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鉄道高架下の空地に放置された旧式券売機と配送員の間で共有される計数遡行

兵庫県明石市██区、山陽電気鉄道の本線高架下に、周囲を錆びたフェンスで囲われた約40平米の未舗装地が存在する。ここには管理主体が不明な旧式の飲料券売機が1台、北を向いた状態で設置されており、現在も稼働を続けている。筐体には所有者を示すステッカーも緊急連絡先のプレートも存在せず、登記上の土地所有者も設置の経緯を把握していない。製造から三十年以上が経過していると推測されるが、塗装の剥落や金属の腐食は一切見られず、ただ駆動音だけが周囲に響いている。

地元配送業者「██運輸」内部メモに記された申し送り事項

この空地は、地元の配送業者である「██運輸」の配送員たちの間で、帰路に就く際の「特異地点」として周知されていた。同社の業務引き継ぎ用内部メモには、この場所を通過する際に発生する計数異常についての詳細な申し送りが記録されている。

常に、数字が「一」だけ戻る。

具体的には、配送車のデジタルタコグラフや走行距離計が、当該地点を通過した瞬間に一単位分だけ巻き戻る現象が頻発していた。配送員たちはこれを「高架下のサバ読み」と呼び、運行記録の整合性を保つための補正作業が常態化していたとされる。会社側はこの現象を計器の磁気異常として処理していたが、記録上の矛盾は累積し続けていた。

配送員・佐伯氏(仮名)による接触と「自分自身の未到着」

2018年11月14日、配送員の佐伯氏は業務終了後にこの券売機で飲料券を購入し、その際の不可解な体験を同僚に語っている。彼が百円硬貨を投入して券を購入した際、返却口には投入額を上回る百五十円分の硬貨が排出されていた。

硬貨は、投入したものよりも明らかに温度が低かった。

さらに、発券された券面の通し番号を確認したところ、前日に自身が購入した際の番号よりも一つ若い数字が印字されていたという。佐伯氏はこの現象について、失踪直前に同僚へ次のような言葉を残している。

「小銭がジャラッと落ちてきた時、指先に刺さるような冷たさを感じたんです。チケットの番号を見たら、昨日買ったやつより若くなっている。私はまだ、今日ここに来ていないことになっているのかもしれません。これは、自分自身の未到着を証明する切符なんです」

営業所における致命的な計時齟齬と所在不明

佐伯氏はその証言を残した直後、通常通りの配送ルートで営業所への帰路に就いたが、到着後に前代未聞の事態が発覚した。彼の配送車が営業所のゲートを通過した時刻が、記録上では同日の「出発時刻」よりも十五分早い時間として刻印されていたのである。

物理的な逆行は、既存の車両構造では説明がつかない。

営業所の防犯カメラには、無人の配送車がバックでゲートを通り抜け、所定の駐車スペースに収まる様子が記録されていた。運転席には誰も座っておらず、エンジンは停止していたが、車体からは走行直後のような排熱が確認されたという。佐伯氏の行方は現在も分かっておらず、車内からは「〇〇〇〇」とだけ印字された、通し番号のない白紙の券が発見されている。

筐体内部の積算計における一の位の物理的欠損

当該の券売機について後日行われた非公式の調査では、内部機構に極めて特異な構造的欠陥が確認された。売上枚数や投入金額を記録するアナログ式の積算計において、一の位を示すドラムの数字がすべて削り取られていたのである。

物品の状態は良好とされる。

しかし、数字の消えたドラムは現在もなお、微細な摩擦音を立てながら反時計回りに回転を続けている。この回転速度は、周辺を走る列車の通過本数に比例して加速する傾向があるとの指摘もなされている。積算計がゼロに到達した際、あるいは負の領域へ突入した際に何が起こるのか、それを確かめた者はまだいない。

調査担当:██

※本記事はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。

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