【JAGS 2026】「薬を減らす」だけでは足りない:退院後の高齢者を守るカギは、訪問看護×オンライン診療のハイブリッドだった

高齢者医療では、「薬を増やすこと」よりも「薬を減らすこと(Deprescribing)」が重要な時代になっています。
しかし実際には、退院時に薬が整理されるどころか、入院中に追加された薬も、以前から飲んでいた薬も、そのまま継続されてしまうことが少なくありません。
今回紹介するJAGS(Journal of the American Geriatrics Society)2026年の論文は、「退院後の在宅医療において、オンライン診療(Telehealth)を活用して安全に減薬を進めるにはどうすればよいか」を、患者・家族・医師・訪問看護師・薬剤師など44名へのインタビューから検討した質的研究です。
https://agsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jgs.70548
https://agsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jgs.70548
この論文は単なる「オンライン診療は便利ですよ」という話ではありません。
退院後の医療・介護をどう再設計するかという、超高齢社会における重要なテーマを扱っています。
なぜ退院後は薬が減らないのか?
高齢者の多くは複数の慢性疾患を抱えています。
退院時には
新しい薬が追加される
一時的な薬がそのまま残る
重複処方が見逃される
副作用が起きても誰も気づかない
という状況が起こりやすくなります。
病院では退院すると診療が終了し、その後は
かかりつけ医
訪問看護師
薬剤師
ケアマネジャー
家族
へと役割が分散します。
つまり、
「誰が薬を減らす責任を持つのか」
が曖昧になってしまうのです(いや、医者だろ)。
この研究はどんな方法で行われた?
研究者はアメリカ12州で
退院後の患者14名
医師・NP・薬剤師15名
訪問看護師15名
合計44名に半構造化インタビューを実施しました。
そして、
個人レベル
家族・多職種レベル
組織レベル
社会レベル
という4つの視点から、オンライン診療を減薬にどう活用できるかを分析しています。
オンライン診療で期待される最大のメリット
最も興味深かったのは、
リアルタイムで多職種が同時に話し合えること
でした。
例えば
患者の自宅で訪問看護師が訪問中に、
医師
薬剤師
家族
がビデオ通話で参加します。
そこで
「この睡眠薬はもう不要では?」
「血圧が低いから降圧薬を減らそう」
「転倒しているので抗不安薬を見直そう」
と、その場で議論し、その場で処方変更まで完了できます。
電話では
「先生に伝えておきます」
「薬局に確認します」
「家族に聞いてみます」
という伝言ゲームになりますが、
オンラインでは全員が同じ情報を同時に共有できます。
これが大きな利点として挙げられていました。
訪問看護師がいる意味は想像以上に大きい
論文を読んでいて最も印象的だったのは、
訪問看護師は「オンライン診療の補助役」ではない
ということです。
訪問看護師は患者宅で
実際の薬箱を見る
飲み残しを確認する
転倒リスクを見る
家の様子を見る
認知機能を評価する
ことができます。
遠隔の医師には見えない情報が山ほどあります。
つまり
オンライン診療だけでは不十分であり、自宅にいる医療者が極めて重要
という結論になっています。
患者にもメリットがある
患者側からも
通院しなくてよい
家族も参加できる
薬を実際に見せながら相談できる
という利点が挙げられました。
特に地方では病院まで片道1時間以上かかる患者も珍しくありません。病院での待ち時間滞在時間もかなり長くなります。退院直後は体力も低下しています。オンライン診療は患者負担を大きく軽減できます。
一方で課題も明らかになった
もちろん万能ではありません。
研究では以下の問題点が挙げられています。
① デジタル格差
高齢者の中には
スマホ操作が苦手
インターネットがない
ビデオ通話ができない
という人も少なくありません。
② 診療報酬
訪問看護師がオンライン診療を支援しても、その時間に十分な報酬がありません。
現場は
「患者には良いことだが、経営的には難しい」
という現実があります。
③ スケジュール調整
患者
家族
医師
訪問看護師
薬剤師
全員の日程を合わせることは簡単ではありません。
④ オンラインだけでは身体診察はできない
当然ですが、
聴診
浮腫
身体診察
は対面が必要です。オンラインだけで医療は完結しません。
研究者が提案した答え
最終的に研究者たちが提案したのは、
「ハイブリッドモデル」
でした。
つまり
訪問看護師が患者宅にいる状態で、医師や薬剤師がオンライン参加する。
これが最も安全で効率的という結論です。
オンライン診療か対面診療か、という二者択一ではなく、
両者を組み合わせる
という発想です。
私がこの論文を読んで感じたこと
私はこの論文を読みながら、日本の訪問看護や在宅医療の将来像を強くイメージしました。
日本では「オンライン診療」と聞くと、医師が画面越しに診察することばかりに注目が集まりがちです。
しかし、本当に価値があるのは、訪問看護師・薬剤師・医師・家族が同じ場で情報を共有し、患者中心に意思決定を行う仕組みなのだと思います。
特に日本は今後、病床削減が進み、「病院で長く診る」から「地域で支える」時代へと大きく転換していきます。
そのとき重要なのは、病院の代わりに在宅へ医療を丸投げすることではなく、多職種が切れ目なく連携できる仕組みを作ることです。
この論文が示したハイブリッドモデルは、日本の訪問看護ステーションにとっても大きな可能性があります。訪問看護が単なる医師の指示を実行する存在ではなく、地域医療のハブとなり、多職種連携の中心を担う未来が見えてきます。
今後、日本でも診療報酬やICT基盤が整備されれば、「退院後1週間以内に訪問看護師が自宅を訪問し、医師・薬剤師・家族がオンラインで参加して薬剤レビューを行う」ことが、高齢者医療の新しい標準になるかもしれません。
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