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「働くと損をする?」障害者雇用と障害年金が抱える構造的矛盾と、私たちが目指すべき「第3の道」

どうも、統合失調症サバイバーのつくねです。

​障害者雇用や福祉の現場に関わっていると、ある強い違和感に直面することがあります。

​「障害者雇用は障害年金の受給を前提とした給与水準になっているのではないか?」

「自立しようと努力して収入を増やすと、今度は障害年金が打ち切られるリスク(年金の壁)に怯えることになるのでは?」

​法定雇用率は引き上げられ続けていますが、制度の根本にある「矛盾」を解消しないままでは、当事者も受け入れ側の中小企業も持続可能な形にはなりません。

​この記事では、現行制度が抱えるジレンマを整理した上で、海外の成功モデルである「ソーシャルファーム(社会的企業)」の視点や、地方・農業などの現場からできる実践的な突破口について考察します。


​1. 制度が抱える「3つの構造的矛盾」

​現在の日本の社会保障と労働政策の間には、努力や自立を阻害してしまう3つの構造的矛盾が存在します。

​まず、給与単体では生活できない短時間・低賃金の設計により「年金前提の低待遇」が固定化されます。そこから自立を目指して増収やフルタイム化を図ると、今度は「年金停止リスク(年金の壁)」という逆インセンティブに直面します。結果として現場の戦力化が追いつかないまま、雇用率先行の「数合わせ」や代行ビジネスへの依存が進んでしまうという悪循環が生じています。

​① 「年金前提の待遇」と「経済的自立」の乖離

​短時間勤務や最低賃金近傍の業務が多く、「年金を受給していること」を前提に待遇が設計されがちです。結果として、働いているのに自立できないワーキングプア状態から抜け出しにくくなっています。

​② 就労がもたらす「年金打ち切りリスク(年金の壁)」

​精神・発達障害などを中心に、ステップアップしてフルタイム勤務や増収を果たすと、更新時に「日常生活・労働能力に支障がない」と判断されて年金が支給停止になるリスクがあります。「自立しようと挑戦するとセーフティネットを失う」というブレーキが働いてしまいます。

​③ 法定雇用率の引き上げと現場のミスマッチ

​雇用率という「頭数(数値)」の達成が先行し、当事者のキャリア形成や中小企業の受け入れ体制づくりが後回しになり、農園型などの雇用代行ビジネスへの依存といった歪みが生じています。

2. 「業務の切り出し」をめぐる中小企業と福祉の非対称性

​「中小企業は業務の切り出しが難しい」とよく言われますが、業務を細分化して適職を作る難しさは就労継続支援事業所も全く同じです。

​それにもかかわらず不公平感が生じる根本原因は、制度設計と収益構造の差にあります。

​就労継続支援事業所の場合

  • 組織の目的: 福祉的就労の場や支援を提供することが主目的です。

  • 支援への報酬: 利用者が通所・作業することで、国から「訓練等給付費(運営費)」が支給されます。

  • 人員体制: サービス管理責任者や職業指導員など、専門スタッフの配置が制度上義務付けられています。

​一般の中小・零細企業の場合

  • 組織の目的: 市場競争の中で自社の事業利益を獲得することが主目的です。

  • 支援への報酬: 支援に対する恒常的な公的報酬はなく、自社の売上・利益から人件費を全額捻出する必要があります。

  • 人員体制: 専任の指導係を置く余裕がなく、現場の既存社員が兼任で対応するため業務負担が集中します。

​福祉事業所には支援体制を整えるための公的報酬が出ますが、中小企業には「支援や見守りの固定コスト」を恒常的に補填する仕組みがありません。中小企業に支援責任だけを負わせる現行の枠組みでは、雇用率達成が単なる「罰則付きの義務」になってしまう限界があります。

​3. 海外に学ぶ「ソーシャルファーム(社会的企業)」という解決策

​この「一般企業か、福祉施設か」という極端な二者択一を乗り越えるモデルとして、欧州ではソーシャルファーム(社会的企業)が定着しています。

​ドイツの事例(インクルージョン企業)

​一般市場で競争する民間企業に対し、障害者の雇用割合(30〜50%)に応じて、支援員の人件費や生産性のギャップを埋める補助金を国が恒常的に支給しています。

​イタリアの事例(社会的協同組合B型)

​障害者や社会的困窮者を一定割合雇用する組合に対し、社会保険料の免除などの税制優遇と、自治体等からの「優先発注(公的調達)」を法律で保障しています。

​「一時的な助成金」ではなく、「企業が支援すること自体を国が正当に評価・継続補填する仕組み」や「官公需の優先発注」があるからこそ、企業は無理な赤字を出さず、当事者には適正な賃金とキャリアを保障できます。

​4. 地方や現場からできる実践的なアプローチ

​政策の抜本改革を待つだけでなく、地方中小企業や農業の現場から「戦力化と高付加価値化」を実現している事例には共通のパターンがあります。

​① 「新しい仕事」を作らず、既存社員から「引き算」する

​障害者のために特別な仕事を用意するのではなく、既存社員が抱える「ノンコア業務(データ入力、発送準備、清掃、検品など)」を棚卸しして束ねます。「障害者のため」ではなく、「既存社員が売上を作るコア業務に集中するための業務改善」と位置付けることで、社内の納得感と生産性が上がります。

​② 「治具(じぐ)」と「工程分解」による標準化

​静岡の農業法人のように、専用の型枠や色分けテープ、写真マニュアルを活用して「誰でも迷わず同じ品質で作れる」環境を設計します。感覚や暗黙知を排除することは、新入社員の教育コスト削減やDX・業務標準化にも直結します。

​③ 6次産業化と通年雇用の確保

​埼玉の農業法人のように、農産物の1次加工(皮むき・スライス・乾燥・瓶詰め)を取り入れることで、農繁期と農閑期の落差を解消し、年間を通じた安定雇用と高い商品単価を両立させています。

​おわりに:「個人の我慢」から「社会的な仕組み」へ

​障害者雇用の現場で起きている摩擦は、当事者の努力不足でも、中小企業の怠慢でもなく、「制度が時代の変化に追いついていないこと」に起因しています。

  • ​働いて増収してもセーフティネットが壊れない年金制度の再設計

  • ​支援に取り組む中小企業への恒常的な評価とコスト補填

  • ​現場カイゼンを通じた全社的な生産性向上

​「善意」や「個人のリスク」に頼る障害者雇用から、ビジネスとして成立し、誰もが安心して力を発揮できるソーシャルファーム型の社会へ。制度と現場の両輪からアップデートしていく時期に来ています。

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