酒の失敗エピソードが薄すぎて肩身が狭い
私は酒が飲めない。
酒は飲めないけれど、会社の飲み会に行くのは嫌いではない。知っている人ばかりだから気楽なのだろうか。
でも酒が飲めないもんだから、すぐ潰れる。寝る。
飲み会の序盤で私の姿が見えなくなった時に、みんなで探してみると掘りごたつの中で寝ていたということがあったらしい。私のグラスには半分も飲んでいないビールが残っていたとか。もちろん覚えていない。
定年で退職する人の送別会で酔い潰れてその人に自宅まで送別してもらったこともある。その道中で人生において大切な教訓を授けてもらった気がするが、ほとんど覚えていない。
牛乳を飲んだりウコンを飲んだりするといいと聞けばとりあえず試してみるけれど、それごと嘔吐するので意味がないと悟って久しい。
それでも飲み会のたびに少しずつ飲んでいたら、多少は飲めるようになってきた。
私がビールを一杯飲みきるとみんなが褒めてくれる。ビールって気持ちいい。まだ美味しいとは思えないけど。
酒にとことん弱い私だが、酒による大きな失敗はしたことがない。
ただ、一度だけ知らない家のリビングで目覚めたことがある。
もう十数年前の忘年会の日、調子に乗った私は飲めもしない酒を飲み、当然のように寝た。いつもなら飲み会が終わる頃には起きているのだが、その日は全く記憶がなかった。
寒くて目が覚めたら、知らない家のリビングのフローリングに寝ていた。
え…どこ?ここ…
当時のガラケーのモニターを見ると深夜3時過ぎ。オレンジ色の常夜灯に照らされた室内を見渡すが、どこなのかわからない。確かなことは頭が痛いということ。二日酔いだという事実だけだ。
目が覚めたら知らない異性が隣で寝ていたという話を漫画やドラマで見たことがあったので、隣を確認してみたけど誰もいなかった。酔っていたとしても、私にそんな大胆な行動が取れる度胸などあるはずがないのだが、少しだけ期待した。
忘年会の会場から家が近いから足がない人はうちに泊まっていいよと言ってくれた上司がいたことを思い出した。
きっとここは上司の家に違いない。
隣に見知らぬ美女がいない以上、そうであってくれないと困る。そうであってくれ。
私は誰かが掛けてくれていた幼児用の小さな毛布に身を縮こませて包まりながら眠った。
年末の深夜の知らない家のリビングはとても寒かった。
朝になり、上司一家が起きてきた音で目が覚めた。安堵した後に申し訳なさと恥ずかしさが込み上げてきた。
酔いも覚めて頭痛は消えていたけど、フローリングの硬さと寒さからくる震えで身体中が痛かった。
5歳になる上司の息子さんと遊んでいると奥さんが朝食まで用意してくれた。シジミの味噌汁がたまらなく美味かった。飲んだ翌朝にシジミが効くということを初めて知った、その記憶は今も残っている。
以上が私の酒による失敗談である。
みんなが若かりし頃の酒による武勇伝みたいな失敗談を語り合っている時に、私は肩身の狭い思いをしている。
酔って全裸になって暴れたとか、目が覚めたら病院だったとか、うんこを漏らしたとか、そういうネタが何もない。
酔い潰れてなお大人しい自分の性格が許せない。
飲んだ時くらいハメを外せ!
一生語っていられるエピソードを俺によこせ!
だからなのかはわからないが、私はスナックなどの飲み屋に1人でふらっと訪れることに強い憧れを抱いている。
強い酒を飲み、美味い肴を食い、影のあるママや歯のない常連と語り合う…
これが私の憧れであり、夢だ。
だけど、生粋の下戸で、健康診断で濃い味付けを禁止され、人見知りでコミュ障の私には、夢のまた夢である。
