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第6章『初陣』第2節:違和感【ケンタウルスストーリー】

日本ダービーを舞台にしたデモレースが始まろうとしていた
参加チームは三つ

ペイル・インク・トライフェクタ

ヘリテージ・ループ

レゾナンス・ハーモニクス

合計十五名による東京2400メートルのチーム戦
私にとっては人生初のレースだった
ゲート裏で深呼吸する

緊張していないと言えば嘘になる
隣ではサクラミストが落ち着きなく尻尾を揺らしていた

サクラミスト
「楽しみだね!」
サクラミスト
「早く走りたい!」
ラン
「元気なのは良いことですわ」

ランはいつも通りだった
緊張も焦りも見えない
まるで散歩前のような穏やかさだった

ヴァイスノヴァ
「ランは落ち着いていますね」
ラン
「経験がありますから」
ラン
「ですが油断はしませんわ」

その言葉の直後
スタートの合図が鳴った
ゲートが開く


このレースのイメージレースBGMです
レースのお供にどうぞ


発走直後……一頭が飛び出した

レゾナンス・ハーモニクスのノクスヴェイルだ

ヴァイスノヴァ
「速い……!」

誰よりも速い
明らかに飛ばしている

サクラミスト
「うわっ!? 速っ!」

前方にいたナクティアも視線を向ける
しかし追わなかった

ナクティア
「放っておけ」
サクラミスト
「そうだね……明らかにハイペース過ぎるもんね」

両者とも同じ判断だ

東京2400メートル
あのペースで最後まで保つはずがない

誰も追わない
それぞれが自分の役割を優先する
私はランの指示通り後方へ下がった

しかし……そこも戦場だった

左右から次々にケンタウルスが位置を取りに来る
少しでも油断すれば不利な場所へ押し込まれる

ヴァイスノヴァ
(忙しい……)

ランから言われた通り周囲を見る
だが見るだけでも大変だった

誰が近いのか
誰が動こうとしているのか
考えることが多すぎる

初レースの私は必死だった

しばらくしてようやく隊列が落ち着いた

私は小さく息を吐く
そして前方へ目を向けた

ヴァイスノヴァ
「……?」

遠い
思った以上に遠い

サクラミスト達の姿が小さい
先頭はもっと遠い……はずだ

ヴァイスノヴァ
(後方組で決まる展開でしょうか)

あの大逃げは失敗する
そう考えるのが自然だ

ところが
隣のランだけは違った

ラン
「……おかしいですわ」
ヴァイスノヴァ
「何がですか?」
ラン
「ペースです」
ラン
「遅すぎますわ」
ヴァイスノヴァ
「遅い……?」
ラン
「全体が思った以上に流れていません」

ランは前方を見つめる
その表情は真剣だった
私はもう一度前を見る

だが……何がおかしいのか分からない

その時だった
後方にいた二頭が突然動く

ハクレイナ
そしてアークシエル

二人が同時に加速した

一気に前へ出る
周囲がざわついた

ヴァイスノヴァ
「!?」

ヘリテージ・ループが動いた
その瞬間
ランの表情が変わる

ラン
「そういうことですの……!」
ヴァイスノヴァ
「ラン?」
ラン
「勘違いしていましたわ」

そう言うと
ランは前へ出ようとした

しかし
その進路へクロレイナが入る
反対側からはルミネージュ
偶然にも見える

だが……前へ出る隙がない

ラン
「……っ」

完全に封じられている
そしてランは決断する

ラン
「ヴァイス!!」
ヴァイスノヴァ
「はい!」
ラン
「ペースが異常に遅い!!」
ラン
「これは単騎の大逃げです!!」
ヴァイスノヴァ
「!!」
ラン
「ルナヴェイルを連れて前を追って!!」
ラン
「今ならまだ間に合いますわ!!」
ルナヴェイル
「月を見失う前に参りましょう」

私は頷く
考えるより先に身体が動いた

初レース
初めての判断

だが今は迷っている時間はない
私はルナヴェイルと共に前方へ向かって加速した

ランの指示を受けた私は、ルナヴェイルと共に前へ出た
先頭との差は大きい
それでも走るしかない

しばらくして、先に動いていた二人の姿が見えてきた

ハクレイナ
そしてアークシエル

ようやく追いつく

ハクレイナ
「ヴァイス!」
ヴァイスノヴァ
「何でしょうハクレイナ」
ハクレイナ
「差があまりにも広がりすぎている!」
ハクレイナ
「このままでは追いつけない!先頭まで協調しよう!」
ヴァイスノヴァ
「協調……ですか?」
アークシエル
「二人より四人」
アークシエル
「その方が到達率は高いはずです」

私はルナヴェイルを見る

ヴァイスノヴァ
「どう思いますか?」
ルナヴェイル
「確かに……このままでは届かないかもしれませんね」
ルナヴェイル
「夜道は長いですから」

確かにその通りだった
今のままでは先頭に届く保証はない

ならば

ヴァイスノヴァ
「分かりました」
ヴァイスノヴァ
「協調しましょう」

アークシエルが頷く
すぐにローテーションが始まった

数秒ごとに先頭を交代する
最初に引っ張ったのはアークシエルだった

驚くほど安定している
速度も落ちない
まるで見えない糸で全員を引っ張っているようだった

次は私
その次はルナヴェイル
そして再びアークシエル

速度はどんどん上がっていく

ヴァイスノヴァ
(速い……)

想像以上だった
いや……想像の二倍は速い
普段なら到底出せない速度

実際のレースで協調など存在しない
だから知らなかった
こんな走り方があることを

ヴァイスノヴァ
(こんなに違うのか……)

風が気持ち良い
前へ進む感覚が楽しい
速くなるたびに高揚する

気付けば私は、その楽しさに夢中になっていた

前方が近づく
さらに近づく

そして

ついに前方集団が見えた

サクラミスト
ナクティア
その先……遥か前方にはノクスヴェイルの姿

まだ遠い
だが追える距離だ

ヴァイスノヴァ
「追いつきました!」
ヴァイスノヴァ
「これで六人です!」
ヴァイスノヴァ
「これで先頭は確実に捕まえられます!」

ハクレイナが少し笑った

ハクレイナ
「そうだね」

そして私を見る

ハクレイナ
「けどさ……ヴァイスノヴァ」
ヴァイスノヴァ
「?」
ハクレイナ
「ランに言われなかった?」
ヴァイスノヴァ
「……何をですか?」
ハクレイナ
「チーム戦では……チーム以外の言葉を信用するなって」
ヴァイスノヴァ
「――」

その瞬間だった

ハクレイナ
「ばいばい、ヴァイスノヴァ!」
ハクレイナ
「ありがとう!」

前方のナクティアが加速する
ハクレイナも反応した
二人が同時に前へ飛び出す

ヴァイスノヴァ
「待っ――!」

追おうとする
しかし……脚が重い
まるで身体が別物になったようだった

加速できない
差だけが広がる

あっという間に
さらに差が開く
私は呆然とその背中を見送った

その横で
アークシエルも速度を落としていた

彼女の呼吸は荒い
明らかに消耗している

ヴァイスノヴァ
「……どうなっているのですか」
アークシエル
「簡単です」

短く答える

アークシエル
「ハクレイナは……今の協調区間でほとんど引いていません」
ヴァイスノヴァ
「えっ……」
アークシエル
「引いていたのは……私とあなた達だけです」

理解できなかった
だが……言われてみれば
ハクレイナが先頭に立った記憶が……ほとんどない

ヴァイスノヴァ
「でも速度は出ていました」
アークシエル
「当然です」
アークシエル
「私がハクレイナの分まで引いていましたから」

その瞬間……全てが繋がった

協調
速度
ハクレイナの余裕

そして今の加速
全部……最初から計算されていた

アークシエル
「あなたは……今までにない速度が出た事で……楽しくなっていました」
アークシエル
「だから……周りなんて見ていなかった」
ヴァイスノヴァ
「……」

否定できない
私は夢中になっていた

速く走れることに

アークシエル
「もし……ランだったら何らかの対処はしていたはずです」
アークシエル
「だから……早めに封じてあなた達を前に行かせた」

アークシエル
「つまり……ランをあそこで止めた時点で」
アークシエル
「あなた達の負けは決まっていたんですよ」

前方では

ノクスヴェイルの大逃げ
ハクレイナ達の追撃
勝負はまだ続いている

だが……私達は届かない

もう……届かない

ヴァイスノヴァ
(楽しかった)
(だから気付けなかった)
(私は……チーム戦を理解したつもりになっていただけだった)

初めてのレース……このまま負けるのか?

次節へ


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