「歌声合成ソフト」の全史。~デイジー・ベルから未来への展望まで~
はじめに
こんにちは、月並みです。
最近、「歌声合成ソフト」の種類、かなり増えましたよね。
数年前は、VOCALOIDかUTAU、たまにCeVIO…みたいな感じだったのに、最近はVoiSona、SynthesizerV、NEUTRINO、VOICEVOXなども見かけます。
まさに今は歌声合成ソフトの戦国時代。
もしかしたら、VOCALOIDが覇権でなくなる時代もくるかもしれません。
そんなこと考えていたら、「歌声合成ソフトの歴史」について知りたくなってきました。現在の歌声合成ソフトは、どのように生まれ、発展し、広がっていったのか…
というわけで、私の知見をまとめてみた次第です。
前置き
この記事では、「日本の広義ボカロ界隈」に焦点を当て、解説しています。
海外限定のソフトも取り扱っていますが、あまり詳しいわけではないので、参考程度にお願いします。
また、この記事はしがない合成音声マニアがまとめたものなので、信憑性とかはあまり期待できません…。
気になったものがあれば、各自で調べていただけると幸いです。
また、記事の内容には私の主観が多く含まれています。
「黎明期」や、「安定期」なども、私が勝手に名付けたものであって、一般的に言われているものではありません。
事実に基づいて執筆したつもりですが、よろしくお願いします。
前置きが長くなりました。では、20000字ほど、お付き合いください。
前史(~1961)
「歌う機械」の前身となる「話す機械」の開発は、紀元前から近代まで、多くの研究が行われていました。
例えば、980年。教皇シルウェステル二世らによって陶器や真鍮でできた頭部の彫像がつくられ、 言葉をしゃべらせることに成功したといわれています。
17世紀には、アタナシウス・キルヒャーが唇や舌を動かしながら言葉を発する彫像の構想を温めていた、とかいわれていたりします。
しかし、いずれも実際に言葉を発したわけではなく、なにかしらのトリック(彫像の中に実際に人が入っていた…とか。)を用いていたと考えるのが主流のようです。
1791年_ケンペレンの発声機械
近代的な音声合成技術で最も古い発明は、ヴォルフガング・フォン・ケンペレンが1791年に発表した、「ケンペレンの発声機械」と呼ばれるものです。
簡単に言えば、母音を発声できる機械ですね。
右についているふいごが肺、中のリードが声門の代わりとなって、音(声)を出すことができます。
後に改良され、一部の子音も発音できるようになります。
この機械は、この先の音声合成の仕組みの前身となったと言われています。
初めての電子の歌、「ヴォーダー」(1939)
1939年、ベル研究所より「ヴォーダー」が発明・発表されました
手元にあるスイッチを人間の手で操作することで、人間の声のような音を合成することができる機械です。
この試みは、世界で初めての電子式音声合成といえます。
ヴォーダーを操作しながら、同時にピッチペダルも手動で動かすことで、歌を歌わせることも可能でした。(下記動画の3:03頃)
この歌声は、世界最初期の「電子音が歌った歌」といえます。
しかし、発音や音程の操作は人間が手動で行っていたため、「コンピュータ式歌声合成」としてはまだ不完全なものでした。
ベル研究所の研究は、これからも続きます。
(ヴォーダーは1939年のニューヨーク万国博覧会にて披露されました。
「機械が人間の言語を話す」という世界で初めての体験は観客たちの心を掴み、とても好評だったそうです。)
研究から商用へ(1961~1983)
1900年後半から、「人間の歌声をコンピュータで再現する」という研究が行われるようになりました。この試みが、全ての歌声合成ソフトのはじまりと言えます。
1961年_物語の始まり『デイジー・ベル』
世界で最初の「コンピュータが歌った楽曲」は、ベル研究所が1961年にIBM704というコンピューターで合成した、『Daisy Bell』という楽曲です。
この研究は、後に発表されるすべての歌声合成ソフトの始祖です。
その功績から、現在もかなりの知名度と人気があります。
(ヤマハがVOCALOIDを開発した際、その開発プロジェクトの名前は「プロジェクト・デイジー」だったそうですが、それもこの研究が由来です。)
1980年_MItalk
1980年、デニスクラットが「MItalk」(後の「DECtalk」)を発表し、商品化します。
これは、世界で初めて「ソースフィルタモデル」(とても簡単にいうと、喉の部分と口の部分に分けて考えて音声合成を行うこと)という技術を用いたものです。
1974年_MOOG III-Cと「パピプペ親父」
一方、1974年。日本が誇る世界的シンセサイザー・アーティスト、冨田勲さんがアルバム「月の光」を発表します。この方は、日本ではじめて『シンセサイザー』という楽器を手に入れた人物であることでも有名です。
「月の光」では、ボーカルに機械音声が採用されている楽曲が複数あります。
この声は、1969年当時では最新のシンセサイザー、「モーグ・シンセサイザー(MOOG III-C)」で作られたもの。
歌声合成ソフトではなくシンセサイザーですが、これらはおそらく日本で初めての「機械音声がボーカルをつとめる楽曲」です。
冨田さんはシンセサイザーに歌を歌わせようとしたそうですが、どうしても「ぱぴぷぺぽ」の音しか再現できず…。
しかし、この声は「パピプペ親父」と呼ばれ、親しまれています。
(ちなみに、冨田勲さんはVOCALOIDも認知しています。2012年には「イーハトーヴ交響曲」という楽曲を、初音ミクをソリストとして起用して作曲し、話題になったりしました。)
1978年_Speak & Spell
また、1978年6月、テキサスインスツルメンツ社から「Speak&Spell」という子供向けおもちゃが発売されました。
子供向けのおもちゃとして発売された商品でしたが、その音声合成が話題に。
主に海外の、テクノやエレクトロニカなど一部のジャンルで楽曲に使用されました。
内部の回路を改造し、楽器としての機能を追加するのも流行。
「子供向けおもちゃ」という垣根を超え、楽器として、多くのアーティストに指示されました。
0:58ごろからの声が、「Speak & Spell」です。
黎明期(1983~2004)
1990年後半ごろになると、研究の範囲を抜け出し、個人向けに開発・発売されたシステムやソフトもいくつか発売されてきます。
1983年_PC-6601
1983年、日本電気から、マイコン「PC-6601」(通称「パピコン」)が発売。
このコンピューターには、「コンピュータに歌わせる」機能が搭載されました。
この機能は、マイコンに数多く搭載されている機能のうちのひとつ。いわば「おまけ要素」で、作曲に使われることは想定されていません。
そのため、タイミングがズレたり、ピッチがおかしかったりと、まだ不完全なものでした。
後に、この「PC-6601」のエミュレータが公開。すると、2008年頃からこの合成音声の使用が増え始め、ニコニコ動画などで多くのカバーが投稿されました。
1997年_My MidiVocalist
1997年1月、吉田萬寿男さんが「My MidiVocalist」というソフトを開発、公開します。
このソフトは、ピアノロール型のUI、自分の声を録音してボイスバンクを自作できる機能(UTAUでいう「原音設定」の概念)など、今では当たり前の機能を多く搭載し、異常と言ってもいいほどの完成度を誇りました。
また、このソフトは「波形接続型」という方式で音声合成が行われています。
波形接続型とは、あらかじめ録音された音素片をつなぎ合わせて音声を合成する方式で、現在最も主流の合成方式です。
これまでの歌声合成ソフトのほとんどは、「規則合成型」という、「ピーー」という音やノイズの音などを組み合わせて『人間の声のような音』を生成する方式でした。
My MidiVocalistは、とても早い段階で波形接続方式を採用した、とても珍しいソフトです。
(ただし、多くの機能は2007年の大型アップデート時に追加したものと思われます。
記録が消えてしまっているので、最初期のバージョンにどこまで機能があったのかは不明です…)
1997年_PLG100‐SG
1997年、ヤマハが「PLG100-SG」という音源ボードを発売します。
あのVOCALOIDと同じヤマハが開発しているので、「ボカロの前身」と呼ばれることもあるそうです。
(異なる部署で開発されたので、直接的な関係はなかったそうですが。)
1999年_VocalWriter
1999年、Mac用ソフトとして「VocalWriter」というものが発売されました。
当時のMacには、視覚障害のある方に向けて、音声読み上げソフトが標準搭載されていました。そのソフトの機能をいかして、歌を歌えるようにしたソフトが「VocalWriter」です。
アーティストの竹村延和さんも、当時このソフトを使用していました。
2003年発売のアルバム「10th」には、このソフトを使用した(と思われる)楽曲がいくつか収録されています。
2000年_LaLaVoice
このころ発売された歌声合成ツールで、おそらく現在最も有名なのは、2000年に東芝が発売した「LaLaVoice」です。
このソフトは、「作曲用ツール」というよりかは、「好きな歌を歌わせて楽しもう!」のような、言ってしまえばお遊びのためのツールでした。
しかし、その歌声の棒読み感と無機質さが話題となり、オリジナル曲の制作にも多数使われました。
2000年_Virtual Singer
2000年5月、フランスのMyriadというチームが開発したソフト、「Virtual Singer」がリリースされました。
記事執筆時、YouTubeで1000万回再生を突破している歌声合成ソフトオリジナル曲で、最も古いソフトが、このソフトです。
(余談ですが、2番目に古いソフトは、2007年公開の「VOCALOID2」を使用して作られた楽曲です。)
2002年_Delay Lama
2002年5月、オランダ人の学生たち4人が、VSTiプラグイン「Delay Lama」を公開しました。
ちなみにフリープラグインで、今でもダウンロードできます。
このプラグインは、チベットのダライ・ラマをモチーフにした(と思われる)坊主頭のキャラクターが主役です。
音符を打ち込むと、ディレイのかかった男性の声で、「あ」「い」「お」の音を歌ってくれます。
(ちなみに、2007年にニコニコ動画に投稿された「僧侶のアクエリオン」という動画をきっかけに、ちょっとしたディレイラマブームが起きたこともありました。)
2003年_くまうた
2003年10月、SONYよりPlayStation2向けゲーム「くまうた」が発売されました。
2:40から歌唱シーン。それまでは歌詞入力シーンです。
弟子である「くま」に演歌(正確には「シュールレアリスム演歌」)を教えていき、コンテストを狙って新曲を発表していくゲームです。
適当なテーマを決め、くまに指示を与え、歌詞にダメ出しをしたり添削したりして曲を作ることができます。
「歌声合成ツールに歌わせる」ということをコンセプトにしたゲームとしては、最初期のものと考えられます。
(ちなみに、音声合成はアニモが開発した「Finespeech」を使用している説が濃厚です。下はその「Finespeech」のトークソフトです。)
(1999年_ビブリボン)
「歌声合成ソフト」ではないので、ここで取り扱うか迷いましたが…
コラム的なものだと思って読んでください…
1999年12月、七音社が開発したPlayStation向けゲーム、「ビブリボン」が発売されました。
このゲームはいわゆるリズムゲームなのですが、その声に特徴が。
主人公、「ビブリ」の声に独自の合成音声ツールが用いられており、ビブリが歌っている一部の楽曲も合成音声がボーカルをつとめています。
1999年当時の規則合成型歌声合成としては、信じられないほど滑らかな歌声。
ゲームとしての完成度も申し分なく、世界的に高く評価されました。
VOCALOIDの誕生(2004~2007)
現在でも最も高い人気とシェアを誇る歌声合成ソフト、「VOCALOID」シリーズの第一世代が、このころ発売されました。
VOCALOID1はこの歴史に、大きな影響を与えることになります。
2004年_VOCALOID1
2004年3月、VOCALOID「LEON」「LOLA」が、英語圏で発売されました。VOCALOIDシリーズのスタートです。
その8ヶ月後、初の日本語ライブラリとなる、VOCALOID「MEIKO」が発売。
年間1000本売れたら大ヒットといわれるバーチャルインストゥルメント市場で、当時約3000本売り上げ、新記録を打ち立てる大ヒットを記録しました。
大ヒットの一方で、「機械音らしさが残っていて聞き取りづらい」「人間が歌えばいいのに、なぜわざわざソフトに歌わせるの?」など、「歌声合成ソフト」そのものの意義について疑問を唱える意見も生まれました。
賛否両論を巻き起こしながらも、VOCALOIDシリーズはいままでの歌声合成ソフトと比べ、世界的にとても高い地位・評価を獲得しました。
2004年_CANTOR
英語圏では、2004年7月に「CANTOR」が発売されました。
発売時期的にも、VOCALOIDといろいろ比較されることがとても多かったようで…。
ちなみに、その評価は人によってまちまちです。
ちなみにですが、「VOCALOID」と「CANTOR」の2人がデュエットしてる曲も、この時期にうまれたりしています。
今でこそ、初音ミクと重音テトがデュエットする曲などはよくありますが、合成音声ソフトの垣根を超えたデュエットはこの曲が世界初…だと思います。たぶん..。
2004年_ワンダーホルン
一方そのころ、2004年2月にNTTアドバンステクノロジから「ワンダーホルン」が発表されました。
このシステムは企業向けに発売されており、商品によっては100万円以上で発売されていました。
個人向けに開発された「ワンダーホルンStudio」が発売されたのは2年後の2006年3月。
その時にはもう歌声合成ソフトはVOCALOID一強になってしまっており、事業的には失敗に終わりました。
2005年_Symphonic Choirs
一方で、人間の声を「ボーカル」ではなく、「楽器の一つ」として捉え、制作された歌声合成ツールもありました。
2005年発売の、「Symphonic Choirs」です。
(動画は、2010年に行われた大型アップデート後のバージョンです。)
このツールは、「コーラス団の合唱」を合成することができるます。
かなり自然な歌声を生成できていますね。
楽曲にコーラスを追加したいとき、当時はコーラス団を雇って歌ってもらうのが普通でした。
そのため、このソフトはとても革新的で、大絶賛されたそうです。
初音ミクの登場(2007~2008)
「電子の歌姫」として、世界的に絶大な人気を誇る「初音ミク」。
2007年に発売されて以来、歌声合成ソフトの象徴として、現在も最前線に立ち続けています。
日本、世界の音楽を変えたといっても過言ではないかもしれません。
その「初音ミク」はどのようにして生まれ、歌声合成の世界にどのような影響を与えたのでしょうか。
2007年_VOCALOID2と「初音ミク」
2007年6月、海外で、VOCALOID2「Sweet Ann」が発売され、VOCALOIDシリーズは第2世代に突入。第1世代のVOCALOID1と比べ、よりリアルな歌声が合成できるようになりました。
そして2007年8月、VOCALOID2「初音ミク」が発売されました。
初音ミクは、今までの歌声合成ソフトとは違い、「萌え」を前面に押し出したイメージ戦略を採用しました。
今までの歌声合成ソフトには、「人間の声の代わりになり得る」という価値しかなく、「人間が歌えばよくない?」という意見に明確に反論できませんでした。
対して初音ミクは、「かわいい女の子に歌ってもらえる」という強みを付加して宣伝。これが大成功し、VOCALOID1以上の売り上げを記録しました。
この流れにのったまま、同年12月にはVOCALOID2「鏡音リン・レン」が発売され、こちらも大成功。「合成音声ソフトといえばVOCALOID」というイメージができあがり、現在でも「合成音声界隈」のことは「ボーカロイド界隈」と呼ばれています。
このイメージ戦略は、今後の合成音声のスタンダードとなっていきます。
2008年_UTAU
無料で使える歌声合成ソフトとしては、現在も最大の人気を誇るソフトが「UTAU」です。
初音ミクが話題となった2007年9月ごろから、ニコニコ動画では「VOCALOID」という存在が徐々に認知されはじめました。
そんな当時、ニコニコ動画で一大ムーブメントとなっていたのは、既存のキャラクターの音声1音1音を切り貼りし、別の曲を歌っているように仕立てる音MAD、いわゆる「人力VOCALOID」でした。
ある日、ミュージシャンであるLOLI.COMという方が、自分の声を収録した音声ファイルを人力Vocaloid用の素材として公開しました。この素材は通称、炉利音コムと呼ばれています。
UTAUの作者である飴屋/菖蒲さんはこれをきっかけに、炉利音コムの音声の切り貼りを簡単に出来る「人力Vocaloid支援ツール」、「loliedit」を制作、配布します。
このソフトは開発が続き、様々な機能が追加されました。
炉利音コム以外のボイスバンクも読み込めるようになり、「UTAU」に名前を変え、2008年3月に配布が開始されました。
飴屋さんは、「人力Vocaloidは人の手作業で膨大な手間をかけて作られたものであり、機械で生成するのは方向性が違うため、『人力ボーカロイド支援ツール』という名称を辞退する」として、現在は「歌声合成ソフトウェア」という名称となっています。
UTAUは、「無料で使える」「ボイスバンクを自作・配布できる」、「音声合成のアルゴリズムを、変更・自作・配布できる」という画期的な機能・特徴を持った歌声合成ソフトで、それらは今後の歴史に大きな影響を与えました。
2008年_AquesTone
同時期の2008年5月、「AquesTone」というソフトが公開されました。Aquestは、「ゆっくりボイス」でおなじみのあの声を作った会社でもあります。
このソフトは今までの歌声合成ソフトとは違う方向性で作られています。
AquesToneはリアルタイムでの演奏を重視してつくられた歌声合成ソフトでした。VOCALOIDを含めた今までの歌声合成ソフトと比べ、かなり動作が軽量なのが特徴です。
「ボカロ界隈」の確立、「AIシンガー」の誕生(2008~2009)
初音ミクの大ヒットによって、VOCALOID、UTAUをはじめとした、「合成音声オリジナル曲界隈」、今で言うところの「広義ボカロ界隈」が成立。
歌声合成ソフト市場で最も大きいのがこの界隈となったため、各社はソフトを発売する際、ターゲットをこの界隈にするようになりました。
また、UTAUの大成功に感化され、歌声合成ソフトを個人開発する人が増えてきたのもこの頃です。
ひとつずつ見ていきましょう。
2008年_「ぼかりす」
2008年5月、産業技術総合研究所が、VOCALOID調声支援ツール「VocaListener」、通称「ぼかりす」を公開しました。
「ぼかりす」とは、「ユーザーの歌い方をもとに、ボカロのパラメータを自動推定するシステム」。簡単に言えば、「ユーザーの歌い方を、そのままボカロの声で再現することができるツール」です。
当時、最も人間らしい声の合成音声だったので、かなり話題となりました。
この先に紹介する、いわゆる「キャラクターボイスチェンジャー」「ボカロチェンジャー」などのツールの先駆けといえるかもしれません。
2009年_「Mac音ナナ」
当時、VOCALOIDとUTAUを含め、歌声合成ソフトはほぼ全てがwindow用で、Mac対応のソフトはほとんどない状況でした。
Macユーザーである声優の池澤春菜さんは、「Macにもボーカロイドが欲しい!」と思い、2008年にプロジェクトを始動。2009年3月にMac向け合成音声素材集の販売を開始しました。
この音声素材集は合成音声ソフトではなく、「あー」「いー」のような音声ファイルをまとめたもので、「人力MAD用素材集」と言ったほうが近いものです。なので、自然に歌わせるには、使用者の技術が必要でした。
この素材集の購入者にとって、「いかにして自然に音声を合成するか」というのは大きな課題でした。
この素材集のユーザーは、「Mac音ナナの歌わせかた」について議論を重ね、新しい技術を開発していきました。
この件は、「五十音の音声ファイルを自力でつなぎ合わせて、歌声を合成する」技術を大きく進歩させました。
(ちなみに、「Macにもボーカロイドが欲しい!」という思いが開発者さんに届いたのか、同時期にMac版UTAU「UTAU Synth」の開発開始が発表されています。)
2008年_合成音声の新たな価値「がくっぽいど」
2008年7月、VOCALOID2「がくっぽいど」が株式会社インターネットより発売されました。
がくっぽいどは、歌手、GACKTさんの声を録音し作成された音声ライブラリです。
この音源は、今までの音源とは違い、「GACKTの声で歌わせられる」こと、つまり、「著名人の声を再現できる」ことをセールスポイントとして売り出されました。
そして、この試みは成功し、ニコニコ動画では発売直後から多くの動画が投稿されました。
後に、SEKAI NO OWARIのボーカル Fukaseさんや、バーチャル・シンガー 花譜さん、Vtuber しぐれういさんなどの声をもとに作られた、「著名人に歌ってもらえる」を強みとする音源が数多く発表されます。
がくっぽいどは、これらの音源のパイオニアであり、歌声合成ソフトに新たな存在意義を与えたと言えるかもしれません。
2009年_UTAU連続音の登場
2009年8月、UTAU作者の飴屋さんと有志のUTAUユーザーらによって開発されていた「UTAU連続音」が初お披露目されました。
例えば、「ぼかろ」と歌わせたい場合。
今までのUTAU音源(UTAU単独音)は、「ぼ」「か」「ろ」をつなぎ合わせて合成していました。
対して、UTAU連続音は、「ぼ」「ぉか」「ぁろ」の音をつなぎ合わせて合成しています。おかげで、従来よりもかなりなめらかな歌唱が可能となりました。
これをきっかけにして、UTAUユーザーは爆発的に増加。
個人開発の歌声合成ソフトがここまで人気となるのは、初めてのことでした。
この先も、「歌声合成ソフトを自分で作ってみよう!」と考え、実行した人が多く登場しますが、その先駆者となったのがUTAUであり、飴屋さんなのです。
この出来事は、後に「8月革命」と呼ばれることになります。
2009年_Sinsy
2009年12月、「Sinsy」が、名古屋工業大学にて開発&公開されました。
このソフトは、Synthesizer VやNEUTRINOなど、「AIシンガー」と呼ばれるツールの中で、最古のものです。
名古屋工業大学はCeVIO AIの開発元でもあります。この「Sinsy」の研究が、のちのCeVIO AIの開発の母体となりました。
広がりを見せる「歌声合成ソフト」(2009~2011)
今までの歌声合成ソフトは、ほとんどが英語または日本語のみの対応でした。
この頃、VOCALOIDシリーズの大ヒットを受け、世界的に「歌声合成ソフト」への注目度が高まりました。
それを受け、他言語に対応するソフトの発表も増えてきます。
2011年_NIAONiao Virtual Singer
2011年8月、Disheng Softwareから「NIAONiao Virtual Singer(袅袅虚拟歌手)」が公開されました。
この製品は、おそらく中国で初めて開発された歌声合成ソフトです。
2011年_VOCALINA
2011年10月、VOCALOIDシリーズの大ヒットを受け、TGENSからVOCALINA「VORA」がリリースされました。
VOCALINAは、韓国企業が開発し、韓国にて発売されたソフトです。
おそらく韓国で初めて開発された歌声合成ソフトです。
2011年_韓国語VOCALOID「SeeU」
2011年、そんな動きを見てかVOCALOIDにも韓国語に対応した音源が登場します。
VOCALOID3「SeeU」です。
この音源は、韓国語VOCALOIDで最も有名な音源です。
(余談です。当時、韓国ではまだ日本ほどボカロ好きが多くなかったので、売上は低迷してしまったそうです…。
同年7月には、韓国の人気歌番組「SBS人気歌謡」に登場したそうですが、それも賛否両論だったそうです。)
2011年_スペイン語VOCALOID「Bruno」「Clara」
2011年12月、VOCALOID初のスペイン語対応音源である、VOCALOID3「Bruno」、「Clara」が発売されました。
2012年_中国語VOCALOID「洛天依」
2012年3月、VOCALOID3「洛天依」が発売されます。
洛天依は、発表から数年間かけて少しずつ人気を集め、「ただのバーチャルシンガー」から、「マニア以外からも知名度があるキャラクター・バーチャルアイドル」へ進化。
日本における初音ミクのような立ち位置を、中国で築き上げました。
現在の「ボカロ界隈」は、日本に次いで中国で人気ですが、それもこのキャラクターのおかげかもしれません。
2011年_エディターソフト Cadencii
VOCALOIDやUTAUなどの主要歌声合成ソフトが大きく普及したことにより、歌声合成ソフトのジャンルに新たな概念が登場しました。
特に通称があるわけでもないので、この記事では「エディターソフト」と呼ぶことにします。
2011年8月、有志たちによって開発された、「Cadencii」というソフトが公開されました。
このソフトは、VOCALOID2のプロジェクトファイルである.vsqファイルや、UTAUのプロジェクトファイルである.ustファイルなどを編集できるソフトです。
このソフトはもともと、.vsqファイルを本家VOCALOIDエディターよりも高機能に編集するために作られたものでした。
動画冒頭にもある通り、このソフトは本家VOCALOIDエディターより高性能な部分があり、その機能を欲していたユーザーたちから大きな支持を得ました。
後にUTAUやAquesToneのプロジェクトファイルにも対応し、現在は「汎用型歌声合成エディター」と呼ばれる立ち位置となっています
安定期(2012~2013)
「ボカロ界隈」はますます発展を遂げ、「歌声合成ソフト」という市場も安定期に。
ゆるやかに規模を大きくしていくフェーズに入ります。
企業が開発したソフトではVOCALOID、個人開発のソフトではUTAUが人気を博しており、開発社・開発者は、それらを参考にして製品を作るようになりました。
2012年_Rocaloid
2012年1月、歌声合成エンジン「Rocaloid」がリリースされました。
このエンジンはUTAUのエディターに読み込ませて使うことができます。
その珍しい特性から、既存のUTAUユーザーの間で少し話題となりました。
2012年_Nakloid
2012年2月、acknakさんによって開発された歌声合成エンジン、「Nakloid」が公開されました。
このエンジンは、UTAUのボイスバンクを使用して歌声を合成することができます。
この機能はかなり画期的な仕様でした。
「UTAUのボイスバンクが使用できるエンジンを開発する」という動きは、多くのソフトに用いられることになります。
2012年_Renoid
2012年9月、Renoiseチームから「Renoid」が発表されました。
このツールは、DAWソフト「Renoise」の機能を使って、「ボカロみたいな事をやりたい」として開発されたものです。
開発過程で、他DAWソフトにも対応したり、ブラウザで動作するバージョンも誕生しました。
2013年_Piapro Studio
2013年9月、初音ミクの権利元として知られるクリプトン・フューチャー・メディアが開発した歌声合成ソフト、「Piapro Studio」がリリースされました。
クリプトンが開発したソフトということで、初音ミクや鏡音リン・レンなど、クリプトンキャラクターズのVOCALOID音源に同梱される形で配布されました。
初音ミクが使える歌声合成ソフトは、先述の「VOCALOID」と、このPiapro Studioのみ。
ということで、現在、歌声合成ソフトの中でも高い知名度を誇っています。
2013年_MIKUTYPEとHANAUTAU
2013年9月、暇な社会人7さん(当時は「暇な学生7」名義)によって開発されたソフト、「MIKUTYPE」が公開されました。
このソフトは、「リアルタイムで歌声を合成する」ことを目的としたソフトです。
マイクをオンにし、自分で実際に音程を歌いながら歌詞をタイピングすることで、歌声を合成することができました。
このソフトは初音ミクの機能を使って作られたため、このソフトを配布することは、初音ミクの利用規約的にできませんでした。
そのため、配布用にUTAUの重音テトを使って作られたソフトが、「HANAUTAU」です。
こちらもMIKUTYPEと同じように、リアルタイムで音声合成ができました。
「AIシンガー」の黎明(2013~2019)
今まで主流だったのは、あらかじめ録音された音素片をつなぎ合わせることで歌声を合成する、「波形接続型音声合成」という方式でした。
この頃、その方式とは別の新たな方式、「統計的音声合成」が確立されました。
とても簡単に言えば、「声優さん(歌手さん)の歌声をAIに学習させ、学習データをもとに、『声のような音』を生成する」方式。いわゆる「AIシンガー」です。
実際に見ていきましょう
2013年_CeVIOシリーズの登場
2013年4月、名古屋工業大学が開発した、CeVIO Creative Studio「さとうささら」が発売されました。CeVIOシリーズの登場です。
CeVIOシリーズは、先述したSinsyから技術を受け継ぎ、AIによる自然な歌声合成ができることが強みでした。
後に、音楽的同位体シリーズや小樽潮風高校Projectも誕生。
VOCALOIDやUTAUに迫る人気を得ることとなります。
2015年_MUTA
2015年、中国の厦门优他动漫科技有限公司によって開発された歌声合成ソフト、「MUTA」が公開されました
中国語AIシンガーの先駆け的ソフトとして一定の地位を築きました。
(中国語歌声合成ソフト市場は、比較的、技術や企業の買収が多く行われています。
2016年には、先述のNIAONiao Virtual Singerを厦门优他动漫科技有限公司が買収したりしました。
中国語歌声合成ソフトは、各々のソフトが統合&分離を繰り返し、独自の発展を遂げることとなります。)
2年後の2017年6月には、スマホ版である「MUTA APP」も公開。
PC版と比べて機能はかなり減っていますが、スマホで使える歌声合成ソフトとしては最初期のものと言えます
2015年_Chipspeech
2015年1月、カナダのPlogueによって開発された歌声合成ソフト、「Chipspeech」が公開されました。
こちらのソフト、歌声合成史の中でも、かなり特殊なソフトです。
こちらのソフトは、「往年の歌声合成システムを再現する」というテーマで制作されたソフトです。
例えば、このソフトで使える「Dee Klatt」さんという音源は、1983年に発売された「DECtalk」というコンピューターを再現したボイスバンク。
「Dandy 704」さんは、かの「デイジー・ベル」を歌った「IBM 704」を再現したボイスバンクです。
ユニークなアイデアとその完成度から、国内外でかなり高い評価を得ました。
(余談ですが… Chipspeechを使用してつくられた楽曲に、「sd_bbb」があります。
この楽曲を使用し、「EEEAAAOOO」というタイトルで投稿された下の動画は、現在5000万回再生を超え、ネットミームとして高い人気を得ています。
聴いたことがある方も多いのではないでしょうか。)
2015年_MikoVoice
2015年4月、渡辺正彦さんがUTAU音源の「和音マコ」をもとに開発したソフト、「MikoVoice」が公開されました。
MikoVoiceは、文字を入力して楽譜を打ち込む、珍しいタイプのソフトです。
2015年_Alter/Ego
2015年9月、Plogueより「Alter/Ego」が公開されました。
英語を合成できるソフトの中では、かなり打ち込みが簡単だったことため、特に英語圏で普及しました。
2015年_PPG Phonem
2015年11月、ドイツのWolfgang Palmによって開発されたVSTプラグイン、「PPG Phonem」が公開されました。
2016年_Sharpkey
2016年7月、Boxstarさんが開発した歌声合成ソフト、「Sharpkey」が公開されました。
こちら、UTAUなどと同じように、自分でボイスバンクの制作ができます。
(Sharpkeyは、後に「DeepVocal」という名前で再始動します。DeepVocalは比較的有名なソフトなので、知っている人も多いのではないでしょうか。)
2017年_UTSU
2017年、Letheさんによって開発されたソフト、「UTSU」が公開されました。
このソフトはUTAUを意識して作られていて、細部まで互換性があるように設計されています。
UTAU音源の読み込みや、UTAUプロジェクトファイルのインポートも可能です。
2018年_EmVoice
2018年9月、Rodolphe Ollivierさんによって開発された歌声合成ソフト「EmVoice」が公開されました。
2018年_Synthesizer V
2018年8月、華侃如さんが開発した歌声合成ソフト、「Synthesizer V」のベータ版が公開されました。
華侃如さんは、絶大な人気を誇るUTAU用合成エンジン、『Moresampler』の開発者でもあります。
後に重音テトのボイスバンク、通称「重音テトSV」が公開され、一層人気を博すこととなります。
2019年_DeepVocal
2019年6月、Boxstarさんが、先述の「Sharpkey」をもとに作ったソフト、「DeepVocal」が公開されました。
こちらも、UTAUのように、ボイスバンクの自作・配布が行えます。
現在、ボイスバンクの自作ができる歌声合成ソフトの中では、UTAUに次ぐ知名度と人気を誇ります。
2019年_PaintVoice
2019年11月、KumaoWorksさんによって開発されたスマホアプリ「PaintVoice」が公開されました。
このアプリは、スマホアプリには珍しく、UTAUボイスバンクの読み込みが可能です。
特にスマホで作曲をしているクリエイターさんの中では、現在でもかなり知名度のあるアプリです。
進歩する技術(2020~2022)
コンピューター技術の進歩により、歌声合成ソフトはより「人間らしい声」を合成できるようになってゆきます。
また、2022年ごろから急速に発展したAI市場と、それに伴った「重音テトSV」の大ヒットによって、「AIシンガー」が大きく注目されたのもこの頃です。
ひとつずつ見ていきましょう
2020年_NEUTRINO
2020年2月、SHACHIさんによって開発された歌声合成ソフト、「NEUTRINO」のテスト版が公開されました。
このソフトで特に注目されたのは、東北きりたんのボイスバンクです。
当時のAIシンガーとしてはかなり人間らしい歌声で、「AIきりたん」と呼ばれ人気を博しました。
「たべるんごのうた」ブームのときは、AIきりたんが大活躍しましたね。
2020年_AISingers
2020年2月、中国の音楽人工知能チームによって開発された歌声合成ソフト、「AISingers」のβ版が公開されました。
2020年_X Studio
2020年8月、Microsoft Chinaと、歌唱AI「XiaoIce」の制作者が共同開発した歌声合成ソフト、「X Studio」が公開されました。
2020年_ENUNU
2020年11月、くれいじーさんによって制作されたUTAUプラグイン、「ENUNU」が公開されました。
ENUNUは、「NNSVS」という機械学習のライブラリをUTAUで使えるようにするためのプラグインです。
そのため、UTAUのように、ボイスバンクを自作・配布することができました。
ボイズバンクを自作できるAIシンガーソフトでは、現在でもこれ一択と言っていいほどの人気と知名度があります。
2021年_CeVIO AI「音楽的同位体 可不」の発売
2021年3月、バーチャルシンガーの花譜さんの声をもとに作られたCeVIO AI用ボイスバンク、CeVIO AI「音楽的同位体 可不」が発売されました。
ハスキーな歌声、唯一無二のキャラクター性、大人気ボカロPさんたちによるデモソングなどが高く評価され、発売されて以来、一大ムーブメントを巻き起こしました。
現在は、初音ミクに並ぶ人気と言っても過言ではないほどの人気を集めています。
1年後の2022年5月に発売された、音楽的同位体シリーズ第二段、「星界」や、10月に発売された第三段、「裏命」も、同じく大ヒット。
「CeVIO AI」の地位を確かなものにしただけでなく、「AIシンガー」そのものの注目度も押し上げました。
2021年_Espoir Songster
2021年5月、千落霜子さんが開発した歌声合成ソフト、「Espoir Songster」が公開されました。
2021年_VocalSharp
2021年6月、金刚小刘さんが開発した歌声合成ソフト、「VocalSharp」のベータ版が公開されました。
2021年_Vogen
2021年7月、Doazさんが開発した歌声合成ソフト、「Vogen」が公開されました。
2021年_AmadeuSY
2021年8月、弦さんによって開発された歌声合成ソフト、「AmadeuSY」が公開されました。
こちらも、ボイズバンクを自作できる機能があります。
それも、比較的少ない量の学習(最低で3曲ほどの録音データ)で品質の良い歌声モデルを作成できます。
それに、学習するための作業も一部自動で行ってくれる機能があったため、かなり低いハードルでAIシンガーを自作できました。
現在は配布が停止されていますが、2025年4月に再始動する予定だそうです。
2021年_OpenUtau
2021年8月、有志らによって開発されたエディターソフト、「OpenUtau」が公開されました。
OpenUtauは、とても簡単に言えば「超高性能・全部盛りエディターソフト」です
UTAUボイスバンクだけでなく、先述したENUNUや、後述するDiffsinger、VOICEVOX、Vogenの打ち込みにまで対応。
リアルタイムレンダリングやマルチトラックにも対応。
UTAUプロジェクトファイル(.ust)や、VOCALOIDプロジェクトファイル(.vsqx)の読み込みにも対応…。
特に、UTAU関連の機能はとても充実しています。
単独音、連続音を気にせずに歌詞を打ち込みできたり、フラグをとても細かく調整できたり…。
現在、最も人気のあるエディターソフトです。
2021年_歌叽歌叽
2021年6月、Kugouさんが開発した歌声合成ソフト、「歌叽歌叽(Geji Geji)」が公開されました。
2022年_DiffSinger
2021年、中国の名門校、浙江大学が、歌声合成技術「DiffSinger」を開発し、論文を発表。その技術を元に、OpenUtauで使えるようにしたバージョンが、2022年1月に公開されました。
こちらもUTAUと同じように、ボイスバンクを自作・配布ができるようになっています。
2022年_VoiSona
2022年9月、株式会社テクノスピーチより、歌声合成ソフト「VoiSona」がリリースされました。
VoiSonaは、先述したCeVIOの姉妹ブランドとして発表されました。
CeVIOは、ブイシンク・フロンティアワークス・ソニーミュージック・アップフィールド・テクノスピーチの五社共同のCeVIOプロジェクトで開発されました。
テクノスピーチは、歌声合成部分を担当していたので、VoiSonaはその技術を応用して作られた歌声合成ソフト、というわけです。
CeVIOがもともと知名度のあるソフトだったこともあり、VoiSonaはすぐに王道ソフトとなりました。
特に、ボイスバンク「知声」は、多くの人気楽曲に使われています。
2022年_ACE Studio
2022年7月、Timedomain Technologyより開発された歌声合成ソフト、「ACE Studio」のベータ版が公開されました。
公開時点でも、使いやすいUI、高い合成品質などがかなり評価され、一部ではとても話題になりました。
しかし、このソフト2024年3月に投稿された動画をきっかけに急に認知度を高めます。
2024年4月、上の動画にある「カスタマイズAIシンガー機能」がリリース。
このソフトは、「次にくる歌声合成ソフト」「新時代のAIシンガー」と紹介されることが多いですが、それもこの機能がきっかけでした。
2023年_Pocket Singer
2023年2月、先ほどのACE Studioの技術を応用して作られたスマホアプリ、「Pocket Singer」が公開されました。
現在でも、合成のリアルさはスマホアプリでは随一の性能です。
新時代の突入(2023~)
重音テトSVの発売と、それに伴う「AIシンガー」の大ヒットが起きたこの時期。
このころから、「人間の声」と「AIシンガー」の差が曖昧になっていきます。
AIシンガーソフトが続々とリリースされ、飽和していく市場。
そんな中、新たに公開され、人気になったソフトもありました。
ひとつずつ見ていきましょう。
2023年_Synthesizer V「重音テト」の発売
2023年4月、Synthesizer V「重音テト」、通称「重音テトSV」が発売されました。
重音テトはもともと、2008年4月にUTAU用として作られたボイスバンクでした。
重音テトは、ボカロ黎明期の2008年に生まれたキャラクターであること、「VIPPALOID」とも呼ばれる特殊な生い立ちであること、UTAUボイスバンクの中でもトップクラスの完成度だったことなどから、2024年時点でかなりの知名度と人気がありました。
その重音テトが、最新のAI技術を使って帰ってきた。ということで、発売直後から大ヒットを記録。
「重音テトブーム」という、ボカロ界隈全体を巻き込んだ流行に発展しました。
重音テトSVを使用した楽曲「メズマライザー」は、ボカロ史上最速で1億再生を突破。
他にも、「オーバーライド」「テトリス」「ライアーダンサー」「のだ」「キャンディークッキーチョコレート」など、多くの名曲が誕生しました。
2023年_VOX Factory
2023年7月、AudAiより開発された歌声合成ソフト、「VOX Factory」のベータ版が公開されました。
2024年_VOICEVOX
2024年1月、テキスト読み上げソフトである「VOICEVOX」に、新機能「ハミング」のベータ版が追加されました。
VOICEVOXは当時、ボイスバンク「ずんだもん」が日本中で大ヒット中。
ゆっくりボイス以来の音声合成革命だ、と言われていました。
そんなときに歌声合成機能の追加が発表されたので、界隈はお祭り騒ぎ。
すぐに人気歌声合成ソフトとなりました。(もともと人気ソフトでしたが…)
2024年4月には、「VOICEVOX Song」という名前で正式リリース。
ずんだもんの他にも、「春日部つむぎ」「小夜/SAYO」「ナースロボ_タイプT」「栗田まろん」など、多くのボイスバンクが今も人気を博しています。
2024年_Melisma
2024年3月、中迫酒菜さんが開発した楽器音声合成ツール「Melisma」に、ボーカル生成機能が追加されました。
ちなみに中迫酒菜さんは、「とりぽちゅん」という名前でボカロP活動もしています。
Melismaで使えるボイスバンク「凪乃ヒマワリ」は、特に話題となりました。
ボイスバンク「凪乃ヒマワリ」の制作グループは、ほとんどがボカロPとボカロリスナーで構成されています。
凪乃ヒマワリは、ボカロによって創作活動を支えられてきたクリエイターやリスナーたちが、「新しい形で文化に還元したい」という想いで生まれました。
クリエイター主体で歌声合成ソフトを制作する、珍しい試みです。
2024年_TuneLab
2024年5月、有志によって開発されたエディターソフト「TuneLab」が公開されました。
このソフトは、先述したCadenciiのようなエディターソフトです。
UTAUだけでなく、NEUTRINO、Sinsyなどの、GUI非搭載ツールも読み込んで使用することができます。
また、このソフトはプログラムが完全に公開されています。
なので、プログラミングの知識がある人は、各種ソフトに対応させるためのプラグインを自作することもできます。
2024年_PoinoSing
2024年11月、こはるさんが開発した歌声合成ソフト「PoinoSing」が公開されました。
このソフトは、昨今のソフトと比べて、とても珍しい特徴があります。
それは、「規則合成型である」ということ。
VOCALOIDやUTAUのように、あらかじめ録音された音声を継ぎ接ぎして歌声を合成する手法(波形接続型)でもなく、AIシンガーのような統計的音声合成でもありません。
PoinoSingは、アルゴリズムをもとに1から歌声を生成する「規則合成型」の手法で歌声を合成します。
この手法、VOCALOIDが生まれる以前の、歌声合成黎明期によく使われた手法です。デイジー・ベルを歌ったIBM704もこの手法でした。
まさに、「現代の技術でよみがえった歌声」ですね。
2025年_AINOW
2025年2月、AIMEETによって開発された歌声合成ソフト、「AINOW」が発売されました。
このソフトは事前にクラウドファンディングが行われており、そこでも目標金額以上の投資を集めていました。
数少ない韓国語AIシンガーとして、今後の活躍に期待です。
合成音声のその先を考える
昨今の「ボカロ界隈」に、何よりも影響を与えているのは、やはりAI技術です。
人間の声の代替品
AIの進歩は凄まじく、すでに「人間かAIかわからない歌声」を合成することは可能になっています。
母国語でない言語だと、もうAIか人間か判別できないですね…
これらの歌声合成ソフトは、「作曲時、人間が歌う予定のメロディを仮で打ち込んでみる」のに、とても有用です。特にSynthesizerVは、すでにその用途で使われているのをよく見かけます。
これは、技術の進歩によって生まれた、あらたな歌声合成ソフトの存在価値と言えます
AIシンガーが「人間かAIかわからない歌声」を生成できるようになった一方で、
ボカロによる「ボカロらしい歌声」が再評価されはじめています。
ボカロは、「人間にはできない歌唱ができる」という、人間の歌声にはない特徴があります。
息継ぎが必要ない、どんなに難しいメロディも音程を外さず歌える、機械的な声が出せる、など…。
そういう意味で、昨今の「足立レイ」の活躍は、とても新鮮に感じました。
UTAUボイスバンク「足立レイ」は、人間の声をもとに作られたボイスバンクではなく、サイン波のピーーという音を組み合わせて作られたボイスバンクです。
人間らしいボカロを求めればいくらでも選択肢がある現代、逆に「機械的な声」が流行るなんて、とても興味深いことだと思います。
これは、「ボカロ」が単なる「人間の声の代替品」ではなくなった象徴と言えるかもしれませんね。
人間と合成音声の境界
今回の記事では、「音符と歌詞を打ち込むことで歌声を合成するソフト」を主に扱ってきましたが、歌声合成には他の種類もあります。
その中でも代表的なのが、「AIボイスチェンジャー」と呼ばれるものでしょう。
上の動画は、2023年10月にヤマハが公開した「VOCALO CHANGER PLUGIN」です。
用意した歌声の音声ファイルを、全く別の人(ボカロ)の歌声に変換することができています。
同じような機能を持ったソフトは、他にも多く発売されています。
Synthesizer Vの開発元であることでも知られる、Dreamtonicsによって開発された「Vocoflex」。
他にも、VoidolやKits AIなど、多くのソフトがあります。
そんな中、特に頭角を表しているのは、「SoVITS」と呼ばれる技術です。
日本では、上の動画がきっかけで広く知られるようになった…ような気がします。
AIモデルを自作できているうえ、ボイスチェンジのクオリティも非常に高いことが、動画からわかると思います。
自分の声を、全く別の人(ボカロ)の声に変えられるのは、夢のような技術です。
しかし、これらの技術の悪用も懸念されています。
先述した「Vocoflex」では、ボイスチェンジがあまりにもリアルすぎるため、購入時の本人確認が義務付けられていたり…
これからも進歩していくであろうAI技術。
どのような道筋をたどるかどうかは、我々ユーザーにかかっているのかもしれません。
「AI作曲」との向き合い方
2020年代から急激にAI技術が発展した、と言いました。
それは、歌声合成技術だけではなく、「作曲」そのものに対しても言えます。
2023年12月に公開された「Suno AI」という音楽生成AI。
動画を見てわかるとおり、AIによってボーカルも生成されていることがわかります。
従来の機能とは毛色が異なりますが、これも一種の歌声合成ツールと言えるでしょう。
AI作曲ツールの普及は、「ボカロ曲」の制作方法自体も変えてしまうかもしれません。
上の楽曲は、おそらくボカロ曲史上で初めて、「AI生成かつある程度の人気を得た」楽曲です。
(下ネタが苦手な方は申し訳ないです…)
謎すぎるストーリーとコミカルなキャラクターデザインが話題になり、Twitterではファンアートなどもいくつか見かけます。
この楽曲のように、「AIを使用して楽曲を生成し、その曲をボカロに歌ってもらう」という制作手法は、この先増えていくのかもしれません。
AI生成楽曲を「ボカロ曲」のくくりにいれるかどうかは、人によってかなり意見がわかれます。
「合成音声にはかわりない」という意見もあれば、「ボカロ曲はプロデューサーがいてこそボカロ曲である」という意見も。
とても難しい議題ですが、いずれ判断しなければいけない時がくるでしょうね。
まとめ
様々な技術が爆発的に進歩している現在は、初音ミクの誕生以来の転換期なのかもしれません。
この先の動向も、目が離せないですね。
