短編小説『ダルマさんとテングはん』
3つのお題で書く短編BL小説企画!
初のゾンビ&軍隊もの書きましたが、ゾンビさんのお食事シーンはない軍隊ラブコメディです!
ではでは、レッツ #noteでBL !
*男性同士の恋愛表現?があります。
*ゾンビのお食事シーンはありません。
あらすじ
国際空港があるオーサカが、異国から入ってきたゾンビに壊滅され政府はカンサイに壁を拵えてゾンビ流出を防いだ。
中に取り残された生存者を見つけて保護しながらゾンビ自体も殲滅する特別部隊が組まれたのは、観光客が多かったキョートが次の封鎖地区に指定された年で、主人公の“テング“が看護師資格を取得し「対ゾンビ部隊」に衛生兵として志願した年だった。
胸板と人望が厚いブランカ副隊長、我が強いアーノルド、群を抜いて気に食わないのは、穏やかな笑顔で安易に人を呪うマイペースな言語学者の“ダルマ“。
合わない2人のゾンビパニック軍隊コメディの恋の銃弾装填中!
本編『ダルマさんとテングはん』
「デスロードに配属されたら嫌だなぁ」
鼻で笑ってしまった。
なぜならこの男の言う市街地を突破して最北端を目指すキタルート、通称“デスロード“配属は実弾経験者や高成績者と決まっているからだ。
射撃訓練でAK47の組み立てに1時間かかったこいつは、安牌のニシかヒガシルートに決まっている。
「大丈夫やろ」
どうとも取れる返事をすると、特徴的な語尾を反芻された。
「もしかしてカンサイ出身?」
「まぁな」
混み合った脱衣所は汗と埃と硫黄に混ざってうっすら潮の匂いもする。
下手をすれば今日が湯船に浸かる最後の日にもなりかねないと、我先に埃まみれのインナーを脱ぐ男達の首元にはドックタグが光っている。
国際空港から侵入したゾンビにオーサカが食い尽くされて1年。
内海のおかげでシコクやアワジは助かったが、人の多いオーサカを中心に政府は壁を拵えて、本州全域へのゾンビ流出を防いだ。
中に取り残された生存者を見つけて保護しながらゾンビ自体も殲滅する特別部隊が組まれたのは、観光客が多いキョートが次の封鎖地区に指定された年で、同年俺は看護師資格を取得して衛生兵として「対ゾンビ部隊」に志願した。
ここで呼び合えるのは体に彫られたコードネームのみで、本名を呼ばれることはない。
だから俺はタグを見ると右手を掴む。
死体袋からはみ出た手首に巻かれたトリアージタッグを連想し、恐怖する自分の震えを隠すために。
「家族は?」
「壁の外や」
「てかさ、出身地のゾンビ殺すって心痛まない?元は同郷じゃん」
ゾンビより、家族や恋人がゾンビ化した遺族の方が脅威だ。
変わり果てても大切な人の人権問題を盾に擁護したり逃がそうとする人が後をたたず、事態は収束どころか横這いで連鎖は止まらない。
「昨日の敵が今日の友ならその逆も然りやろ」
生まれた時代が悪いと割り切って同郷くらい殺せないと、ゾンビに噛まれてウイルス感染する人間に然るべき最期の処置など出来ない。
これが医学を志した俺の覚悟だ。
「俺は今夜中にでも体壊して壁の外に蜻蛉返りしてぇよ」
そうだ。
こいつのコードネームは“Tombo”だ、Dragon Flyの方がカッコよかったと、クソしょうもない後悔をしてた男だ。
「ほな、自分で自分の足でも撃つよし」
“Tengu”と首下に彫られたコードネームを掻きながら俺は湯気の中に入った。
「トモ、ダルマ、スワン、テング、アーノルド、オヤビンの以上6名はキタルート!隊長のトップガンと副隊長のブランカの指示の元すぐ発て」
デスロードを免れた奴らの安堵と哀れみの視線を一身に受けながらの前に集まると、小隊を更に2分割し軍用ハマーとハンヴィーに割り当てられた。
ブランカ副隊長とマッチョなアーノルド、平均的日本人の俺とダルマの4人はクローズドモデルの銃装したハンヴィで帯同し、背後からの援護役となる。
「ナビはテングに頼む」
2座しかないキャノピーには命綱でもある衛生兵の俺が座る、ブランカ副隊長は妥当な指示を出したが、太ももみたいに太いアーノルドの挙手がそれを遮った。
「車酔いします!」
ゾンビが見た目で人を判断するかは知らないが、どう考えても外を守って欲しい筋肉は揺れる荷台を避けたいらしい。
「だけどアーノルドは5キロ先のキリンが見えます!ナビします!」
キリンらおるか。
頭の軽い理屈にイライラしてつい口調がキツくなる。
「ナビなんか一番酔うわ、どう考えても運転やろ!冗談は筋肉だけにせぇ!」
「アーノルドは強い!筋肉も本物だ!」
「ほな三半規管も鍛えろボケ!」
口汚く歯を剥く俺と、それを腕力で押さえ込もうとするアーノルドの首根っこをブランカ副隊が捕まえた。
「はいはい、ナビは俺でアーノルドは運転、テングとダルマは荷台で後方援護!」
「…え?あ、はい」
急に話を振られたダルマは、ぼんやりしていて心ここに在らず。
車酔いする肉団子とデクのぼう。完全に貧乏クジ引いた俺は舌打ちして荷台に乗り込んだ。
案の定、出発して半日で俺は途方に暮れた。
すっかり荒廃した故郷の凄惨な姿にではない、アーノルドの車酔いが予想を上回りもうダウンしたことにだ。
ゾンビの多い市街地には程遠い過疎地はトンビすらも飛んでおらず、行き場のない怒りを日除けの下で唸る無駄にマッスルな男の頭にぶつけて叩く。
「おい、朝飯ちゃんと食うたんか?」
「…アーノルドは食べない、アーノルドの朝はプロテインとコーヒーなんだ」
「十中八九その空きっ腹のせいやんか!」
プリプリしながら応急処置の吐き気度めを出していると、ブランカ副隊と警備を交代したダルマが隣に胡座をかいて、救急バックの中を覗きながら報告を始めた。
「副隊長と相談して今日のキャンプは少し手前の峠を越えた先の廃ホテルにした。レーションのリストにコーヒー味のプロテインバーがあるから要請する」
アーノルドの拳が高らかと勝利宣言したが、俺は納得できない。
「薬の常用はさせれんし足手纏いや。激戦の市街地に入る前に配属を変えてもらった方がいい」
「だがアーノルドは希少な擲弾手だ、建物が密集した市街地で助かる」
「そうかもしれんけど、思い出作りちゃうねんぞ?命がかかってる」
「だからこそ、彼が必要なんだ」
さらりと俺の反論を跳ね除けたダルマは、アーノルドの腕を取り手のひらから指3本分測ったところを圧迫して跡をつけ、軍服のボタンを千切って指の跡に乗せ「包帯を分けてくれ」と深い目尻の皺をおっとり増やした。
戦場で貴重な医療キットをただの車酔いに使うのはためらわれる。
とは言え、ファーストエイドキットから出されて万が一があると良くないと、渋々、伸縮帯を出すとダルマは満足げに両手を合わせた。
「ありがとう、これで呪いをかけられる」
呪い?
「ボタンを挟んで手首に包帯を巻いてくれ」
状況にそぐわないダルマ発言にっすっかりペースを奪われて、気付けば怪我一つないアーノルドの太い腕にボタンを巻きつけていた。
ダルマはもう一度深々と礼を言い、ぐっと親指でボタンを押し込みながら聞いたことのない言語で何かぶつぶつと唱え始める。
本気で呪っているようだ。
「…おい、足手纏いやからってカジュアルに呪ったんなや」
「大丈夫。僕がいたルーマニアでは呪いは日常茶飯事さ。いいこと考えた、君も呪おう」
「へ?」
突然の呪いの流れ弾発言にビビって肩がすくむ。
「さて、アーノルド。君は強いけど車酔いの方がちょっと強い、だから僕が車酔いに呪いをかけて封じておいた。
もしも吐き気が君を襲ったら、包帯を巻いた手首を押さえて“シーバンド“と唱えると呪いが発動し、アーノルドは無敵になる。
無敵の呪文で共に戦地を生き抜こう!」
とんだ茶番にツッコミも出ず、俺はすくんだ肩をこすりながら振り上げられたダルマの拳をポカンと見上げた。
どれだけアーノルドが単純でもいい大人だし、本気の車酔いがそんなプラセボでどうにか…
「シーバンドッ!!アーノルドは、強いッ!!!」
「いや、なるんかい!!」
この後アーノルドは蛇行が続く難関の峠道もスイスイ越えて、宿営地の廃ホテルに辿り着けた。
電気の通っていないホテルの一室を寝床に決め、順番に建物周りの警備をしながら休息を取るが、俺はまだアーノルドの帯同に納得がいかず。
見張りの交代のタイミングでブランカ副隊長と2人きりになると、もう一度掛け合った。
「乗り物酔いは吐き気や頭痛も伴い本人にとっても苦痛です。退路が近いうちに離脱させた方がいいです」
銃の手入れをしていたブランカ副隊長は、またそれかと苦笑いをして、掌でマガジンを叩いてはめ込み壁に立てた。
「言い分は分かる。だが何度も説明した通り貴重な人材を易々と離脱させれない」
「交戦時に目ぇ回してたら、あんなんただの肉団子です」
「戦地では使えるものは肉団子でも使う。俺の非道も腹に収めてくれ」
医療人と軍人の考えの違いだと一蹴され、もう取り合ってくれず。
明日からを思うと胃が沈み、非常階段で屋上に出た。
崩れて基礎が剥き出しになった塀に肘をついて闇と敷地の境を見下ろすと、生い茂ったススキを掻き分け警戒しているアーノルドがいた。
1m先に一体のゾンビが近付いていている。
「アーノルド!下がれ!」
銃を構えて激鉄を引いたが、それより早くアーノルドは「ストロングパンチ!」でゾンビの頭を粉砕。
呆気に取られて銃を下ろすと、昼間に俺が巻いた手首の包帯を高らかと見せた。
「シーバンドですっかり元気だね」
いつの間にか後ろにいたダルマが笑う。
「胃腸のツボやろ、東洋医学は否定せん。でも、あいつの体質は戦場に向かん」
俺が夜風に鼻を啜ると、風上に立ったダルマが腕を組んだ。
「戦場に向かないは君だよ。戦地を生き抜く秘訣はチームと仲良くすること。
でないと応戦中のどさくさ紛れに頭を撃ち抜かれる」
「すんませんねぇ、現地経験ないもんで」
「…君って、友達いないだろ?」
「うっさいボケェ腹立つな」
図星だ。
大切なものを無くす事が昔から怖くて、すぐに人を突き放す癖がある。
それ以前にこんなチンケな虚勢で噛み付く俺に関わろうとする奴も少ない。
勢いを無くした俺が腕の中に突っ伏すと、ダルマが急に大声を出して肩を叩いた。
「見て!神さまが星まいてる!」
正月の餅まきかよ。
ダルマは目敏く流れ星を指さし、ほらそこ!と、肩を叩くのをやめない。
億劫なフリをして顔を上げる、ここまで自分に近付いた奴は初めてかもしれない。
「星らなんぼほど空にある思てんねん」
久しぶりのオーサカの星空は、空気が澄んで嫌気がさすほど綺麗だった。
ゾンビの襲来は人を減らして宇宙を取り戻そうとする宇宙人の策略かもしれない。
「僕はしつこい性格なんだ、だから伝わるまで何度でも言う。右から2番目の…」
「どこを拠点に右やねん」
「目立つものを目印にするんだよ、例えば」
閃いたように人差し指を立てて俺の気を引いたダルマはが、ブーツから裾を抜いてズボンを捲ってふくらはぎを見せた。
そこには、熱した鉄を押し当てて焦げた皮膚を両サイドから引き裂いたような裂傷があり、目を剥く。
「これを天の川として、ここを拠点に…」
「ちょ、お前…火傷?」
俺が前のめりになると、ダルマはよく見えるように足を捻って月明かりに晒した。
「銃創だよ」
検体に湧く好奇心より、受けた傷の衝撃に胸が痛んでピンクの傷に触れる、つるっとして暖かく生々しくて深い。
「誰に撃たれたん?」
「僕」
「へ?」
「コンディションワンで暴発」
小銃の扱い中に装填、撃鉄を起こして安全装置をつけたままホルスターに一旦納める指示中に、引き金に指をかけたまま納めて地面に向けて誤射したらしい。
呆れすぎて細めた俺の目も見ずダルマは呑気に「合成樹脂製のホルスター硬いよね」なんて頬を掻くから、笑ってしまった。
「初歩的なミスすぎるやろ」
「何事も経験。銃の本当の怖さは弾に当たらないと分からない」
「…」
昨日の自分がトンボに吐いた威勢だけはいい嫌味が頭を掠め、今はぐうの音も出ない。
「ほんま自分、好かんわ」と呟くと、ダルマは耳を澄ませるような仕草をして乾いた唇を舐めた。
「僕は好きだよ。だから君を守りたい」
「あほ吐かせ、しゃっちもない」
「今朝確信したんだ。君は僕が探していた運命の人だってね」
ロマンチックな星空の下、俺の心臓は少しバカになってドキっとナンセンスな音をたてた。
「今やカンサイ弁を母語にする人は絶滅危惧種、また貴重な文化や言語が理不尽に失われるんだ、嘆かわしい!
だから僕はアーノルドに呪いをかけた、ブランカ副隊長も説得した」
あれ?なんか、思ってたんとちゃう。
確かこいつは言語学者だ。
と言うことは、俺の生きた文化と言語を守りたいだけ?
「と言う訳で、今から君を甘くしよう。
辛口すぎる今の君では仲間に見捨てられ、命と共に僕の野望も潰える」
ムゥっと犬歯で唇を噛む、ややこしい言い方はこいつ得意の人掌握術、ペースに流されてたまるかと睨みつけた。
「僕が思うに、君は人を欲する恋の甘みが足りない」
「さらっと悪口言うな!」
「悪口じゃない、意見だ」
しぃっと唇にダルマの人差し指が触れ、思わず黙るとそのまま呪文が唱えられる。
そして黙って見つめ合った、長い7秒後。
「どう?」
「どうって…?」
素早く2回瞬きをして、黒目に映る自分を見ようとするが、なぜか視線をチラチラ逸らしてしまう。
「目の前の人に恋する呪い、効いたかい?」
ダメ押しみたいな一言に産毛がぶわっと逆立つと、胸がキュルルンと高鳴った。
新年一発目と言うことで、エロを封印し色気皆無の登場人物で書きました。
来月からはサボった分、しっかりエロ書きます。
ちなみに今回使われたお題は「旅」「桃色片想い」「今、そこにある危機」でした。
「桃色片想い」は、松浦亜弥さんの楽曲の歌詞を拝借しております、見つけられたかな?
当企画は、投稿していただいた他の参加者さんの小説を集め、アンソロシー小説集としてまとめ記事を投稿します。
仕上がり次第、私のnoteのトップに固定します。
こちらの記事に14名の参加作家さんのリストと、リンク一覧もあります!
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