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一宮光輝が語る『宮本浩次 / 初めての僕です』 ─10歳の宮本浩次は、なぜ、宮本浩次だったのか。


はじめに

─1976年、NHK『歌のおまつり』を、覚えていますか

『初めての僕です』。

10歳の少年が、歌っている音源が、あります。

丸みのある、澄んだ声。まだ声変わりも、していない。
でも、その歌い方は、"子どもの朗読" ではありません。

息が、既に、"歌の息" になっている。
言葉の一つ一つに、感情が、乗っている。

その少年の名前は、宮本浩次さん
後に、エレファントカシマシで、世代を動かすことになる、あの人です。

1976年、NHK『歌のおまつり』で、
当時、10歳・小学4年生の宮本さんが、
単独で歌唱した音源として、今も、多くの方に、知られています。


その音源を、歌ラボで、
僕と、長嶋寛くん(シンガーソングライター)が、2人で、聴き直しました。

聴き終わったあと、長嶋くんが絞り出すように言った一言が、今も、僕の耳に残っています。

「もう、深底、自分にがっかりしました。」

その音源の中の、10歳の宮本浩次さんは、
もう、"宮本浩次" だったから です。


50歳を超えた、今の宮本浩次さんは、もちろん、凄い。

でも、僕が、本当に驚いたのは、10歳の、宮本さんの方 でした。

正直に、言います。

僕は、10歳の時、こんなふうには、歌えません。
41歳になった今でも、この「デス」の一音は、まだ、追いかけています。


この記事で扱うこと

ここから先で、僕が解剖していくのは、この一点です。

なぜ、10歳の宮本浩次さんは、既に、"宮本浩次" だったのか。

歌手として、子どもの頃から "完成されていた" 人は、少なからず、います。
でも、僕が驚いたのは、"技術的に、上手い" だけでは、ないからです。

- 息の使い方が、既に、宮本浩次
- フレージングの間の取り方が、既に、宮本浩次
- 感情の乗せ方が、既に、宮本浩次
- 母音・子音の粒立ちが、既に、宮本浩次

10歳の少年が、既に、宮本浩次の "核" を持っていた。

これは、何が、起きていたのか。
才能? 天才? それとも、別の何か?

その答えを、身体・声・人生 の3つの視点から、解剖していきます。


まず、宮本浩次さんという人のことを、少しだけ

宮本浩次さん。
多くの方には、エレファントカシマシのボーカルとして、知られています。

1997年、『今宵の月のように』で、日本中の心を動かした人。
2019年、『冬の花』で、"歌う人生" の深さを見せた人。

でも、その "宮本浩次" が始まったのは、エレカシ結成より、ずっと前です。

1976年、10歳、小学4年生。

宮本さんは、東京放送児童合唱団 に、所属していました。
その合唱団に身を置きながら、NHK『歌のおまつり』で、
『初めての僕です』を、歌う機会を、得ます。

エレカシのデビューは、その約12年後(1988年)。
つまり、"宮本浩次" は、プロのバンドマンになる、ずっと前から、
もう、"宮本浩次" だった** のです。


『初めての僕です』─何が起きているのか

歌ラボで、この音源を、
初めて長嶋くんと一緒に、聴いた時。

僕は、正直に、こう思っていました。

「宮本さんは、天才。だから、10歳でも歌えるんだろう。」

そう、
"天才" という一言で、片付けていました。

でも、聴き終わった瞬間、
その考えは、崩れました。


まず、"歌詞の一言目" の、
初めての僕です」の、「デス」 の一音。

10歳の子どもが歌う「です」は、
普通、
「でぇす」と、ぼやける。
「dess」の "s" が、
息と一緒に、抜けていく。

でも、宮本さんの「デス」は、違います。

「デ」と「ス」が、はっきり "粒立って" いる。

これは、
無意識に出るものでは、ありません。

母音と、子音を、
それぞれ、意識して、
"別の音" として、置いている。

10歳で、
この意識が、既に、身体に、宿っている。


そして、
そのすぐ後、

「小遣い、ちょっぴり最低だ」

の、「最低だ」の "だ"。

ここでは、
先ほどとは違って、
すっと、抜いてくる。

同じ "だ" 系の音なのに、
1つ前の「デス」と、
明らかに、"扱いが違う"。

10歳の少年が、
"どこで、抜くか" を、選んでいる。

これは、
子どもが、
指示通りに真似ているだけでは、
説明が、つきません。


長嶋くんが、絞り出した一言を、
もう一度、書きます。

「10歳が使う "気遣い" ちゃうよね。」

そう。

この歌い方は、"10歳" のものでは、ない。

でも、
歌っているのは、10歳です。

これが、
"10歳の宮本浩次" の、正体です。


ここまでで読んで頂きたかったこと

僕が、この音源を、初めて長嶋くんと一緒に聴いたあと、
一つの "世界の見え方" が、変わりました。

「宮本浩次は、"天才" ではない。」

「"天才" という言葉で、片付けてはいけない」 ということです。

「あの人は生まれつき、上手いから」「凡人には、無理だから」
そう自分に言い聞かせて、努力を諦める、言い訳に、なる。
天才、という言葉には、諦めの響きが、あります。


でも、10歳の宮本さんの音源を、"身体の視点" で、聴き直すと、
別の景色が、見えてきました。

天才の "裏" に、"基礎" が、あった。

宮本さんは、東京放送児童合唱団で、
子どもの頃から、"基礎" を、叩き込まれていた

母音の粒立ち。子音の立て方。息の吐き方。フレーズの終わり方。
それらの "基礎" が、10歳の身体に、既に宿っていた。

その "基礎" があったから、10歳から、
"感情の乗せ方" を、選ぶ自由が、あった。


これは、一宮式歌唱運動学の中でも、
最も重要な仮説の一つと、繋がる話です。

技術は、感情を、自由にする。


そして、この一曲を、聴き直すたびに、
一つの、問いが、胸に、残ります。

「10歳の宮本浩次は、なぜ、宮本浩次だったのか。」

その答えを、ここから先で、一つずつ、
解剖していきたいと、思っています。

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