孤高のモンスター、街で「なんのはなしですか?」に出会う
店員さんの接客トーク、美容師さんの接客トーク。
苦手で逃げる人が多いらしいが、私は大好物だ。
むしろ「やらないか」くらいで来店するから店員に嫌厭されることすらある。
私は自己肯定感がどん底で友達少ない。
だから褒めてくれたりかまってくれたり、なんなら向こうから来てくれる事が嬉しくて、南海キャンディーズよろしく「どーもー」と両手を広げて入店する悪癖がある悲しきモンスターだ。
そんな繁忙期には迷惑千万な私だが、たまにはスン…として静かに買い物したい日もある。
私はコスメが大好きだ。
ロフトやハンズに行くと真っ先にコスメ売り場(基本入ってすぐ左手前)に突入。
そして端から黙々とコスメを吟味しながら、周りできゃあきゃあと同じようにコスメを楽しむ女子や男子の黄色い会話に聞き耳を立てる。
この時間が堪らなく好きで、定期的にそんなニッチな変態欲を満腹にし、密かにこれを「孤高のグルメ」と呼んでいる。
昨日も私は孤高のグルメを貪るため、モンスターを封印。
スン…モードでロフトに入店。
夏休みの女子のテンションを浴びつつコスメを孤独に物色していると、そんな私に声をかける猛者がいた。
「あの…素敵な手相ですね!」
私の思考を止めること約10秒、猛者は念押しするように同じ言葉を繰り返した。
私は速やかに脳内スカウターのスイッチを入れる。
60%怪しい勧誘、20%新手の営業、10%の占い師と10%の不審者。
だが、見たところ50代くらいの白のチュニックに黒いストレートパンツ姿の素朴な女性で、首からスタッフパスを下げていた。
と言う事は。
この猛者は化粧品売り場を回るどこかの会社のラウンダーさん100%だ。
ここまで弾き出すと、私は即座に心の中のスン…を解いて「やらないか」を発動させる。
「手相ですか?」
「さっきチラッと見えて驚いちゃって思わず声を!すいません!」
聞くと彼女は製薬会社の化粧品部の営業さんだった。
だが、私が接客を受ける姿勢に入っても、彼女はそんな事より私の手のひらに夢中。
化粧品のお試しは手の甲が一般的だが、サンプリング用の化粧品をいそいそと私の手のひらに落とし、コットンで馴染ませながらじっくり手相を確認。
一応、仕事してるけど好奇心に完敗してる。
「手相が趣味なんですか?」
「いえ全然!ほとんどわからないです!でも趣味がアイドルの推し活なんです!」
でも。の後が繋がってないな。
「アイドルの推し活ですか。SNSの普及で充実してそうですね」
「そうなんです!推しの写真でオリジナル写真フォルダー作るのが趣味なんです!」
彼女は男性の手が特に好きで、手がメインのホルダーを別で制作しており、その際にあることに気がついたらしい。
「私の推しのアイドル、全員同じ手相なんですよ!そしてあなたも同じ手相なんです!」
すごい興奮して話してくれたけど、こっちからすると #なんのはなしですか ?である。
「そんなにいい手相なんですか?」
「はい!〇〇の△△と一緒なんです!」
「え?」
「韓国のアイドルグループの○○の△△です!」
「韓国の?」
「○○の△△です!」
この後3回さりげなく聞いたが、韓国どころかアイドル全般に疎すぎる私には聞きとれず。
さらにオタクの早口が災いして「パペット・スンスン」にしか聞こえなかった。
スンスンは確かに歌とダンスを愛する6歳の男の子、デビュー曲の「とてと」は名曲だ。が、多分、そうじゃない。
とても青くて毛深いんですね!などと、うっかり失礼をぶっこく前に断念して、気持ちよく語ってもらう方にシフトする。
「とりあえず、推しと私の手相が同じなんですね?」
「そうなんです!他にも〜」
語り尽くすこと約20分、スッキリしたのか彼女は思い出したように自社の化粧品のリーフレットを渡し「あ、美容家のMattくんも紹介してくれました」と付け加え、終了。
その後、私が探してた商品の場所に丁寧に案内してくれ、広い店内のレジの側まで見送り。
「このスンスン(度重なる聞き間違い)と同じ手相の持ち主は、あなたと同じで人に対して丁寧で、話をよく聞いてくれる優しい人が多いんです」と笑顔で絶賛してくれた。
ニンゲン、優シイ…
モンスターは誰かを通して誰かを褒める、人の言葉の奥深さを知った。
ちなみにだが。
退店時に化粧品コーナーの前を通ると、彼女は
商品迷子のおばあちゃんを速やかにロフトスタッフに送り届け、自分の会社の化粧品を所望する敏感肌のお客さんの話を親身に聞いていた。
あんたもきっと、同じ手相だぜ。
全くもってこっちからすると「なんのはなしですか?」な出会いだ。
だが、私は今日まで全く知らなかった彼女とスンスン(絶対に別人)に親近感を感じ、勝手な仲間意識と猛暑の中をルンルン帰路につく。
孤高のモンスターは日々、ニンゲンに近付いている。
明日はあなたの後ろにいるかもしれません。
