外部性の檻(1):「外部性」という名の植民地主義
第1回:「外部性」という名の植民地主義
気候変動や格差の拡大を語る際、経済学者が好んで使う言葉がある。「外部性(Externality)」 だ。
工場の煙が近隣住民の健康を害したり、廃液が川を汚したりすることを、彼らは「市場の外部で起きた副作用」と呼び、それを適切に価格に織り込むことができなかった「市場の失敗」であると解説する。一見すると、精緻な理論の網の目から、不運にもこぼれ落ちてしまった小さな計算ミスのように聞こえるだろう。
しかし、立ち止まって考えてみてほしい。この「外部」という境界線は、一体誰が、何のために引いたものなのだろうか。
1. 意図的に設計された「投棄場所」
結論から言えば、「外部性」とは決して「見落とされたミス」ではない。それは、利益を最大化するために 「不都合なコストを意図的に体系の外へ放置する」ための、極めて政治的で暴力的な設計(仕様) である。
近代経済学が築き上げてきた理論体系の根底には、驚くほど冷徹な二分法が横たわっている。
「内部」: 利益を享受し、市場で取引を行う「我々」の世界。
「外部」: 「内部」の繁栄のために踏み倒されるコストを引き受ける、「彼ら(途上国、自然環境、未来世代)」の世界。
利益はすべて「内部」で独占し、そこで生じた毒や負債はすべて「外部」という名のゴミ捨て場へ投棄する。この「外部性」という小難しい専門用語は、その血なまぐさい収奪のプロセスを、無機質で知的な響きに塗り替えるための「言葉の煙幕」として機能してきた。
2. 「先進国のための経済学」というトリック
この理論体系を世界の中心に据える発想は、かつての植民地主義の論理をそのまま継承している。かつて宗主国が他国の土地と人間を「収奪の対象」としたように、現代の経済OSは、地球の生態系や未来の生存基盤を「計算しなくてよい外部」として定義した。
もし、最初から大気の限界や資源の枯渇といった「物理的制約」をシステムに組み込んでいたならば、現在の先進国の繁栄は論理的に不可能だったはずだ。私たちが「成長」と呼んできたものの正体は、実は効率的な生産の結果ではなく、「支払うべきコストを、外部という聖域なきゴミ捨て場に踏み倒し続けた結果」 に過ぎない。
「外部性」がいつまでも内部に組み込まれないのは、それが組み込まれた瞬間に、現在の特権的な経済構造が物理的に崩壊してしまうからだ。これこそが、「先進国のための経済学」がひた隠しにしてきた最大のトリックである。
3. 専門家の傲慢が生んだ「人災」
気候変動問題の本質は、不注意によるミスや科学の遅れではない。それは、最初から設計に織り込まれていた「思想の根幹」によるものであり、専門家たちの傲慢とエゴによって引き起こされた、「予定通りの動作」による人災である。
「地球は無限である」あるいは「外部に捨てれば解決する」という、物理法則を無視した前提。この不誠実な前提を守るために、経済学は数学的な装飾を凝らし、あたかも中立で科学的なフリを装ってきた。
しかし、その実態は、収奪を正当化し、強者の利益を守るための「知的な暴力装置」の一部であったと言わざるを得ない。経済学という学問が、時に驚くほど倫理観に欠ける印象を与えるのは、その装置の論理に自己を適合させなければ、専門家として生き残れない構造になっているからだ。
4. 溢れ出した「外部」
今、私たちが直面している気候変動という危機は、これまで「外部」として無視し、コストを押し付け続けてきたゴミ捨て場が限界を迎え、ついに「内部」へと溢れ出してきた現象である。
「ここならいくら捨てても大丈夫だ」と高を括っていた境界線が、物理的現実(熱力学や炭素循環)によって突破されたのだ。私たちは今、自分たちが引いた「外部」という境界線がいかに傲慢で、虚構に満ちたものであったかを、激甚化する災害や生態系の崩壊という形で突きつけられている。
次回の記事では、このバグだらけの「経済OS」と、その上で動いている「資本主義」という仕組みを切り離し、なぜ私たちは「具体的に何を変えるか」という設計の議論よりも先に、「体制そのものを変えるか否か」という巨大な対立に吸い寄せられてしまうのか。その深層を解剖していきたい。
次回予告:第2回「資本主義のバグか、経済学の悪意か」
資本主義というハードウェアは、物理法則という「ガードレール」を正しく組み込むことで、初めて誠実なシステムへと脱皮できる。しかし、なぜ私たちは「OSのデバッグ」という現実的な解法よりも、「体制の転換」という果てしない議論にエネルギーを費やしてしまうのか。権力が仕掛けた巧妙な「思考の二択」を暴く。
> 次の記事:
▶︎ 関連シリーズ構成
外部性の檻(1):「外部性」という名の植民地主義 --- 本稿
> トップページ:
> 全体トップ:
最後に ・・・
この記事がいいと思ったら、下にあるシェアボタンから、ぜひ広くシェアをお願いします! 一緒に「静かな革命」を実現しましょう。
▼ 「静かな革命」の呼びかけ:
