風鈴が鳴るとき、風は帰る【ちび創作大賞】
皆さま、土曜日ですね♪
こんにちは(≧▽≦)
灯の旅人です。
今日もちび創作大賞応募してまいります。
本日は、風です。
風をテーマにした際、何かと普通の風とは違う物語がいいなと思っていまして…。風をテーマにした異世界ファンタジーです。
今回は5000文字位になりますね。
長いかもしれないですがいい物語なのかもしれないです。
それでは、どうぞ(≧▽≦)
風鈴が鳴るとき、風は帰る
登場人物
フィウ
風を起こすことのできない、小さな風の精霊。淡い青緑色の髪と空のように澄んだ瞳を持ち、半透明の薄布を重ねた衣装をまとっている。裸足のまま地面から少し浮かび、手のひらには一枚の葉を乗せていることが多い。ほかの精霊たちからは半人前と呼ばれていたが、優しさと小さな勇気を秘め、本人も知らない大きな秘密を宿している。

ミナ
風待ちの国・リュネールに暮らす、素朴で芯の強い少女。柔らかな栗色の髪を肩ほどまで伸ばし、淡い生成り色と青を基調とした服を着ている。祖母から受け継いだ透明な風鈴を大切にしており、毎日のように丘へ様子を見に来ている。風が吹いていた時代を知らないが、寂しさの中でも希望を失わず、いつか風鈴が鳴る日を信じている

風のない国
風待ちの国、リュネール。
その名とは裏腹に、この国では長いあいだ、風が吹いていなかった。
丘に並ぶ風車は、一枚の羽根も動かさない。森の木々は、まるで絵の中へ閉じ込められたように立ち尽くし、空に浮かぶ雲さえ、何日たっても同じ場所にあった。
鳥は遠い国へ渡ることをやめた。
船は帆を畳んだ。
夏の終わりの生ぬるい空気だけが、季節を忘れたように残り続けていた。
人々は、この現象を「風眠り」と呼んだ。
国の中央には、雲に届くほど高い塔が建っている。
名を、《風封じの塔》。
かつて世界中に嵐を起こした風の王を封じた塔だと伝えられていたが、それを本気で信じる者は、もうほとんどいなかった。
塔の扉は固く閉ざされ、近づく者もいない。
風のない暮らしに慣れた人々にとって、昔話は昔話でしかなかった。
ただ一人を除いて。
小さな風の精霊、フィウは、毎日のように国中を巡っていた。
正確には、歩くというより、地面から少し浮かんで移動していた。
彼は風の精霊だった。
それなのに、風を起こすことができなかった。
「それっ」
フィウが両手を広げる。
道端に落ちていた葉が、かすかに震えた。
けれど、それだけだった。
葉は転がることもなく、すぐに動きを止めた。
「今日も駄目か」
フィウは肩を落とした。
かつてこの国には、彼以外にも多くの風の精霊がいたらしい。
だが、風眠りが始まってから、一人、また一人と姿を消していった。
遠くへ逃げたのか。
それとも、風と一緒に眠ってしまったのか。
フィウには分からない。
ただ、ほかの精霊たちが最後まで彼を半人前と呼んでいたことだけは覚えていた。
落ち葉一枚も飛ばせない。
人の髪を少し揺らすことさえできない。
そんな自分が、なぜ今も消えずに残っているのか。
それも分からなかった。

鳴らない風鈴
ある日、フィウは国の外れにある丘で、一人の少女を見つけた。
少女は古い木の下に立ち、枝から下がる透明な風鈴を布で丁寧に拭いていた。
風のない国で、風鈴を。
「それ、鳴らないよ」
フィウが声をかけると、少女は驚いて振り返った。
「誰?」
「フィウ。風の精霊」
そう名乗ると、少女はしばらく彼を見つめたあと、首を傾げた。
「風の精霊なのに、風を起こせないの?」
「……どうして分かったの」
「だって、風が吹いてないから」
悪気のない言葉だった。
だからこそ、少しだけ胸に刺さった。
少女はミナと名乗った。
丘のふもとの村に暮らしており、この風鈴は亡くなった祖母から受け継いだものだという。
「おばあちゃんが言ってたの」
ミナは風鈴を見上げた。
「いつかこの風鈴が鳴ったら、止まった風が帰ってくるって」
フィウは透明な風鈴へ顔を近づけた。
ガラスのように見えるが、不思議なことに表面には傷一つない。
中には、青い石でできた小さな短冊が下がっていた。
短冊には、見たことのない紋章が刻まれている。
どこかで見たことがあるような気もした。
けれど思い出せなかった。
「毎日、ここへ来てるの?」
「うん」
「一度も鳴らないのに?」
「いつ鳴っても、聞き逃したくないから」
「もう諦めてもいいんじゃない?」
フィウが言うと、ミナは少しだけ困ったように笑った。
「私も、そう思う時はあるよ」
「じゃあ、どうして?」
ミナは風鈴の短冊へ、そっと指を触れた。
「鳴らなかったら、まだ終わってないってことでしょう?」
フィウには、その意味が分からなかった。
その日から、フィウは毎日丘へ通うようになった。
最初は、ただミナが不思議だったから。
やがて、風鈴を一度くらい鳴らしてやりたいと思うようになった。
フィウは何度も息を吹きかけた。
両手を振った。
丘の上を走り回った。
けれど風鈴は動かなかった。
落ち葉は少し震えるのに、風鈴だけは、まるで空間に縫いつけられたように微動だにしない。
「ごめん」
ある夕方、フィウは木の根元に座り込んだ。
「僕じゃ鳴らせないみたいだ」
ミナは隣に腰を下ろした。
「少しだけ揺れたよ」
「揺れてない」
「私には、揺れたように見えた」
「慰めなくていいよ」
フィウは膝を抱えた。
「僕は風の精霊なのに、風を起こせない。きっと最初から何かが間違ってるんだ」
ミナは少し考えてから、彼の髪へ手を伸ばした。
触れようとした指先が、半透明の髪をすり抜ける。
「でも、フィウが来るようになってから、ここは前より寂しくないよ」
風鈴は鳴らない。
風も吹かない。
それでもフィウの胸の奥で、何かがほんの少しだけ揺れた。

鈴が空へ昇る夜
その夜。
フィウは胸の奥に走った、かすかな痛みで目を覚ました。
呼ばれている。
理由は分からない。
けれど、そう感じた。
フィウが丘へ向かうと、ミナもすでに古い木の下に立っていた。
「フィウ」
「ミナも呼ばれたの?」
「分からない。でも、急に目が覚めて」
二人が見上げると、枝に掛けられた風鈴の中で、青い短冊が淡く明滅していた。
風はない。
それでも光だけが、まるで呼吸をするように強くなったり、弱くなったりしている。
やがて風鈴を結んでいた紐が、誰の手も触れていないのに、するりと枝からほどけた。
「風鈴が……」
それは地面へ落ちなかった。
見えない手にすくい上げられたように、ゆっくりと宙へ浮かんでいく。
月明かりを受けた透明な風鈴は、夜空へ溶けてしまいそうなほど淡く輝いていた。
その光に応えるように、遠くにそびえる風封じの塔へ、青白い明かりが灯る。
塔の壁を覆う無数の紋様が、下から上へ順番に浮かび上がっていく。
フィウの胸の奥が熱を帯びた。
知らないはずの光景が、記憶となって流れ込んでくる。
荒れ狂う嵐。
地を這うような黒い雲。
風を恐れ、塔を築く人間たち。
巨大な光の鎖に縛られ、封じられていく銀髪の王。
そして、封印が閉じる直前。
王は自らの胸へ手を入れ、小さな青い光を取り出した。
『行け』
王は、その光へ告げた。
『風が再び必要とされる、その日まで』
放たれた光は、幼い精霊の姿へ変わった。
淡い青緑色の髪。
空色の瞳。
それは、フィウ自身だった。
「僕は……」
フィウは自分の胸へ触れた。
「風の王から生まれたんだ」
空に浮かぶ風鈴の表面へ、五つの輪が現れた。
四つの輪は青く輝いている。
だが、最後の一つだけは、光を失ったままだった。
すると、遠くの塔から低い声が届いた。
距離など存在しないかのように、丘全体へ静かに響く。
『我が力を託した、小さき風よ』
フィウは塔を見た。
塔の頂上には、巨大な人影が光となって浮かんでいた。
『最後の一音を鳴らせ』
「僕には無理だ」
フィウは首を振った。
「僕は、風を起こせない」
『起こせぬのではない』
王の声が答える。
『お前の力は、私と共に眠らされている』
「それなら、どうすればいいの」
風鈴は空に浮かんだまま、音を失っていた。
塔の光も、次第に弱くなっていく。
やがて地面が震え始めた。
風鈴を包む光に細い亀裂が走る。
封印が、再び閉じようとしている。
「フィウ」
ミナが彼の隣へ立った。
「大きな風じゃなくていいよ」
「でも、今まで何度やっても駄目だった」
「私は嵐を待っていたんじゃない」
ミナは浮かぶ風鈴を見上げた。
「空を飛べるような強い風も、世界を変えるような風もいらない」
彼女は涙を浮かべながら、それでも笑った。
「ただ一度、この風鈴が鳴る音を聞きたかったの」
フィウは目を閉じた。
丘で過ごした日々を思い出す。
毎日、風鈴の様子を見に来るミナ。
何度失敗しても、少し揺れたと言ってくれた声。
自分が来てから寂しくなくなったと笑った顔。
世界を動かす風にはなれなくても。
彼女一人の願いへ届く風なら。
フィウは両手を広げた。
「お願いだ」
胸の奥に眠る光へ呼びかける。
「僕に、この音を届けさせて」
淡い青色の光が、フィウの身体からあふれ出した。
それは細く、小さな風になった。
草原を駆け抜けるほど強くはない。
木の枝を大きく揺らすこともできない。
ただ、ミナの髪をそっと揺らし、彼女の頬を優しく撫でるほどの風。
ミナは驚いたように目を見開いた。
フィウ自身も、自分の手のひらから生まれたものを信じられずに見つめていた。
小さな風は、二人の間を抜ける。
丘の上へ昇る。
そして、空に浮かぶ風鈴へ触れた。
チリン。
澄み切った一音が、夜の静けさをほどくように響いた。
それは長いあいだ、誰も聞くことのできなかった音だった。
最後の輪へ、青い光が灯る。
次の瞬間。
遠くの風封じの塔を覆っていた紋様が砕け、無数の光となって夜空へ舞い上がった。
塔の頂上から、巨大な光の柱が天へ昇る。
雲が動いた。
森の木々が、一斉に揺れた。
止まっていた風車が、重い音を立てながらゆっくりと回り始める。
川面には波が生まれた。
眠っていた鳥たちが空へ舞い上がった。
そして丘の上にも、長いあいだ失われていた風が帰ってきた。
ミナの髪が大きくなびく。
フィウの薄い衣が、初めて風にはためいた。
風は冷たく、柔らかく、どこか懐かしかった。
フィウはその場に立ち尽くした。
ずっと探していたものに、ようやく包まれたような気がした。

風の跡取り
砕けた塔の光から、一人の男が現れた。
長い銀色の髪。
空を映したような青い衣。
その姿は、昔話に語られる恐ろしい怪物ではなかった。
長い眠りから目覚めた、疲れた一人の王に見えた。
風の王は空を歩くように丘へ降り立った。
王が足を着けるたび、草が静かに波打った。
彼は風の戻った国を見つめた。
動き始めた雲を。
回り始めた風車を。
そして、フィウを見た。
「お前は、私が封印される直前に生み出した小さな風だ」
「僕は、あなたの一部なの?」
フィウが尋ねる。
王は首を横に振った。
「違う」
王は静かに微笑んだ。
「お前には私の力を分け与えた。だが、お前が見たものも、出会った者も、抱いた願いも、すべてお前だけのものだ」
王はフィウの前に膝をついた。
「お前は私の欠片ではない」
大きな手が、フィウの頭へ触れる。
今度は、すり抜けなかった。
「私の眷属。そして、いつか風を受け継ぐ者だ」
王の手から、柔らかな光が流れ込んできた。
フィウの背後に、青白い風の輪が浮かぶ。
先ほどまでとは違う。
確かな力が、身体の中を巡っている。
遠くの森を揺らす風。
鳥の翼を支える風。
船の帆を膨らませる風。
誰かの声を、遠くの誰かへ運ぶ風。
数えきれない風の気配が、フィウの中へ流れ込んできた。
けれど、不思議と怖くはなかった。
王は立ち上がり、空を見た。
「私と共に来るか」
フィウはミナを振り返った。
ミナは寂しそうに笑っていた。
その顔を見て、フィウは答えた。
「今は、行かない」
王は少し驚いたように目を細めた。
「なぜだ」
「僕はまだ、この国のことを何も知らない」
フィウは丘の下へ目を向けた。
風車の回る町。
揺れる森。
空を飛ぶ鳥。
風に驚き、笑う人々。
「いつか守るものなら、先にちゃんと見ておきたい」
王は何も言わなかった。
やがて、満足そうに笑った。
「ならば行け。小さき風よ」
王の身体が、少しずつ風へ変わっていく。
「世界を見てこい。喜びも、悲しみも、別れも、出会いも。すべてを運べる風になれ」

強い風が丘を吹き抜けた。
ミナは思わず目を閉じた。
再び目を開けた時、風の王の姿は消えていた。
空には大きな雲が流れ、その向こうに青空が広がっていた。
風の行く先
数日後。
丘の上の古い木には、再び風鈴が掛けられていた。
けれど、ミナは以前のように、その音を待ってはいなかった。
もう知っていたからだ。
風は帰ってきた。
そして、あの一音は確かに届いた。
ミナは木の下で、小さな旅支度を整えていた。
「本当に行くの?」
フィウが尋ねる。
「うん。この国の外にも、風を待っている場所があるかもしれないから」
「危ないよ」
「風の跡取りが一緒なら、大丈夫でしょう?」
「まだ跡取りじゃないよ。候補だよ」
フィウが慌てると、ミナは笑った。
丘を下る道の先には、風に揺れる草原が続いている。
遠くで、風車が回っていた。
フィウは手を広げた。
新しく授かった力を、ほんの少しだけ解き放つ。
優しい風が吹いた。
ミナの髪を揺らし、草原を渡り、遠くの森へ抜けていく。
「行こう、ミナ」
「どこへ?」
フィウは風の向こうを見た。
まだ知らない町。
まだ出会っていない人々。
誰かの手紙。
誰かの願い。
誰かが待っている、たった一度の風。
「風の行くところへ」
二人は並んで歩き出した。
風はもう、止まっていなかった。
そして小さな風の精霊も、もう半人前ではなかった。
彼はいつの日か世界中の風を導く、その最初の一歩を踏み出していた。

これで2人の物語は終わりです。
精霊というより精霊が人化して生きている…
そんな精霊族の1人の少年の物語。
いや…やがて王となる少年の最初の願いの風
そんな雰囲気も醸し出されるいい文章でした。
本日はここまでです。
ここまでちび創作大賞については、4本出しました
どれも自信作です。後は、発表を待ちたいと思います。
皆様、ご愛読ありがとうございました。
又何処かの作品でお会いしましょう♪
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ここまで歩いていただき、ありがとうございます。
もし何か感じていただけたなら、その想いをそっと置いていっていただけると嬉しいです。