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【あなたの仕掛けは、私のおもちゃ】第5章 「禁止されたほど、欲しくなる」

第5章テーマは、カリギュラ効果(Caligula Effect)
カリギュラ効果は【「禁止されるほど逆にやりたくなる」という心理現象】です

しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります

それでは、第5章 「禁止されたほど、欲しくなる」をお楽しみ下さい

前回のあらすじ

「しばらく、会わないほうがいいかもしれません」

資料をまとめながら、僕はそっと告げた
会議室の片隅で、ペンをくるくると回していたこよみが、わずかに眉を上げる

「えっ?」

「…少し距離を置いたほうが、冷静に考えられる時間が取れると思いまして」

声の抑揚を抑え、あくまでも“仕事の都合”という顔を装う
計画通りだ
人は「禁止されるほど、逆に求めたくなる」
この仕組みを利用し、こよみに僕の存在をより強く意識させるのが狙いだった

「なるほど…そうなんですね」

こよみは、一瞬口元に手を当てた後、静かに微笑んだ
あの微笑みの裏にある本心を見抜けると思っていた

「はい、それでは…これで失礼します」

僕は深く一礼し、資料を抱えて会議室を出る
心の中では勝利を確信していた
――これで、彼女はきっと、僕を追いかけ始めるはずだ

廊下を歩きながら、ポケットに忍ばせたスマホに視線を落とす
すぐにでも「久遠さん、今どこですか?」と連絡が来るに違いない
そう思っていた

しかし、時間が経っても画面は静まり返ったままだ
電波が悪いのかと確認してみるが、異常はない

――おかしい

夜、部屋に戻っても、スマホは無言を貫く
深夜になっても通知は一切ない

「……何か、あったのか?」

不安を打ち消すように小声で呟く
だが、既読マークも、呼びかける声もない

翌朝、会議室に入ると、こよみは平然と資料に目を通していた
普段通り、いや、それ以上に楽しそうに見える

「……おはようございます」

「おはようございます、真央さん」

にっこりとした笑顔
そこには、一切の執着も、焦りも見えない

「……昨晩、連絡がありませんでしたが」

「はい。だって…久遠さんが“会わないほうがいい”って仰ったんですもの」

机に肘をつきながら、こよみは無邪気に笑う
ああ、この声、この顔
まるで子猫が小さな虫を弄ぶような無垢さ

「…なるほど」

かすれた声しか出なかった
計画では、彼女が耐えきれず連絡してくるはずだった
しかし現実は、むしろ僕が彼女を追う側になっていた

「ふふっ…追われるって、楽しいよね?」

くすっと笑う声が、鼓膜に優しく突き刺さる

――僕は、完全に彼女の掌の上にいた
この状況を予想していなかったわけではない
だが、こんなにもあっさりと形勢が逆転するとは…

息を吐きながら、机の端に置かれたスマホを見つめる
そこには、僕が送ろうとしてやめた未送信のメッセージが、無言で待っていた

「……そろそろ、連絡してもいい頃では?」

自室に戻り、暗い部屋でスマホを握りしめる
画面に映る無機質な時計の数字が、無情に進んでいく

――いつから、こんなに彼女を待つようになったのか

「桐生さん、まだですか…」

小さく呟きながら、何度もメッセージ画面を開いては閉じる
“会わない”と言い出したのは僕だ
それなのに、気づけば一文字でもいいから彼女の返事が欲しくてたまらなくなっていた

翌日、会議室に足を運ぶと、こよみは既に席に座っていた
書類に視線を落としながらも、口元には小さな笑み

「おはようございます、久遠さん」

「……おはようございます」

平静を装おうとした声が、ほんのわずかに震える
こよみはゆっくりと視線を上げ、まっすぐこちらを見た

「昨日も、ちゃんと“会わない”でいられましたね」

「……」

「えらいえらい」

まるで子どもを褒めるようなトーン
そんな言葉に、胸がむず痒くなる

「で・す・が…」

こよみは椅子に背を預け、足を組んだ
その仕草はいつも以上に無防備で、挑発的だ

「実は、久遠さんが“会わない”って言った瞬間、私も『絶対に連絡しない』って決めちゃったんです」

「……え?」

「だって、追われるのって楽しいから」

言い終わった後の笑顔は、限りなく柔らかいのに、底なしの深さを秘めていた

「……っ!」

これ以上は無理だ
堤防が決壊するように、僕は言葉を絞り出した

「桐生さん、……会いたいです」

その瞬間、こよみの目がわずかに見開かれ、頬が赤くなる
だが、それも一瞬
すぐに、いつもの余裕たっぷりな微笑みに戻った

「え〜? 今さら? でも……そんな顔、初めて見ましたよ」

こよみはゆっくりと立ち上がり、僕の方へ歩いてくる
そして、机の向こうから身を乗り出し、そっと僕のネクタイをつまんだ

「ふふっ、真央くん、ようやく追いかける側に回れたね?」

「……はい」

その答えは、もはや抵抗でも計算でもなく、ただの本音だった

「これからも、ずっと私を追いかけてくださいね?」

「……もちろん、約束します」

言葉を交わすうちに、心の奥にあった冷たい壁が音を立てて崩れるのを感じた
これまでずっと人を「観察する」側だった僕が、今は誰よりも彼女に惹かれていた

「んふふっ…よかった」

そう言って、こよみはネクタイを放し、くるっと背を向けた
そして一歩、また一歩と、振り返らずに歩き出す

でも、その背中には、確かに僕を誘う光があった

――これで、いい
いや、これが、いい

「待ってください、桐生さん!」

僕は急いで彼女の後を追った
選挙ポスターが貼られた廊下を駆け抜ける足音が、妙に軽やかに響いた

この攻防戦の終わりは、きっと始まりでもある
そう思った瞬間、胸の奥がふっと温かくなった

彼女を追うその一歩が、僕にとっての「自由」だったのかもしれない――

以上で、【あなたの仕掛けは、私のおもちゃ】の物語はおしまいです
この物語に登場する恋愛心理学の正しい使い方を知りたい方
以下リンクにて確認できます


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