見出し画像

ポケット事件の話

ちょっと聞いた話なんだけど、
とある工場での話。

社員が10人弱くらい。
工場のパートさんは15人くらい。
町工場としては、まあ普通の規模だと思う。

その工場には、
ちょっとアクの強い人がいるらしい。

社長の奥さんの姉。

別に役職があるわけじゃない。
ただパートをしているだけの人なんだけど、
やはりみんな少し気を遣うらしい。

ちなみに妹さんは
会社の事務をされてる。
綺麗なんだけど、手厳しい。

で、虎じゃなく、妹の旦那の威を借る姉。
50代後半で声と体がでかい
遠慮のないタイプ。

取り巻きみたいなのも数人いて、
工場ではその人の空気がわりと強い。

でさ、言っちゃえば、感じ悪い。
工場では長く勤めてる分、
知ってることは多い。
だけど、機転が効かないタイプ。
そこを
「こう言うふうにしたら良くないですか?」
みたいな指摘をしようもんなら
たちまち機嫌が悪くなる。

だから、相性っていうか
合わない人とはとことん合わない。

合わないだけならいいんだけど、
それを陰口言い始めるからタチが悪い。

気に入らない新人だと
仕事を聞かれても無視したりするそうだ。

工場の社員さん達は話のわかる良い人達。
パートさん同士でギスギスされても
工場回らないからね。

でも、どうしてもうまくいかなくて
あるパートの人が、
その工場を辞めたんだって。

辞める日、その人はお菓子を置いていった。

地元ではそこそこ有名なお店の焼き菓子で、
「お世話になりました。みなさんでどうぞ」
ってやつね。

でも後で聞いた話だと、
その姉が「こんな安物のお菓子なんかねぇ」
とかなんとか文句言いながら、
三つポケットに入れたらしい。

嫌なら食うなよ。笑

そのせいで、二人当たらなかったそうだ。
こう言うの、だいたい1人一つでしょ。

これが「後に語られる」ポケット事件。

僕はその会社の社長と専務を知っている。
ガキの頃から知っている。
なんなら2人は兄弟だ。

会社の名前も〇〇兄弟社。

正直言うと、
なんであの会社がそこそこデカいのか?
なんであの2人が取締役なのか?
なんで潰れないのか?
不思議で不思議で仕方なかった。

2人ともどちらかと言えば、
遠慮気味に言って
あまり出来は良くなかった。
経営者ってタイプでもなかった。
大人になって突然才が開花したか?

いやいや。
おそらくは血族経営で
2人に椅子が回ってきたのだろう。

で、現場の人に聞いてみたら、
「あそこ、部長が切れ者なんですよ」
という話になった。

なるほど。実に興味深い。

数日後。
僕は、たまたま現場に来ていた
「キレ者部長」に話しかけてみた。

社長ってアイツでしょ?
会社乗っ取らないの?
独立とかしないの?
ヤバくなったらトンズラするつもり?

そう聞いたら、部長はニヤッと笑って言った。

「あそこは居心地いいからねぇ」

部長はそれしか言わなかったけど、
他からの話をまとめると、
どうやらあの会社は
部長が裏で舵を取ってるらしい。
社長はお飾り。
専務は社長の太鼓持ち。

どこかからの天下り、
という話も聞いた。

なるほど。そう言うことか。

で、現場の協力会社一覧を見ていたら、
その会社の正式な名前が書いてあった。

◯◯工業株式会社。

あれ?と思った。

僕はずっと、その会社の名前は
「〇〇兄弟社」
だと思っていたから。
みんなもそう呼ぶし。

部長に聞いてみたら、
苦笑いして言った。

「ああ、それ。
うちの社員の自虐ネタですね」

社長と専務は本当に兄弟。
社長の奥様は事務
奥様の姉が困ったちゃん。
あと、それらの親戚関係も
社員・パートに混ざってるらしい。

典型的なあれだ。
ザ・血族経営。

だから社員たちは、その会社のことを
兄弟社、と呼んでいる。

で、例の「姉」の話も聞いてみた。

工場をまとめてるのは部長なので
姉に関する話はよく耳に入るらしく、
パートさんの出入りがそこそこあるのも
半分は姉の影響なのは確からしい。

それってクビにできないのかと聞いてみたら
「切るに切れない」んだそうだ。

そりゃ、そうだよね。

で、姉にまつわる面白い話があるというので
聞いてみたところ、
なんと冒頭の、アノ話だった。

お菓子ポケット事件。

部長「‥で、僕はお菓子貰えなかったんです」

僕「〇〇の焼き菓子ですかね?」

部長「え、なんで?あ、苗字が同じなのって」

僕「辞めたの、僕の妻なんで。笑」

まあ、世間は狭い。
ポケットも狭いけどね。


いいなと思ったら応援しよう!