気候モデルを超えて——リスク社会のための新しい知のかたち:【前編】科学の限界と〈予測社会〉の終焉
【前編】科学の限界と〈予測社会〉の終焉
── モデルの外側で起きていることを、どう受け止めるか
1. 予測の時代から、不確実性の時代へ
私たちはいま、「予測の時代」の終わりに立っている。
これまでの社会は、科学による未来予測に依拠して、政策・産業・都市設計のすべてを組み立ててきた。気候変動問題もその例外ではない。だが近年、極地周辺の海底からメタンが放出されるなど、モデルの想定を超える“異常な現実”が次々と報告されている。
気候モデルは「分かっていること」で構成される。
言い換えれば、それは「すでに定式化できた世界」の再現装置である。だが、1.5℃を超える「動的領域」に入った地球では、非線形な変化が次々に連鎖し、未知の要素が雪崩のように出現している。
もはや、私たちは「定常領域の科学」に守られた世界を生きてはいない。
2. 動的領域の出現:モデルが外れる理由
現代の気候モデルは、歴史的に見れば驚異的な精度の集合体である。
だがその精度は、過去の安定的な環境を前提として成立していた。温暖化の進行によって、この「前提」そのものが崩れつつある。
ティッピングポイント(臨界点)は、単独ではなく相互連鎖的に作動する。
北極圏の融解がメタン放出を誘発し、それがさらに温暖化を加速させる。こうした「フィードバックの連鎖」は、指数的な加速構造を持つが、ほとんどのモデルは依然として「線形近似」に依存している。
その結果、科学モデルは構造的に過小評価する宿命を負っている。
しかもそれは「少し控えめ」程度の誤差ではなく、数倍単位での大外れになりうる。指数系の現象を線形モデルで代替するということは、理論上、誤差が指数的に拡大していくことを意味するからだ。

3. 過小評価は「誤差」ではなく「構造」
科学モデルの精度が上がれば上がるほど、
「科学が現実を正確に予測できる」という錯覚が強まる。
しかし、非線形な現実においては、誤差の小ささよりも構造の誤りこそが致命的である。
長期予測ほど外れが大きくなるのは、偶然ではない。
それは「モデルが現実を追いつけない速度で変化が進行している」ことの証明でもある。科学は参考として重要であり続けるが、もはや「科学が外れたから政策も仕方なかった」と言い訳できる時代ではない。
このパラダイムシフトを、市民社会が共有しなければならない。
科学の不確実性を前提としたリスクマネジメント社会への転換である。
それは科学の軽視ではなく、むしろ科学を現実の政治から守る方法でもある。

4. 科学からリスクへ:知のパラダイムシフト
科学とは、確実性を追求する営みである。
しかし、気候危機の時代において科学は、
「不確実性そのもの」を扱う技法へと変容せざるを得ない。
この転換を拒むことは、「予測の安心感」に依存し続けることを意味する。
だが今後の危機管理は、外れる前提のもとで耐える設計が求められる。
重要なのは、「未来を当てること」ではなく、
「未来を外したあとに、どう生き延びるか」である。
科学的モデルは、今後も政策判断の重要な参照軸であり続けるだろう。
だがその位置づけは「唯一の根拠」から「複数ある視点の一つ」へと下がるべきだ。
そして、不確実性を恐れずに統治する能力こそが、次の時代の政治的知性となる。
終わりに:責任という原理の再読
気候危機の時代とは、科学の時代の終わりではなく、
科学が「責任」の概念と再び結び直される時代である。
テクノロジーの規模が人類の生存条件を左右する時代には、
「行為の責任」が未来世代にまで及ぶ。
それゆえ、科学的知見を「政策の免罪符」としてではなく、
倫理的判断の出発点として扱う必要がある。
前編で描かれたのは、
「予測社会」から「リスク社会」への知的転換である。
後編では、この新しい時代にふさわしい政治制度——
すなわち「民主的リスクガバナンス」の思想と制度設計を論じる。
関連動画(モデルの限界等)
日本語字幕も使えます。(「字幕→自動翻訳→日本語」+字幕ON)
Sabine Hossenfelder氏(元理論物理学者)が、気候問題を心配しています。
気候科学者達が、地球の温暖化速度を体系的に過小評価しているのではないか、という疑念を持っているようです。
(見たくない現実を、見ないようにしているだけなのではないかと)2023/2024年の異常な高温は、低い位置の雲が減り、太陽光を反射しなくなったからではないか、という研究があるそうで、もしそれが一時的なものでないとすると、気温上昇は継続的に加速していくことを意味し、憂慮すべき事態だ、という話をしています。
気候モデルに組み込まれていない多くの要素が、実際には氷の融解を加速させている、という事を説明している動画です。
氷の融解は一例であり、複雑な地球環境の変化を、コンピュータ上のモデルで再現できるとは、考えない方が良いかもしれませんね。
気候モデルの予測はあくまでも一つの「参考値」程度の扱いに留め、それ以外のデータや、統計的な予測など、複数の角度からの危機管理を行う必要があるのではと感じます。
(不完全なモデル予測を「科学的予測」として扱うことは危険であると感じますね。「疑似科学」の「控えめな見積もり」を前提に実存的リスクの危機管理をするほど、危ないことはないのではないかと思います)著名科学者(但し非主流扱い)のジェームズ・ハンセン氏らは、モデルの限界に自覚的で、「それ以外の多角的証拠も重視する」姿勢を取っており、信頼できると感じます。
Geminiによる要約:
IPCCレポートと科学的根拠: IPCCレポートの科学的根拠は強力だが、政策立案者向けの要約は産油国の署名が必要なため弱められる傾向にある。[00:00:52]
北極の気候変動と自身の研究: 発表者は北極評議会のAMAPの気候専門家グループの一員で、グリーンランドでの11年間の研究経験があり、自動気象観測所ネットワークを運用している。[00:02:44]
グリーンランドの氷融解プロセス: 氷の融解は、湖の形成、水の吸収、内部加熱、氷床底部の潤滑化、ハイドロフラクチャー、藻類の繁殖など、モデルに組み込まれていない多くのプロセスによって加速している。[00:05:55]
北極温暖化と地球への影響: 北極は世界の他の地域よりも3倍速く温暖化しており、これは「北極増幅温暖化」を通じて世界の他の地域とつながっている。[00:10:12] 過去2000年間の冷却傾向から、産業化による炭素汚染で急激な温暖化が始まった。[00:10:31]
海面上昇の予測: グリーンランドは世界の海面上昇に最大の貢献者であり、現在のCO2濃度では15メートルの海面上昇が「確定」しているが、時間スケールは不明。[00:13:18] 「現状維持」シナリオでは50メートルの海面上昇が予測され、沿岸都市に壊滅的な影響を与える。[00:15:26]
北極温暖化と異常気象: 北極の温暖化はジェットストリームを遅らせ、蛇行を大きくすることで持続的な異常気象(干ばつや洪水)につながり、食料安全保障を脅かす。[00:16:11]
> 後編:
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