Return of the Grievous Angel 歌詞と対訳
楽曲について
Return of the Grievous Angel / written by Tom Brown, Gram Parsons
カントリー・ロック/オルタナ・カントリーの始祖とされるグラム・パーソンズ(以下、GP)の遺作となった1974年のアルバム「Grievous Angel」に収録の楽曲。シングルカットもされたものの発売当時は目立ったチャートアクションを見せず。しかし1990年代に入ってオルタナ・カントリーの隆盛に伴い再発掘され、1999年にリリースされたGPのトリビュート・アルバム、その名も「リターン・オブ・ザ・グリーヴァス・エンジェル」ではルシンダ・ウィリアムスとデヴィッド・クロスビーによりカヴァーされるなど再評価が高まりました。
GPとともにトム・ブラウンなる人物が共作者としてクレジットされていますが、歌詞に限っては実質トム・ブラウン単独作の楽曲と考えられます。委細、後述します。
曲を聴く前にイメージしたいこと
悩みました。ひとまず正攻法で翻訳に挑むものの、歌詞の内容は全く意味不明(笑)。それでも genius.com の注釈などをヒントに「古い西部と新しい西部の詩的な融合」を軸として、以下のプロットを設定しました。
19世紀・西部開拓時代のフロンティア精神に影響を受け、現代LAでの音楽的成功を夢見て西進するGP自身。でも現地LAで見た現実は、酒とドラッグと欲望に満ちた退廃的な日々。「心に潜む悪魔」を抱え、いつしか想いは将来を約束し南部で待つ恋人アニー・リッチの元へ……。
LAの退廃から逃れようとする元南部人。これまで翻訳したGPの楽曲(Hickory Wind、Sin City)と共通のテーマを感じます。カントリー・ロックの祖として評されるGPですがこうしてみると歌詞にカントリー的な要素はあまり無くむしろロック。真正ロックな歌詞をカントリーなサウンドで演奏することによって独自のアイロニーを表現するのがカントリー・ロックの魅力だということを示すマイルストーン的楽曲と、筆者は翻訳を通じて再認識しました。
作者のトム・ブラウンなる人物について。americansongwriter.com の記事によると、元々マサチューセッツ在住の詩人だった彼は1973年春のGPのショーをたまたま目にし、GPにインスピレーションを受け詩を書き下ろしバンドのローディに手渡します。すると翌年、GPの遺作「Grievous Angel」の1曲目(つまりこの曲)に一字一句そのまま採用されておりトムは驚愕。交渉の末、GPの盟友エミルー・ハリスが1982年のアルバムでカヴァーするタイミングで、晴れてこの楽曲の作者としてクレジットされるようになったそうです。
特異なエピソードに事欠かないGPですが、旧新の西部のイメージが慌ただしく錯綜するこの曲にこそ、カントリー・ロックという名称を超えた「コズミック・ミュージック」を標榜する、GP独特の魅力を感じずにはいられません……それではどうぞ!
歌詞と対訳
Won't you scratch my itch sweet Annie Rich
気持ちを汲んでおくれよ 可愛いアニー・リッチ
And welcome me back to TOWN
僕の帰還を 歓迎してくれないのかい
Come out on your porch or step into your parlour
玄関で迎えるとか 部屋に入れてくれるとかさ
And I'll tell you how it all went DOWN
さて ことの顛末を君に話そうか
Out with the truckers and the kickers and the cowboy angels
トラック野郎と ヤク中と カウボーイ・エンジェル達
And a good saloon in every single TOWN
彼らとつるんだ 行く先々の街酒場での出来事
Oh, and I remembered something you once told me
ああ、以前 君が僕に言った願い事 忘れていないよ
And I'll be damned if it did not come TRUE
それが叶わないとなると 僕にはきっと幻滅だね
Twenty thousand roads I went down, down, down
幾千もの道を 走って 走って 走って
And they all led me straight back home to YOU
結局辿り着いたのは 君の待つ家だった
'Cause I headed West to grow up with the country
御国と共に歩まんと 勇んで西部に向かったんだ
Across those prairies with those waves of grain
稲穂が風で波打つ 大草原を横切ってね
And I saw my devil and I saw my deep blue SEA
そうして目の当たりにしたのは 心に潜む悪魔 深青の海
And I thought about a calico bonnet from Cheyenne to TENNESSEE
結局僕は 更紗の帽子の君を想い シャイアンからテネシーに向かう
We flew straight across that river bridge
僕ら あの河川橋をひとまたぎ
Last night half past TWO
昨夜の二時半のことだったよね
The switchman waved his lantern goodbye and good day
転轍夫はランタンを振って さよならまたねとご挨拶
As we went rolling THROUGH
僕らが走っている間ずっとそうしてたな
Billboards and truck stops pass by the Grievous Angel
大型看板やトラックストップを 悲しき天使が通り過ぎる
And now I know just what I have to DO
そして今 僕が何をすべきかは判ってるつもりさ
And the man on the radio won't leave me ALONE
ラジオのDJが 僕を放っておこうとしないんだ
He wants to take my money for something that I've never been SHOWN
未知の経験にこそ身銭を費やせ そう僕にけしかける
And I saw my devil and I saw my deep blue SEA
そうして目の当たりにしたのは 心に潜む悪魔 深青の海
And I thought about a calico bonnet from Cheyenne to TENNESSEE
結局 僕は更紗の帽子の君を想い シャイアンからテネシーに向かう
The news I could bring I met up with the king
とっておきのニュースがある 王様に会ったんだ
On his head an amphetamine CROWN
アンフェタミンの王冠を被っていたけどね
He talked about unbuckling that old Bible belt
古いバイブル・ベルトは すっかり外してしまって
And lighted out for some desert TOWN
「砂漠の街」にさっさと移り住んだってさ
Out with the truckers and the kickers and the cowboy angels
トラック野郎と ヤク中と カウボーイ・エンジェル達
And a good saloon in every single TOWN
彼らとつるんだ 行く先々の街酒場での出来事さ
Oh, and I remembered something you once told me
ああ、以前 君が僕に言った願い事 忘れていないよ
And I'll be damned if it did not come TRUE
それが叶わないとなると 僕にはきっと幻滅だね
Twenty thousand roads I went down, down, down
幾千もの道を 走って 走って 走って
And they all led me straight back home to YOU
結局辿り着いたのは 君の待つ家だった
Twenty thousand roads I went down, down, down
幾千もの道を 走って 走って 走って
And they all led me straight back home to YOU
結局 辿り着いたのは君の待つ家だった
scratch my itch……「痒いところに手が届く」=「気が利く」というのが日英共通の表現というのは面白いですね。余談ですがMLB移籍直後のイチロー選手は当初「itch-low=股間が痒い男」としてアメリカ人に認知されていたそうです。
the truckers and the kickers and the cowboy angels……kickerには麻薬使用者の意味合いがあるようです。cowboy angelsは語感が美しいので敢えて訳しませんでしたが、性別という属性を持たない「angel」と「cow"boy"」を組み合わせていて、同性愛者やドラァグクイーン的な意味合いを持つ表現なのではないかと推測しています。LAのカオスなグルーヴィ達を示す強烈な表現のように思えます。
headed West to grow up with the country……19世紀、西部開拓時代のキャッチフレーズで「Go West, young man, and grow up with the country」というのがあり、それになぞらえています。国策に乗ってフロンティアを目指した開拓民と、LAでの音楽的成功を目指したGP自身を重ね合わせているのでしょうね。
calico bonnet……画像検索して頂ければわかりますが、いかにも「大草原の小さな家」に登場する女子が被っていそうな、ほっかむりのような帽子。古い西部と新しい西部のイメージをせわしなく行き来するのが、この楽曲の特異性と言えます。
Cheyenne……なぜここで西部でも南部でもないワイオミング州シャイアンが出てくるのかは正直不明。ブルーグラス・クラシックで「Cheyenne」という曲がありますが、ネイティブ・アメリカンの部族名をルーツに持つ地名ということで、アメリカ人にとっては特別な意味合いを持つ地名なのかもしれません。
Billboards and truck stops……アメリカのハイウェイを車で旅した人ならわかりますが、ひたすら運転中に目にするものは大型看板と、時折見つける「トラックストップ」という給油もできるコンビニのみ。それが何時間も続くのでうんざりします(笑)。ある意味、アメリカという国を象徴する風景です。
the king……これは諸説ありますが、GPが心酔するエルビス・プレスリーと考えるのが妥当。この曲が書かれた1973年はまだ存命中ですが、当時のエルビスはすっかり麻薬中毒。バイブル・ベルト=信仰心の強い土地柄であるアメリカ南部への愛着は捨てて、砂漠の街=ラスベガスで暮らしていた、という事実に符号します。GPとエルビスが直接会っていたかは不明ですが、この曲のレコーディングメンバーがエルビスのバック・バンドであることを考えると、なかなか大胆……というか空気を読めないGPらしい歌詞です。
