さよなら、ケトル|短編|家電文学
家電文学とは・・・
日常の中で黙々と役目を果たしてきた家電の壊れゆく様に想いを馳せる文学ジャンルである。
劣化や故障、沈黙の時間を通して、人の生活や記憶の積層を静かに描き出すーー
彼との付き合いは、15年にわたる。
いつも僕をあたたかい気持ちにさせてくれる彼は、本当に働き者だったと思う。
最近は、端子の接続が悪くなっていたよね。
何度か差し込まないと、反応してくれない日もあった。
それでも彼は、まだまだ現役だと言わんばかりに、仕事をこなしていた。
実は、さよならの日は近いかもしれないと思っていたんだ。
突然その日が来たら困るから、僕は彼に内緒で、新しいケトルを迎え入れることにした。
そして、新しいケトルが我が家に到着する日の朝、彼はその役目を終えていた。
彼は、全部わかっていたのかもしれない。
15年も一緒にいると、ただのケトルとは思えない。
彼は、生活の一部だったんだ。
少し、寂しいな。
ありがとう、ケトル。
さようなら、ケトル。
作者コメント
実は彼には、兄弟がいる。
いい製品だったから、当時付き合っていた彼女と、それぞれ同じものを購入したのだ。
その後、同棲することになり、同じ二つのケトルが我が家にそろった。
ただ、さすがに二つあっても困るから、一人暮らしを始めることになった職場の後輩にプレゼントした。
その後輩がとても喜んでいたことを、今でも覚えている。
アサヌマさん、彼の兄弟は今もまだ元気にしているだろうか。
気になったけれど、それを確かめる方法はない。

(東芝電気ケトル PHK-800R(アクアブルー))
うん、何だこれ。
よくわからない文学ジャンルを生み出してしまいましたが、この不思議な世界観をお楽しみいただけたなら幸いです。
