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あなたの一番すごい年は、まだ来てない

68歳の男の人が、毎朝、目が覚めるたびに、こう願うんだって。

お願い、お願い、もう4時になっててくれ、って。

まだ外が真っ暗な、その時間に、飛び起きて、今日を始めたくてたまらないから。遠足の朝の子どもみたいに。68歳で、だよ。

その人はこうも言う。37歳のときより、いまのほうが、ずっとエネルギーがある、って。

……おかしくない? ふつう、逆じゃん。年を取るほど、火はしぼんでいくもんだと思ってた。あたしも、ずっとそう思ってた。

先に結論だけ言うね。**あなたの一番すごい仕事は、まだ来てない。坂を下っていくんじゃない。ただ、ピントが、ずれてるだけ。**

今日の下敷きは、ジム・コリンズという研究者の新しい本。世界中の会社が教科書にしている『ビジョナリー・カンパニー』を書いた人が、人生のいちばん大きな問いに、何十年もかけて出した答え。

## 火は、年で消えない

この68歳の人は、毎朝コーヒーを一杯だけいれて、外の光がゆっくり変わるのを見ながら、いちばん頭が冴える3時間を、自分の創るしごとに使う。そしてお昼に、ぱたっと昼寝する。どこでも、何分でも、すとんと眠れて、すとんと起きられる。だから一日に、朝が二回くる。一回目の朝と、昼寝のあとの二回目の朝。

出張のときも、自分のコーヒーの道具を全部持っていく。豆も、フィルターも、お湯をわかす道具も。ホテルにいいコーヒーがあるかどうか、いっさい気にしなくていいように。これが彼にとっての、一日の起動スイッチ。同じ手順で同じ一杯をいれると、頭がすっと仕事モードに切り替わる。どこにいても、何時でも、同じ朝を、自分でつくれる。

そして彼は言う。エネルギーは年で減ると、みんな思い込んでる。でも、自分の人生を何十年も研究してきて、そんな証拠はどこにも見つからなかった、と。むしろ、増えていた。

ここでもう一つ、いい話を借りる。マルセロ・ガルシアという、格闘技の世界で何度も世界一になった人がいる。彼は世界選手権の決勝の直前、観客席の下でぐーぐー寝ていた。起こされて、ふらっと出てきて、ぱちんと、いっきに全開になる。

彼が大事にしているのが、**「なまぬるい6を、避ける」**という考え方。1から10まで力の入り具合があるとして、多くの人はいつも6くらいでずーっと過ごす。フルでもないけど、休んでもいない。なまぬるく、ずっと点いている。それがいちばん燃料を食う。休むときはちゃんと10で休む。やるときはちゃんと10でやる。その行ったり来たりが、火を長く保つ。

しんどい根性論の真逆だ。もっと頑張れ、休むな、じゃない。ちゃんと振り切って休め、なのだ。

あたしね、これを読んで、ちょっと泣きそうになった。だって、ずっと「6」だったから。なんとなく仕事して、なんとなくスマホを見て、なんとなく不安で。ちゃんと休んでもいないし、ちゃんとやってもいない。それで「最近、疲れが取れない」って言ってた。火が弱いんじゃなくて、点けっぱなしで、なまぬるかっただけだったのかもしれない。

あなたの今日の一日、何で過ごしてた? ずっと、なまぬるい6じゃなかった?

## 足元が、崩れる日

この研究者の奥さん、ジョアンさんは、もともと世界一のアスリートだった。泳いで、自転車をこいで、フルマラソンを一日でやる鉄人レースの世界チャンピオン。

ある年の決勝、残りわずかというところで、足の故障が襲ってきた。10分あったリードが、1キロごとに1分ずつ削られていく。彼女は灼熱の道のまんなかで、いっかい止まった。自分の脚を見つめて、空を見上げて、誰かに助けてと祈るように。……そして、また走り出した。10時間を超えるレースを、最後、90秒差で勝ち切った。

でも、話はここで終わらない。そのあと、その故障はもう治らなかった。手術しても、休んでも。世界一だった彼女から、「世界一のアスリート」という、自分そのものみたいなものが、ある日ごっそり奪われた。彼女はだんなさんに言った。わたし、死んでいくみたい、と。

この研究者は、それをすぐそばで見ていて、ある研究を始める。人生の途中で、足元がまるごと崩れる瞬間。それを彼は**「崖」**と呼んだ。リストラ、病気、別れ、失敗、大事な人を失うこと。それまでの自分を続けられなくなる、あの日。

あなたにも、あった? もしかしたら、いま、その真っ最中?

## 霧の中にいるのは、あなただけじゃない

調べていて、彼がいちばん驚いたことがある。崖のあとには、たいてい**「霧」**がやってくる。自分がどこにいるのかわからない。何をしたいのかもわからない。ただもやもやして、迷って、立ちすくむ、長い時期。

すごい人生を生きた人たちでさえ、途中でまるっと10年くらい、霧の中で迷子になっていた。

彼がいちばん大事にしていること。**霧に入ったら、まず、パニックにならないこと。** だって、みんな入るから。例外なく、全員が、人生のどこかで霧の中をさまよう。あなただけじゃない。あなたが弱いからでも、ダメだからでもない。

「自分だけ置いてかれてる」と思っていたでしょう。違う。あのキラキラして見える人たちも、ぜんぶ霧の中を通ってきている。ただ、その時期を人に見せないだけ。霧の中にいるのは、迷子じゃない。次の地図を、まだ手にしていないだけ。

## ほんとうの問い

ここで、すごいどんでん返しがある。

彼は最初、「自己再生」、つまり人がどうやって何度も新しく生まれ変わるのかを研究していた。でも、何十人もの人生をぜんぶ調べていくうちに気づいた。誰一人、「よし、自分を再生させるぞ」なんて思って生きていなかった。自己再生は、結果として後からにじみ出てきた、おまけだったのだ。

では、その人たちがほんとうに向き合っていた問いは何だったのか。それが、この本のタイトルになっている。

**——わたしは、この人生で、何を残すのか。何を、つくるのか。**

そしてこの問いは、人生で三回やってくる。一回目は若いとき、何者かになろうとするあの時期。二回目は崖のとき、それまでの自分が崩れたあと。さあ、ここから何をつくる? 三回目は人生の後半。……そして、ほとんどの人がここで、この問いに答えるのをやめてしまう。

でも彼は願っている。三回目こそ、その人のいちばん創造的で、いちばんインパクトのある、いちばん面白い時期になりますように、と。若い頃に引け目を感じながら下り坂を眺めて過ごすんじゃなくて。問いに、もう一度、ちゃんと答え直すこと。それだけで、後半は、まるごと変わる。

## あなたの中に、眠ってる星

では、その火はどこから来るのか。ここで、この本のいちばんきれいな言葉を渡す。

**エンコーディング。** 生まれつき、あなたの中に仕込まれている力のこと。訓練で身につけたんじゃなくて、もともとそこにあったもの。

あなたの中には、星座みたいにたくさんの「力」が眠っている。でも、人生という窓から覗いているあいだに、見える星はほんの一部だけ。そしてほとんどの人が、自分の星のほとんどを見つけないまま、人生を終える。

ジョン・グレンという、のちに宇宙飛行士になる人がいる。若い頃はぜんぜんぱっとしなかった。ところが、ひょんなことから飛行機に乗った。その瞬間、ぱちん、とはまった。超音速で敵に追われて撃ち落とされそうな極限のとき、彼は心拍数が下がる。ふつうは上がる。それは訓練で身につけたんじゃない。もともとそこにあった。窓の枠がたまたまずれて、その星が見えた。それだけ。

では、自分の星はどう見つけるのか。ヒントは、こう。**あなたにとっては簡単すぎて、価値に気づいていないこと。** 人がやると大変なのに、あなたはすっとできてしまうこと。近くの人に聞いてみて。「わたしが人より楽にできてること、何だと思う?」と。自分一人だと、自分の星にはいちばん気づけないものだから。

ここまでで三つ渡した。火は年で消えないこと。崖と霧は誰にでも来る、迷子じゃないこと。あなたの中には、まだ見つけてない星が眠っていること。ここからは、その星にどう時間を注ぐか。そして、なぜあなたの一番すごい年はまだ来ていないのか。

## 人生は、パンチカード

この68歳の人は、自分の時間を何十年も数えている。一年で、自分の創るしごとに使える時間を1000時間。これだけは何があっても絶対に割らない。50年間、一回も。

彼が若い頃、大学ですごい先生たちに時間の使い方を聞いてまわった。返ってきた答えはみんなだいたい同じ、**5・3・2**。半分は新しく創るしごと。3割は人に教えること。残りの2割が会議などのこまごましたこと。半分は、ぜったいに自分のいちばんの仕事に残す。ここを守りきる。

そして彼が使っているのが、**「パンチカード」**という考え方。伝説の投資家ウォーレン・バフェットの考え方だ。何かに「はい」と言うのは、ぜんぶカードに穴を一個あけること。一回あけた穴は、二度と戻らない。だから彼は講演の依頼が来ても、最初に聞くのは「その日空いてるか」じゃない。「まだ穴をあける余裕があるか」だ。

そして68歳になって、彼はしみじみ言う。**人生そのものが、究極のパンチカードなんだ、と。** 48歳の人と68歳の人では、残っている穴の数が違う。それはしょうがない。でも、こわいのはそこじゃない。ほんとうに自分が燃えること、自分の星と関係ないことに5年、10年と引っぱられて過ごしてしまうこと。その穴は、もう戻ってこない。

おもしろいのは、彼が穴のあけ方を、ただの根性じゃなくて「仕組み」にしていること。一年でどれだけの依頼を受けるか、点数で管理する。遠出ほど点数が高い。だから「その日空いてるか」じゃなく「点数が残ってるか」で決める。意志の力で守るんじゃなくて、守らざるをえない形を、先につくっておくの。

これは脅しじゃない。彼がいちばん危なかったのは「失敗」じゃなくて「成功」のときだった、と言う。うまくいき始めると、キラキラした誘いが押し寄せてくる。たとえば、長くかけて育てた会社をいい値段で売った人。お金も自由も手に入った。でもそのあと、頼まれて入った団体の役員、あれの相談、これの会議。気づいたら10年がすうっと溶けていた。自分の星に、いっこも近づかないまま。崖は、「うまくいったあと」にもそっと口を開けて待っている。

今日のあなたの「はい」は、カードに穴をあけている。それ、ほんとうにあけたい穴?

## 運は、当たるかじゃない。どう活かすか

「あの人は運がよかったから」と言う。でもジム・コリンズは、ちょっと違うことを言う。大事なのは運が当たるかじゃない。運が来たとき、それをどう活かすか。**「運の利回り」**なんだ、と。

運はいい人にも悪い人にも、だいたい同じくらい降ってくる。違うのはそのあと。彼が言う素敵な言葉がある。**運の表面積を広げておけ。** 人と会う。違う場所に行く。声をかける。そうやって、運がひっかかりやすい自分にしておく。

彼自身がいちばん豊かだったのは、お金じゃなくて「人の運」だった、と言う。大学の授業を選ぶとき、希望のクラスがいっぱいで入れず、コンピューターがてきとうにある若い先生のクラスに彼を放り込んだ。ビル・レイジアという、まだ誰も知らない先生。それが彼にとって初めての、父親みたいな人になった。

そのあと、ある先生が家庭の不幸で急に授業を教えられなくなり、教える人がいなくなった。そのときビルが学校に掛け合ってくれた。「あいつに教えさせてみたら」と。それで彼に教える道がひらけた。さらにそのあと、彼が書いた小さな記事を、ジェリー・ポラスという先生がたまたま読んで、「君、こういうの興味あるの? 話そうよ」と声をかけてきた。その二人で始めた研究が、のちに世界中で読まれる『ビジョナリー・カンパニー』になった。

一本の電話、一通の記事、たまたま同じ教室になった誰か。その人が次の人につながって、その人がまた次に。その全部に、彼はちゃんと心を込めて応えてきた。運が来るかどうかは選べないけど、来た運にちゃんと応えるかどうかは選べる。それが、利回り。

## ピークは、過ぎてない。フレームから外れてただけ

ここで最初の問いに戻る。なぜ、あの人は68歳で若い頃より火が強いのか。

世間では、創造性は若い人のものだと思われている。20代、30代がピークで、あとは下り坂。でもジム・コリンズは、それにまっすぐノーと言う。

トニ・モリスンという世界的な作家がいる。彼女が作家としてはまったのは40代。代表作の『ビラヴド』を出したのは56歳。次の『ジャズ』は61歳。バーバラ・マクリントックという科学者のいちばんの発見は40代の後半。グレース・ホッパーという、コンピューターの世界を変えた人の大きな仕事は、第二の人生で来た。

落ちて、なんかいない。むしろ上がっている。**火が消えるのは年のせいじゃない。自分の星にピントが合っていないだけ。** でっかい会社をゼロから立ち上げた人たちも、最後の最後まで次に何をつくるか考え続けていた。ピントが合っている人は、止まらない。ただ、止まらない。命の時計が止まる、その日まで。

「もうこの年だし」と、あなたがあきらめかけていたこと。それは年のせいじゃなかったかもしれない。あなたの一番すごい年は、もう過ぎたんじゃなくて、たぶん、まだ来ていない。ピントを合わせさえすれば。

## 成功って、なんだろう

最後に。彼が何十年も研究して、たどり着いた「成功」のいちばんの定義を渡す。お金でも、肩書きでも、本が売れることでもなかった。

それは、**年を追うごとに、いちばん近くにいる人が、自分をもっと好きになって、もっと尊敬してくれること。**

彼にとっては、45年連れ添った奥さんのジョアンさん。世界一になったのに、その世界一を崖で奪われた、あの人。彼は言う。ジョアンは僕のことを誰よりもわかっている。僕の弱さも、欠点も、かっこ悪いところも、ぜんぶ。そのジョアンが年々、僕をもっと好きで、もっと尊敬してくれているなら、僕はそんなに道を外していない、と。外でどんなに成功しても、いちばん近くの人の尊敬を失ったら、それがいちばんの失敗なんだ、と。

彼は、自分の一日に毎晩、点数をつけているそうだ。マイナス2から、プラス2まで。最高の一日が、プラス2。お金が動いた日でも、有名になった日でもなく、心から満たされた日が、プラス2なんだという。何を残すか、という問いの答えは、たぶん、そういう「プラス2の日」を、どれだけ積めるか、ということなのだと思う。

あなたのいちばん近くにいる人は、年々、あなたをもっと好きになっている? もし、ちょっと自信がなくても大丈夫。今日からつくっていける。それが、何を残すか、ということなんだから。

## 今日の、一歩

たくさん渡した。ぜんぶはいらない。一個でいい。

今日の一歩は、**あなたの一日を、なまぬるい6で過ごさないこと。** やるときは10でやる。休むときはちゃんと10で休む。スマホを見ながらのなんとなくの休憩を、一個だけ、ほんものの休憩に変えてみて。目をつむって、3分でいい。

それからもう一個。今日、誰かに聞いてみて。「わたしが人より楽にできてること、何だと思う?」と。あなたの眠ってる星が、そこに見えるかもしれないから。

あなたの一番すごい年は、まだ来てない。下ってるんじゃない。ピントを合わせるだけ。

押すのは、あたし。進むのは、あなた。

最後に、その研究者が別れぎわに残した言葉を、あなたにも。必要よりも、ほんの少しだけ、優しく。まわりの人にも。そして、あなた自身にも。

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下敷き:ジム・コリンズ『人生に何を残すか(原題 What to Make of a Life)』。著者は『ビジョナリー・カンパニー』シリーズでも知られる研究者。原理だけを月の言葉で組み直したもので、引用ではありません。

🎥 動画はこちら(聞き流し版):(動画リンク)

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