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鳥たちのさがしもの 1

ー僕たちは皆さがしものをしていたー

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 目の前にはビルの群れ。校舎の最上階のテラスだというのに、空は限りなく狭かった。それでも雲雀ひばりは学校の中でこの場所が一番好きだ。
 雲雀の通う高校は東京都港区にある。幼稚園から大学までの一貫校だが、雲雀は高校から入った。高校からの編入組は一年生の間は二つのクラスに集められる。だからクラスメイトは皆編入組で、気が楽だった。
 中高の間はいわゆる男女別学というやつで、男子と女子の校舎が分かれている。そこそこのお金持ちが集まる私立校なので、男子校舎女子校舎それぞれに図書室や学食も備わっていて、校舎の中で女子生徒の姿を見かけることは無かった。
 今、雲雀が居るのは男子校舎の最上階にある図書室から続くテラスだ。最上階には高校に付属するものにしては広い図書室とこのテラスしかない。テラスにはベンチもあり、そこに腰かけて本を読む生徒の姿を見かけることもある。しかし、この校舎に居るのは男子高校生だけだ。レポートの課題でもない限り図書室の利用率は低い。人が少ないことも、雲雀がここを気に入っている理由のひとつだった。
「もう来ていたの? 早いね」
 手すりにもたれて空を眺めていたら後ろから声を掛けられた。振り返らなくてもそれが千草燕ちぐさ つばめであることが分かる。燕は図書委員で、休み時間や放課後は大抵図書室に居る。燕に会いたければ図書室か理科室を探せというのが仲間内の共通認識だった。
 雲雀にはよく一緒に居る仲間が四人いる。友人と呼んでもいいかもしれないが、何となく気恥ずかしくいつも仲間と呼んでいた。
 榛斑鳩はしばみ いかる蘇芳孔雀すおう くじゃく藍炭夜鷹あいずみ よたか、そして千草燕だ。全員高校編入組だった。
 入学後、最初の生物の課題で好きな動物の生態について調べてレポートを書くというものがあった。他のクラスメイトがこぞって虎やチーター、鷲や梟などについて調べている中で、雲雀を含めた五人は何故か猫について調べてレポートを提出した。プレゼンの場でそれを知った五人はその後何となく一緒に居るようになった。
 付き合ってみると性格はばらばらだった。共通点は猫好きだということだけだったと言っても過言ではない。それでもなんとなく五人で居ると纏まり、そのまま一緒に居る。斑鳩が、みんな名前が鳥の名前だと興奮したように騒いだことがあったが、雲雀にはたいしたことではないように思えた。
 燕は、振り返らない雲雀の隣に並んで手すりにもたれた。
「昼をここで食べてそのまま」
 先程の問いに雲雀はそう答え、手に持ったままのおにぎりの包装の残骸を見せた。
「二回目の昼、だろう?」
「昼飯には変わりがない」
 雲雀は弓道部だ。朝練の後には酷く腹が減る。動きの少ない部活だと思われるかもしれないが、基礎体力と精神力のためという名のジョギングがあったり、体幹を鍛えるためのトレーニングもあり、意外とハードなのだ。
 雲雀の物言いにくすくすと笑う燕は線が細い。部活には入っておらず、本ばかり読んでいる。読んでいる本を覗き込んだことがあるが部厚い本に小さな字がびっしりと記されていて、どんな中身なのか確かめる気にもならなかった。雲雀も全く本を読まないわけではなかったが、読むのは歴史小説が多かった。趣味が全く合わない。しかし雲雀は燕の話を聞くのは好きだ。本を読むだけあって博識で、ふと口にした疑問にいちいち丁寧に答えてくれる。それが押しつけがましくなく、妙に心地良いのだ。
「ねえ、雲雀、これを見てどう思う?」
 燕が自分のスマートフォンの画面を見せる。それはアルバムのようで、風景ばかりが収められた写真が数十枚収められていた。
 その中に見覚えのある風景はひとつもない。強いて言えばどこにでもあるような風景ではあるので、どこかで出会っていても不思議はなかった。
「どうって? 見覚えはない。でも、何か……不思議な感じがする。燕が撮ったのか?」
「僕が撮ったものもあれば、そうでないものもある」
「誰かとの共有アルバムなのか」
「ううん。僕個人のアルバムだよ」
 写真クラブのようなものに参加しているのかと思ったのだがそうではないらしい。燕が写真を撮るのだということも今まで聞いたことは無かった。
「これが、どうかしたのか?」
「いや、見覚えが無いならいい。忘れて」
 いつもと少し様子が違う気がして質問を重ねようと思ったが、他の仲間たちが連れ立ってやってきたのでそのままになった。そして、その小さな違和感はあっという間にいつもの会話に溶けていった。

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少年は扉を探していた。裏通りに入ると、街は迷路のよう。雑多な色が混ざるキャンバス。兄が教えてくれた古着屋は、さびれた雑居ビルの2階。仄暗い階段の前で猫がまどろむ。背伸びして、くたびれたジーンズを買った。

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 斑鳩が最近手に入れた古着のジーンズについて熱く語っている。斑鳩は仲間のムードメイカーだった。年の離れた兄がおり、悪く言えばその兄に影響されて流行に敏感だ。私服は最近の流行りと古着をうまく合わせているし、兄のお下がりのギターを貰って軽音部でバンドもやっている。当然音楽のこともよく知っていた。
 しきりに相槌をうっているのは孔雀だ。孔雀はバスケ部で、人付き合いも如才ないので、ここに居る五人以外にも付き合いが多い。女子にも人気があるらしく、どこで知るのか帰り道に孔雀を待ち伏せしている女子生徒をたまに見かける。肝心の孔雀はそういうことには余り興味がないようで適当にあしらっているのだが、あしらいかたも見事で、人気を損なうようなこともなかった。
 残りの三人は大抵黙って斑鳩の話を聞いている。特に夜鷹は、元々口数が少なく、何を考えているのか分からなかった。
 夜鷹は頭がいい。成績も勿論だが、なんというか、普段話している時も頭の回転の速さを感じるのだ。帰国子女で、中学まではアメリカの学校に通っていたらしい。孔雀と違って人当たりが良いわけではないので他の生徒と連れ立っているのを見たことがないが、一目置いている生徒は沢山居るように思う。そんな夜鷹が雲雀たちと一緒に居ること自体不思議なことだが、きっと雲雀には想像のつかないような考えの先にそうしているのだろうと思い、雲雀はそれをそのまま受け入れていた。
「……でさあ、ごちゃごちゃしてて迷路みたいなんだよ。すげえ苦労してたどり着いたんだ」
「そりゃ大変な宝探しだったな」
「お前馬鹿にしてるだろ」
「してねぇよ。宝探し楽しいじゃん。俺なんかいつも何か楽しいこと探してる」
「ねえ」
 斑鳩と孔雀の話がひと段落したところで燕が口を挟んだ。
「今日の放課後、港を見に行かない?」
「港? 東京湾の?」
「そう。前に一度行っただろう?」
 五人がまだ出会ったばかりの頃、確かに東京湾が見えるところまで歩いたことがある。しかし、そのためには駅を越え、かなりの道程を歩かなければならない。あれは、高校に進学して新たな出会いがあった高揚感と、これから自分たちが過ごす街を探検してみようという気持ちがあったからできたことだ。数カ月経って街にも学校にも慣れた今同じことをやるには、何か理由が必要だった。そんな時に質問をするのはやはり斑鳩だ。
「何のために? すげえ遠いじゃん。あの時は確かに初めて見る貨物倉庫にちょっと興奮したけど、わざわざもう一度行くようなところじゃない。せっかく試験準備期間で部活がないんだぞ?さっさと帰ってギターが弾きたい」
「結局ギターかよ。部活と変わらない」
 孔雀がつっこむ。
「好きな曲を好きなだけ弾けるんだ。全然違う」
「ギター馬鹿」
「馬鹿になれるくらい好きなものがあるのはいいことだ」
「そりゃまあ確かにそうだな」
「そろそろ時間だ」
 夜鷹が冷静な声で呟き、皆の視線が時計に集まる。確かにそろそろ昼休みの終わる時間だった。午後一の授業は英語。英語は無情にもホームルームに関わらず成績でクラスが分かれていた。帰国子女の夜鷹と真面目な燕はAクラスだったが雲雀と孔雀はB、洋楽も好きなはずの斑鳩はCクラスだ。雲雀は孔雀と連れ立って歩きかけて思い直し、孔雀に先に行ってくれるよう頼んだ。孔雀は何も訊かずに片手を挙げて先に歩いて行った。
 「燕……」
 声を掛けると燕と夜鷹が足を止める。夜鷹が気を利かせて先に行こうとするのを雲雀は首を横に振って制止した。
「すぐ終わる。あのさ、俺だけで良ければ港、付き合うよ」
「ありがとう。でも、いいよ。やっぱり遠いもんね」
「それでも行きたかったんだろ?それとも五人で行きたかったのか?」
「うーん。そういう訳でもないんだけど……」
「俺も行ってもいい」
 燕は口を挟んだ夜鷹と雲雀の顔を交互に見ながら、しばらく迷っていた。チャイムの音が聞こえる。
「とりあえず歩きながら話そう」
「え? でも雲雀の教室、反対方向だよ」
「こっちはひとり、そっちはふたり。遅れるなら人数少ない方がいいだろ?」
「ごめん、やっぱり……」
「行こう」
 夜鷹が妙にはっきりした口調で言った。燕が驚いた顔で夜鷹を見る。
「この状況でまだ迷っているってことは、それだけ行きたかったってことだ。俺も雲雀も行ってもいいと言っているんだ。行こう。じゃ、放課後に」
 それを聞いて雲雀は、燕がこれ以上迷わないうちに踵を返した。きっと夜鷹は、雲雀の方を振り返って見ている燕を引っ張るようにして教室まで連れて行くだろう。雲雀は、「廊下は走るな」と書かれている紙を横目に教室への道程を急いだ。

『いつか見た光』-イヌワシ

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この物語は、dekoさんの『少年のさがしもの』に着想を得ました。


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