ピリカ文庫「吹雪の夜に」
むかーしむかし、ある所に与作という男がいました。
与作はものしずかではたらきもので
おっとうもおっかあも少し前にしんでしまい
一人寂しくくらしていました。
ある吹雪の晩のこと。
「そろそろ寝るべかな……」
与作がごろんと横になると
「もし……」
小さな声がして
「こんな夜ふけに誰じゃあ?」
聞いてもうんともすんとも言わないので
与作は気のせいだったかと目をつむりました。
「あの……もし……」
今度こそ声がしたので
いよいよ気になった与作は体をおこして
「こんな夜ふけに誰じゃあ?」
と聞きました。
「道に迷ってしまいまして……」
耳をそばだてると声がしたので
与作が戸を開けると
びゅぅぅぅ、びゅぅぅぅ。
「こりゃあ、えらい吹雪じゃぁ」
見るとそこにいたのは一人の女でした。
「となりの村のそのまたとなりの村へ帰る途中でしたが、道に迷うていたらこの吹雪……とても山を越えて帰れそうもありません……どうか、一晩泊めてください……」
と、その女は言いました。
その女は異様に体がでかくゴリマッチョで、すこぶる強そうだったので
与作はこう思ったのでした。
(嘘だべ……このおなごは絶対こんな吹雪ちっとも関係なしに山をみっつもよっつも越えられるはずだべ……)
生来、察しのよかった与作はこうも思ったそうで
(まちがいねぇ……こいつは……雪女だ!)
与作がまだ小さい時分に
寝るときおっかあがよく話してくれた雪女の話。
(おっかあの言ってた雪女だ!)
しかし、気が弱く、おしゃべりがとんと苦手だった与作はそれを伝えることができず
「へぇ……そんじゃ泊まっていくべ」
と女を家に入れました。
囲炉裏に火はついているのに、あまりの寒さにその晩与作はカチンコチンに凍りつきそうになるのでした。
次の日。
その女はとなりの村のそのまたとなりの村に行くことなく、しれっと
「はじめっからこの家のものでございます」
という風情でそのままいすわり、そのまま与作の家でくらしはじめました。
女はとてもはたらきもので、朝早くから洗濯をしたり与作の手伝いをしたり、そしてわりと夜は早めに寝るのでした。
とくに女の作るご飯はどれもこれもたいそううまくほっぺが落ちるほどで
働いてどんなにヘトヘトになって帰ってきても
一口食べればたちまち元気になるのでした。
「うめぇなあ……おーい、おかわり!」
「はいはい」
「そういや、おめぇの名まえを聞いてねかったな」
与作が聞くと女は少しほほを赤らめ
「小雪と言います……」
小さくつぶやくのでした。
与作は口にしていた味噌汁を吹き出し
「ネーミングセンス!」
と思わずつっこんでしまい、二人で笑いました。
そんなこんなで二人で仲良くくらしていますと
池の氷がとけ、ヒバリがピーチクさえずりはじめ、カエルが土の中からひょこっと顔をのぞかせ
「春が来ただなぁ……」
与作が思わずつぶやくと
「そうですね……」
小雪はなんだか悲しい顔をしています。
その晩、いつものように美味しいご飯を食べていると
「与作どん」
小雪が言いました。
「なんじゃあ、小雪」
与作は答えました。
「実は……わたくし……雪女なんです……」
「……」
与作はたくあんをポリポリ食べながら黙っていました。
「さぞ驚いたことでしょう…………」
「小雪やぁ」
「はい……」
与作はお尻をポリポリかきながら言いました。
「オラぁ、知ってただ」
「無理もありませn……エッ?」
顔を上げた小雪はおおきな目をさらにまんまるにして与作の顔を見ました。
与作もほそーい目をこれでもかとおっぴろげ小雪の顔を見ました。
「はじめにオラんとこ来たときから、知ってただ」
「あら……えっ……まぁ……そうでしたか……」
(´ρ`*)コホンコホン
小雪はせきばらいするとさっきまでのしんみょうなおももちにもどり
なにもなかったかのように続けました。
「それで……雪女は春になってあったかくなると、とけて水になってしまうので、里にもどらねばなりません……」
「なら、オラも行くだ」
「それはなりません」
「雪女の里に、里のものでないにんげんが来たためしはありません」
「……」
「それに与作どんが里に来たら、あっという間にこごえてしんでしまいます」
「……でも、オラ、小雪とはなれるのはイヤだべ」
「雪女が人間になる方法がひとつだけあります」
「うんうん」
「それは……好いた人とめおとになる事です」
小雪はうつむいたまんま、与作のへんじを待ちました。
おそるおそる顔をあげると
そこには、にっこにこの与作の顔があるのでした。
「そんな事だかぁ……そんなら、めおとになるべか」
「え……」
ちょっとの間、わけがわからずきょとんとしていた小雪でしたが
しばらくして、いみがわかると涙をながして
「はい」
とうれしそうに笑いました。
二人はめでたくめおとになり、しぬまでずっと仲よくくらしたそうです。
めでたしめでたし。
*
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