「ベリフィケーション」という言葉
化学分析業界で「ベリフィケーション」の語は、「バリデーション済の分析法が個別の試験室で問題なく実施できるか確かめること」の意味で使われることが多いと思います。しかしこのカタカナ語はJISにも日本薬局方にも載っていません。どう使えば良いのか、そもそも使っても良いのか、考えてみました。
ISO/IEC 17025ではvalidationはverificationに包含される
ISO/IEC 17025:2017 [1]ではvalidationとverificationがそれぞれ次のように定義されています。
3.8
verification
provision of objective evidence that a given item fulfils specified requirements
3.9
validation
verification (3.8), where the specified requirements are adequate for an intended use
関係代名詞whereによって、validationがverificationの一種であることが示されています。ここで言うverificationは、日本の分析業界で言われる「ベリフィケーション」とは異なる広い概念のようです。対応規格であるJIS Q 17025:2018 [2]には「検証(verification)」と書かれています。
なお、ISO/IEC 17025:2017の定義はISO/IEC Guide 99:2007(通称VIM3)[3]に基づいています。VIM3の定義は上記と全く同じです。
ICH Q2(R2)はverificationの語を意図的に排除?
日米欧の医薬品の規格を統一する枠組み、ICHのバリデーションガイドラインの最新バージョンICH Q2(R2)[4]にはverificationの語はありません。しかし2022年3月公開のドラフト[5]の表1にverificationの語が使われていました。確定版で削除されたということで、意図的にこの語の使用を避けたと考えられます。ただし前のバージョンICH Q2(R1)にもverificationの語は無かったので、方針の変更ではなく、ドラフトに入っていたのはうっかりミスと思われます。
日本薬局方[6]はICHを踏まえています。verificationまたはベリフィケーションの語はありません。
米国薬局方(USP)では
USP[7]は有料ですが、概要は無料公開されています。1226章が「Verification of Compendial Procedures」の章です。概要を読む限り、「Verification of Compendial Procedures」は、日本の分析業界と同じ
「バリデーション済の分析法が個別の試験室で問題なく実施できるか確かめること」
の意味のようです。USPのverificationの語はVIM3やISO/IEC 17025のように広い意味ではないようです。
分析業務ではどう使うべき?
では、日本での分析業務ではどうしたら良いでしょうか。厳格にJISや日本薬局方に基づくなら、「ベリフィケーション」のカタカナ語は使えません。定義されていないからです。
また、
「バリデーション済の分析法が個別の試験室で問題なく実施できるか確かめることはverificationと呼べる」
はJISとISOに照らして正しいですが、
「Verificationとは、バリデーション済の分析法が個別の試験室で問題なく実施できるか確かめることである」
は正しくありません。Verificationは広く「検証」の意味で、こんな狭い意味ではないからです。
JIS Q 17025:2018に基づいて「検証」の意味で「verification」を使うなら、「何のverificationか」を明確にする必要があるでしょう。米国薬局方でも、少なくとも章タイトルは「公定法のベリフィケーション」と限定されており、日本の業界用語のように「ベリフィケーションといえばバリデーション済の分析法を検証すること」のように特殊な意味では使われていません。
所感ですが、JIS Q 17025:2018でverificationを「検証」と訳したのは至極当然で妥当と思われます。ここで「ベリフィケーション」とカタカナで訳してしまったら、狭い意味で使われてきた業界用語との混乱が起こりそうです。日本の公式な規格にカタカナの「ベリフィケーション」が無い以上、使うなら業界用語と理解した上で使う方が良さそうだと感じます。
引用元
[1]ISO/IEC 17025:2017 General requirements for the competence of testing and calibration laboratories
https://www.iso.org/standard/66912.html
[2]JIS Q 17025:2018 試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項
https://www.jisc.go.jp/app/jis/general/GnrJISSearch.html
[3]ISO/IEC Guide 99:2007 国際計量計測用語-基本及び一般概念並びに関連用語(VIM)
https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/?bunsyo_id=ISO/IEC Guide 99:2007
[4]VALIDATION OF ANALYTICAL PROCEDURES Q2(R2)
https://www.pmda.go.jp/files/000265998.pdf
[5]VALIDATION OF ANALYTICAL PROCEDURES Q2(R2), 2022年3月公開のドラフト(日本でのパブリックコメント募集対象として公開)
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495220045
[6]第十八改正日本薬局方
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000066530.html
[7]USP-NF/PF Abstract <1226> Verification of Compendial Procedures
https://doi.usp.org/USPNF/USPNF_M870_03_01.html
タイトル画像はCopilotで生成
