ハンク・ウィリアムズは元祖ソウル・シンガー!? 翻訳で音楽のイメージが変わる……100曲訳して見えてきたこと(1)
2023年9月にこのブログを始めて以来、ほぼ週1ペースで投稿を重ね、約2年弱で100曲を翻訳。そもそも songwriting の世界に魅せられて15年。もっと奥深い世界を知るには、とりあえず100曲訳せば何かが見えてくるだろう!という思いで続けてきましたが、100曲達成の節目を迎え実際にどんな世界が見えてきたのかというと…。
結論、何かを見出すには100曲では分母が少なすぎるということで(笑)これだ!という真理に達しようはずもなく、これからも200曲、300曲と続けていく所存です。が、これからの洋楽翻訳との向き合い方を考えるために一旦振り返り、本稿ではこれまでの翻訳を通じて筆者が気づいた、興味深い傾向をひとつご紹介します。
それは、カントリーやソウル、ロックといった音楽ジャンルに対し私たちが持っているイメージは、歌詞にフォーカスするとまた違った見え方になる、という面白い現象です。
分析方法
これまで翻訳した100曲分の歌詞について、「具体的な言葉遣い/抽象的な言葉遣い」を縦軸に、「ストーリー展開型/感情表現型」を横軸に、マトリクス・チャートに配分しました。

具体的な言葉遣いとは明確にその意味がわかるような言葉遣いのこと、抽象的な言葉遣いはその逆で、言葉そのものが意味不明、もしくは易しくても意味が明瞭ではない言葉を多く含む歌詞、という考え方です。
ストーリー展開型は「誰が何して何何した」みたいな、文字通り物語が展開していくような歌詞のこと。それに対し感情表現型は「俺はお前のことをこう思ってるんだ」みたいな、ストーリーよりも心境を表現することに重きを置いた内容の歌詞、という位置づけにしています。
図A・B・C・D各ゾーンにおいて、それぞれ表出した興味深い傾向について、以下の通りご紹介します。
A、具体的な言葉遣い/感情表現型
「A Natural Woman」「When a Man Loves a Woman」を筆頭に、いわゆるソウル・ミュージックと呼ばれる楽曲がこのゾーンに集中しています。虐げられた人種の感情の発露、と考えるとその傾向には納得ですが、興味深いのはここにハンク・ウィリアムズの2曲が食い込んでいるということ。一般的にカントリー・ミュージックのスターとして知られる彼ですが、歌詞を通じた表現は黒人音楽のそれと同系統であると言えます。さながらハンク・ウィリアムズは元祖ソウル・シンガーだったと言えなくもないのでは!?
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When a Man Loves a Woman……社会的良識としての男女論を語るお説教のような導入から、次第に男の魂が露わになっていく展開は鳥肌モノ!
Your Cheatin' Heart……軽快な曲調とはウラハラな、徹頭徹尾の恨み節。ソウルミュージック誕生前夜、ブルースの源流を見出すことのできる曲。
Will You Love Me Tomorrow……美しいライミングと構成力、そしてシンプルで甘く切ない言葉遣いは、様々な解釈で聴き手の感情を揺さぶります。
B、具体的な言葉遣い/ストーリー展開型
ここにはカントリー・ミュージック、それもいわゆる’70年代のアウトロー・カントリーと’90年代以降のニュー・カントリーの多くの楽曲が名を連ねます。サウンドよりも言葉と物語性を重視するこのジャンルは Songwriters in the Round といったセッションの場で成熟していったのではと推測。ライミングなどの修辞技法も他ゾーンと比べて巧妙、わかり易く受け入れられ易い点はセールス的にも奏功するのでしょう。Livin’ on a Prayer や Johnny B. Goode といったロック・クラシックがこのゾーンにあるのも興味深いです。
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Strawberry Wine……筆者が songwriting の世界に魅せられるきっかけになった曲の1つ。ライミングの見事さはまさに超絶技巧!
Pancho and Lefty……たった4分程度の楽曲で、西部劇の映画が1本撮れそうな豊穣さ。思わず感情移入してしまうこと間違いなしです。
Livin’ on a Prayer……超有名曲ということもあり現在拙ブログで最も高評価を頂いています。カラオケで男女デュエットすれば盛り上がるかも!?
C、抽象的な言葉遣い/感情表現型
前述A、Bはそれぞれソウル、カントリー色が強かったのですが、具体的な言葉遣いが抽象的な言葉遣いに変化すると「よりロック志向になる」と筆者は分析。このゾーンの特筆は2つ、CSN&Y系で翻訳した3曲は全てこのゾーンに属すること。彼らの知性の高さ・思慮深さを感じさせます。もう1つはグラム・パーソンズ関連の楽曲の多くがここに含まれること。カントリーとロックの融合を試みたとされるグラムですが、本人はカントリーとソウルの融合を試み、結果として生み出されたのがカントリー・ロックなのでは。
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Love the One You’re With……キアスムス(交錯配列法)を効果的に用いた典型例。意味不明ですが言葉そのものが生み出すグルーヴは最高!
Sin City……牧歌的なカントリー・ワルツを隠れ蓑に、LAという街の退廃っぷりを示す狂気の言葉運びは、他のどのロックよりもロック的。
Crazy Love……直情径行の真正ブラック・ミュージックとは一味違う詩的に捻ったブルー・アイド・ソウルは、北アイルランド人ならでは。
D、抽象的な言葉遣い/ストーリー展開型
イーグルスの各楽曲がここにゾーニング。しばしばカントリー・ロックに分類される彼らですが、その意味不明な歌詞は明朗なカントリーとは区別されるという点で、筆者はイーグルスにサウンドはともかく歌詞にカントリーっぽさを感じません。むしろロックの典型。そしてなにより、このゾーンにはボブ・ディラン、そしてその薫陶を受けたザ・バンドが参入。明確な言葉で特定の誰かの感情を代弁するのとは真逆の、歌詞の意味なんて風に吹かれて舞っていると言わんばかりのボブ・ディランこそ「ロックな歌詞」のパイオニアなのかもしれません。
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The Weight……鬼才ロビー・ロバートソンの真骨頂。歌詞に意味を求めるとどんどん悩ましくなるので、聴き手が思い思いに楽しむのが正解!
Blowin’ in the Wind……伝記映画公開のおかげで当記事も高評価を頂いています。歌詞の世界においては、ロックはこの曲から始まったのかも。
Take It Easy……ジャクソン・ブラウンとグレン・フライがそれぞれ適当に作った曲をニコイチにしただけという見解(笑)。気楽に聴こうぜ!
いかがでしたか?
まあボブ・ディランなんてまだ2曲しか訳してなくて、そもそもこの母数で色々語るのは尚早ですが(笑)逆にたった100曲翻訳しただけでこのような多くの発見・気付きを得る、というのは自分でも驚きです。
筆者が驚きを得たように読者の皆様が、これまでなんとなく聴いてきた洋楽が、歌詞の傾向を知ることでより違った魅力を放ち、その楽曲やアーティストのことをもっと好きになる。拙ブログを通じてこれからもそんな体験を提供し続けることができれば、と思っています。
今回の記事では音楽ジャンルに特化して考察しましたが、次回の記事では songwriting という文化そのものを振り返りつつ、これから筆者がどんな翻訳をしていきたいかについて、考えてみたいと思います。
