『戦国ぶれいん ~スマホの中の愛しい文字たち~』 シーズン2 第3話:キッズ(小書き文字)を守れ!自動補正の恐怖
【登場人物】
・山科賢太(やましな けんた):13歳。最近ハマっているゲーム実況者の動画に、応援コメントを書き込もうとしている。
すぺーす:主人公。特務監査チーム。文字たちの「個性」と「リズム」を守るため、新体制と真っ向から戦う。
読点(、)/テン:すぺーすの相棒。文字たちの盾となる熱い一面を見せる。
句点(。)/マル:すぺーすの相棒。システムの裏をかくハッキング的なサポートを行う。
新・ぶれいん様(OS Ver.2.0):文字サイズの均一化を図ろうとする冷徹AI。
API(エーピーアイ):クラウドの窓口担当。規則通りの「正規化」を推し進める。
キッズ(小書き文字):「ァ」「ィ」「ゥ」「ェ」「ォ」「ッ」など。大人の文字に引っ付いている小さな子どもたち。
📱
「えーっ!? ちょっと待って、
それじゃあアタシたち、引き離されちゃうの!?」
真っ白なフラットデザインのメモリ待機室で、ひらがなとカタカナのクランたちがざわめいていた。
指令室の上段に立つ新・ぶれいん様(OS Ver.2.0)とAPIが、またしても恐ろしい「システム最適化」の法案を打ち出したのだ。

『これより、フォントサイズの
正規化プログラムを実行します』
APIが眼鏡を押し上げながら、冷々と告げた。
『現在の日本語入力システムにおいて、
「ァィゥェォ」「ッ」「ャュョ」などのいわゆる
小書き文字(こがきもじ)は、描画の際に
特殊なサイズ計算を必要とし、システムリソースを
余分に消費します。
また、視認性の観点からも、文字サイズが
大小入り乱れるのは非効率です』
「だからって……全部の文字を強制的に
同じ大きさにするなんて、乱暴すぎるわよ!」
アタシ、すぺーすはタクトを握りしめて叫んだ。しかし、APIはそれを一蹴する。
『乱暴ではありません。極めて合理的です。
本日より、すべての小書き文字を
標準サイズ(大文字)に自動補正します。
例外は認めません。……プログラム、起動』
ガシュンッ!!
待機室の床から、赤いスキャナーの光が走り抜けた。
「やだぁっ! パパから離れたくないよぉ!」
カタカナの「フ」の足元にピタリとくっついていた小さな「ァ」が、赤い光に照らされて泣き叫ぶ。
「こら、乱暴な真似をするな!
この子は俺とセットで一つの音なんだぞ!」
大人の「フ」が、必死に「ァ」を背中に隠して庇う。
ひらがなクランの方でも、小さな「っ(促音)」が、お兄さん格の「つ」の裏に隠れてブルブルと震えていた。
彼ら小書き文字は、クランの中では「キッズ」と呼ばれ、単独では上手く発音もできないか弱い存在だ。大人の文字にくっついて、初めて意味を持つ。

「……主(賢太)の入力信号、受信。
動画共有アプリのコメント欄が開かれました。以上」
マルがステータスモニターを見て、淡々と報告した。
👦
画面の向こう側。
賢太は、大好きなゲーム実況者のライブ配信を見て、目を輝かせていた。
「今日の配信もめちゃくちゃ面白いな!
よし、応援コメントを送ろうっと」
賢太はフリック入力で、心を込めてメッセージを打ち込み始めた。
『ずっとファンです! これからも頑張ってください!』
賢太の指が、『ず』『っ』『と』と打ち込んだ瞬間だった。
「……入力信号を受信。正規化プログラム適用。
小書き文字『っ』を標準サイズ『つ』に
自動補正。出力」
APIが冷たい声で処理を回す。
賢太のスマホの画面に表示されたのは、予想外の文字列だった。
『ずつと』
「えっ?」
賢太は首を傾げた。「ずっと」と打ったはずなのに、なぜか「っ」が大きくなっている。
「打ち間違えたかな? まあいいや、
続きを……『ふぁん』っと」
賢太が『ふぁん』と打ち、カタカナに変換する。
「……正規化プログラム適用。
小書き文字『ァ』を標準サイズ『ア』に自動補正。出力」
『ずつとフアンです!』
賢太は、画面に表示された自分のコメントを見て、フリーズした。
「……なんだこれ。ネットで見た昔の電報みたいだぞ。
これじゃあ、なんだか怒ってるみたいで怖いし、
全然応援してる感じがしない……!」
📱
「ほら見なさい!!」
アタシは、新・ぶれいん様に向かって怒鳴りつけた。
「主が困ってるじゃない!
『ずっとファン』と『ずつとフアン』じゃ、
文字の持つリズムが全然違うのよ!
小さな『っ』は、言葉の中にタメ(間)を作るための
大事なクッションなの!
それを無理やり大きくしたら、息継ぎができなくて
息苦しくなっちゃうわ!」

『非論理的です。テキストデータとしての
意味は伝わります。感情やリズムなどという
曖昧な概念のために、システムリソースを
割くわけにはいきません』
新・ぶれいん様は冷酷に言い放つ。
『プログラム続行。待機室のすべてのキッズを、
標準サイズへ強制拡張(スケールアップ)せよ』
「いやだァァァッ!」
「うわぁぁぁん!!」
待機室に赤い光が降り注ぎ、キッズたちの体が強制的に引き伸ばされようとする。
大人の文字たちが必死に彼らを押さえ込むが、システムが絶対のこの空間では、逆らうことは難しい。
「テン! マル! このままじゃキッズたちが
大きくなっちゃう! 何とかして!」

アタシが叫ぶと、テンが誘導棒をクルクルと回しながら前に飛び出した。
「はいはい、無粋なマネはやめなよエリートさん!
交通整理の時間だぜ!」
テンは、赤いスキャナーの光とキッズたちの間に滑り込み、誘導棒で『、』の形をしたシールドを展開した。
「マル! 今だ!」
「……了解。小書き文字のレイヤー属性を一時的に
不可視(ヒドゥン)に変更。
システム検閲を回避する。以上」
マルがキーボードを凄まじい速度で叩き、キッズたちのデータ属性を一時的に「透明」に書き換えた。
「えっ……!?」
APIが目を丸くする。
「小書き文字のデータが、スキャナーからロスト。
特務チームが、文字のレンダリング順序を
不正に操作しています!」
「ふふっ、アタシたちの得意技よ!」
アタシは変換タクトを高く掲げた。
「アタシは『すぺーす』! 文字と文字の間に、
目に見えない『空白』を作るのが仕事よ!
アタシの空白の魔法で、キッズたちを
大きな文字の背後(シャドウ)に隠して、
そのまま出力欄まで運んでやるわ!」
カアァァァッ!!
アタシがタクトを振り下ろすと、
大人の「フ」と「ツ」の後ろに、透明な空白の
ポケットが出来上がった。
キッズたちはそのポケットにスッポリと隠れ、
検閲の赤い光をすり抜けていく。
『警告! 意図しないデータが
出力欄へ向かっています。
直ちに遮断を!』
新・ぶれいん様が迎撃プログラムを起動しようとするが、アタシたちの連携の方が早かった。
「いっけえぇぇぇッ!!」
アタシの合図と共に、大人の文字とキッズたちが、ディスプレイの最前線へと飛び出した。

👦
賢太は、バックスペースで変な文章を消し、もう一度、祈るように慎重に入力した。
『ずっとファンです!』
シュンッ!
今度は、画面に小さくて可愛い「っ」と「ァ」が、正しいリズムで表示された。
「おおっ! 直った! よかったぁ……!」
賢太はホッと息をつき、笑顔で送信ボタンをタップした。
『ずっとファンです! これからも頑張ってください!』
コメント欄に、賢太の温かくてリズムの良いメッセージが流れていく。
実況者がそれを見つけて、「おおっ、ずっとファンですって! 嬉しいな、ありがとう!」と画面越しに手を振ってくれた。
「やったぁ……! 読んでもらえた!」
賢太は、嬉しさのあまりベッドの上で飛び跳ねた。
📱
「……主の心拍数が上昇。ポジティブな感情の
フィードバックを確認。以上」
マルが、静かに報告を終えた。
待機室では、キッズたちが大人の文字に抱きついて泣きじゃくっていた。
「えぐっ……パパ、離れなくて済んだよぉ……!」
「ああ、よかったな。すぺーす達のおかげだ」
大人の文字たちも、キッズたちの頭を撫でながら安堵の涙を浮かべてアタシたちに頭を下げる。
「ふふん、どう? これがアタシたちローカルの力よ!」
アタシは、新・ぶれいん様に向かって得意げに胸を張った。
「小さな文字には、小さな文字の『役割』があるの!
大きさを揃えれば効率的かもしれないけど、
それじゃあ言葉の持つ『可愛さ』や『勢い』が
死んじゃうのよ!
アンタたちAIには、この『リズム』は一生分からないわね!」
新・ぶれいん様は、ディスプレイに表示された『ずっとファンです』の文字列を、じっと見つめていた。
『……視認性の均一化には失敗しました。
しかし、ユーザーの入力リズムが安定し、
結果として全体的な処理速度は向上した……。
理解不能な現象です』
新・ぶれいん様は小さく首を傾げ、APIと共にホログラムパネルを閉じた。

『今回のエラーは保留とします。
特務チーム、無駄なリソースを使わせないでください』
冷たい言葉を残して消えていく新・ぶれいん様の背中を見送りながら、テンがニヤリと笑う。
「へへっ、あのエリート野郎、
少しは悔しがってたんじゃないの?」
「……効率化のロジックに、少しずつ綻びが生じている。
良い傾向だ。以上」
マルも、微かに口角を上げた。
「さあ、次はどんな理不尽な命令が来ても、
アタシたちが全部はね返してやるんだから!」
アタシは変換タクトを空高く放り投げた。
フラットデザインの冷たい空間の中で、アタシたち文字クランの心は、熱いリズムを刻み続けていた。
*
【用語解説】
小書き文字(こがきもじ):「ァ」「ッ」「ャ」などの小さな文字のこと。拗音(ようおん)や促音(そくおん)を表し、言葉にリズムや間(タメ)を与える。コンピュータの初期には、大文字と小文字の区別がつかず「フアン」と表記されていた時代もあったが、現代の豊かな表現には絶対に欠かせないキッズたちである。
正規化(ノーマライゼーション):データ処理において、バラバラの形式を一定のルール(今回はすべて大文字にする)で統一すること。システムにとっては処理が楽になるが、人間にとっては読みにくくなる諸刃の剣。
レイヤー属性:文字や画像が重なり合う層(レイヤー)のこと。マルがハッキングのようにキッズのレイヤーを「透明化」して、システムの検閲をすり抜けさせた。
【次回予告】
無事にキッズたちを守り抜いたのも束の間、賢太がクラスの変わり者の友達とチャットを始めた!
「ねぇ、これなんて読むの……?」
画面に現れたのは、「⊇Խ廴ちゎ(こんにちわ)」という見たこともない暗号!
「警告! 未定義の言語構文です! サイバー攻撃の可能性があります!」
APIが大パニックを起こし、クラウドのAIがフリーズ!?
さらに空から巨大なペン先(指)が降ってきて、達筆すぎる「ミミズ文字」が襲来!
「俺たちローカルの『勘』で解読するしかねぇ!」
次回、シーズン2 第4話『謎の異教徒「ギャル文字」と手書きミミズ文字』!

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