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あいうえおエッセイ「か」んじ

あいうえおエッセイ「か」

「か」んじ


漢字は空気だと思ってる。

私は人生の半分、漢字があまり読めなかった。

難しい言葉のほとんども友達との会話で覚えたり、洋画を全部字幕で観ることで形を覚えた。
映画字幕はふりがながあるから、スピードラーニング形式で覚えれる最高のツール。
あとは、姉妹と母がとても勤勉なので一つ一つ教えてくれた。

周りの大人は「学校で理解できなくても本で学べる」と難しい本をすすめたが、そもそも漢字が読めない私には、英語の絵本を渡されたようなもの。

読解出来なくはないけど、1番大切な単語が読めないから重要なところが雰囲気でしか分からん。
文字を拾って辞書を引いても、引いてる最中にどんな文字だったか忘れてしまう。
メモをとってたり、何度もページを戻ったり、大好きな友達に会いたくなったり、庭で友猫のニャゴが鳴いたり。

1ページ読むのに時間がかかりすぎてやめた。


私はなぜか高学歴の人に好かれた。
自然と周りは国立大行ってたり外資系大企業でバリバリ働く人ばかり。

思い返せば、幼馴染も皆んな学年トップに君臨する美人なマドンナさん。
そうゆう人は優しいし、聞けばなんでも教えてくれるので生きて行く上で本当に助かった。
でも彼、彼女達はことあるごとに私に言う「なみ みたいになりたかった」と。

私からすれば、容姿も良くて勉強を頑張れる実力も理解力もあり、優しく人の足りない部分を補える彼・彼女達の方が羨ましい。
だって、本も難なく読めるし、知らないことを一回で理解してどんどん探求できる。
モテるしチヤホヤされる。

いつも「そう?ありがとう」とだけ返していた。


知識がようやっと世の中に追いついた頃。
色々理解してきたし、自分の生き方を見つめ直そうととある社会人向けの米国式の脳科学と行動心理学の講習を受けた。

そこでは沢山の起業家や医者、弁護士、税理士、ファイナンシャルプランナー、まぁ殆どの人が一度はテレビCMやらで会社名を聞いたことがある会社のそこそこの人がいて、私だけがうっかり迷い込んだ、ただのメガネだった。

その中で一際、異彩を放ったのがIQ200の世にいう天才、知る人ぞ知るMENSAの会員の“天才くん“だった。
会社を2つ経営していて容姿もそれなり、女にも金にも困らん。
時間は腐るほどあるから大好きなオンラインゲームで世界と繋がったり、まぁ誰もが憧れる暮らしをしていて、はっきり言って浮いていた。

一方私は高校受験で「受けれる学校なし」ヤンキーになるかギャルになるか?しか進路のなかった女。
輪を乱すことはないが、ノリと勢いでやってきてはトンチンカンな言動で授業を爆笑の渦にしたり、自由すぎてはっきり言って浮いていた。

みんなが取り扱い難度に困ったり、ちょっと遠巻きにする理由はわかる。
きっと、このレベルの人達が付き合うコミュニティに、私や天才くんのようなグラフを大きく歪ませる人間が少なかったんやと思う。
精神科医や、ギフテッドの学習支援をしている人は私達を興味深く上手に扱ったけど。



この講習は座学よりもワークをする時間が多い実践型で、毎回ワークの相手は変わる。その日は始めて天才くんとすることになった。

自分の体験から連想する文字を書き出して、それの置き換えていくような言語プログラミングのワークで、下準備でシートにたくさん文字を書き出し、出来たシートを交換して行う。

シート作成は直感で行うため3分。
私は即座に「あまり漢字が読めないの」と天才くんに伝え、彼は返事をせずに頷いた。
それ以前に何度か私が漢字が読めないことでスムーズにワークを進行できなかった事があったのだ。
それは天才くんも知っている。

作成したシートを交換すると、天才くんのシートは全て「ひらがな」で書いてくれていた。
彼は私のシートを見ると、小学校低学年レベルの漢字が書けている事を即座に理解し、少し眉間に皺を寄せた。

途中で10分休憩を挟むことになり、天才くんはトイレに立った。
そこに入れ替わりで私のバディ(今の相棒)が来て、手元の天才くんが全部「ひらがな」で書いたシートを覗いて、明らかに不快な空気を出す。

「これは侮辱だよ」

バディは私の経歴をよく知っていて、その上で対等にいてくれている。
そんなバディからすると天才くんのした事は失礼「なみさんをみくびるな!」と怒ってくれたのだ。
それはそれで素直に嬉しい。

でも同時に不思議やった。

「なんでも出来る人は、出来ない人の気持ちが分からない」とよく聞くけど、本当なんかな。

私はこの考え方は「天才フィルター」がかかってるからやと思う。

どう考えても、天才くんほど勉強ができる人なら、全部ひらがなにしなくてもある程度書いてから、ふりがなを振るなり、難しそうな漢字を避けてひらがなにするんじゃないかな?と思うんです。
侮辱したいなら難しい漢字をわざと使って陥れる方が楽だし、そんな事をして大切なワークの時間を潰すような事をしないはず。

全文、ひらがなで書くのって逆に大人は面倒で難しくないか?しかも、限られた時間の中でそれをするのは合理的じゃない。

天才くんは私の要望に応えて歩み寄ったんだろう。
それほど彼にとって、このワークは重要なのかも知れない。

でも、その歩み寄りに「天才フィルター」がかかってしまって誤解を受ける。
そうでなくても、対人間で全員が納得する受け答えなんて、宝くじ当てるくらい難しい、天才だってそれは分からない。

私のようにおバカを公言すると、この「フィルター」の網目をくぐるんです。
答えが少し違っても「こいつは仕方ない」と許されやすい。
劣ることは、実は無敵で自由でもあるんです。

聡い人の方が「絶対出来るはず」と思われていて窮屈なのかもしれない。存在するだけでハードルが上がるようだ。
現に高学歴の私のバディはフィルターにかかって盲目になり、普段はとても温厚なのに攻撃的で窮屈な考えをしてしまっている。

「2人とも優しいんだよね」
私はうまく説明できず、それだけ言った。

トイレから戻った天才くんは私達がシートを持って話しているのを見ると、みるみる歩調を緩めた。
繰り返された天才フィルターを恐れたのか「またやってしまった」と怒られる前の犬みたいにすごすごとこっちに来る。

でも聡いバディは「このワークは俺も楽しみなんだよ。手早く確実な結果を知りたいよね」と天才くんの手元の私のシートを指差して笑った。

優しさの誤解は、嫌味を生んでしまう。
空気を読めていないのは、被害者だと思い込む人の可能性もある。
本当に頭がいい人は、言葉が足りなくても理解が早いし平和を好む。
やっぱりちょっとこの速さは羨ましい。


このワークは自分の深層にあるビジョンを探るもので、簡単に言えば「本当に望んでいるもの」を見つけ出す。

結果、天才くんが本当に望んだのは、今の彼女との結婚だった。

近々もう一社立ち上げる予定だったし、探求したい事もまだまだある。
独身の方が身軽だからと、まだまだ結婚など考えていなかったらしいが、金や地位や名誉でなく、自分のそのままを受け止めて、側にいる彼女と生きるビジョンが出たらしい。

それは本人にも青天の霹靂で、二の次にしていた彼女との生活が自分が一番望むものだった。


世界征服とかでるかと思ってた私は密かにがっかりした。


その件以降、天才くんは帰りの電車や、休憩時間に私とバディのところに悩み相談に来るようになる。

「あのさぁ男がLINEにスタンプ使うのキモい?嫌われる?」
「え?スタンプによるんちゃう?」
「これと、これと、これと・・・」
「どんだけあんねん」
金ならある、俺は選べる!と天才くんのLINE上にはスタンプがぎっしり。
自分の使うスタンプも癖が強いくせにバディはちょっと鼻で笑う。
「その準備がキモいんだよ!」
「え!俺すでにキモい!」
天才くんは嬉しそうに腹を抱える。
「彼女ちゃんサンリオ好きなん?」
「うん!クロミが好き」
「アホか、ほなこれ一択やんけ」
「アホ!ははは!!ありがとう!じゃあさ、デートで温泉行くんだけど・・・」
「てか、なんで俺を挟んで話すの?2人でやれよ」
「いいじゃん、一緒に悩んでよ!!」


天才フィルターのない天才くんは、ただの彼女バカになった。
ずっとこうやって砕けたことがしたかったのかもしれないし、出来なくなっていたのかもしれない。


私は友達が言った「なみ みたいになりたい」の意味を理解する。
きっと周りからの羨望の眼差しは、かなり心を強くしないと窮屈で、プレッシャーでしかないのかもしれない。

私は何もないけど、その何もないあっけらかんとした態度で生きている姿を羨ましく思ってくれていたのかな。

と、いう「漢字」は読めないが、空気は読めて人との距離が近くなった話でした。


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