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見えない努力を見えるようにする工夫

前回の記事で僕は、努力には他人の目に見える努力(作業的努力)と、見えにくい努力(思考的努力)があり、多くの人は作業的努力をして頑張っている気分になりがちであることを指摘しました。

リソースを割くべき場所は作業的努力ではなく思考的努力なのですが、思考的努力は目に見えないため、自分自身でもそれを認識することが難しいです。今回は、「自分はいま思考的努力をしている」という確固たる確信を得るための工夫、方法について説明します。

考えを表に出す

ひとは複数のことを同時に行うことを極端に苦手とします。分離すれば造作でもないふたつのことを同時にやろうとするととたんに何もできなくなる、というのは誰にでも経験があるはずです。

さて、「考えること」と、「その考えを認識すること」もそうで、これらを同時にやろうとするのは難しいです。自分は思考的努力をしている、という実感を思考中に得るのは難しいため、考えているときには考えることに集中して、その考えをメタ的に認識するのはその後からやるのがよさそうです。

後から見えるようにする方法はいろいろあるのですが、僕がいままさにやっている「noteを書く」というのは、そのひとつです。noteは、意見や考えを世の中に公開する手段のひとつですから、考えを人にわかる形でまとめる場所としてのnoteは、「自分は思考的努力をしている」という実感を得る方法としてすぐれています。

noteにこだわらなくてもいいのですが、僕はnoteでやってみることをおすすめします。というのも、他のSNSの場合どうしでも分量がすくなくなり、思考を出す場所としてのスペースが足りないからです。

たとえばX(Twitter)の場合は140文字の制約がありますし、文脈や前後関係をまったく組み込めません。noteで何か書くよりもXで書いたほうがハードルは低いしラクそう、と考える人もいそうですが、思考した結果(文章)を後から使うという面でXは不利です。

Xの投稿をする人が目にするのは、スマホやパソコンの画面にじゅうぶんおさまるくらいの小さな入力画面であり、「Xの投稿をしようとしたが全体像がつかめなくなって困ってしまった」なんてことは経験しません。これはメリットであるとも解釈できますが、文脈保存の観点からはまったく役に立ちません。

noteなどの長文にあってXなどの短文にないものは文脈です。長文はたんに文字数が短文よりも長いだけというわけではなく、文脈や前後関係というメタ的な情報も含んでいます。文字数増加にともなう情報量の線形的な増加に加え、メタ情報も加わってくる、と言い換えてもいいと思います。いずれにせよ、文章、マインドマップ、図解など、スペースに制限がなく、かつ文脈や前後関係を保存できる媒体にするといいはずです。

また、短文を寄せ集めるだけでは長文は作れませんが、いちど長文にしておけば、それを切り出すだけで短文にできます。「大は小を兼ねる」とおなじで、noteなどの場所で長文にしておくという作業は、のちにそれを役立てるという観点から便利です。

自分でつくった知的生産物は目に見えるものであり、それは、「考えた」という思考的努力の結果です。noteだろうがメモ書き1行だろうが、なにか出てきたのであれば、それは「考えた」ことを示すしるし、自分の思考の痕跡になります。頭の中の霧が晴れ、自分の考えが一本の線としてつながっている感覚を得られたのであれば、それは思考的努力の成果として十分なものになります。

書いてから考える

長文を書くときには短文をかくときには気にかけないような課題が出てくる、と言い換えることもできます。そして、その課題を突破して考えをまとめる、思考的努力を結晶化するというのが、ひと仕事です。

これは時代の恩恵ですが、ワープロやパソコンは順番の組み換えなどの操作を得意としており、そのため、「書き始めてから考える」ということもできるようになりました。これはもちろんうれしいことで、「後から修正や改変が来ても手間じゃない」という安心感は絶大です。長い文章では直感なども必要になるのですが、「直感で書き進めていく」というやり方は、適宜修正できるというパソコンの特性とマッチします。

なにかをちょっと考える必要が出てきた、という状況になったのであれば、「とりあえず書いてみる」というのがよい案であると感じませんか。ペンの時代には、もくじに相当する論理関係の骨子をまず見て取らなければなりませんでしたが、キーボード操作で文字をバンバン打って組み替えることができる現代であれば、「とりあえず文章にしてからその後に配置や構成を整え、自分の意見を浮かび上がらせる」というアプローチができます。noteももちろん、その、「ちょっと書く」ための良い手段です。

前半で述べたのは、「考えたことを文章にする」でしたが、書いてから考えるはその逆です。いずれにせよ、見えるようにすることと、実際に考えることの順番が違うだけで、本質的には同じです。

「書いてから考える」の良いところというか、メリットは、考えがうまくまとまらないなりにも思考をすすめることができることです。「とりあえずnoteを書く」ことがよいとすでに言いましたが、その、「とりあえず」でなにか超大作をつくる気負いを持つ必要はないですし、カジュアルにラフにやるのでまったく問題ありません。

自分の知的生産物

情報はしばしば、行動の提案につながります。企業がなにか大きなプロジェクトをはじめるときに、調査をしたり市場の動向を確認したり、あるいは自社のリソースを確認するなどして情報を集めますが、それは当然趣味かなにかでやっているわけではなく、「行動の提案になる情報」がほしいからそれをしているわけです。

さて、ひとが考えた結果として何かしらのメモ書きや文章が出てくるわけですが、それはすでに述べたように、後からいくらでも使うことができます。見えない努力が効いてくるのはここであり、思考的努力の成果が自分の行動選択に反映されるからです。思考的努力を通じて結晶化した自分の「知的生産物」をつかい、自分が今度何をどうするかといった行動にそれを反映されるということです。これは、企業が情報をつかって何か判断するのと似ています。

自分で考えることをせずに、別の人から情報をもらえばいいのでは、と考える人もいそうですが、それはおすすめできません。というのも、多数派や常識、あるいは偉い人が言っていることをそのままなぞるだけ、という方向に流されかねないからです。

思考はしばしばクリティカルになります。みんなが考えていることと同じ考えをもう一度考えるのは面白くもなんともないですし、鋭い論点や言説というのは、「みんなが考えていなさそうなこと」になるのがふつうです。他人と違うことをするのがよいことだ、というわけではなく、自分で考えた結果た他人と同じになるかどうか、という話であり、多くの場合でそれは他人と同じにならない、ということです。個人の独立した思考の結果が結果的に多数派と同じになる、ということはあまりありません。

大切なのは、普通の言葉で非凡なことを言うことである

アルトゥル・ショーペンハウアー

ラクになるということ

いわゆる頭のいい人は、過去に考えたことをうまく使っているのだと僕は思います。何年前でも何十年前でもいいのですが、過去に一度考えて出した意見や洞察(=知的生産物)を、そっくりそのまま、あるいはちょっとアレンジして使うことを僕は、「過去に考えたことを使う」と呼んでいるのですが、昔に考えた考察を要所要所でダイナミックに活用できるかどうかが、「頭が良いこと」の一要素になるはずです。

思考的努力をして、そこから出てくるオリジナルの知的生産物を自分の行動や選択に役立てる、という一連の流れには好循環がありますし、その循環で知的生産の蓄積がたまっていきます。そのようにしてたっぷりできた過去の考察の蓄積をうまく使っていくことをするのがよい、というのが僕の意見であり、その理由はそうしたほうが単純にラクだからです。

この、「ラクになる」というポイントは、アナロジーを例として示して説明すれば合点がいくはずです。「Amazonの配送」を例に挙げて、説明してみます。

日本人のほとんどの人はAmazonでなにかモノを注文した経験があると思います。Amazonの特徴的な点は、「追加料金なしで即日・翌日配送ができる」ことなのですが、これは決して、配達スタッフが必死こいて、物理的にすごい駆け足でモノを運んできてくれる、ということではありません。

すでにご存知の方も多いと思いますが、Amazonは過去のデータの蓄積を利用して、どこの誰が、何を将来購入しそうかをアルゴリズム的に判断します。そして、そのようにして判断された品物をあらかじめ、その人が購入ボタンを押す前に、その人の近所にあるAmazonのフルフィルメントセンターに、事前に運んでおくことをします。

このように、「事前になにかが仕込まれた状態がまずあって、その後にいざ注文が来たときに最後の一仕事をちょろっとやる」ということをAmazonはやっているのですが、これが、「あらかじめ考えたこと、すでに仕込んで置いたオリジナルの知的生産物を使う」に似ていると僕は思います。

Amazonの例で伝えたいことは、あらかじめいろいろと考えておけば、そして、それを再利用可能な、目に見える形態で保存しておけば、それを欲しがる人がいざ現れたときに、負担なくそれを提示できる、ということです。まさに「ラクできる」ということであり、負担なく自分の意見や洞察を他人に、ある意味即興で提出できるようになります。ふだんから考えておく、という作業は、優れた洞察をいざ求められたときに慌てないための一工夫になると思います。

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