「幸せだと思わなきゃ」が、一番の地獄だった。
結婚して、
子どもがいて、
仕事がある。
健康で、
大きな不幸もなく、
明日の予定もちゃんと入っている。
世間のいう
「幸せのチェックリスト」は、
たぶん全部埋まっている。
それなのに、
夜になると息が詰まる。
理由は分からない。
困っていることを並べろと言われても、
うまく説明できない。
ただ、
このまま全部を投げ出して
どこかに逃げたくなる衝動だけが、
急に胸に込み上げてくる。
「贅沢だよ」
「幸せなんだから感謝しなよ」
そんな言葉が聞こえてきそうで、
この気持ちは口に出せない。
自分でも思う。
不満なんて言ったら、
バチが当たるんじゃないか。
これ以上、何を望むつもりなんだ。
だから、
「幸せだと思わなきゃ」
と、自分に言い聞かせる。
でもそれが、
一番苦しかった。
誰かに話してみても、
返ってくる言葉はだいたい決まっている。
「疲れてるんじゃない?」
「ちゃんと休んだ方がいいよ」
「考えすぎだよ」
悪気がないのは分かっている。
心配してくれているのも分かっている。
でも、
今欲しいのはそれじゃない。
解決策でも、
前向きな言葉でも、
正しいアドバイスでもない。
欲しいのは、ただ一つ。
「その気持ち、分かるよ」
「苦しいよな」
それだけだ。
原因が分からなくてもいい。
どうすればいいか分からなくてもいい。
ただ、
この感情が存在していいと
認めてほしいだけ。
30代になると、
「悩む資格」みたいなものが
いつの間にか剥奪される。
家庭があって、
仕事があって、
守るものがある。
それは確かに幸せだ。
でも同時に、
「逃げ場がない」という意味にもなる。
弱音を吐けば、
誰かを不安にさせてしまう。
本音を出せば、
空気を壊してしまう。
だから、
全部ひとりで抱える。
この虚無感は、
怠けでも甘えでもない。
何かが足りないわけでも、
誰かが悪いわけでもない。
ただ、
ずっと“ちゃんとし続けてきた”人にだけ、
静かに溜まっていくものだと思う。
今夜だけでいい。
無理に感謝しなくていい。
前向きにならなくていい。
「幸せなのに」なんて
前置きもしなくていい。
理由のない虚無感を、
「そんな夜もある」と
許してやってほしい。
何も解決しなくていい。
何も変えなくていい。
それでも、
あなたはもう十分やっている。
いいなと思ったら応援しよう!
この作品を応援してくださる方へ。いただいたチップは、次の記事づくりの活動資金として大切に使わせていただきます。応援が力になります。