「何が出るか分からない」を、街へ出るきっかけに。大町商店街ガチャがつくる“一期一会”の観光体験
市民が考える「街」アイディアコンペ in いちのせき
── 楽しくなる賞 受賞者 佐藤裕介さんインタビュー
市民が考える「街」アイディアコンペ in いちのせき
受賞作品:「大町商店街ガチャ」
一関市大町通り商店街の活性化をテーマにした「市民が考える『街』アイディアコンペ in いちのせき」。
「楽しくなる賞」を受賞したのは、佐藤裕介さんの「大町商店街ガチャ」でした。
その仕組みを一関市の大町商店街で展開するアイディアです。
一見すると、誰もが知っている“ガチャガチャ”。けれど、この企画のガチャガチャから出てくるのは、ただの景品ではなく、店主や地域の人との小さな出会い。ガチャを回すという偶然性を入口に、街へ一歩踏み出してもらう。そんな遊び心と実用性を兼ね備えたアイディアです。
佐藤さんは現在、一関市の地域おこし協力隊として、観光協会で活動されています。観光案内の現場に立つ日々のなかで見えてきた、一関駅周辺の課題。そして、大町商店街に眠っている可能性について、お話を伺いました。
一関に戻ってきた理由
―― まずは、佐藤さんのご経歴から教えてください。
佐藤:生まれは一関市の大東です。大原小学校、大原中学校、大東高校を卒業して、大学は関東の方に出ました。
卒業後は、東京に本社がある医療関係の会社に営業職として就職しました。支店が全国にあったので、仙台、盛岡、山形など、東北を中心に転勤しながら、約20年同じ会社で働いていました。
昨年の2月にUターンという形で一関に戻ってきて、現在は一関市の地域おこし協力隊として活動しています。
―― 20年勤めた会社を辞めて、地域おこし協力隊になるというのは、かなり大きな決断ですよね。きっかけは何だったのでしょうか。
佐藤:同じ会社に長く勤めていると、「本当にこのままでいいのかな」と考える時期があると思うんです。
ちょうどその頃、子どもが生まれるタイミングでもありました。当時は仙台に住んでいたんですが、仕事も忙しく、帰りが遅かったり朝が早かったりして。子育てのことを考えると、地元の一関に戻れば両親も近くにいるので、何かあったときに頼れる環境がある。
そういう意味でも、Uターンするにはいいタイミングだと思いました。
―― もともと観光に関心はあったんですか。
佐藤:そうですね。医療関係の仕事をしていましたが、大学では海外の文化などを学んでいたので、旅行や観光には以前から興味がありました。
そんなときに、一関市の地域おこし協力隊で、観光協会に所属して活動できる募集があったんです。受かるかどうかは分からなかったんですが、今の仕事を続けるか、以前から興味のあった観光の仕事に挑戦するか。まずは試験を受けてみようと思いました。
結果的に「ぜひ来てください」と言っていただけたので、挑戦してみようと決めました。

観光案内所で見えてきた、一関駅前の課題
―― 観光協会では、普段どのようなお仕事をされているんでしょうか。
佐藤:一番のメインは、一ノ関駅前にある観光案内所で、観光に来られた方向けの案内をすることです。
―― 実際に、観光客の方は結構来られるものなんですか。
佐藤:来ますね。時期によって多い少ないはありますが、暖かくなってくるとかなり増えます。
一関だと猊鼻渓や厳美渓もありますが、案内所に来られる方で多いのは、やはり平泉に行きたいという方ですね。一度一ノ関駅に降りて、そこからバスで中尊寺や毛越寺に向かう方が多いです。
―― 一ノ関駅は、平泉観光の玄関口にもなっているんですね。
佐藤:そうですね。最近はインバウンドのお客様も増えています。特に台湾からのお客様が多いです。一関市としても台湾からの誘客には力を入れているので、案内所に来られる海外のお客様の多くが台湾の方という印象です。
―― 観光客は来ている。でも、その人たちが一関駅周辺から大町商店街へ足を伸ばしているかというと、また別の話ですよね。
佐藤:そこが課題だと思っています。
一関駅周辺や大町商店街にも魅力的なお店やスポットはある。でも、その場所自体を知らなかったり、入ってみるきっかけがなかったりすると、足を伸ばしづらいと思います。
自分自身もUターンで一関に戻ってきて、改めて地域の人とのつながりをつくっている途中です。だからこそ、観光客の方だけでなく、地元の人にとっても、街の中で新しい出会いが生まれる仕組みがあったら面白いんじゃないかと思いました。
「村ガチャ」から見えた可能性
―― 今回の「大町商店街ガチャ」は、どのような企画なのでしょうか。また、応募のきっかけも教えてください。
佐藤:参考にしたのは、長野県白馬村や山形県鮭川村などで行われている「村ガチャ」という取り組みです。
ガチャを回すことで地域のお店や人とつながるきっかけをつくり、観光客や地域外の人に実際に足を運んでもらう仕組みになっています。
この取り組みを知ったのは、以前新幹線に乗った際に何気なく読んだ車内誌のトランヴェールに、まちづくりの記事の中で紹介されていたのがきっかけです。その時は「そういう取り組みがあるんだ」くらいにしか思っていなかったんですが、その後市役所職員の方から東西不動産ホームさんの方でまちづくりのアイディアコンペをやってるよっていうことで案内を貰ったんです。
その時に先ほどの村ガチャのアイディアと繋がって「そうだ、これだ。」と。
そこで一関全体ではなく、大町商店街に範囲を絞って、ガチャガチャをきっかけに実際にお店へ行ってもらう仕組みがつくれないかと考えました。
―― ガチャガチャという形式が面白いですよね。観光案内というより、遊びに近い。
佐藤:そうなんです。「何が出るか分からない」というワクワク感を、店舗の暖簾をくぐる勇気に変えたいと思いました。
観光客にとって、知らない土地のお店に入るのは意外とハードルが高いんですよね。特に個人店だと、「入っていいのかな」「買わないといけないのかな」と思ってしまう人もいる。
でも、ガチャでチケットが出て、「このお店に行ってみてください」となれば、行く理由が生まれるんです。

景品ではなく、「出会い」が当たるガチャ
―― ガチャの中には、具体的に何が入る想定ですか。
佐藤:応募した時点での構想は、商店街各店舗のロゴをデザインしたキーホルダーと、当たった店舗で使える特典チケットを一緒に入れるという内容でした。
店舗のロゴには、店主のこだわりやお店の個性が表れると思いますし、キーホルダーとして集める楽しさもあります。最初は、そうした“モノとして残る景品”も含めて考えていました。
ただ、応募から少し時間が経って、企画を具体的に考えていくなかで、今は「体験を促す仕掛けを入れる」というアイディアを考えています。
――なんか面白そうなアイディアですね。
佐藤:そうですね。大事にしたいのは、ただ景品をもらって終わりではなく、その場所に実際に足を運んでもらいコミュニケーションを取ってもらうことなんです。
なので飲食の割引や一品サービスのようなお得な特典に加えて、裏面にはその場所や人に関する穴開きクイズのようなものがあり、それを埋めるための会話が発生する仕掛けを備えたい。
単なる割引券ではなく、その場所へ行き、人とのコミュニケーションが自然と発生するような理由になるチケットにしたいと思っています。
―― 景品というより、出会いのきっかけが入ったガチャなんですね。
佐藤:そうですね。もちろん割引やサービスも大事ですが、それだけだと少し弱い気がしています。
せっかく一関に来てくれた方には、一関の人と関わってもらいたい。10分でも15分でもお店に滞在してもらって、店主さんやスタッフさんと会話して、「一関ってこういうところなんだ」と感じてもらえたら嬉しいですね。
その出会いが、そのお店や一関のファンになるきっかけになると思っています。

1回500円。そのうち300円をお店へ
―― 仕組みとしては、どのような運用を考えていますか。
佐藤:価格は1回500円を想定しています。チケットを使っていただいたお店には、1回につき300円をお渡しするような仕組みにしたいと考えています。
―― お店側にもきちんと還元する仕組みですね。
佐藤:はい。ボランティアでお願いする形にはしたくありません。
もちろん、お店によっては300円以上のサービスを提供すると赤字になる場合もあると思います。でも、それでもお客様を呼び込みたい、知ってもらいたいという目的があれば、魅力的な特典を用意することもできる。
持続可能な取り組みにするためには、協力してくださるお店にもメリットがある形にする必要があると思っています。
―― 月ごとにチケットを回収して精算するようなイメージですか。
佐藤:鮭川村で村ガチャを運営している方に聞くと、月末や月初に協力店舗を回ってチケットを回収し、その分を支払う形で運用しているようです。私もまずはその方法を踏襲したいと思っています。
ただ、範囲を広げすぎると、回収だけでかなりの手間がかかってしまう。だから最初は、歩いて回れる範囲、できれば大町商店街周辺の狭いエリアで始めたいと考えています。

なぜ「大町」なのか
―― 一関全域ではなく、大町商店街に絞る理由は何でしょうか。
佐藤:一番大きいのは、歩いて回れることです。
たとえば藤沢町に面白い人やお店があったとしても、ガチャで当たった観光客がそこまで行けるかというと、車がないと難しい。観光客の方が一ノ関駅から気軽に動ける範囲で考えると、大町商店街は可能性があると思っています。
―― 駅から歩けるというのは大きいですね。
佐藤:そうですね。ガチャを回して、出たチケットを持って、実際にそのまま歩いて行ける。そこが重要だと思います。
観光案内所に筐体を一つ置いて、もう一つは商店街のなかで人通りのあるお店に置けたらいいなと考えています。
―― 実際にガチャの特典になる店舗などの候補はありますか。
佐藤:何人か候補はいます。ただ、これは一人で始めてもなかなか進まないと思っているので、市内の事業者さんや面白い方を知っている人にも協力してもらいながら進めたいです。
最初は10店舗くらいから始められたら理想ですが、最低でも6、7種類くらいは欲しいですね。あまり少ないと、「何だこれ」で終わってしまうと思うので。
店舗選びの難しさ
―― 協力店舗を選ぶうえで、難しさはありますか。
佐藤:あります。最初は飲食店がいいのではと思ったんですが、飲食店はお昼時など忙しい時間帯がありますよね。そのときに観光客の方がチケットを持って来て、ゆっくり話ができるかというと、なかなか難しい面もあります。
―― たしかに、店主さんと会話してもらうことが目的だと、忙しすぎるお店は難しいですね。
佐藤:そうなんです。たい焼きを渡して終わり、お煎餅をもらって帰るだけ、という形でも悪くはありません。でも、それだけだと少し物足りない。
できれば、そこに滞在する理由や、会話が生まれる仕掛けがほしいんです。
―― 商品よりも、人や体験が大事なんですね。
佐藤:はい。店主さんのキャラクターも重要な要素だと思っています。
その人に会うために行く。
その人から話を聞くために行く。
そのお店の空気を感じるために行く。
そういう体験が、観光地を巡るだけでは得られない一関の魅力になると思います。

偶然が、街を歩く理由になる
―― ガチャガチャの面白さは、行き先を自分で選ばないところにもありますよね。
佐藤:そうですね。普通の観光案内だと、「ここがおすすめです」と案内する形になります。でも、ガチャの場合は、どこに行くことになるか分からない。
その偶然性が面白いと思っています。
―― 自分では選ばなかったお店に、たまたま行くことになる。
佐藤:そうです。観光客の方にとっても、自分で検索して選んだお店ではなく、偶然出会った場所に行く体験になる。
その偶然が、かえって記憶に残ることもあると思います。
―― 「ガチャで出たから行ってみたら、思いがけず面白かった」という体験ですね。
佐藤:そういう体験をつくりたいです。
観光って、有名な場所を見ることだけではないと思うんです。知らない街で、知らない人と少し話す。思いがけないお店に入る。そういう小さな出来事が、あとから思い出に残ることがありますよね。
他の地域とつながる「村ガチャブラザーズ構想」
―― 今回の企画は、他地域の取り組みも参考にしているそうですね。
佐藤:はい。長野県白馬村や、山形県鮭川村、村山市、埼玉県狭山市、沖縄県石垣島などで、似たような「村ガチャ」の取り組みが行われています。
将来的には、そういった地域と連携できたら面白いと思っています。
―― たとえば、どんな連携ですか。
佐藤:たとえば、一関のガチャの横に、他地域の特典チケットを置いておく。ガチャで出たチケットが使いづらい場合に、別の地域のチケットと交換できるような仕組みです。
逆に、石垣島や白馬村でガチャを回した人が、「一関ってどこだろう、面白そうだな」と思ってくれるかもしれない。
地域同士でチケットや情報がぐるぐる回っていくような仕組みができたら面白いですよね。
―― まさに、ガチャを通じて地域同士がつながっていく。
佐藤:そうですね。まだ長期的な構想ですが、夢は大きく持ちたいです(笑)。

一関の人と関わってもらうために
―― この企画を実現するために、今必要なことは何でしょうか。
佐藤:まずは、協力してくださるお店や人を見つけることです。
「うちの店で何かできるかもしれない」
「あの人なら面白い話をしてくれそう」
「このお店は観光客に紹介したら喜ばれそう」
そういう情報があれば、ぜひ教えていただきたいです。自薦他薦は問いません。
―― お店側としては、必ずしも大きなサービスを用意しなくてもいいんですよね。
佐藤:はい。豪華な特典である必要はありません。
むしろ、そのお店らしさが伝わるものがいいと思います。ちょっとした割引でも、試飲や試食でも、普段は聞けない話でも、簡単な体験でもいい。
大事なのは、来てくれた人と少しでも関わることです。
―― 観光客にとっても、地元の人と話すきっかけになりますね。
佐藤:そうですね。せっかく一関に足を運んでくださった方に、一関の人と関わってもらいたいんです。
ガチャを回して、チケットを持って、お店に行って、少し話す。
それだけでも、その人にとって一関の印象は変わると思います。
「何もない」ではなく、きっかけが足りないだけ
―― お話を聞いていると、大町商店街には魅力がないわけではなく、きっかけが不足しているだけなのかもしれませんね。
佐藤:そう思います。
魅力的なお店やサービス、人はいる。でも、観光客の方がそこにたどり着くための入口が少ない。
「ここに行ってください」と案内されるだけではなく、「何が出るか分からないけど行ってみよう」と思える仕掛けがあれば、街の歩き方が変わるかもしれません。
―― ガチャガチャという小さな装置が、街へ出る入口になる。
佐藤:はい。大きな施設をつくるわけではないですし、ものすごくお金がかかる企画でもありません。
でも、うまくいけば、人の流れを少し変えることができる。商店街の新規顧客開拓にもつながると思いますし、一関のファンを増やすきっかけにもなると思っています。

協力してくれる方を募集しています
現在、「大町商店街ガチャ」の実現に向けて、協力してくださる店舗・事業者・地域の方を募集しています。
たとえば、
ガチャの特典チケットを出してみたいお店
観光客に紹介したい面白い店主さん
ちょっとした体験やサービスを提供できる方
大町商店街周辺で筐体設置に協力できる方
「この人に会わせたら面白い」という推薦情報をお持ちの方
自薦他薦は問いません。
大切なのは、完璧な企画を最初から用意することではなく、まずは小さく始めて、街のなかに偶然の出会いを増やしていくこと。
ガチャガチャを回す。
チケットを持って歩く。
知らないお店の暖簾をくぐる。
そこで、一関の人と話す。
その小さな体験が、観光客にとっての一関の記憶になり、店にとっての新しい出会いになり、商店街にとっての次の一歩になるかもしれません。
「何が出るか分からない」というワクワク感を、街を歩く理由に変える。
大町商店街ガチャは、そんな小さくて楽しい観光の仕組みです。
連絡先
「協力してみたい」「話だけでも聞いてみたい」「紹介したい人がいる」という方は、佐藤祐介さんのInstagramまでお気軽にご連絡ください。
佐藤 裕介さんのインスタグラムアカウントhttps://www.instagram.com/satoyusuke_okoshi/
聞き手:水谷みさえ(東西不動産ホーム)
「市民が考える『街』アイディアコンペ in いちのせき」は、一関市大町通り商店街の活性化を目的に、有限会社東西不動産ホーム企画開発室・DEN stationery + furnitureの主催で開催。150作品以上の応募があり、2026年3月31日に審査結果が発表された。
