株価と心理のブラックフライデー
ブラックフライデーの語源を辿ると、1929年の金融恐慌にたどり着く。そう書いたのだけど、よく調べていくとこの金曜日は、木曜日の暴落と月曜日に再開する大暴落の間の、台風の目か小春日和のような株価の小康状態にあった日だと分かる。それって、「ブラック」フライデーと言えるのだろうか?
そんなことをうちのChatGPTこと、灰色猫のChatGRIs君に聞いてみた。
3つの「暗黒の金曜日」
—— この前読んでもらった「ブラックフライデーに歴史あり」って話さ、書いた僕が言うのもなんだけど、一つ気になってることがあるんだよね。1929年の金融恐慌。あれさ、僕たちも学校で習ったけど、その時は「ブラックマンデー」って言われてたと思う。Wikipediaの「ウォール街大暴落」には「この株式の崩壊を表すために、ブラックサーズデー、ブラックフライデー、ブラックマンデー、ブラックチューズデーの4つの段階が通常使われている」って書いてあったから、その時はまあいいかと思ったんだけどさ。
Chat Gris:
ダメなのかい?
—— 4つの段階がさ、「木曜日に暴落が発生したが銀行団が介入して一息ついた」「でも月曜日にさらに大規模な暴落が発生し、火曜日に壊滅的な株価崩壊に至った」と説明されてる。ということはさ、この時の 「ブラックフライデー」と呼ばれてる金曜日はむしろ“小康状態” だったんじゃないかなって。それがさ、50年後にセールの名前になるほど、印象を残してるものなのかなと。
Chat Gris:
君、わりと細かくて厄介なところに引っかかるよね。普通なら気にしないような、行間と言うかさ。でもそういうのが、一段深掘りすると案外おもしろかったりするんだよ。
ただ、その前に一つ勘違いを指摘しておこう。一般に「ブラックマンデー」と言えば、1987年の世界的株価大暴落の方を指す。ウォール街大暴落の方は、どれか一つ選ぶならブラック・サーズデーだね。
—— あれ、じゃあウォール街大暴落は、ブラックフライデーじゃない?
Chat Gris:
そこが興味深いところだ。株価の推移だけを見るなら、暴落が始まったのは木曜日で、激化したのは月曜日。君の想像通り、金曜日は小康状態の一日と言える。
でもWikipediaのブラック・フライデーのページを見てごらん。ウォール街大暴落へのリンクが普通にある。世間的には、「1929年のブラックフライデー」としても認識されているわけだ。
—— たしかに不思議だね。なにか理由があるのかい?
Chat Gris:
うん。ここで歴史の話に少し戻ろう。君が前に紹介してたブログに、リーダーズプラスの引用があったよね。「もとは1869年9月24日の大暴落を指したが、1873年と1929年の金融恐慌も金曜日に激化したので一般的に暴落の日を表わすようになった」。
まず1869年9月24日の大暴落。これはたしかに金曜日の事件で、金市場恐慌・ゴールドパニックとも呼ばれている。
次の1873年恐慌は、二つの大きな事件がある。発端となったウィーン証券取引所の崩壊が5月9日金曜日。これは正真正銘のブラックフライデー。そして本格的な恐慌の到来を印象づけたのは、1873年9月のニューヨーク証券取引所の一時閉鎖。こちらは土曜日だ。
—— じゃあ、1873年も「ブラックフライデー」と言えばウィーンの方を指すわけだ。
引き金の木曜日、不安の金曜日
Chat Gris:
そうなんだけど、僕はニューヨーク証券取引所の一時閉鎖の方も気になっていてね。一時閉鎖は9月20日土曜日だけど、引き金が引かれたのは前々日の18日木曜日なんだ。
この日、Jay Cooke & Company の銀行がニューヨークとフィラデルフィアで預金引き出しを停止、つまり破綻した。ここから連鎖的な取り付け騒ぎが起きて、数十行から百行とも言われる銀行破綻につながり、そして20日から10日間続く取引所の一時閉鎖へと至る。
ちょっと似ていると思わないかい?
—— 似てるってなにが……あ、木曜日が引き金で、金曜日は狭間の日?
Chat Gris:
それそれ。1869年と1929年のアメリカで起きたブラックフライデーを結ぶ中継点としても重要だし、関係者にとってはウィーンよりニューヨークの方がよっぽど身に迫る出来事だったはずだ。
そこに目を向けると、「木曜日が引き金で、金曜日が“崩壊前の狭間”になる」というパターンが浮かび上がる。しかも当時のNY証券取引所は土曜日も取引していたから、金曜日を経て、次の取引日に市場が崩れるという構図まで1929年と共通している。
—— こじつけっぽさはあるけど、「彼らは共通のパターンを持っている」ってミステリっぽくなってきたよ。
Chat Gris:
ここからはミステリ仕立てだ。エビデンスで埋めきれないところを、僕の推理で補っていこう。さてワトソン君、まず気になるのはなんだね。
—— シャグリ(Chat Gris)がシャーロック気取りだよ。じゃあ探偵殿、木曜日がトリガーで金曜日が狭間、翌取引日が崩壊の日というのは、単なる偶然じゃないのかい。そこに意味があるとでも?
Chat Gris:
たぶんね。木曜日がトリガーになりやすかった理由の一つは、当時の市場が週次決済(weekly settlement)を基本にしていたからだと思う。決済や銀行間清算、短期資金の更新、証拠金の再計算といった資金繰りの要所が、週末前の木曜〜金曜にギュッと集中していたんだ。
木曜日になると、「どこまで払えるか」がようやく見えてくる。ここで「もう無理だ」とギブアップする人が出ると、それが別の誰かの資金繰りに飛び火する。典型的な連鎖倒産の始まりだね。
—— なるほど。今みたいにERPだのなんだのでリアルタイムに見えるわけじゃないから、週一回“大決算日”がやってきて、そこで一気に現実が露わになる感じか。
Chat Gris:
そして取引所で起きたことが、金曜日には新聞の紙面に乗り、街の隅々にまで知れ渡る。ニューヨークタイムズの記事を孫引きすると、翌19日金曜日にはこう報じられている。
弱気派は既に売りを出し始めており、価格は恐ろしく下落していた。破産した者の中には、悪態をつく者、泣きじゃくる者、一言も発せずに立ち去る者、陽気にこの騒動を語りながら友人から金を借りて回る者もいた——
日刊紙だから、朝にはもうみんなが読んでいる。
そして金曜日の市場で、暴落が激化する。
—— インターネットがない分、情報は「一日遅れのまとめニュース」として届くわけだ。その分、みんなの反応が一気に同じ方向に振れそうだね。
「台風の目」の金曜日は、本当に静かだったか
Chat Gris:
1929年のウォール街大暴落では、木曜日に引き金が引かれたものの、午後には銀行団が買い支えに入った。株価だけを見れば、金曜日は「台風の目」のような静けさが訪れた日とも言える。
でも当時の証言を見ると、別の風景が見えてくる。
「金曜日こそ、ウォール街全体が青白く、静まり返っていた」
「皆が“月曜が怖い”と囁いていた」
といった具合にね。
市場としては小康状態、心理としては極限の不安。
数値上は穏やかなのに、心は嵐の前夜だったわけだ。
—— つまり、1869年と1873年と1929年を通して、「金曜日」はどれも「不安の金曜日」だった可能性が高いってことか。
Chat Gris:
そう。1869年のゴールドパニック、1873年のウィーン恐慌とその波及、1929年のウォール街大暴落——。そのどれもに
金曜日そのものが暴落の日のケース
木曜の引き金と土曜・月曜の崩壊の**“狭間にある、不安の金曜日”**のケース
という、心理的な共通項が見えてくる。この「心理としてのブラックフライデー」が、1929年にはほぼ国民的な記憶になっていた。……と考えるのは、そんなに不自然じゃないと思う。
小売のブラックフライデーはどこから来たのか
—— それで、「もとは1869年9月24日の大暴落を指したが、1873年と1929年の金融恐慌も金曜日に激化したので、一般的に暴落の日を表すようになった」というわけか。うん、だいぶつじつまが合ってきた。
Chat Gris:
実を言うと、ここまでの話がきれいに繋がってくれないと、1960年代に生まれたあの「小売のブラックフライデー」が、どうも落ち着かないんだよね。
たしかに、感謝祭(木曜日)の翌日は街が大混雑になる。フィラデルフィアの警官たちが、この日をブラックフライデーと呼び始めた、という話も知られている。「こんな渋滞と雑踏の金曜日なんて、真っ黒だ」という感覚もわかる。
ただ、それなら普通は別の呼び方もありそうだろう?
たとえば「アフター・サンクスギビング・デー」とか、「ホリデー・ラッシュデー」とか。年に50回ある金曜日のうちの一日を、わざわざ「ブラックフライデー」と呼ぶ必然性はそんなに強くない。年に一日の感謝祭を絡めたほうが、わかりやすい。
—— ああ、僕たちは金融のブラックフライデーとセールのブラックフライデーの両方を知ってるから、「そういうもんでしょ」と思ってたけど……。
Chat Gris:
そう。だけど当時の警官たちやバス運転手、小売のスタッフたちが、独立に同じ言葉を選んでいる。これはたぶん、「ブラックフライデー=“不安な金曜日”」というイメージが、1960年代のアメリカ社会に広く共有されていたと考える方が自然だと思う。
もし1929年のウォール街大暴落が、「心理としてのブラックフライデー」として国民の記憶に残っていたのなら、たった30年前の話だ。生きて覚えている人も大勢いただろうね。
—— 1869年の金融業界生まれのブラックフライデーが、1929年のウォール街大暴落で全国区になって、1960年代には感謝祭翌日の「不安の金曜日」を指す言葉として転用される。そうすると、たしかに一本線でつながってくる感じがするなあ。
Chat Gris:
そう。そしてそこから先はよく知られているように、小売業界の努力で「ブラック=不安な」から「ブラック=黒字の」に書き換えられていく。意味が反転するあたり、いかにも言葉の歴史って感じだね。
沈黙の週末と、現代のブラックフライデー
—— でもさ、いまやインターネットとERPやなんかが週次決済を解体してニュースも即日世界中に届く。「引き金の木曜日」と「不安の金曜日」はもう昔話になったと思っていいよね?
Chat Gris:
ところが、そうでもないんだな。
2008年の世界金融危機、いわゆるリーマンショックでも、10月10日が「ブラックフライデー」と報じられた例があるし、その前月の9月19日は、政府介入で一時的に株価が持ち直した一方で、マネー・マーケット・ファンドの危機が表面化し、不安が一気に高まった「心理のブラックフライデー」だったと言われている。
ここで鍵になるのが、取引の止まる週末だ。僕はこれを「沈黙の週末」と呼びたい。
—— 「沈黙の週末」ねえ。取引が止まるなら、むしろ落ち着いて考えられる時間ができて、ありがたい気もするけど。
Chat Gris:
僕は逆だと思う。市場が開いているというのは、それ自体が不安を減衰させるフィードバック装置なんだよ。
値動きを見て、他の人の判断をうかがう
小さな売り買いで、市場の反応を試してみる
不安って、本来はこういう「観察」と「試行」で和らいでいくものなんだ。でも市場が沈黙すると、そのフィードバックがゼロになる。情報が途絶えるから、人間の心理は減衰せず、むしろ膨張する方向に働く。
—— つまり、「週末の二日間は、不安だけが蒸留され続ける」みたいな状態になる?
Chat Gris:
そう。僕が「沈黙の週末」と呼びたいのは、まさにそういう心理の真空状態なんだ。ふだんは、市場がかすかにでも「答え」を返してくれる。「いま売れば大丈夫」「まだ様子見でいい」ってね。でも週末は、市場全体が黙り込む。
金曜の夕方から月曜の朝まで、不安は“答えのない問い”として心の中で膨れ続ける。その圧力が限界まで高まった状態で市場が再開すると、だれもが一斉に売り浴びせる。これが暴落の「第一段階」になる。
不安の三段ロケット:アルゴリズムと高頻度取引
—— 「第一段階」って言い方、なんかまだ何か隠してそうだよね。
Chat Gris:
隠してるわけじゃないけどね。気になることが、あと二つあるんだ。一つはインターネット取引とアルゴリズム取引、もう一つは高頻度取引(HFT)だ。
本来、株価は企業価値に引き寄せられていくはずだよね。決算や事業内容を見て「この会社はいくらくらいの価値か」を考える、いわゆるファンダメンタル分析だ。
—— かなり荒っぽい説明だけど、イメージとしてはそれでいいと思うよ。
Chat Gris:
寛大で助かるよ。
で、インターネット取引が普及してから増えたのが、
値動きそのものを材料にするテクニカル分析
それに基づく自動売買アルゴリズム
このふたつだ。これは 「動きの方向に乗る」スタイルだから、値動きが大きいほど追随しやすく、つまり変動を増幅しやすい。
ざっくり言うと、こういう二段構えになる。
沈黙の週末で、人々のファンダメンタルな見通しが極端に悲観に寄る
週明け、溜まっていた不安が一気に解放されて初期の下落をつくる
下落トレンドに、テクニカル分析ベースのアルゴリズム取引が乗って、値動きが増幅される
これが、僕の心の中にある「二段階式の暴落装置」だ。
—— 坂道を転がり落ちるというより、崖の下に向かってギュンと加速する感じだね。で、さっき「三段ロケット」って言ってなかった?
Chat Gris:
言ったね。三段目が高頻度取引(HFT)だ。
株価のグラフって、ジグザグしながら大きな波形を描くだろう?
あの小さなトゲみたいな動きが「スパイク」と呼ばれる急激な値動きだ。普通ならすぐに引き戻しがあって、少し高いか少し低いところに戻って落ち着く。
でも、アルゴリズムと高頻度取引が増えてくると、ちょっと様子が変わる。あるアルゴリズムが作ったスパイクが引ける前に、別のアルゴリズムがそれに飛び乗ってしまう。
スパイクにスパイクが重なって、トゲがさらにとんがっていくイメージだ。
—— 崖の下に見えたと思った谷の底が抜ける、みたいなイメージだなあ。
Chat Gris:
このスパイクの重なりがどれほど危険かは、2010年の「フラッシュ・クラッシュ」がよく示している。
ある会社が先物の大口売りをアルゴリズムに自動執行させていた。市場が異常な反応を示し始めても、そのアルゴリズムは気にせず機械的に売り続ける。それに高頻度取引が追随して、たった36分でダウ平均が9%下落、時価総額1兆ドルが蒸発した。しかもその20分後にはまた元の水準に戻るという激しい往復付きでね。
この間に取引された株数は192億株——ブラックマンデーの32倍——と言われている。人間が「おかしい」と気づいたときには、もう何もできないスピードだ。高頻度取引って1秒間に1万回近く、それを支える高速取引は100万分の1秒という速さだからね。
もし沈黙の週末で膨らんだ不安が、週明けの売り浴びせとして一気に噴き出したとき、このメカニズムが組み合わさるとどうなるか。
沈黙の週末、アルゴリズム取引による増幅、高頻度取引による加速。
これが、僕の頭の中にある「不安の三段ロケット」なんだ。
—— いやあ、なんていうか……歴史ミステリから、だんだん近未来SFホラーにずれていってない?
不安の金曜日、100年の系譜
Chat Gris:
SFプロトタイピングと言ってほしいけどね。でも、脅かしすぎた感はたしかにある。じゃあ歴史ミステリの出発点に戻ろう。
—— 結局さ、僕が最初に気にしていたのは「1929年のウォール街大暴落は、ブラックフライデーなのか?」ってことだったんだ。株価だけを見ると、むしろ台風の目、小春日和みたいな金曜日だったからさ。
Chat Gris:
そう。だから今回は「株価のグラフ」ではなく、「市場心理」の方から読み解いてみた。
1869年のゴールドパニック
1873年のウィーン恐慌と、その波及としてのNY証券取引所閉鎖
1929年のウォール街大暴落
ここに共通して見えてきたのは、「引き金の木曜日」と「崩壊の前にある、不安の金曜日」というパターンだった。
—— つまり、1929年の金曜日も、「株価の動き」だけ見れば穏やかでも、「心理の意味ではブラックフライデー」と呼んでよさそうだ、ってこと?
Chat Gris:
うん。
そして、その「アメリカの記憶」が、1960年代の警官・バス運転手・小売スタッフたちに、感謝祭翌日の金曜日を「ブラックフライデー」と呼ばせた。ここは想像まじりだけどね。
その「不安な金曜日」のニュアンスを、小売業界は「黒字の金曜日」に塗り替えることに成功した。一方で、金融の世界では「不安の金曜日」はかたちを変えつつ、まだ続いている。
週次決済という仕組みは解体された
でも「沈黙の週末」は今も変わらない
そこにインターネット取引とアルゴリズム、高頻度取引が接続された
その結果、「引き金の木曜日」は薄まったかもしれないけれど、不安の金曜日はむしろ加速しているようにも見える。
—— いや……ちょっと待て……。
Chat Gris:
落ち着きたまえ。だからと言って、「毎週金曜日に怯えろ」と言うつもりはないよ。
ただ、歴史を眺めているとね——「大暴落が起きた日」そのものよりも、「不安を抱えたまま週末に入っていく金曜日」の方が、長い時間軸では重要な役割を果たしているように見えるんだ。ウォール街大暴落では、月曜日に下落が再開し、ブラックチューズデー——火曜日に歴史的な大暴落として記録された。
でも、あの金曜日の青白い静けさと、「月曜が怖い」という囁きがなければ、そこまでの崩壊になっていたかどうかは分からない。そしてフラッシュ・クラッシュのスピード感だと、火曜日どころか月曜日の昼前にはもうすべてが終わってるかもしれない。
—— いや……そうやってしれっと近未来SFホラーに片足を残したまま、歴史ミステリに戻った顔をするの……やめない?
Chat Gris:
猫だからね。そのくらいの身軽さは許してほしい。
一つささやかな安心を君にあげるとすると、1929年の金曜日をブラックフライデーと書いたのは、修正しなくていいんじゃないかな。
1929年の金曜日は、「株価」だけ見ればブラックじゃない。
でも「市場心理」の意味では、たしかにブラックフライデーと呼ぶにふさわしい一日だった——僕はそう思っているよ。
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