【創作】夜店から離れて【#シロクマ文芸部】
夜店から少し離れたところの河川敷。
わたしと真衣は、そこに腰を下ろして、焼きそばをすすっていた。
18時を過ぎていたけど、まだ空は明るい。
かすかに祭りの音頭が聞こえる。
「さっき」
真衣が耐えかねたように話し出す。
「安井、いたよね」
平静を装って返事をするつもりだったのに、ゴキュンと喉が鳴った。今年の焼きそばは、ハズレだったかもしれない。
「うん」
「菜央は、安井のこと...」
くる。
「嫌いなの?」
「へ?」
なんだか拍子抜けしてしまった。
わたしは、割り箸が折れてしまいそうなほど強く握っていることに気づいた。
「そんなことないよ」
「そっか。なんか、いつも安井を見つけると緊張してるように見えたから。ごめん、気にしないで」
真衣はふふっと笑って、また焼きそばをすすった。
真衣には、いつか気づかれる気がしていた。
わたしが自然と安井を目で追ってしまうこと。
わたしと安井の関わりは、一切ない。
去年も今年も別のクラスだった。
いつもわたしのクラスの方がホームルームが早く終わるので、真衣が出てくるのを待っている。そのときに、安井が見える。
何度か目が合ったことがあるけど、わたしは慌てて目を逸らしていた。
それだけ。
「あ、そうだ。これ、ありがとう」
「あー!どうだった!?めっちゃよくない!?ギター、かっこよすぎたでしょ!」
話題は、音楽の話に変わった。
真衣はロックバンドが好きで、わたしにたくさんのCDを貸してくれた。
わたしはあまり音楽には興味がなかったけれど、真衣が貸してくれたCDは、必ず全部聴くようにしていた。
ある日、「どんぶらこズ」というなんともダサいバンド名のCDを借りた。歌詞も「愛」とか「勇気」とか薄っぺらそうなものばかりだった。
その中で一曲、聴いた瞬間、心惹かれる歌に出会った。歌詞が英語で何を言っているのか、全然わからなかったけど、気づけば何度も聴いていた。
安井は、そのバンドのボーカルと声が似ていた。そのことに気づいてから、なぜか意識してしまうのだ。
「あーいうぉーんちゅー」
この声は。
振り返ると、男女の集団が自転車でこちらに近づいてきていた。
「あれ?真衣じゃん!」
その中の1人が、真衣に声をかけた。
「おー、結子」
真衣が、焼きそばの次に食べていた唐揚げの串をビニール袋に片付けながら返事をした。どうやら真衣と同じクラスの女子らしい。
「一緒に花火しようよ!」
真衣は、ちらっとわたしを見る。
わたしが何の反応も出来ずにいるうちに、集団は自転車を停めてこちらに近づいてきた。
わたしは、どこに耳を傾けていいかわからないまま、各々が花火の袋を開けたりバケツに水を入れたり楽しそうに大笑いしたりしている様子を見ていた。
「花火、する?」
突然、耳元で声がした。安井だ。
驚きのあまり返事ができない。
なのに、心臓がバクバクうるさい。
わたしは、ゆっくり手を伸ばして花火を受け取った。顔を上げることができない。
安井って、教室で男子とわいわいするところしか見たことなかったけど、女子とも遊ぶような感じなんだ。
自分から花火配って回るような人なんだ。
うつむいていると、安井が少し笑いながら顔をのぞきこんできた。
「ねえ、もしかして、俺のこと好きなの?」
「そんなんじゃない」
わたしは、早口で返した。
そんなじゃ、ない。
なんでそんなこときくの。
「もう、か、かえらなきゃ」
咄嗟に出た自分の声が耳に残る。
モウ、カ、カエラナキャ。
わたしは、逃げるように土手を駆け上り、自転車に乗った。そこで真衣に声をかけず帰ってしまうことになると気づいたが、もう遅い。
振り返ることなく、急いでペダルを踏む。
さいあく。さいてー。
遠くに見える空は、まだほんのり明るい。
はやく、暗くなって。
ハンドルを握る手に力が入った。
はやく、わたしを隠して。
汗でシャツが背中にびったり張り付いていた。
こちらの企画に参加させていただきました。
今回の創作も、経験を入り口に書いてみました。
学生の頃、友達と夏祭りに行って、夜店であれこれ買って、河川敷で食べたことがありました。
懐かしい思い出です。
今回は、少しその頃に戻ったつもりで、青春を書いてみました。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。拙い文章ですが、また創作も書いてみようと思います。
