈は単純でした

『秘密をなくす』と『他人の秘密を知る』は、同じ言葉ではありません

ですが、その少しのズレが、今回の騒動を生み出したのでしょう

光里:「でも家族なんだからいいじゃん!」
影乃:「お姉ちゃん」
光里:「ん?」
影乃:「お姉ちゃんのお財布……見せてください」
光里:「……それはダメ」
陽菜乃:「早っ」
影臣:「即答でしたね」
光里:「だって財布ってプライバシーじゃん!」
影乃:「皆さんも同じだと思います」
光里:「……」

沈黙が三秒
そして光里は頭を抱えました

光里:「あれ? 私、さっきから自分に全部返ってきてない?」
陽菜乃:「返ってきてるねぇ」
影臣:「非常に綺麗に」

ここまで論理は破綻していません
破綻したのは、適用範囲だけでした

自分は守りたい
でも相手のものは知りたい
人間らしいと言えば、人間らしい話です

だからこそ、FPには守秘義務が求められるのでしょう

「知ることができる立場」だからこそ、「話さない責任」が生まれます

っ、待って……

ここで「秘密禁止」を掲げた本人が、一番秘密を守りたがっていたという結論になるのですね
いえ、その理屈は分かるのですが……っ
無理……

少し、お待ちください
…………
失礼しました

影臣:「光里」
光里:「……はい」
影臣:「秘密は、隠すためにあるものばかりではありません」
影乃:「安心して話してもらうために、守るものでもあります」
陽菜乃:「だから美和さんも安心して相談できたんだね」
光里:「そっか……」

光里は少し照れくさそうに笑いました

光里:「じゃあ秘密禁止は取り消し!」
陽菜乃:「一日も続かなかったね」
影臣:「それでよかったのでしょう」

結局、秘密はなくなりませんでした
ですが、「守る理由」は家族全員が少しだけ理解できたようです
よく分かりませんが、それで十分だったのかもしれませんね

秘密禁止令は、半日も続きませんでした
けれど、それで失ったものは何もありません
むしろ家族は、「秘密をなくすこと」と「秘密を守ること」が違う意味だと知ることができました

騒がしかった時間が落ち着き、食後のお茶が静かに湯気を立てています

陽菜乃:「結局、秘密ってあったほうがいいんだね」
光里:「なんか悔しいけどね」
影乃:「秘密そのものが大切というより……安心して預けられることが、大切なのだと思います」

影臣は湯飲みを静かに置きました

影臣:「ええ」

その一言だけで、家族の視線が自然と集まります
誰かが場を支えている時、その人は自分から前へ出ることはありません

ですが、流れは確かにその人を軸に動いています

静かな主導権とは、そういうものなのでしょう

影臣:「FPは相談者のお話を伺う仕事です」
光里:「うん」
影臣:「収入や資産、家族のことなど、大切な情報を知ることになります」
陽菜乃:「相談する側は、勇気を出して話してるもんね」
影臣:「だからこそ、その情報は相談者の同意なく第三者へ漏らしてはいけません」
影乃:「守秘義務ですね」
影臣:「はい。それは相談者との約束でもあります」
光里:「もし話しちゃったら……」
影臣:「信頼関係は壊れます」

少しだけ間を置いて、影臣は続けました

影臣:「そして、場合によっては損害賠償責任を負うこともあります」
光里:「だから『話さない』ことも仕事なんだ」
影乃:「知識だけではなく、責任も預かっているのですね」

影臣は静かにうなずきました
その姿は何かを教え込む先生ではありません

当たり前のことを、当たり前に守る人でした

だからこそ、その言葉には重さがあります
信頼とは、一度に築かれるものではありません

約束を守ること
預かったものを守ること
その積み重ねが、初めて「安心して相談できる人」という存在を生み出します

派手ではありません

ですが、誰かを支える仕事ほど、その土台は揺らいではならないのでしょう

陽菜乃:「よし、今日の夕飯は秘密!」
光里:「えー! また?」
陽菜乃:「ちゃんと時間になったら教えるから」
光里:「それなら安心か」
影乃:「秘密というより、楽しみを預かっているのですね」
影臣:「それでいいと思います」

家族は小さく笑いました
大きな奇跡はありませんでした

ですが、必要な人がそこにいました
そして、守るべき約束が静かに受け継がれていました
それで十分だったのでしょう

物語は以上です
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