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第3章『球技』第5節:優雅なる一打 ー クロレイナ ー【ケンタウルスストーリーイベント】

前回のあらすじ

ノクターンと別れたあと、私はどこか名残惜しい気持ちのまま歩いていた

「ノヴァ、次でこの球技体験も最後よ」
「そうですか……今まで思っていたより楽しかったです」

正直な感想だった

「それで……何をするのですか?」
「ゲートボールよ」
「ゲートボール?」

思わず首を傾げる
ゲートボールって、流石にケンタウルスにならなくても大丈夫だろう

そう思った瞬間

「力加減ができないこの体だからこそです」

後ろから、柔らかな声

振り向く

小柄な黒鹿毛。長い黒髪が風に揺れ、淡い色のアオザイが静かに広がる。たれ目が優しく細まり、気品のある佇まい

「ごめんなさい。私クロレイナと言います」

そう名乗った直後、なぜか彼女は吹き出した

「ふふっ……っ、ご、ごめんなさい……」
「……何で笑っているのだろう?」

理由は分からない。だが本人は必死に真面目な顔を取り戻している

案内されたコートは、やはり通常とは違った

「通常は20m×15mですが、こちらは25m×18mです」
「人数は四対四。同時打撃は禁止。一打ごとに完全停止確認をします」
「徹底してますね」
「巨体同士の接触リスク軽減です」

彼女は、短い道具を取り出した

「マレットは使用禁止です」
「え?」
「振り幅が大きく危険。遠心力が増幅します。隣接者への接触リスクもあります」

代わりに渡されたのは、柄が極端に短い専用パドル

「柄は30cm程度。振りかぶり禁止。肘から先のみ可動。スイング幅は肩幅以内」

私は試しに振ろうとして、肘だけで小さく動かす

……ほとんど動かない

「強打できない設計です」
「徹底してますね」
「移動は常歩。方向転換は三歩以内」
「小走りは?」
「一打無効です」

私は真顔で頷く

「蹄でボールに触れたら?」
「相手に一点」

それは怖い

「最大飛距離は十メートルまで。超えたらファウルです」
「抑制の塊ですね」
「ええ」

さらに彼女は続ける

「打つ前に、次に狙うボール番号を宣言します」
「宣言?」
「読み合い強化です」
「尾の使用、蹄でのブロック、威嚇姿勢は禁止。違反は1ターン停止」

私は自然と尾を背中側に寄せた
最後に彼女が静かに言う

「そして……特別ルール『静止の誓い』」
「誓い?」
「打つ直前、前脚を完全停止させてから三秒静止して下さい」

「三秒?」
「力の暴発防止。精神集中演出。優雅さを競う競技へ」

私はゆっくりと前脚を揃え、試しに止まってみる

一秒
二秒
三秒

なぜか妙に緊張する

「では、始めましょう」

ボールが静かに配置される
私はパドルを握る

走らない
ぶつからない
それでも、真剣

三秒の静止のあと……小さな一打が、芝を転がった


後編を第3章『球技』のレースBGMと共にお楽しみ下さい


「次に狙うのは、二番です」

私は宣言する

ボールの配置を俯瞰する
25m×18m。8頭ケンタウルスがいると狭い。だが、読むには広い

前脚を揃える
完全停止

一秒
二秒
三秒

「……静止の誓い、確認しました」

クロレイナが真面目な声で告げる
私は肘から先だけを動かし、パドルを振る

小さい
だが、重い

ボールはゆっくりと転がる

……転がりすぎた

「十メートル未満……ぎりぎりです」
「ぎりぎりは安全ではありません」

真顔で注意される

この競技の本質は、制御だ

速さも力も使えない
だからこそ、封じる

次はクロレイナの番

「三番を狙います」

宣言し、三秒静止

彼女は小さく振る
まるで息を吐くように

ボールは、狙った位置に吸い込まれるように止まる

「……正確ですね」

私は次の一打で、角度を計算する
直線で通すのではなく、当てて転がす

強さを封じる
それが、この競技の誇り

「四番を狙います」

三秒

振る

……弱すぎた

「届いていません」
「……封じすぎました」

彼女が小さく肩を震わせる

「ふっ……い、いえ……真面目に、封じすぎ……っ」

どうやら何かがツボに入ったらしい

「……大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です……制御……封印……ふふっ」

重要局面で笑いが止まらない
だが、彼女は必死に整える

「失礼しました。続けましょう」

常歩で移動する
私は無意識に歩幅を詰める

「今、小走りになりかけました」
「……気を付けます」

この体で、歩くことに集中するのは妙に難しい

ボールが並ぶ
私はあえて、自分のボールを相手の前に置く

「次は一番を狙います」

宣言

三秒

軽く当てる

相手の進路を塞ぐ

「……知能戦ですね」
「ええ。強者が強さを封じて勝つ競技です」

クロレイナは穏やかに言う

最後の一打

彼女は三秒静止し、静かに振る
ボールはゲートをくぐる

拍手はない
歓声もない
ただ、静かな達成感だけが残る

体験を終え、私は正直に言った

「この体での力加減は難しいけれど……走る以外にもこんな楽しみ方があるなんて」

クロレイナは少し目を細める

「強いからこそ、優雅であれます」

そして、また小さく笑う

「ふふ……強さを封じるなんて……本当におかしいですね」

彼女は真面目に続ける

「でも、だからこそ美しいのです」

私はコートを見渡す
走らない
ぶつからない

それでも、確かに真剣だった

三秒の静止が、まだ胸に残っている

私は静かに、前脚を揃えた

この体で、止まる
それもまた、走る理由の一つかもしれない


*この節の登場ケンタウルスはこちら


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