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📗書評『日本人拉致』蓮池薫

📗書評『日本人拉致』蓮池薫
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蓮池薫氏の著書を手に取るのは、約15年前に読んだ『半島へ、ふたたび』(新潮ドキュメント賞受賞)以来のことになります。

この『日本人拉致』では、北朝鮮による拉致という深刻な人権侵害を扱い、その実態がいかに無計画で、ずさんで、思いつきの積み重ねであったかを、著者が静かな筆致で浮き彫りにしています。

被害に遭われた方々やご家族の気持ちを思うと、同じ日本人として胸が締めつけられ、怒りが込み上げます。けれど蓮池氏は感情に流されず、「北朝鮮はなぜ拉致をするのか」を冷静にたどり、考察しています。その姿勢に深い敬意を抱きました。

著者によれば、拉致の主な目的は次の二つだといいます。

①対日工作員が“なりすまし”に使う氏名・身分の取得
②日本語や日本社会を学ばせるための教育・情報収集

しかし、こうした目的のために、どうして罪のない隣国の市民を、力ずくで連れ去るという発想に至るのでしょうか。

世界にはCIAやモサドのように優れた情報機関があり、彼らは自国内で厳しい訓練を積んだプロのスパイを育てています。それなのに北朝鮮の幹部は、隣国の一般市民を誘拐するという手法を実行しました。

例えば、科学者や医者、言語の先生など、特殊で優秀な技能や知識を持つ人を誘拐するなら、あってはならないことですが、整合性がとれるかもしれません。しかし、横田めぐみさんのような若い女の子を連れ去り、彼女の人生を奪い、ご家族に計り知れない悲しみをもたらした事実を思うと、やりきれない気持ちですし、意味は全く不明です。

読み進める中で、私は池上彰氏の『世界から核兵器がなくならない理由』に触れた際の印象がよみがえりました。
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池谷さんは、金正恩氏は外交の駆け引きにおいて非常に用意周到で、核兵器を「経済援助を引き出すためのカード」と捉えていると指摘しています。

その視点で考えると、日本人拉致もまた、経済的な利益を狙った“カード”として利用されているのではないか?…そんな疑念が胸に広がりました。

もしそうだとすれば、日本は北朝鮮から“弱い国”と見なされ、なめられていると心がざわつきます。
仮に北朝鮮がイスラエル市民を拉致したとしましょう。モサドは即座に救出作戦を敢行し、確実に被害者を奪還するでしょう。
オバマ政権下で極秘裏に行われたビンラディン急襲作戦もまた、アメリカ軍がリーダーシップをとって実行したことで、パキスタン政府も全く知らなかったといいます。日本政府は同じ決断と行動ができるでしょうか?

さらに本書を読む中で、もう一つ大きな疑問が浮かびました。「工作員のなりすまし」が目的なら、なぜ北朝鮮はレバノン人を拉致したのか、という点です。
日本人や中国人であれば、肌の色など外見的に似ているため、まだ理解できます。しかし、レバノン人のように顔立ちが大きく違う人々になりすますことは、現実的とは思えません。
それがアラブ語を話し、イスラム教文化をもつ人々だったとしたら、尚更です。コーランの暗唱やお祈りなんて、一朝一夕で身につけられることではない。なりすましは、ほぼ不可能ではないでしょうか。

本書では、蓮池さんが12人の北朝鮮人に日本語を教えた経験談も書かれています。
優秀な生徒もいれば、外国語の習得のセンスが全くない人もいたようです。
構造的によく似ていると言われる日本語と韓国語ですが、北朝鮮人が日本語をマスターするのだって、非常に大変なのです。

こうした点からも、北朝鮮の指導部には、倫理観だけでなく、基本的な合理性や教養、教育の欠如があると感じざるを得ません。

本書は「土葬と火葬」という意外な視点からも重要な示唆を与えてくれます。
蓮池氏によれば、1990年代の北朝鮮では土葬が一般的であり、北朝鮮側が「死亡した」と主張する拉致被害者の遺骨は、本来であれば捜索によって確認できる可能性が高いはずだというのです。

にもかかわらず、北朝鮮は「洪水で遺骨は流された」と説明している――その場しのぎの明らかにバレバレな嘘を、平然と重ねる姿勢には、あきれるほかありません。

世界の葬送文化を調べたところ、土葬が主流の地域として
・アメリカ(近年は火葬率が増え50%超)
・イスラム圏(宗教上、火葬は禁止)
・アフリカの多くの国々
・南米の一部地域
などが挙げられるようです。

蓮池氏が繰り返し訴えるように、日本人拉致問題は決して忘れてはならない問題です。
高市首相とトランプ大統領の働きかけにも期待しています。

★『ハル』
蓮池薫さんが訳した韓国語の詩集。
スヌーピーにそっくりな白いワンちゃん、ハルが、世界の美しい場所を旅します。

蓮池さんは、この詩集を訳すことによって心が救われたとおっしゃっていました。
絵も言葉もとても素敵な詩集で、時々読み返しています。

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