独立・起業して失敗!消えていった人たちの話#12|独立・起業した知人の末路と、社長が語った消えた人たちに、同じ匂いがした
ある時期から、取材で聞いた話と、自分の周囲で見てきた話が、頭の中でつながり始めました。別々に積み上げていた二つの棚が、ある日突然、同じものを収納していると気づいたときの感覚に似ていました。
第1章(#01〜#06)では、独立・起業して消えていった知人たちの話を書きました。同時期に独立・起業した20名のうち、10年後に残っていたのは2人だったこと。「絶対に成功する」と言っていた人から連絡が来なくなった年のこと。副業で僕より稼いでいた人が、独立・起業した途端に消えた話。第2章(#07〜#11)では、250名の上場企業経営者への取材で聞いた、消えていった人たちの話を書きました。
二つは別の観察のつもりでした。片方は自分の身の回りの話で、もう片方は社長室で聞いた話です。ところが、ある時点から両方が重なって見えてきた。そこに同じ匂いがした。今回はそのことを書きます。
僕はTrex(Tレックス)。IT企業を15年以上経営しています。起業前は日常的に英語を使う職に就き、上場企業の経営者250名以上に直接取材を行ってきました。この連載では、独立・起業して消えていった人たちを15年間近くで見てきた観察を、できる限り正直に書いていきます。詳しいプロフィールはこちら
最初に断っておきます。この回で何か「答え」を出そうとしているわけではありません。二つの観察が重なって見えてきたという事実を、できるだけ正確に記録することが目的です。そこから先の話は、#13以降に続きます。
🗄 二つの観察は、別のものだと思っていた
独立・起業して消えていった知人たちの観察と、社長室で聞いた消えていった人たちの話は、長い間、別のファイルに入っていました。頭の中の話ですが、整理の仕方として、そうでした。
知人観察のファイル
知人たちの話は、近い距離で見てきた話です。一緒に食事をしたことがある人、独立・起業の相談を受けたことがある人、しばらく連絡が続いて、ある時期から来なくなった人。彼らの消え方は、いつもじわじわとしていました。突然消えた人はほとんどいません。少しずつ連絡の頻度が落ちて、話題が変わって、気づけばもう、起業家としての話をしていなかった。
このファイルに入っていたのは、個人としての記憶です。顔や声や、その人の話し方の癖みたいなものが、記憶の周縁についていました。
社長取材のファイル
社長室で聞いた話は、もう少し距離のある話です。取材を受けてくれた経営者は全員、その時点では「残った側」でした。消えていった人たちのことを、生き残った側が語る、という構図です。
このファイルに入っていたのは、他者の言語を通した観察です。消えていった人を直接知っているわけではない。社長がどう語ったか、どんな言葉を選んだか、どのタイミングで沈黙したか。そういった間接的な情報が積み重なったものでした。
なぜ別々のファイルだったか
二つを別物として整理していたのは、スケールが違うと思っていたからです。知人の話はせいぜい20名程度の小さな観察で、社長取材は250名の規模でした。また、知人たちは消えていった側であり、取材した経営者は残った側です。視点の構造が違うと思っていた。
でも、あるとき気づきました。別のファイルに入っているはずの話が、同じ棚に収まっている。そのことに。
👃 匂いがした、とはどういうことか
「匂いがした」というのは、比喩としての言い方です。でも、できる限り正確に説明したいと思います。
観察を重ねていると、言語化できる前に「これは何かと似ている」と感じる瞬間があります。その感覚を、僕は「匂い」と呼んでいます。因果関係の証明でもなく、パターンの発見でもなく、もっと手前の段階にある何かです。なぜ似ているのかをまだうまく言葉にできていないけれど、同じ種類のものに見える、という状態。
知人たちの話と、社長室で聞いた話に、その感覚が生まれたのは、取材を終えてしばらく経ってからでした。第1章を書き終えた後、第2章の内容を整理しているときに、「これは同じ匂いだ」と思った。具体的に何が同じなのかを言語化するより先に、その感覚が来ました。
🔍 重なって見えてきた三つのこと
「同じ匂い」の正体を、できる限り言語化してみます。重なって見えてきたのは、三つのことでした。
1. 消える直前の「忙しさ」の質
知人たちが消える前、たいてい彼らはとても忙しそうでした。いや、忙しかったのは本当です。でも、後から振り返ると、その忙しさの中身が変わっていたことに気づきます。事業の核心に関わる忙しさではなくなって、周辺的なことへの対応に時間が使われていた。取引先への説明、関係の整理、細かな返答。本来やるべきことを前に進めるための忙しさではなく、後退を少し遅らせるための忙しさに変わっていた。
社長室で聞いた話にも、似たものがありました。消えていった右腕や創業メンバーについて語る経営者が、「あの人は最後の頃、やたら動き回っていた」と言うことがありました。でも、何のために動き回っていたのかは、あまり明確ではなかったと言う。その「動き回り方」の描写が、知人たちの消える前の忙しさと、似ていました。
2. 成功談と不安が、同じ口から出てきた
知人たちが消える前の段階で、話す内容に一つの特徴がありました。うまくいっている話と、うまくいっていない話が、同じ会話の中で出てきました。しかも、文脈がつながっていない。「先月は売り上げがよかった」「でも最近は少し」「でも来月にいい話があって」というように、良い話と不安な話が交互に出てくる。聞いている側は、どちらが実態なのかわからなくなっていきます。
社長取材では、消えていった人について語る経営者が「あの人はよくそういうことを言っていた」と教えてくれることがありました。手応えのある話と心配な話が混在していた、という観察です。経営者は、それを「状況が不安定だったのでしょう」と言いましたが、僕にはもう少し違う見え方がしていました。不安定だったのは状況だけでなく、語り手自身の内側でもあったのではないかと。
3. 相談の仕方が変わっていく
知人たちが消える前、相談の仕方が変わることがありました。最初のうちは、具体的なことを相談してきました。この契約はどう判断すべきか、この人材をどう評価するか、この市場にどう入るか。でも、ある時期から相談の抽象度が上がっていきました。「どう思いますか」「こういうの、うまくいくと思いますか」という問いが増えてくる。答えを求めているのではなく、承認を求めているような相談に変わっていく。
社長取材でも、消えていった人の最後の頃の様子として、「意見を求めてくることが多くなった」という話を聞きました。ある経営者が言っていたのは、かつての創業メンバーが去る前の数ヶ月、「どう思いますか」と聞いてくることが増えた、ということでした。その問い方の変化に、何かを感じていたと言っていました。
💬 社長室で聞いた、ある一致の話
ある取材の席での話です。IT関連事業を営む経営者の社長室でした。その経営者は、かつての仕事仲間が独立・起業した後に消えていった話を、自分から話し始めました。その人物は、経営者が起業する以前からの知人でした。独立・起業の際には応援もしたし、初期の仕事を一部回したこともあったと言います。ところが、数年後には事業をたたんでいた。経営者は、その経緯を話しながら、こう言いました。「あの人が消える前、会うたびに話の内容が変わっていったんですよ。先週こう言っていたのに、今週は別のことを言っている。でも、どれも自信ありげに言う。こっちが何かを言い返すと、すぐに別の話題に移る」。その描写を聞いた瞬間、僕の頭の中で何かがつながりました。同時期に独立・起業した知人の中に、まったく同じ語り口の人がいたからです。その知人も、消えました。二人を引き合わせたことはありません。互いを知らない人たちです。でも、消える前の行動の輪郭が、ひどく似ていた。取材のメモに「同じ匂い」と書き留めました。
🌀 なぜ二つが重なって見えてきたか
二つの観察が同じ匂いに感じられた理由を、もう少し考えてみます。
一つの可能性は、消える人に共通したプロセスがある、ということです。独立・起業した知人が消えていくときも、社長が語った消えていった人たちも、同じ過程を経ている。だから同じ匂いがする。この見方をとるなら、消える過程には一定のパターンがあることになります。
もう一つの可能性は、観察者である僕自身が、同じフィルターを通して見ているから重なって見える、ということです。二つの観察が本当に同じものなのかは確かめようがない。でも、僕が「同じ」と感じている、という事実は残ります。そのフィルター自体が何なのかを、もう少し自覚的に考えることが必要かもしれません。
どちらの可能性が正しいかはわかりません。でも、どちらの可能性を考えたとしても、二つが重なって見えてきた、という事実は消えません。その重なりの中に、何かあると思っています。
一つだけ言えることがあります。もし二つの観察が本当に同じ構造を持っているとしたら、それは非常に広い範囲に当てはまる何かだということです。上場企業の経営者が語った話と、僕が身近で見てきた中小・個人規模の独立・起業者の話。業界も規模も時代も違う。でも匂いが同じなら、それは「消えていくこと」の本質に近い部分の話ではないかと思います。
📐 スケールの違いを超えて重なるもの
最初、二つの観察は規模が違いすぎると思っていました。知人たちの話は、せいぜい20名程度の小さなサンプルです。社長取材は250名規模です。また、知人たちは消えていった側で、経営者たちは残った側です。比べるには条件が違いすぎる、と。
でも、規模の違いやサンプルの条件の違いを超えて重なって見えるとしたら、それは表面的な数字や条件ではなく、もっと奥にある何かが一致しているということかもしれません。
消えていった知人たちを近くで見た記憶と、消えていった人たちについて語る経営者を社長室で観察した記憶。この二つが同じ匂いを持つとしたら、消えていくことの核心には、スケールや業界や時代を超えた何かがある、ということになります。その「何か」を、次回(#13)以降で言語化していきます。
🔗 第3章で書くこと
第3章(#12〜#14)は、二つの観察を重ね合わせる章です。
#12(この回)では、二つの観察が重なって見えてきた経緯と、その「匂い」の輪郭を書きました。#13では、消えていった人たちに共通していたのが、能力ではなく思考の癖だったという観察を書きます。第1章でも第2章でも、それは繰り返し現れていた。でも、二つを重ねることで、その輪郭がはっきり見えてきました。#14では、消える直前に出るサインを書きます。早期に察知できるとすれば、どこで気づけるのか。15年の観察から整理したことを書きます。
二つの観察を重ねることで見えてくるものを、できる限り正確に書こうと思っています。第1章・第2章を読んでいない方は、そちらから読んでいただくとより背景がわかると思います。
次回(#13)は「『消えた人』に共通していたのは、能力ではなく1つの思考の癖だった」を書きます。
📚 シリーズ全話一覧
第1章「同じ場所から始まった人たちの話」
#01|同時期に起業した20名のうち、10年後に残っていたのは2人だった
#02|「絶対に成功する」と言っていた人から、連絡が来なくなった年
#03|副業で僕より稼いでいた人が、独立・起業した途端に消えた理由
#04|起業して最初の2年を乗り越えた人が、3年目に消えるとき何が起きていたか
#05|「少し休みます」と言って戻ってこなかった人たちに、共通していた口癖
#06|5年の壁、10年の壁を乗り越えられる経営者とは?
第2章「250名の社長が語った、消えていった人たちの話」
#07|250名の社長に「一番手強かった競合」を聞いたら、多くが「もうない会社」を挙げた
#08|250名の社長に「なぜあの人は消えたと思いますか」と聞いて、わかったこと
#09|創業メンバーと袂を分かった話を、社長が自分から話し始めるときの共通の前置き
#10|「あいつは優秀だった」と言うとき、社長たちの声のトーンが必ず変わった
#11|消えていった人への後悔を語った社長と、語らなかった社長。残った会社はどちらか
第3章「2つの観察が重なって見えてきたこと」
▶ #12|独立・起業した知人の末路と、社長が語った消えた人たちに、同じ匂いがした
#13|「消えた人」に共通していたのは、能力ではなく1つの思考の癖だった
#14|消える直前に必ず出るサイン。僕が15年で学んだ早期察知の3つの兆候
第4章「それでも独立・起業するあなたへ」
#15|消えた人たちを15年見てきた僕が、「それでも独立・起業したい」あなたに伝えること
#16|最後に、僕自身が消えかけた話をする
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僕はTrex(Tレックス)。IT企業を15年以上経営しています。起業前は日常的に英語を使う職に就き、上場企業の経営者250名以上に直接取材を行ってきました。この連載では、独立・起業して消えていった人たちを15年間近くで見てきた観察を、できる限り正直に書いていきます。詳しいプロフィールはこちら
