24兆円の9割は株|25%ずつ持つ年金運用で国内債券だけが赤字になった理由|08/12-日本経済
🔑 このニュースの要点
公的年金を運用するGPIFが8月7日に公表した2026年度第1四半期の運用状況は、収益率プラス8.20%、収益額24兆895億円。だが4資産をほぼ25%ずつ持つ構成のうち、国内債券だけが1.11%のマイナスだった。金利上昇が債券価格を押し下げたためだ。均等に持つことと均等に稼ぐことは別である。
🎯 ここがポイント
分散投資は全部の資産が同時に上がる設計ではなく、どれかが必ず負けることを織り込んだ設計である。

📌 資産を4等分しても稼ぎは4等分にならない。24兆円の9割超は株が作り、国内債券だけが赤字だった
📊 何が起きたのか。24兆円という数字の中身
公的年金の積立金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、8月7日に2026年度第1四半期(4月から6月)の運用状況を公表した。3か月の収益率はプラス8.20%、収益額は24兆895億円。四半期末の運用資産額は317兆7,596億円になった。
見出しの数字だけを見れば、文句のつけようがない好成績だ。だが同じ資料の5ページ目に、資産ごとの内訳が載っている。ここを開くと、印象がかなり変わる。
外国株式がプラス16.94%で12兆2,866億円、国内株式がプラス14.48%で10兆2,753億円。外国債券はプラス3.13%で2兆3,754億円。そして国内債券だけがマイナス1.11%、金額にして8,478億円の赤字だった。
株式2つの合計は22兆5,619億円で、全体の収益24兆895億円の約94%を占める。4つの資産をほぼ同じ金額ずつ持っているのに、稼ぎの9割超は株の側から出てきた計算になる。
🧭 なぜ4等分なのか。当てにいかない設計思想
GPIFは長期の資産構成割合として「基本ポートフォリオ」を定めており、国内債券・外国債券・国内株式・外国株式をそれぞれ25%ずつ持つ形になっている。6月末の実績も、この設計からほとんどずれていない。
実際の構成は、国内債券25.59%(81兆9,976億円)、外国株式25.33%(81兆1,454億円)、外国債券24.60%(78兆7,980億円)、国内株式24.48%(78兆4,321億円)。4つがきれいに横並びになっている。
この均等配分は、値上がりしそうな資産を選び抜いた結果ではない。むしろ逆で、GPIF自身が「1位になる資産は当てられない」と説明している。毎年どれが伸びるかを当て続けるのは難しい、という前提から出発した設計だ。
同法人の解説によれば、4資産に25%ずつ投じた場合、過去のシミュレーションで1位になったことはないが、5位になったこともない。突出した勝ちを狙わない代わりに、大きな負けを避ける。それが4等分の狙いである。
📉 国内債券だけが赤字になった理由。金利と価格は逆に動く
では、なぜ国内債券だけがマイナスになったのか。理由は単純で、この四半期に日本の金利が上がったからだ。金利と債券価格は、シーソーのように逆の方向へ動く。
仕組みは身近な例で理解できる。年2%の利息が付く債券を持っているときに、年3%の新しい債券が発行されたとする。古いほうは条件が見劣りするため、値下がりして初めて買い手が付く。これが金利上昇による価格下落だ。
実際、10年国債の利回りは3月末の2.35%から6月末には2.68%へ上がった。背景には日銀の利上げがある。GPIFの資料でも、6月の利上げで政策金利が1.00%と31年ぶりの高水準になったこと等から、幅広い年限で国内金利が上昇したと整理されている。
GPIF自身も、金利が急上昇する局面では債券に大きな評価損が発生し、収益率がマイナスになる可能性があると事前に明記している。今回の赤字は想定外の事故ではなく、教科書どおりの反応だったわけだ。
しかもこれは初めてではない。2025年度の国内債券は通年でマイナス5.11%、金額にして3兆7,207億円の赤字だった。国内債券の不振は、2年度にわたって続いている。
💴 株を押し上げた二つの力。AI相場と円安
一方、株式が伸びた理由も資料に書かれている。内田理事長のコメントは、中東情勢の不確実性が続いたものの、AI・半導体投資への需要が堅調で、ハイテク銘柄のリターンが突出したと述べている。
数字でも確認できる。TOPIXは3月末の3,497.86ポイントから6月末には3,994.76ポイントへ上昇した。国内株式の収益率プラス14.48%は、この地合いをほぼそのまま映している。
もう一つの力が為替だ。ドル円は3月末の159円09銭から6月末には162円53銭へ動いた。円安が進むと、外貨で持っている資産の円換算額は膨らむ。外国株式が首位に立ったのは、株高と円安が重なったからである。
つまりこの3か月、日銀の利上げは債券にはまっすぐ逆風として効き、株には円安という別の経路を通じて追い風の側面も持った。同じ出来事が、資産によって逆の符号で表れている。
⚖️ 赤字でも国内債券を持ち続ける意味
見落としやすいのは、マイナス1.11%という数字の中身だ。債券の損失は、いま売ったらいくらになるかという時価評価に基づく評価損が中心で、現金が消えたわけではない。
同じ四半期に、利子・配当収入は1兆9,770億円入っている。債券は満期まで持てば額面が戻り、その間は利子を受け取れる性質を持つ。価格の下落と受け取る現金は、別の話として分けて見る必要がある。
そのうえで、債券を持つ意味は株が崩れたときに現れる。株と債券が同じ方向に動かないからこそ、片方が沈む局面で全体の目減りが和らぐ。逆に言えば、株が強い局面では債券が足を引っ張って見えるのが自然だ。
長い目で見た数字も出ている。2001年度の市場運用開始以降の累積収益額は221兆201億円、年率ではプラス4.95%。四半期ごとの勝ち負けは、この長い線の上の一点にすぎない。
🔭 この先の論点。設計を動かす議論との距離
本紙7月11日号(07/11-2-日本経済)では、片山財務相のGPIFに関する発言で株・為替・債券が同時に動いた場面を扱った。国内資産への投資を増やすという議論は、その後も続いている。
ただし基本ポートフォリオは、相場の勢いや発言で動かすものではなく、中期計画として定められる枠組みだ。四半期の成績が良かったから株を増やす、悪かったから減らす、という運用にはなっていない。
むしろ興味深いのは、株が大きく伸びた四半期の末に、国内株式の比率が24.48%と設計値の25%を下回っていることだ。値上がり分がそのまま比率上昇になっていないのは、比率を戻す売買が働いていることをうかがわせる。
317兆円の運用は、上がった資産を追いかけるのではなく、決めた比率へ戻し続ける仕組みで動いている。派手さはないが、個人が自分の資産配分を考えるうえで、この地味さこそが参考になる部分かもしれない。
🔍 Trexはこう見ている
この四半期の数字が面白いのは、プラス8.20%という全体値が、4つのまったく違う結果の平均だという点にある。平均値は便利だが、内訳を隠してしまう性質も併せ持つ。
データを扱う立場から言えば、分散とは「ばらつき」そのものを買う行為だ。全部が同じ方向に動く組み合わせなら、分けて持つ意味はほとんどない。逆を向く資産が混ざっているからこそ、全体の揺れが小さくなる。
15年のIT企業経営でも、収益源が一つに寄っている時期ほど、数字は良くても足元は不安定だった。伸びている柱が息切れした瞬間に全体が揺らぐからだ。均等配分は、その怖さを制度に組み込んだ形と言える。
個人にとっての含意は、自分の資産の中でマイナスになっている部分を見つけたとき、それが失敗なのか設計どおりなのかを切り分ける視点にある。国内債券のマイナスは、少なくとも後者だった。
ただし留保もいる。逆方向に動く組み合わせは、いつでも成立するとは限らない。金利上昇と株安が同時に起きた2022年のような局面では、債券も株も沈んだ。分散は万能の保険ではなく、確率を整える道具である。
💡 今日のアクション
自分の資産を4分類で数えてみる:保有している投信や個別資産を、国内債券・外国債券・国内株式・外国株式のどれに当たるかで仕分け、それぞれの割合を出す。偏りがあるかどうかを、感覚ではなく数字で確認する。
マイナスの中身を分けて見る:債券部分がマイナスの場合、それが価格の下落による評価損なのか、受け取る利子まで減っているのかを確認する。原因が金利上昇なら、仕組み上の反応として説明がつく。
一次資料で四半期速報を確認する:GPIFが公表する四半期の速報は数ページで、資産別の収益率と金額が一覧できる。報道の見出しだけでなく、内訳の表を自分で開く習慣をつける。
🔗 参考リンク
📚 おすすめサイト
・可視化pedia|データやニュースの構造を図解でわかりやすく読み解くメディア
・街pedia|日本の市区町村のデータ事典。
いいなと思ったら応援しよう!
この記事は noteマネー にピックアップされました

