バックオフィス、恐怖の展示会
展示会が増える一方で、何かが変だ
近年、バックオフィス向けの展示会が本当に増えたと感じます。最新のサービスが一堂に会する場は、総務業務の進化や効率化において間違いなく大きな役割を果たしています。私自身、ほぼすべての展示会でセミナー登壇などの機会をいただいており、その意味では「展示会という場に育ててもらった一人」でもあります。
しかし、開催数が増えたことで、1回あたりの来場者が少しずつ分散してしまっているのを感じます。数年前には1,400人を集めたセミナー聴講者が、今は多くて300人ほどという回もあります。かつてのように、展示会自体が珍しく、大挙して来場者が訪れていた時代からは、明らかにフェーズが変わってきているのです。
そんな中で、最近、出展社側の「来場者へのアプローチ」に少し違和感を覚えることが増えてきました。
端的に言うと、「強引なリード獲得」への傾倒です。数年前までの「名刺獲得」が、今は「QRコードの読み取り」に変わり、そこへ血眼になっているブースが目立ちます。
もちろん、高額な出展費用を回収するためには、数多くのリード(連絡先)を獲得し、その後の営業の成約数を高める必要がある――その切実なロジックは痛いほどよく分かります。私たち『月刊総務』としても展示会に出展することがあるため、見本誌と引き換えに少しでも多くの接点を作ろうとする努力やその大変さは、当事者として深く共感する部分です。
「量」を追うマーケティングの限界
問題は、その「獲得の仕方」にあります。
通路の両脇に、お揃いのTシャツを着たスタッフが大人数で待ち構えているブースがあります。正直、その間を通り抜けるのには少し怖さを感じてしまい、通路自体を敬遠してしまう来場者も少なくありません。
下記は知り合いのリアルなコメントです
「朝一で行ったのですが来場者が少ない事もあり、ものすごいしつこく付き纏われたりあまりにも酷いので嫌気がさして早々に引き上げました。特にSaaS系のスタートアップが酷い印象です。質問したらろくに応答もできず教育もできていない。単にリードを集めてこいと言われているだけという感じでした」
「今年は特にしつこく、かわすのがかなり怖いくらいでした。両側にたち、無理やりお菓子やノベルティを押し付けてQRを読むスタイルは違和感と警戒心でいっぱいになりました。いかに避けて目当てのブースにいくかというかんじ。あれはやめてほしいですね」
また、お菓子や飲み物、あるいはちょっとしたおもちゃを配布して、来場者が手に取った瞬間に「QRコードをいただきます!」と迫る光景も日常茶飯事です。しかし、そうして「勢いや物欲」で受け取ってしまったリードの営業確度は、果たしてどうなのでしょうか。
この現象の根底には、出展社側の組織構造(KPI)の課題があると感じています。
展示会を担当されるのは、多くの場合「リードの獲得数」をミッションとするマーケティング部門です。彼らが獲得したリードをもとに、営業部門がメールや電話で営業をかけていく。マーケ部門のミッションが「リードの量」である以上、リーチする数は多ければ多いほど成果とみなされるわけです。
しかし、お菓子で釣ったリードが、その後の成約に結びつく確率は決して高くありません。それどころか、総務特有の「上申(稟議)の壁」を越えられず、営業現場が疲弊して商談が立ち消えになってしまうケースが大半ではないでしょうか。
「そこから先は営業の腕の見せ所でしょう」と言われればそれまでですが、これでは根本的な解決にはなりません。
「モノ(機能)」ではなく
「コト(課題解決)」の共通言語を持つ
そもそも、なぜお菓子やノベルティに頼らざるを得なくなるのか。 それは、多くの出展社が自社製品のスペックや機能紹介(モノ)に終始してしまっているからです。
しかし、総務の来場者が求めているのは、ツールそのものではなく、「社内の面倒な手続きをどう減らすか」「働き方をどう変えるか」という、自社特有の課題解決(コト)にあります。
来場者である総務の心理や商習慣に合わせた言葉(共通言語)が存在しないため、出展社は会話で惹きつけることができず、結果としてノベルティに依存した「実のないリード獲得」に走らざるを得なくなっているのが現状ではないでしょうか。これこそが、完全なプロダクトアウトによるコミュニケーションの限界です。
また、総務の担当者は日常業務でも多くのベンダーからプッシュ型営業を受けており、営業への警戒心が人一倍強い傾向にあります。会場でのしつこい声がけや、売り込まれる恐怖を感じる空間は、彼らの防衛本能を刺激してしまいます。
結果として、本当に深い課題意識を持っている優良な来場者ほど、ブースを避けて足が遠のくという、皮肉な現象が起きているのです。
総務が「はっ」とするブースを作るために
「ドリルが欲しくてドリルを買うのではない。穴を開けたくてドリルを買うのだ」という高名な言葉があります。総務も全く同じです。解決したい「コト」があるからこそ、「モノ(サービス)」を検討します。
かつては「モノの管理」が中心だと思われていた総務ですが、今は企業の変革を支える戦略的な役割を求められています。だからこそ出展社の方々には、むやみやたらと製品名を連呼するのではなく、総務が日々どんな悩みを抱え、どんな稟議の壁にぶつかっているのかという「リアルなコト」を見定めていただきたいのです。
もし、自社の展示会マーケティングが「スペックの押し売り」や「ノベルティでの数集め」に陥っていると感じるなら、一度立ち止まって「総務の生の現場視点」や「総務プロの客観的な目」をブース設計やトークロジックに取り入れてみることをおすすめします。
総務担当者が思わず「はっ」として、向こうから「詳しく話を聞かせてください」と歩み寄ってくる。そんな、ストレスフリーでありながら確度の高いマッチングが生まれる展示会が一つでも増えることを、一人の総務人として、そして展示会を愛する者として、切に願っています。
