短編小説【“好き”の続きを何度でも】―灯火杯5th Re:クリスマスー
迷言です
この作品は、【灯火杯5th Re:クリスマス】参加作品です
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それでは、作品の方をどうぞ

第1章:Re:去年の続きから
冬の空気は刺すように冷たいのに、胸の奥だけが熱い
俺、白峰陽斗は校門をくぐりながら、去年のクリスマスの悪夢―いや事件―を思い出していた
あの日。イルミネーション輝く校庭で、気持ちが制御不能になり
言葉が勝手にポエムと比喩で爆散した
「綾瀬琴葉!!君は冬の重力だ。俺の理性全部引き寄せるブラックホールだ……!」
その瞬間、彼女は顔を真っ赤にしたまま気絶し保健室へ搬送
翌日、クリスマス告白禁止令という謎校則が誕生した
記録にも記憶にも刻まれ、今年も健在
……世界よ、俺に優しくしてくれ
そう思って歩いた先―彼女がいた―
「……おはよ、白峰くん」
静かな声。けれど微かに震えている
「あ……綾瀬。久しぶり、いや、久しぶりじゃないけど久しぶりみたいな……語彙死んだ」
「……去年よりはマシ」
そう言って、彼女は視線をそらす。耳が赤い。それだけでまた心拍数が跳ねた
今年こそ、普通に話す。それだけだ。告白とか暴走とか、そういう爆発イベントはしない
できればしない。いや絶対しない(予定)
「……あのさ」
口が勝手に動く。やめろ。今はまだ早い
イルミネーションも鳴り鈴もない。まだ平和だ
でも言ってしまった
「去年の、あれ……続き、あるんだよ」
琴葉はピタリと止まる
雪が降る前の冬空みたいな沈黙
「……続きなんてないよ」
そう言って歩き出す。けれど
―その背中は、去年より逃げる速度が遅かった―

第2章:応援という名の地雷
昼休み。購買前の喧騒の中、俺はパンを片手に深呼吸していた
落ち着け。今年の俺は冷静だ
理性で会話し
恋心を管理し
去年のような詩的爆発は―
「よォ、恋の爆弾魔」
背後からニヤついた声。幼馴染の桐生純だ
「爆弾魔じゃねぇ。去年のは事故だ」
「事故なら再現実験いるよな?はい」
ドン、と渡された紙には太字でこう書かれていた
《クリスマス告白成功“応援”プログラム》
「……お前、今年はやめるって言ったよな?」
「でもさ、応援される恋って青春じゃん?」
『青春はもっと静かなはずだ』
と陽斗は心の中で純を殴った
さらに悪夢は重なる
「白峰くん、これ」
ふいに差し出されたのはホットミルクキャンディ
差出人は綾瀬琴葉だった
「のど、緊張すると乾くでしょ」
「……ばれた?」
「うん。去年、滑舌死んでたし」
鋭い。正論。そして優しい
だから余計に心臓が暴れる
そこへ、さらに声
「琴葉ぁ~~今年こそいけるって~~~!!」
琴葉の友人、宮ノ森夕莉の声が、校内で響くレベルで聞こえた
「応援しないで!!」
「なんで怒るの琴葉!?恋は応援されるものじゃん!」
「違う……それは……」
琴葉の声が小さくなる
目が揺れる
そして、俺は気づいてしまった
(あ……琴葉は怒ってるわけじゃない。怯えてるんだ)
去年の告白は確かに暴走だった
―だが彼女にとっては―
嬉しさと苦しさと期待が混ざった、心の処理が追いつかない瞬間だったのだ純が陽斗の肩をバンと叩く
「大丈夫。今年のお前なら勝てる。いや、負けても面白い」
「応援の方向性が犯罪だろ」
琴葉はそっと俺を見る
ほんの一秒だけ、目が合う
一度そらして―また戻る―
そして、誰にも聞こえない声で呟いた
「……逃げてないの、白峰くんだけだ」
その言葉が、胸に深く刺さる
応援
それは時に、背中を押す風じゃなく
―心を暴く刃になる―

第3章:Re:イルミネーションの前で
学校の中庭に、今年もイルミネーションが灯る季節がきた
去年と同じ配置、同じ光、同じ色
まるで世界がわざと再演しているようだった
俺は手袋を握りしめ、深呼吸する
落ち着け。今年は違う。去年みたいにポエム爆発しない
心臓がドラムロールを叩いていても、言葉はまだ制御できている―たぶん―
「……来ちゃったね」
声の主は綾瀬琴葉
薄いコートにマフラー、頬はほんのり赤い
それが寒さのせいなのか、それとも―
「うん。でも今日は……何もしないから」
「嘘だよ。顔がもう去年の顔してる」
「去年どんな顔してたんだよ俺」
「恋が口から溢れそうな顔」
図星すぎて言葉が詰まる
沈黙
雪が降るには早いけれど、空気だけが冬そのものだ
その瞬間、マイク音が響いた
「注目~!!」
その声は―純だった―
(……終わった)
「今年こそ成功しろ!!去年倒れた綾瀬さんも!!覚悟しろ!!今日は全校が応援する!!」
「やめろおおおお!!!」
叫んだが遅い
歓声、拍手、鐘の音、スマホを構える生徒達
もはや逃げ道は全方向から塞がれていた
琴葉は硬直している
視線は地面、肩は震え、息が浅い
俺は気づく
(……あれは、嫌じゃない震えだ)
言い訳も誤魔化しもできない感情に、心が追いつかないだけ
周囲の声が響く
「行けーー!!」
「愛は爆発ーー!!!」
「今年は倒れるなーーー!!」
狂気の応援
それは背中を押すどころか、心を剥き出しにする暴風
俺は一歩だけ琴葉に近づいた
「……ごめん」
彼女が顔を上げる。目が揺れる
「去年の俺は、勢いで言った。でも今年の俺は―選んで言いたい―」
声が震えても、今度は逃げない
「綾瀬琴葉。俺は―」
言葉が喉に詰まる。心が痛いくらい跳ねている
「……好きなんだ。怖いくらいに」
琴葉の唇が、小さく震えた
「……ずるいよ、白峰くん」
涙が、光に溶けて落ちる
「逃げたいのに、逃げたくない」
その瞬間―イルミネーションの光が、去年と同じタイミングで強く輝いた―
また、同じ場所で再び
恋が暴れ始める

第4章:エールの終わり、恋の始まり
歓声もざわめきも、いつのまにか遠くなっていた
俺と琴葉の周りだけ、世界が音を失ったみたいに静かだった
「……綾瀬」
呼ぶ声は震えていた。けれど逃げる気配は一つもない
琴葉は涙を拭い、ゆっくり顔を上げた
その瞳には、去年なかったものが宿っている
覚悟
不安
そして―同じ場所に立とうとする意志―
「去年の私は、逃げた。だって答えたらもう戻れない気がして……
もし違ったら、もし間違ってたら……って」
声が細く揺れる。それでも止まらない
「でもね、白峰くん。逃げながら恋するの、すごく苦しかった。あなたが近づくたび、嬉しくて、でも怖くて……心の形が変わってくみたいだった」
俺の喉が詰まる
言葉じゃなく、呼吸で返事してしまう
琴葉は一歩近づき、小さく笑った
「みんなに応援されてるあなたを見るの、悔しかった。私だけが知らないところで、あなたの気持ちが『完成していく』みたいで」
そこで言葉を区切り―
「……だから私も言う。ずっと言いたかった言葉」
俺の心臓が跳ねた
イルミネーションの光が、静かに揺れる
「白峰陽斗」
その名前を呼ぶ声が、この冬で一番優しい
「私も、あなたが好き。去年のあなたも、今日のあなたも、ちゃんと全部」
世界が動き出す
歓声が戻り、拍手が響き、教師のため息と友人の奇声が混ざる
「……やっと言えた」
琴葉は照れくさそうに笑う
俺は息を吐き、ようやく言えた
「……ありがとう」
その“ありがとう”は
―逃げずに向き合ってくれたことへの、心そのものの言葉―
純が遠くから叫ぶ
「よし!!歴史的和解!!校則撤廃だ!!」
生徒会長がため息をつきながら紙を破り捨てた
《クリスマス告白禁止令 破棄》
琴葉が小さく呟く
「ねぇ、白峰くん」
「ん?」
「来年も、ここで言って」
「何を?」
「“好き”の続き。だって……恋って終わらないでしょ」
陽斗は笑う。去年よりも、今日よりも―未来の方が楽しみになる笑い方で―
「いいよ。来年だけじゃない。再来年も、そのまた先も」
そして俺達は、今年こそ逃げずに
そっと手を重ねた
―Re:クリスマス―
恋は去年の延長じゃなく、今日から始まる物語になった

【“好き”の続きを何度でも】完
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