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じゃない不倫

 自社女性社員との不倫騒動は自叙伝にも大きくページを割かれている、小久保を象徴するエピソードである。

 役員だけではなく社員たちにも激しく追求されだした頃、小久保は集会でこう弁明した。

「社内不倫と言われているがそれは大きな誤解である。私が社長業の他に趣味でカレー店、『マハラジャこくぼ』を経営しているのは知っていると思うが――」

 氷河期組、川辺がヤジを飛ばす。
「カレー屋と今回の不倫と何が関係あるんですか。簡潔に説明してください!」
「まあ話は最後まで聞きなさい。私が彼女、A子君と会っていたのは社内ではなくマハラジャこくぼ内だった。つまり、社内不倫ではなく、言うなればマハラジャ内不倫、ジャナイ不倫と言える」

 総務の桐谷が手を挙げる。
「ジャナイ不倫というのは分かりましたが、結局は不倫に変わりないのでは?」
小久保は反論する。
「不倫不倫と言うが、マハラジャは場を利用しただけであって私個人とA子君はたまたま自由恋愛に発展しただけの個人意思であって……、ん?  いや、今のはなしで。つまりは、不倫でもないプリン、プリンを二人で作っていただけなんだ」

 営業部部長の酒井が噛みつく。
「さすがに無理があるだろ!」
「いや、聞け。社内では社員の目があるから安心して話せない。メンタル的な相談の場としてマハラジャを利用したに過ぎず、精神的に支え合う関係ではあったが男女関係があったわけではない。相談をしながらプリン作りをしていたのだ」

 経理の福田が冷静に質問する。
「プリン作りをしていたという証拠はあるんですか?」
小久保は「ここにレシピがある」と胸元から一枚の紙を取り出し広げて雑にかざした後すぐにまた折り畳んで背広に入れてしまった。それがあまりにあっという間だったため会場内にどよめきが起こった。そして当然、「もっとよく見せろ!」「本当にレシピか?」「チラ見せ過ぎるだろ!」等の声が飛んだ。

 小久保はこれに冷静に対処した。
「チラ見せとの声があったが手元のアプリで計っていた結果、十九.二秒見ていただいていた。十二分だと思うが」

  水掛け論になるかと思いきや、カレー好き村上の発言に場内がざわついた。
「社長の店ってインドカレー屋ですよね? インドとプリンってあまり結びつかないのですが……本当にプリンでした?」
これにはさすがの小久保も言葉が出なかった。万事休す。しかし、意外なところから助け舟が出された。

  小久保追求派のはずの取締役田川である。
「インドにはフィルニという米粉やココナッツミルクを煮詰めた伝統的なお菓子があります。いわゆるプリンとは違いますが牛乳プリンと言えなくはないんじゃないかなと」

  これにて決着。後日、マハラジャこくぼで膝を突き合わせる小久保と田川の姿があった。手を合わせる小久保に田川が答える。
「ナマステには及びません。インド好きとして黙ってられなかっただけですから」

  小久保は騒動の後、一度辞任するがすぐに社長として返り咲くことになる。そして副社長の席には――。

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#じゃない不倫

この物語はフィクションであり、実在の人物、団体等とは関係ありません。カレーや不倫を推奨する意図はありません。

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爪毛川太 爪に火を灯すような生活をしております。いよいよ毛に火を灯さなくてはいけないかもしれません。いえ、先祖代々フサの家系ではあるのですが……。え? 私めにサポートいただけるんで? 「瓜に爪あり爪に爪なし」とはこのことですね!