見出し画像

関西人の常套句「知らんけど」を言わせてくれない本

つまらない本は眠い。
でも面白い本も眠い。

読書の眠気は容赦がない。
本を一冊買うと特典として睡魔が一体グリコのオマケ式についてくるのか?と、レジカウンターの裏を覗き込む不審行動を取ってしまうほどに。

ジャンルを問わず眠い。
文字を単調に追うだけの作業になって眠い。
そもそも本は眠い。
読書はリラックス効果があるらしいから、眠気がくるのは当たり前らしい。知らんけど。

私は関西出身でこの関西人特有の語尾「知らんけど」を多用する。

「知らんけど」の凡庸性は高い。

内容に確信が無いくせにどうしても話したい時、全てが自分の想像の話の時、話している間にちょっと違ったかも?と自信がなくなった時に主に使う。

映画の「*この物語はフィクションです。実在の人物、団体、地名、事件とは一切関係ありません」の注意書きと使い方は大体同じ気もする。
むしろ、「知らんけど」を言語化するとこれかもしれない。知らんけど。


あとは、熱く語りたい「上手く言葉にならない気持ち」の語尾に「知らんけど」をつけて、全てを託して会話として投げかける時もある。
聞いた相手は言葉にならなくても空気を読んで相槌をちゃんとくれるから。
それに「言葉にならない」ことは時にロマンチックにもなる。

1981年にリリースし、今も根強い人気のオフコースの「言葉にできない」も様々なシチュエーション映像に多用されている。

ら〜ら〜ら、らら〜ら 言葉に、できない♫

凡庸性が高い「知らんけど」を歌っていると私は思っている。

ところがどうだ、この本。
コピーライター・梅田悟司さんの「言葉にならない気持ち日記」

日常のふとした疑問やモヤモヤを具に言語化し、言葉に出来ない絶妙にあいまいな気持ちを表現する。

表面上は気付いていないけど本当は知ってる感情の言語化の本。
だから共感しかない本。
微妙な心境とシチュエーションの辞書と読んで過言ではない。

たんたんとした文を読み進めるとだんだん、だんだん眠くなる。
ページの裏から私をチラ見する睡魔と目が合う。

意味がわからないことも眠いけど、全ての事柄に「そう!」と納得で膝を打つ文章を読み続けるのも眠い。
つまらなくはないけど、考えさせれるわけでもない日常のモヤモヤに答えをつけられ「それそれ!」と思えるのに、だからと言って明日誰かに言いたくなるわけでもない。
全てのモヤモヤを言語化できると、人はこんなに飽き飽きとするのかとやがて途方に暮れ、睡魔に意識を委ねてしまう。

例えるなら、算数の文章問題を解こうと最後まで読んだら、答えまで書いてくれてた、みたいな本なのだ。


言わせてよ、梅田さん。

後生やから言わせてよ、「知らんけど」って言わせてよ。

「言葉にできない」を歌わせてよ、梅田さん。


あの日の私が感じた不確かな感情も、衝動的に走り出した行動の答えも、夕焼けが赤いのも郵便ポストが赤いのも、全ての答えが言語化され、すっきりしてしまう。

この本は私を「知らんけど」の向こう側に連れて行ってしまう。

背伸びして大文豪の本を手にし、眠くなった日々には戻れない。
外国の詩集に初恋を重ねようとしたり、生きやすくなるための哲学書がたまらなくつまらなくって眠くなった日々にも。

とりあえずメロス走ってんねん、知らんけど。でも走り出したい気持ちはなんか分かるわ。の、「なんか」も言語化できるかもしれん。

登場人物の多いミステリー小説の「ほんでお前は誰やねん?」の、誰かも、ここまでの言語化が出来れば気がつけるかもしれない。

いや、これは無理か。

何度も何度も通り過ぎて睡魔とよろしくやっていた本達とも、もう一度分かり合える自信が湧いてくるし、読んで自分も言語化したくなって古い本の埃をはらっている。


だけど、この「言葉にならない気持ち日記」は、思い返して涙することもないし、本の内容を明日誰かに言いたくなることもない。

失礼ながら、会話のきっかけになっても中心にはこない気がする。

けっきょく会話を生むのは「言葉にならない気持ち」をモダモダしながら誰かと共有し、共感し続けたい非言語コミニケーションみたいなもんで、答えがはっきり分からないから会話は続く。
あなたの事が好きだけど、どこがどう好きか上手く伝えれないからキスで誤魔化すロマンも生まれる。

だけど、友達や恋人と一頻り「言葉にならない気持ち」で盛り上がり、知らんけどを共有し、家に帰ってやっぱりあの気持ちはなんなんだろうと思うとき、この本は堂々とページを開いてくれる。

分からないに妥協したくなくて「言葉にならない気持ち」を誰かに言葉にして欲しい時、人は1人で本を読み作者に気持ちを言語化してもらう。

そして「これだ、この気持ち!」と人知れず拳で手のひらを打ってスッキリし、やはり眠くなる。

「知らんけど」で終わらないどうしても妥協したくない気持ちを、梅田さんが気づかせてくれる本だと私は思う。

知らんけど。

いいなと思ったら応援しよう!