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【WSER2026】ヴァンサン・ブイヤールが語る「ウエスタンステイツ制覇の舞台裏」

ウエスタンステイツ100で新コースレコードを打ち立て、UTMBに続く歴史的勝利を挙げたヴァンサン・ブイヤール。優勝からわずか36時間後、フリートレイルのディラン・ボウマンによる独占インタビューが実現しました。序盤の速すぎるペースへの戸惑い、ジムやハンスとの駆け引き、そして90マイル地点での静かなリードチェンジ——。淡々と自分のレースを貫いた彼が、勝負の分岐点と、それを支えた家族やクルーへの想いを率直に語っています。

参照は以下



1. 優勝から36時間、レース後の日々

ディラン:

みなさん、ただいま。2026年ウエスタンステイツの新コースレコードホルダー、ヴァンサン・ブイヤールです。おめでとう、また会えて嬉しいよ。改めて、本当におめでとう。今の気分はどう?

ヴァンサン:

ありがとう、ディラン。呼んでくれて嬉しいよ。うん、気分はかなりいい。脚はまだボロボロだけどね。

でも、特別ひどく痛むところも、気がかりなところも今のところなさそうで、それが分かってホッとしてる。まだ余韻に浸ってる感じかな。痛みが少しずつ引いていくのを待ってるところだよ。

ディラン:

話せる範囲でいいんだけど、優勝してからのこの36時間はどんな感じだった?

現実の生活ってすぐに戻ってくるものだよね。家族と過ごしたり、旅行して回ったりしてたと聞いたけど、あの人生最高の瞬間からこれまで何をしていたのか、みんなにも聞かせてよ。

ヴァンサン:

うん、これはもともと家族で計画していた旅行なんだ。生後もうすぐ7ヶ月になる娘を連れてね。西海岸の家族の多くに、初めて娘を会わせる旅でもあった。

レースウィークまでの5週間半はカリフォルニアで過ごして、家族を訪ねて回っていたんだ。実はレースを終えた日曜の午後には、もう義理の家族が多く住むサクラメントやベイエリアに向かってた。オーバーンからすぐ近くだから、本当に都合が良かったよ。

それで今はオレゴン州のポートランドに来ていて、この辺りに住んでいる友人たちにたくさん会っているところ。

ディラン:

まだ君のことをよく知らない読者のために言っておくと、君は奥さんと一緒に何年かポートランドに住んでいたんだよね。ホカで働きながら。その後、今拠点にしているアヌシーに戻った。

もちろん、もうこの話は何度もしてきただろうし、そろそろリラックスして楽しみたい頃だと思う。だから時間を取ってくれて本当に感謝してるよ。でも、今日はやっぱりじっくり話を聞きたいんだ。

まずはレースの数日前から始めようか。実はレース直前、君のコーチで、僕らの共通の友人でもあるマリオ・フライオリにばったり会ったんだ。


2. コーチ、マリオとの会話——レース前の手応え

ディラン:

その時ちょうど君の話をしていたんだけど、マリオはわざと言葉を濁していてね。それで昨日また彼と話したら、君が「特別な一日」に向けて本当に仕上がっている、という手応えを感じていたことを匂わせてきたんだ。

僕らアスリートも、そういう直感を養えるところがあると思う。レース前の数日から数週間、自分が歴史的な一日の入り口に立っているという感覚はあった?

ヴァンサン:

何が起きるか、細かいところまでは分からなかったよ。ウルトラの面白いところって、まさに予測がつかないことだと思うんだ。変数が多すぎて、すべてが噛み合うか、それとも一つの小さなことがズレて崩れるか、その差なんて誰にも読めない。

ただ、自分がすごくいい状態にあるという実感はあった。そして何より、このレースのために自分にできることは全部やり切った、という自信があったんだ。この準備は1年半以上前から続いてきたものだからね。

去年は残念な結果に終わったけど、そこからたくさんのことを学んだ。DNFしたからといってトレーニングをやめたわけじゃなくて、そこで積み上げた体力や学びをずっと重ねてきた。それが、この最後の数ヶ月のブロックの土台になったんだ。

だから君の質問に答えるなら、強いレースを実行できる、そして先頭での面白いバトルに絡めるかもしれない、という自信はあったよ。ただ、それ以上のことは予測できない。「絶対にこうなる」なんて言えるものじゃないからね。競技自体、それだけの実力を持った選手がどんどん増えていて、どんどん面白くなっているから。

ディラン:

なるほど、納得だ。それで聞きたくなったんだけど、3位でサブ14を達成したライアン・モンゴメリーに話を聞いたら、彼はハイカントリーの早い段階で、「今日は自分にとって特別な日になる」という内なる確信があったと言っていた。

この直感の話に戻るけど、君もレース序盤の早いマイルで、似たような感覚はあった?

ヴァンサン:

正直に言うと、序盤のマイルがどれだけ速く感じたか、そっちに驚いた——いや、ちょっと怖くなったくらいだよ。「みんなどんどん速くなってる」ってよく言うけど、去年と比べても本当に速く感じたんだ。

しかも、あのコースはかなり狭いシングルトラックで、まだ草が生い茂っている数少ない区間の一つでもある。テクニカルだから、最初のエイドステーションに近づくまではなかなか追い抜けない。

気づいたら、エスカープメントを登り切る頃には集団の後方にいて、「よし、いいパックだ、この区間はみんなで一緒に行こう」と思った矢先、ハンスが一気にギャップを作ってしまって、「あれ、もう姿が見えない」ってなった。

ちょうどライアンのすぐ後ろにいたから、彼と、隣にいたトム(?)に「前に大きなギャップができてるよ」って伝えようとしていたと思う。自分でも調子はいいと感じていたけど、同時に「うわ、とんでもないペースで入ってるな」という戸惑いもあった。もうその時点で大きな差ができてしまっていたからね。

だから、「調子がいいから今日はいける」というより、「これからどうなるんだろう、うまくいくといいけど」という感覚の方が近かったと思う。

ディラン:

もう少し聞かせてよ。序盤から、パックの中での自分の位置を見極めつつ、かなり早い段階でギャップができ始めているのも意識していたわけだよね。

トラックでも少し話したけど、それがリアルタイムの判断にどう影響したのか。少なくとも、「この動きをカバーすべきか」という多少の迷いはあったように聞こえるんだけど。

ヴァンサン:

そうだね。たぶんそこを分析しながら、同時に自分の状態も見極めようとしていたと思う。特に、ロビンソンまでは飛ばしすぎないよう意図的に意識していたんだ。

ロビンソンの後は少し標高が下がるんだけど、それまでは標高2000メートル、6000〜7000フィートくらいの高さをずっと走ることになる。海抜ゼロ地帯に住んでいる人間からすると、これは軽視できない要素なんだよ。

100マイルの最初の数時間って、いつも最高に気持ちいいものなんだけど、その中で僕は先頭パックの力関係を読みながら、常に自分自身のエフォートレベルを確認していた。結局、それがレース全体を通してずっとやっていたことなんだよね。この話はまた後でできると思う。


3. スタートからエスカープメントへ——早すぎるペースへの戸惑い

ディラン:

じゃあロビンソン・フラットの少し手前、その数マイル前まで話を進めようか。ロビンソン・フラットの前にあるダンカン・キャニオンというエイドステーションが、クルーに会える最初のチャンスで、だいたい24マイル地点になる。

この時点で、ハンスは君やジム、フランチェスコに対して2分50秒のリードを持っていて、ライアンは君たちの少し後ろにいたと思う。ハンスとはトラックでこの話をしたけど、ロビンソン・フラットに着く頃には、公式スプリットを見る限り、君たちは実質一緒になっていたんだよね。ジム、ハンス、そして君とプッピがほぼ横並びで。

あの登りの話を聞かせてほしいんだ。君たちがハンスに追いつこうとする一方で、ハンスは先頭をキープして君たちを引き離そうとしていた、というふうに見えた。振り返ってみると、あの瞬間がレース全体の展開を大きく左右した重要な局面だったように思うんだ。

ヴァンサン:

うん、実はあの登りは、レース序盤で「ここは大事な区間だ」ってマークしていた場所なんだ。去年はデスマーチとまでは言わないけど、ロビンソンに向かう頃にはもうすでにボロボロで、本当につらい思いをしていたからね。だから今年は、「よし、いい状態でここまで来られた」と確認できる、序盤の大事な指標になると分かっていた。

それより前の話をすると、僕はライオンリッジを過ぎてしばらくはまだキリアンと一緒に走っていて、その後ジムに追いついた。それからレッドスターとダンカンの間あたりで、フランチェスコが加わってきたんだ。

キリアンはその後、少しペースを落とすことになったけど、僕とフランチェスコとジムの3人で、いいマイルを共有していたよ。ホカのチームメイト同士だから、まるで友達みたいにおしゃべりしながら走ってた。「このブロックは一緒に練習してなかったのに、こうしてコース上でジョギングしてるなんて面白いね」なんて言い合ったりして、本当に楽しかった。

ダンカンのエイドステーションを出てからも、僕らはほぼ一緒。登りが始まって、3人の先頭を走っていたのは僕だったんだけど、すぐ後ろにいたジムに「君、僕の後ろでただジョギングしてるだけみたいだよ。抜いていいから、大丈夫」って声をかけたんだ。

そしたら彼が「ハンスに追いつきたい?」って聞いてきたから、「僕は自分のペースでいいよ。君は行って」と答えた。彼は「じゃあ次のカーブで抜くね」と言って、実際に抜いていった。そこから1分も経たないうちに、もうハンスに追いついていたんだ。あれは明らかに、彼の中にとんでもないエンジンが積まれてるんだなと思ったよ。

うん、この話はまた別の機会にできたらと思うけど、正直、ジムのことは本当に残念に思ってる。彼はもっといい結果に値する選手だし、あの時点での余裕、まるで獲物をもてあそぶような感じを見て、「追いつきたいならいいよ、追いつこう」と思わせてくれたくらいだったから。

登りの序盤ではスプリット情報を知らなかったけど、「自分は自分のゾーンにいる。でもジムほどのギアは持っていないな。まあ、あれを持ってる選手なんてそう多くないけどね」という感覚はあった。

ディラン:

その言葉、すごくありがたいよ。もちろんジム本人の話はまだ聞けていないけど、彼にとって今回、出場すること自体が賭けだった。それでも実際にあの戦いに飛び込んで、あれだけの気持ちで走った。それは驚きではないけど、間違いなく悔しい結果だっただろうね。彼のファンである君や僕にとってもそうだ。

でも彼が偉大なチャンピオンだということは僕らも分かってるし、これをバネにして、またすぐ世界の頂点に戻ってくるはずだ。まずは体をしっかり回復させてほしいと願っているよ。それと、彼もきっと君のことを誇りに思っているはずだ。

ちょうどこの場面についてなんだけど、フィニッシュラインの脇でハンスと話したんだ。あの展開の後でもフィニッシュまで来てくれたのは、すごくいいことだと思った。そこで彼が言っていたのが、「ジムが追いついてきて、仕掛けてきた」と。それに対してハンスが、たぶん少し張り切りすぎるくらいに反応したんじゃないかと思うんだ。彼は先頭を引っ張る役割にやりがいを感じるタイプだからね。

ここは、ハンスがレースにどう影響を与えたか、という視点で君の見方を聞きたい部分なんだ。彼はフィニッシュまで走りきれなかったけど、最終的にはものすごく大きな影響を残したわけだから。

ヴァンサン:

もちろん。正直に言うと——フィニッシュラインでこの話をしたか覚えてないけど——男女両方のフィールドで、今回のあのタイムを生んだ大きな要因が2つあると思ってる。一つは間違いなく、あの歴史的な涼しい気温。もう一つは、両方のフィールドで先頭集団の密度が濃かったこと。

ハンスはそこに大きな役割を果たしたと思うよ。彼はごく早い段階から前に出ることを恐れなかった。エスカープメントの時点で先頭にいたかどうかは覚えてないけど、あそこはほとんどウォームアップみたいなものだからね。頂上に着いた瞬間、本当に「ここからが本番だ」という感覚があった。それ以降、レースの大部分でペースを引っ張っていたのが彼だった。

すごいことだと思う。彼はまだ若いし、体も仕上がっているし、間違いなくいつかこのレースを制する選手になるはずだよ。彼の日はきっと来る。とにかく、このレースに、そしてそれによって他の選手が達成できた素晴らしい結果に、あれだけ積極的に関わってくれた彼には、感謝しかない。

ディラン:

2人のUTMBチャンピオン、CCCチャンピオンのフランチェスコ、さらにウエスタンステイツを4度制したジムがいる中で、自ら進んでペースを作る勇気を持てるというのは、本当に独特な人間性だと思うんだ。

ヴァンサン:

あの姿勢は本当に素晴らしいと思う。もちろん彼は、コースのことも展開のことも何も知らずに現れたわけじゃない。頭のいい選手だし、このスタートラインに立つためにものすごくハードなトレーニングを積んできた選手でもある。

でも、それでもあのアプローチを選べること自体がすごいし、あえて挑む姿勢は本当に見事だと思う。数年前はジムがそういう走り方をしていたよね、2016年、2017年あたり。そういうところから、僕らの競技は大きく進化してきたと思う。そして何より、それは見ていて単純に楽しいし、面白いよね。


4. ロビンソン・フラットへの登り——ジムとの並走、そしてハンスの独走

ディラン:

じゃあ、もう一つ重要だったと思う瞬間について、君の視点をぜひ聞きたい。デビルズサムのエイドステーションのあたりだ。データがはっきり残っている場所でもあるんだけど、この時点で君はレースリーダーのハンスから11分遅れ、ジムとプッピのデュオから6分遅れ、そしてライアン・モンゴメリーは君から3分半遅れという位置にいた。

この状況を見ると、レースの折り返し地点で、いわば「無人地帯」に入りかけていたように見える。結果的に君は数分差で優勝することになるわけだけど、この時点ではまだ「自分がレースの中心にいる」という感覚で走れていたのか、それとも「レースが自分の手から離れていく」という焦りがあったのか、どっちだった?

ヴァンサン:

正直に言うと、自分が完全に絶好調だと感じたことは一度もなかったよ。かなり早い段階——ロビンソン・フラットの頃、いや、もっと前から疲労を感じ始めていて、「これから徐々にきつくなっていくぞ」という感覚があった。

だから、キャニオンのこの中間区間は、自分のエフォートレベルに集中すべき区間だと思って臨んでいたんだ。さっきジムのエンジンの話を冗談で言ったけど、たとえ休養十分な状態でワークアウトとしてやっても、僕は彼には付いていけない。まして100マイルの終盤なら、何が起きるか分からないしね。

とにかくこの中間区間では、今何が起きているかを考えすぎないようにして、一歩一歩、下りの底まで、そして登りの頂上まで、ただそこに集中しようとしていた。パワーや心拍数、登坂スピードといったデータを見て、ちゃんと動けているか、それも一貫して動けているかを確認する。あえて大きな展望にはフォーカスしすぎないようにしていた。だって、リアルタイムでスプリット情報が入ってくるわけじゃないからね。いつか、みんながメタグラスをつけて走る日が来るのかもしれないけど、正直それはあまりいい未来だとは思わないな。

とにかく、メンタル面で意識して取り組んでいたことの一つが、心配しすぎないこと、そして「レースはまだまだ長い」と受け入れることだった。今できる最善は、次の一歩、次のカーブ、次の登りに集中して、補給と水分補給をきちんと続けること。

ウルトラでいつも心に留めていることがあるんだ。物事がすごくうまくいっている時も、逆にうまくいっていない時も、それはずっとは続かない。必ず反対方向に振れ戻っていく。だから、その波にできるだけうまく乗ろうとしていた。

戦略として少し考えていたのは、ハイカントリーでマッチを使いすぎないこと、キャニオンでは集中して一貫したペースを保つこと、そして残った力は最後まで取っておくこと。まあ、それが実際どう機能するかは、正直やってみないと分からなかったけどね。

ディラン:

偉大なロブ・クラーが、ウエスタンステイツについて似たような話をしていたのを思い出すよ。彼は「カーム・コンフィデンス・コンピート」というフレームワークを使っていた。序盤は落ち着いて、中盤は自信を持って、終盤で勝負する。彼の著書からの引用なんだけどね。

これが興味深いと思うのは、スプリットを振り返ると、あそこが感情のコントロールを問われた瞬間だったように見えるからなんだ。僕はレースを最初から最後まで見ることができたんだけど、あの数マイル先で、ハンスがキャニオンから抜け出してフォレストヒルに向かう途中、バスロードの舗装区間を登り始めた時、突然プッピが彼のすぐ後ろに現れたんだ。

だから、これは僕の勝手な想像だけど、プッピはそこでハンスに追いついたことを察して、フォレストヒルという重要なエイドステーションを前に先頭に立とうとする、エキサイティングな瞬間だったんじゃないかと思う。一方で君は、フォレストヒルに入る時点でまだ11分遅れ。これも僕の勝手な観察だけど、あそこはブリッジを仕掛けることもできた瞬間だったんじゃないか、と。でもそれをやれば、自分のペースを崩すことになる。

キャニオンの間、感情をコントロールして、最後に勝負できる脚が残っていると信じられたこと——じゃあ、キャルストリートの話に移ろうか。トラックでも少し触れたけど、レースの本当に重要な局面だったと思う。君はフォレストヒルをリードから11分遅れで出て、一方でライアンが君に迫っていた。フォレストヒルを出る時点で、その差はわずか1分半だったはずだ。

そして、これもトラックで少しだけ話したけど、君とライアンはキャルストリートで小さなバトルを繰り広げた。結果的に君は、キャルストリート史上2番目に速いスプリットを記録している。ジムのベストタイムに匹敵するレベルだから、公式の分析が出たらまた共有するよ。とにかく、あの重要な16マイルについて聞かせてほしい。少し後でリバークロッシングの話にも触れたいから、そこまでの流れをまず教えて。


5. デビルズサムからキャニオンへ——自分との対話

ヴァンサン:

正直、これはすべてのスプリット情報を持っていなかったことが、呪いというより恩恵になったパターンだと思う。おかげで、余計な深読みをせずに済んだからね。

面白いのが、レース後にクルーのグループチャットを読んだら、カミラが「ライアンが追いかけてきてるって、ちゃんと伝えて」ってみんなに言っていたんだ。でも結局、誰も僕には伝えなかった。だからキャルストリートで彼に抜かれた時、「え、本当に?誰かに追いつかれたのか」って感じだったよ。でも、彼がそれだけ素晴らしいレースをしているのを見られて、すごく嬉しかった。

すべての情報を持っていなかったことは、自分のエフォートに集中して、自分のレースをマネジメントするうえで、むしろ助けになったと思う。フォレストヒルに着いても、トラックまではまだ本当に長い道のりが残っているからね。ブリッジしようとか、ギャップを詰めようという発想には、まったくなっていなかった。

理由は3つある。一つは、そもそもその情報を持っていなかったこと。二つ目は、持続可能なエフォートでフィニッシュまでたどり着くことに集中していたこと。三つ目は、現実的に考えて、そんなことはできなかったから。追加のマッチなんて残っていなかったんだ。「よし、ここで一気にサージをかけよう」なんて余裕はまるでなかった。

おかしな話だけど、僕は自分のことを、これまで一度も「速いランナー」だと思ったことがないんだ。ロングの種目が好きなのは、ハードで高い強度のエフォートを、とにかく長い時間かけてマネジメントするゲームだからなんだと思う。だからギャップを詰めようとしなかったし、気にもしなかった。だって、そもそもできないから。今のペースを保つことはできても、そこにほんの少しずつしか上乗せできない。それが僕の走り方であり、エフォートのマネジメントの仕方なんだ。


6. キャルストリートの死闘——ライアンとの再会

ヴァンサン:

それで、キャルストリートでライアンに声をかけられた時、実は僕は急な下りでかなり苦しんでいたんだ。この区間の最初のパートって、あまり語られないんだけど、レースのあの段階だとかなりガレていて厳しいんだよ。

ボランティアの一人が「この先のなだらかなキャルストリートを楽しんでね」と声をかけてくれたんだけど、心の中では「いや、あの最初のパートは、今の脚にはかなりキツいんだよ」と思っていた。ここまでさんざん下ってきた後で、つま先が靴の先に当たるような急な下りは、ただただ痛くて、楽しむどころじゃない。

でも、ライアンと彼のペーサーに追いつかれたことは、メンタル的にはすごく助けになった。彼らを視界に入れておくことで、「これはレースなんだ」という感覚を取り戻すきっかけになったというか。

それともう一つ、面白い出来事があった。ピーチストーンかドーネル、どちらかのエイドステーションで、去年レース前にコースを一緒に走った地元のランナー2人に会ったんだ。1人はアンソニーという名前で、もう1人の名前は思い出せないんだけど、オーバーンのコミュニティで活躍する、すごくいいランナーたちなんだ。

2人とも僕を見て「すごいレースをしてるじゃないか!」と声をかけてくれた。でも僕は苦しくてペースを保つのに必死だったから、「まあ、そうかもね」くらいの返事をしたと思う。そしたら彼らが「いや、本当にすごいって。これは最高のレースだよ」と返してくれて、そこで「ああ、そうか」と気づいた。それでまた、「レースは始まってる。しんどいとか文句を言ってる場合じゃない、レースモードに切り替えなきゃ」という気持ちが戻ってきたんだ。

ディラン:

本当にいい話だね。ちょうど今、トラビスからリアルタイムのスプリット更新が届いたんだけど、君は公式にキャルストリート歴代4位のタイムなんだって。ジムは2度、2時間5分台を出していて、ジャレッド・ヘイゼンもほぼ同じスプリットを記録している。

そして偉大なロブ・クラーが、2014年のレースで今もこの区間のコースレコードを持っているらしい。ずいぶん長く残っている記録だね。他の3つの記録は、土曜日に破られたと思うけど。


7. リバークロッシングと静かなリードチェンジ

ディラン:

じゃあリバーの話をしよう。ここはライブ放送でもすごくエキサイティングな瞬間だった。フランチェスコが先頭で川に到着したんだ。あれが、ライブ放送で初めてハンス以外の選手が公式に先頭に立った瞬間だった。ハンスの方がフォレストヒルを先に出ていたからね。

彼の顔には疲労がにじんでいたけど、78マイル地点だから不思議じゃない。エイドステーションからの報告では、フランチェスコもかなりしんどそうに見えたらしくて、川で少しクルー交代に手間取って、時間をロスしたようだった。一方で君は川をすごく速く渡って、しかも正式なクルー交代もせずに抜けたから、フランチェスコに対して2分近く詰めたんじゃないかと思う。そこはまだ詳しく分析できていないけどね。

あの場面での心境を教えてほしいんだ。血の匂いを嗅ぎつけていたというか、少なくとも「これはいけるかもしれない」という感覚はあった?フォレストヒルでの11分差は、ラッキーチャッキーに入る時点で公式には5分になっていて、さっき言ったようにエイドでさらに数分縮めたと思うから、グリーンゲートに着く頃には3分半差になっていたはずだ。

ライアンとのやり取りで競争心が再燃した話もあったけど、あの瞬間、「今日はまだ勝てるかもしれない」と思った?それとも、その気持ちはずっと心のどこかにあったものだった?

ヴァンサン:

うん、間違いなくあのキャルストリートの区間で、何かがスイッチした。入る前より、抜けた時の方がずっと調子が良く感じたんだ。

理由の一つは、ライアンと彼のペーサーをもう一度抜いたこと——たしかキャル2のエイドステーションのあたりだったと思う。そしてもう一つ、これはあまり喜ばしいことじゃないんだけど、ハンスに追いついたこと。彼はドロップ寸前だったからね。でもスプリット情報がないから、「よし、今2位。あとはフランチェスコだけだ」という感覚になって、また競争心に火がついた。

それから、考え始めたことがもう一つあってね。急な下りで苦しんでいたのは事実だけど、それはたぶんみんな同じ。自信になったのは、フラットで走りやすい区間では、まだそこそこいい動きができていたことなんだ。そしてフィニッシュまでは、そういう区間がたくさん残っていた。

それに加えて、過去のスプリット情報も、腕時計や記憶の中にたくさん持っていた。だいたいのペースは頭に入っていたんだけど、これまでと決定的に違ったのは、今回は気温がずっと低かったこと。だから頭の中では、「グリーンゲート以降、例年の平均よりもかなり速く走れるはずだ」という感覚があった。

そして、痛みはあるけど、競争心もありつつ本当にポジティブなマインドに入れた理由は、「うわ、これはみんなとんでもないレースになるぞ」という予感だったと思う。もちろん完全に崩れる可能性もまだあったけど、川を渡ってグリーンゲートまで来た時点で、残りのマイル数はもう限られている。最悪のシナリオでも、すごく良いフィニッシュタイムになるのは間違いなかった。

だからそれが、ある種のゲームになっていったんだ。「先を行く友人のフランチェスコに追いつこうとする。でも、どっちにしても2人ともとんでもないレースをすることになる。だったら自分にできる最善を尽くして、すべてを出し切ろう。2人のうち、良い方が勝てばいい」ってね。

ディラン:

フランチェスコとはまだ話せていないんだ。フィニッシュラインでインタビューできるような精神状態じゃなかったからね。それも当然だと思う。彼も英雄的な2位、歴代2番目に速いタイムで走ったわけだから。

もう少し詳しく聞きたいんだけど、君が正式にリードを奪った瞬間について。今、僕らは「これは史上最も遅いリードチェンジだったんじゃないか」という分析を進めているんだ。2016年に、ジムが道を間違えてアンドリュー・ミラーが公式にはもっと遅いタイミングで先頭に立った例はあるけど、それを別にすれば、今回はかなり異例の遅さだと思う。スプリットを見ると、グリーンゲートで3分半、ALTで1分20秒差だった。

この情報は当時持っていなかったかもしれないけど、直感的に「いずれリードを奪うことになる」という感覚はあったんじゃないかと思うんだ。その直感とリアルタイムでどう向き合っていたのか。そして、その瞬間が来ることを事前に想定していたのか。抜くなら堂々と一気に突き放すのか、それとも相手にチャンスを与えないようにするのか。

数年前のロブ・クラーとジム・ウォルムズレーのバトルを思い出すんだけど、ロブは今も「あの時どこかで勝負を仕掛けておけばよかった」と思っているんじゃないかと感じるんだ。それを踏まえて、直感の部分——「自分は抜くことになりそうだ」と感じた時、その瞬間に向けて計画を立てるのか、立てるとしたらどんなふうに?

ヴァンサン:

うん、これはさっきの質問への答えにもなると思うんだけど、川に近づく時に、一つだけ分かるスプリットの手がかりがあるんだ。エイドステーションに十分近づいて歓声が聞こえたら、腕時計を見て「よし、だいたいこれくらいのギャップがある」と判断する。そういうゲームなんだよね。それが川で起きた。だから、5分くらいの差だというのは分かっていた。

グリーンゲートでは、それが起きなかった。実はレース前にフランチェスコと話していて、彼のクルーは川に、僕のクルーはグリーンゲートにいると決めていたから、僕らは違うポイントで止まっていたんだ。でもALTでは実際に歓声が聞こえて、自分が着く1〜2分くらい前に聞こえた感じだった。だから「よし、詰まってきてる。でもまだギャップはある。ただ、確実に詰まってきてる」という感覚だった。自分がまだいい状態で、十分に動けていると感じていたから、そう思えたんだと思う。

ただ、リードを奪うことが何を意味するかについては、あまり考えたり心配したりしていなかった。というのも、レース全体を通してずっと頭にあったのが、「僕らはとんでもなく速いペースでスタートしている。だから、もっと保守的に入った選手が、後半に強く戻ってくる可能性がある」ということだったから。実際、ライアンはハイカントリーで先頭パックにいて、スタートから本当にすごいレースをしていたわけだしね。

だから、自分の前で起きていることに集中して、後ろから何が来るかにはフォーカスしないようにしていた。「すべてを出し切る」という大きな目標を、ただ受け入れようとしていたんだ。「トラックにたどり着いた時、完全に空っぽになれたら、それでいい。すべてを出し切ったということだから」ってね。

それで、ALTとクォーリーロードの間のトレイルでフランチェスコに追いついた時——僕らは友達だから、当然お互いに励ましの言葉を交わしたよ。でも同時に、この段階で彼と並んでジョギングを続けるわけにはいかないことも分かっていた。プッシュし続けなきゃいけないし、待っている余裕はない。だからここでも、サージなんてものは存在しない。それくらい疲れ切って苦しんでいたけど、それでもエフォートだけは保ち続けようとした。登りも下りも、何が来ても、フィニッシュまでずっと。そして実際に前に出てからも同じで、後ろとの差がどれくらいなのかは、分からないままだった。

ディラン:

フランチェスコは、どれくらいの間、君についてきていた?

ヴァンサン:

いや、全然。スプリットをいくつか見てみたんだけど、ALTとクォーリーロードの間で、彼が一番きつい局面を迎えていたみたいなんだ。それ以降のスプリットは、僕とあまり差がなくなっているから。

ディラン:

すごく興味深いね。そんなに時間はかからなかったんだ。読者のみなさんのために言っておくと、君がウエスタンステイツで初めて先頭に立ったのは90マイル地点だった。これは本当にまれなことなんだ。あのパフォーマンスがいかに完璧に遂行されたかの証拠だと思う。

スプリットを振り返ると本当にすごいんだけど、君も、ライアン・モンゴメリーも、プッピも、レース中ずっと優勝争いに絡み続けていた。3人とも歴史的な走りをして、当然、勝てるのは1人だけ。それが君だった。でも、3人全員の走りが「見事な遂行力」を物語るストーリーだったと思うし、見ていて本当にインスパイアされたよ。


8. 優勝の瞬間、そしてプレッシャーとの向き合い方

ディラン:

じゃあ、最終的なトラックでの勝利の話に移ろう。数字を確認したいんだけど、フランチェスコに対して3分半か4分くらいの差での勝利だったと思う。ライアンはそこからさらに数分遅れ。

53年の歴史を持つこのレースで、勝利そのものはもちろん歴史的なことだけど、それに加えて新コースレコード、フランス人として初、ヨーロッパ人としても史上5人目の優勝ということになる。この36時間で、これだけのことをどこまで消化できた?そもそも、こういう話を持ち出されること自体、変な感じ?

ヴァンサン:

うん、正直ちょっと変な感じがするよ。特にウエスタンステイツは、ジムと親しい友人であることも含めて、この10年の歴史の多くを彼が作ってきたレースだからね。

まず、ポディウムの走りがどれだけすごかったかを取り上げてくれてありがとう。あのスプリットは、本当に信じられないレベルだと思う。お互いに押し合うようなレースをしたこと、そこに好天候が重なったこと。それがあって初めて、あの走りが実現したんだ。結果的に勝ちを手にしたのは僕だけど、フランチェスコもライアンも、同じくらいそれに値する走りをしていた。競技の性質というか、スポーツの本質だと思うんだけど、ああいう競争の場があったからこそ、お互いの最高を引き出せたんだと思う。

正直に言うと、僕は「競争」というものに対して、ずっと少し複雑な感情を抱いてきた。競争は好きなんだけど、同時に、日々のトレーニングの積み重ねや、目標を立てていくこと自体も同じくらい大好きなんだ。もちろんコースレコードには意味がある。僕自身、過去のデータやスプリットを見て分析するのが好きな人間だからね。

でも同時に、記録なんて破られるためにあるものだと思ってる。それは間違いない。だから、ジムの記録を破ったことについても、そう考えると気持ちが楽になるんだ。みんな、いつかは破られる記録だと分かっていたはずだし、彼自身、このコースでもっと速く走れる力を持っていることも知っているから。すべては一時的なものなんだよ。

ディラン:

なるほど、話してくれてありがとう。一つ聞きたいことがあるんだ。UTMBの後、君はもちろん大成功しているけど、あの結果は多くの人にとって、たぶん君自身にとっても驚きだったと思う。それが「あれはまぐれじゃなかった」と証明したい気持ちにつながったことはある?

世界最大の舞台でまた歴史的な走りを見せたという意味で、今回のこれは、何らかの「証明」のように感じる?そういう感情と向き合ったことはあるのかな。

ヴァンサン:

正直に言うと、分からないんだ。自分の中でも、そういうふうに分析するのは簡単だと思う。でも僕は、そこであえてスポーツ全体を、いや、自分たちの競技そのものをズームアウトして見ることに、いつもフォーカスしているんだ。

昨日、義理の家族と一緒にいたんだけど、みんなレースを追いかけて盛り上がってくれてはいた。でも、「たまたま自分たちの住む場所のすぐ近くでやっていたレース」という以上の意味では、彼らはトレイルランニングに特に興味があるわけじゃないんだ。ファンのみんなには水を差すようで申し訳ないけどね。でも僕は、そういう視点から物事を見られることを、むしろ楽しんでいる。

UTMBの少し後に、祖父と電話で話したことを思い出すよ——ちょうど今、その記憶がよみがえってきたんだけど。彼は今年の初めに亡くなったんだ。その時、少しUTMBの話をして、それからすぐに他のニュースの話に移っていった。「まあ、それも世の中のいろんな出来事の一つだよね」という感じで。より広い視点で物事を見るよう自分に言い聞かせることは、いつも助けになってきた。何か一つの出来事の重みを、必要以上に重く受け止めすぎないためにね。それでプレッシャーも少し軽くなる。

ただ、はっきりしていることが一つある。UTMB2024の後、僕がレースをする時、あるいは何をする時にも、以前より注目が集まるようになった。それによって、正直、難しさは増したんだ。スタートラインに立つ時、以前より期待されている。それ自体がプレッシャーになる。そういう背景があるから、今回のウエスタンステイツの勝利には、さらなる満足感があると思う。より多くの努力が必要だったからね。

でも、僕個人の内面にとっては、それが何かを証明する助けになるわけじゃないんだ。だって、家族も友人もクルーも、僕がもう一つレースに勝ったからといって、僕を違う目で見たりしないと分かっているから。義理の家族の例えを続けるなら、「へえ、また勝ったんだ。おめでとう」くらいの感じだと思う。

シングルトラックでも話したことだけど、僕は公式には、ウエスタンステイツとUTMBの両方を制した7人目の選手になったらしい。それは信じられないくらい誇りに思えることだし、すべてが落ち着いたら、ちゃんと祝いたいと思ってる。


9. クルー、そして家族への想い

ディラン:

もう少しだけ聞かせてほしい。ホカのプロダクトチームの同僚たちが、クルーとして現地に来ていたと聞いたんだけど。それと、今回はペーサーを使わなかったよね。これも興味深いポイントだ。今回のパフォーマンスを支えてくれたチームのこと、そして1人で走り切るという決断について、少し話してもらえる?

ヴァンサン:

聞いてくれてありがとう。ここまで自分の話ばかりしてきたから、今度は自分を支えてくれた人たちの話をさせてほしい。これは本当に、みんなの努力の結晶であり、みんなでつかんだ勝利だと思っているから。

妻のカミラはカリフォルニア出身で、僕らは西海岸で一緒に5年間暮らした。カリフォルニアに3年、オレゴンに2年。僕はもう10年以上ホカで働いていて、友人の多くはまだ西海岸にいる。その中には、今もホカで働いている人、以前働いていた人もたくさんいる。去年クルーとして参加してくれた人たちのかなりの部分が、今年もまた来たいと言ってくれたんだ。

面白いのが、去年、レース前に色んな人にただメッセージを送って、「ウエスタンの週末、手伝いに来ない?」と聞いたら、みんな「行く」と答えてくれて、結局かなり大きなグループになった。今年もみんなが喜んで参加してくれたよ。

実は今朝もみんなにお礼のメッセージを送ったんだ。去年は「みんなをがっかりさせてしまうかもしれない」という感覚を抱えていたんだけど、「そうじゃない、みんなこの冒険を一緒に分かち合えることにワクワクしてくれているんだ」という見方に変えるまで、少し時間がかかったんだ。これは僕についての話じゃなくて、その日、そしてその週を通して、みんなが何を感じ、何を分かち合えるか、という話なんだって。過去にジムのクルーをしたり、他の選手をサポートしたりした時に、自分自身もそれを感じたことがある。クルーって、本当に楽しくて、すごく大事な仕事なんだ。

だから、特に今年は本当にたくさんの助けをもらえて、心から感謝している。カミラと僕にとって初めての子供、小さな娘が、初めて一緒に旅をしていたからね。クルーの何人か——ホカのチームメンバーだけじゃなく、長年の友人たちも——時間を割いて、家族のサポートにも来てくれた。カミラが娘を信頼できる人たちに預けて、いくつかのエイドステーションで僕の面倒を見に来られるようにね。これは本当に、何物にも代えがたいことだった。

ディラン:

ペーサーなし、というのは意図的な選択だったんだよね。

ヴァンサン:

そう、クルーと少しその話をしたんだ。実は僕の友人にフォレストという人がいて、彼は僕の初めての100kレース、ゴージ・ウォーターフォールでペーサーを務めてくれた。去年はフォレストヒルから加わってくれて、グリーンゲートまで一緒に長い苦しい時間を過ごしたんだ。

今年に入って気づいたのは、誰かと経験を分かち合うのは好きだし、ゴージの思い出は本当にかけがえのないものだけど、パフォーマンスという観点で見ると、ペーサーからそれほど大きな恩恵を受けているわけじゃないかもしれない、ということだった。それに、ウエスタンステイツの当日は、それでなくても膨大なロジスティクスが絡んでくる。だったら、その変数を一つ減らせるなら——車2台、クルー2組という、すでに十分複雑な計画に、もう一段レイヤーを加える必要はないんじゃないか、と思ったんだ。

だから、ペーサーなしで挑戦するのは僕自身の決断だった。「もしかしたら愚かな選択で、後悔するかもしれない」とも思っていたけどね。でも、フランチェスコもペーサーを使わなかった。それに現実問題として、ペーサーをつけるなら、その人は自分の担当が始まるまで1日中クルーとして動くことはできない。彼ら自身にとってもハードな走りになるから、休んでおく必要があるしね。そう考えると、やっぱり大変なことなんだ。

ディラン:

トレイルの上で、しかも今日ずっと話してきた「内なる直感」とつながる、あのすごく個人的な体験に、もう1人加えるということには、現実的な考慮点が本当にあると思う。ペーサーがいることで、そのフロー状態から少し外れてしまって、自分の内なるゲージとつながりにくくなるかもしれない、と。とにかく、面白い話題だ。

トラックでも話したことだけど、君もケイレブも、優勝と同時に新米パパだったという共通点があるよね。これは僕自身にとっても思い入れのあるテーマなんだけど、少なくともこの2年間の歴史の中で、興味深い一つの流れだと思っている。

ぜひ聞きたいのは——娘さんはもちろん、土曜日に何が起きたか分かっていないと思うけど、奥さんのカミラは分かっている。この2人と、ものすごく大きな意味を持つ瞬間をいくつも共有できたはずだ。この36時間、静かな時間もあったと思うけど、赤ちゃんを連れて家族としてこれを経験することが、どんな感じだったか。話せることがあれば聞かせてほしい。

ヴァンサン:

信じられないくらいの思い出で、家族としてずっと大切にしていくものになると思う。いつか娘に写真を見せた時、興味を持ってくれたら嬉しいけど、持たなくても、それはそれでいい。

カミラと話したこと、そして彼女に改めて伝えたことなんだけど——彼女なしでは、この全部を成し遂げることはできなかった。お世辞とか、彼女に花を持たせるために言っているんじゃなくて、本当に、物理的に、彼女のサポートなしでこのトレーニングブロックをどうやってやり切れたのか、想像もつかないんだ。

もちろん、すべてはバランスの問題で、日々やらなきゃいけないことをどうマネジメントするか、という話でもある。娘が生まれてからは、それ以前になかったことがたくさん増えて、細かい調整も必要になった。僕らの関係の中で、いつも大切にしてきたのは、透明性のあるコミュニケーションなんだ。ウルトラのトレーニングは本当に早い段階から始まるものだから、たとえば6時間走りに出る日が来ても、それが突然のサプライズにならないように、何ヶ月も前からトレーニングボリュームの見通しを共有しておく。

それでも、簡単なことだとは全然思わないし、今でも葛藤することはあるんだ。このブロックの中でも、「これはすごく自分本位なことをしているんじゃないか」「娘や妻から奪ったこの時間を、別のことに使えたんじゃないか」と感じる瞬間が何度もあった。でもカミラは、「これは私たちが一緒に決めたことでしょう」と、素晴らしい形で思い出させてくれた。それに、アスリート契約がある以上、これは正式に僕の仕事の一部でもある。冗談っぽく「契約だからね」なんて言い合うこともあるけど、これは僕らが家族として立てた計画であり、目標なんだ。

だからこそ僕は、これは集団的な努力であり、集団的な勝利なんだと、強く言いたい。自分一人では、絶対に成し遂げられなかったことだから。


10. これから

ディラン:

ヴァンサン、そろそろ解放してあげるけど、最後に一つだけ言わせてほしい。いい人には、いいことが起きるものだね。君はまさにそういう存在だと思う。

昨日マリオともこの話をしたんだけど、彼もまったく同じことを言っていたよ。「彼は根っからのいい人間なんだ」って。それは自然と伝わってくる。僕らはまだそんなに長い付き合いじゃないけど、それでも感じ取れるものがある。君は大きな心と、いい意図を持った人間で、世界に、そしてこのスポーツに、ポジティブな影響を与えたいと思っている。謙虚で、ハードワークを厭わない姿勢を、競技人生を通してずっと貫いてきた。それがこういう形で報われるのを見られるのは、本当に素晴らしいことだし、若い世代のアスリートたちにとってもいいお手本になると思う。

次に何をするかは、まだ聞くには早すぎるから聞かないよ。でも、レースに出ないとしても、シャモニーには何らかの形で関わっているはずだから、もしよかったらスタジオに来て、それらのレースの展開について一緒に話してくれたら嬉しい。オーディエンスもきっと、君の視点を聞きたがっているはずだから。

ヴァンサン:

温かい言葉、本当にありがとう。すごく嬉しいよ。実は、フリートレイルはほぼ始まった頃からずっと聴いてきたんだ。だから、こうしてつながれていること自体、本当に大きな意味がある。

たぶんゴージ・ウォーターフォールの頃からだと思うけど、コースプレビューか何かで一緒にビールを飲んだのを覚えてる。レースのカバレッジから、ストーリーの伝え方まで、君がやっていることすべてに感謝しているよ。少しでも力になれているなら嬉しい。

ディラン:

こちらこそ。改めて、おめでとう。この話をシェアしに来てくれて本当にありがとう。トレイルランニングの世界に届けるのが楽しみだよ。それと、6週間か8週間後には、フランスで君に会えるのを楽しみにしてる。ちょっと気が早いけどね。それじゃあ、残りの旅を楽しんで。また話そう。

ヴァンサン:

ありがとう、ディラン。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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