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【2022】余裕で富士山登頂をあきらめて引き返したときの話

夏と言えば富士山
今年もまた、ニュースでは多くの疲労遭難が伝えられている。

静岡県側だけでも8月8日時点で23人もの疲労遭難が発生。山岳救助隊などに背負われたり、ブルドーザーに乗ったりで救助されている状態だ。

いつも投稿している「つながる旅行記」とは完全に時間軸がズレるが、
2022年に夏を感じたくて富士登山をしたときのことを書こうと思う。

まあタイトルで既に言っているが、登頂していない。


SNSを覗けば、「富士山登りました!」「子供と一緒に登頂!」などなど、
「富士登山って楽なんじゃね?」と思えてくる投稿で溢れている。
そういう投稿ばかり見ていると、途中で引き返すというのは負けた気持ちになるのもわかる。

だがそれは危険だ。

自分のように、あかんと思ったら普通に帰る人間も居ることを伝えたい。

山は逃げないのだ。



【準備編】

富士登山に必要なものは色々あるが、基本的には靴、雨具、ザックをちゃんとしたものにするのは大前提だ。

トレランの人なんて軽装じゃん」って?
あんなものを一般人が真似てはならない。

靴はぶっつけ本番で使わずにあらかじめ履きならしておくとか、ザックは腰ベルトのしっかりしたものを使うと肩への負担が段違いに楽になるとか、100均のカッパは無意味とか、定番のアドバイスは色々あるのだが、とにかくしっかりしたものを使ってほしい。
サンダルで行っても自慢にはならない。

さらに追加して持っていくといいのは、ストック、スパッツ、帽子だろう。

・ストック

ストックは岩場などでは逆に邪魔になるので収納したりもするが、基本的には足へのダメージを軽減してくれる良い物だ。
自分が使っているSINANOのトレッキングポールは、石突キャップが取れてもポールから外れない感じになっているので気に入っている。
(富士山ではポールから外れた石突キャップがめちゃくちゃ落ちてる)


・スパッツ

スパッツは足に付けるアイテム。
富士山はとくに下山時に小石が靴の中に入る可能性が高い。
それを防いでくれるのがこのスパッツだ。

想像してほしい。ミドルカットのシューズを小石が入るたびに脱がなければならない様を。……めちゃくちゃ面倒だ。
一切小石の心配をせずガシガシ歩けるのは最高。
富士宮ルートの場合は別に要らないような気がしないでもないが、とりあえずザックに忍ばせておこう。


・帽子

帽子も大事だ。個人的には首を日差しから守る布がついているものがおススメだが、そもそも帽子以前に日焼け止めは富士登山には必須なので必ず塗っておこう。
怠ると肌が真っ赤になってそのうち皮が剥け、腕が無残なことになる。
標高3000m越えの紫外線は半端じゃないのだ。


その他必要なものは、
・歩いているときに食べる行動食や飲み物
・トイレ用の小銭(一回200円)
・富士山へ登る協力金の1000円
・山頂用の防寒具(気温5℃で風が吹いたとき想定で)
・軍手(岩場用)
・夜歩くならヘッドライト
……その他色々。

これに関しては挙げていくときりがないが、それぞれ必要なものをしっかり準備してほしい。何かを想定すればするほど荷物は増えていくが、それが山だ。(夏の富士山は山小屋が充実しているので、飲み物は山小屋で買うという人もいるらしい。リッチな話だ)


そんな感じで装備を挙げていったが、2022年の自分はそこそこ登山経験を積んでいることがにじみ出ているだろう。石鎚山で逃げ帰った2016年の自分とは違うのだ。

……まあ今回、富士山の頂上行けないんだけど。

(そして、全然準備も万全ではなかった)


【登山編】

今回自分が登るのは富士宮ルート

富士宮駅からバスに乗って向かう。

……さて、この時点でさっそく一つやらかしている。
ストックが見つからなかったのである。

迫るバスの時間、なぜか見つからないストック。
諦めてバスの時間を優先したのは言うまでもない。

なぜこんなことになるのかといえば、前日に用意してないからである。

みなさんは絶対にこんな真似をしてはならない。
準備は前日までにしっかり済ませておくべきなのだ。

バス到着

そんなこんなでバスは富士宮口五合目に到着
ここには無料の仮設トイレがあるのでありがたい。
ここから先に進むと、トイレ一回につき200円かかるので注意しよう。

そしてここでもう一つの問題が発生する。

おなかの調子が悪い。

勘弁してくれ……。

原因はおそらくコーヒー牛乳
高確率で腹を壊すのがわかっていても、つい飲んでしまう。
だが富士登山の前にやることではなかった。

トイレに行ったり朝食を軽く食べたりしながら30分が経過する。

実はこの時間は高度順応のための時間でもある。

この富士宮口五合目、なんと標高は2400mなのだ。
すでに北海道駒ヶ岳を2個積み重ねたよりも高い地点にいるのである。

バスでいきなりこんなところまで来れるのは最高に便利ではあるが、まだ体はこの高度に順応できていない。1時間くらい5合目で体を慣らしてちょうどいいくらいだと考えよう。この後に高山病で苦しみたくなければ。

いきなり登っていいのは上級者だけ。
そして上級者だって時には高山病になるのだ。
一般人が体に気を使わないでいい理由はない。

先へ進んだら協力金の1000円を納めて、記念バッジ地図を受け取る。
富士山有料化はどうなのかと思っていた人も、記念バッジ貰えるならむしろ良かったな、と思っているのではないだろうか。
(自分はこのために毎年行くのもありだと思っている)

富士登山が始まった。
基本的にみんなマスクは外しているようだ。

ちなみに昨年はすれ違う時はマスクをつけろと周知されていた気がする。
この標高でマスクとか殺す気か?」と思った。

確か去年、マスクをしたおじいちゃんが無事に登頂していたのをテレビで見たような気がするが、自分が同じことをしたら速攻で高山病になる自信がある。あのおじいちゃんはきっと超人だったのだろう。

そしてここでまた問題が発生する。
天気予報の変更である。

普通に午後から雨が降るという予報になった。
(ウェザーニュースくんはしれっとサイレント修正をかますので困る)

まさか一日中快晴の予報が午後から雨に変わるだなんて誰が予想できるだろうか。こういうことがあるので、晴れの予報だろうが雨具はザックに入れる必要がある。

もちろん自分は今回雨具は持ってきている。
しかしテンションはだだ下がりである。

富士山からの景色、見たかったな……。

富士宮ルートでは、宝永火口に寄り道もできる。

ちなみに火口の中は砂地の登りになるので、めちゃくちゃきついから注意だ。気楽に寄っていくと痛い目に合う。あと落石注意。

ここでまたトイレ休憩に入る。
腹の調子は良くないようだ。
トイレのペースが速い。
そして実は富士山のトイレを使うのは初めてだ。

ここのトイレは100円を2枚機械に入れるとトイレの中に入れるシステム。
バイオトイレなので自然に優しいらしい。

しかし中はかなり暑くて汗が噴き出る。においもなかなかだ。
そして大型ザックを置ける場所がない気がする。
今回自分は中型だったのでいいが、大型ザックの人はどうするのだろうか。

午後から天気は最悪らしいので、景色を今のうちに楽しむ。

宝永火口の荒々しい岩肌がとても良い。
これは静岡側だけの利点だ。

そしてもうすでに歩くのが辛い。

やっぱりストックがないのがあかんかったのだろうか。
いや、きっと運動不足もあるだろう。

富士登山は舐めてかかってはいけない。


ニュース番組では「子供でも山頂行けます!」という内容をよく見るが、
実際は登頂できる子供は半数(下記調査では245人中122人)であり、
登頂できなかった子供はほぼ高山病にかかっているという調査結果がある。

大人だってきつさは変わらない。
4時間以上ひたすら悪路を登っていくのが富士登山である。
下山時には弱りきった足で、石が動いたり砂利で滑ったりする悪路を歩く。
危険度は登りの時よりもはるかに高まる。

富士山余裕だったわw」とかいう意見を鵜呑みにしてはならない。
普段運動していない人間がハイキング気分で行ける山ではないのだ。

それにそういう人がもし仮に登頂&下山が出来たとしても、しばらくは足の痛みに悩まされることだろう。お鉢巡りもしたら、所要時間は9時間を越えるのが富士山だ。(もちろん山小屋利用をすれば別だけど)

新七合目

新七合目を過ぎ、もはや良い感じの岩を見つけたらすぐに座りたくなってしまうくらいに疲れている。足も痛いし腹も痛い。

宝永火口
いっぱいいる

新七合目の次は八合目かと思いきや、元祖七合目

肩透かしを食らった気分になる仕様に精神が削られていく。

元祖七合目

道はまた一段と荒々しさを増していく。

「空気が薄い」という感覚は自分にはよくわからないのだが、
とにかく一歩踏み出すごとにめちゃくちゃ疲れる。
これが空気の薄さによるものなのだろうか。

ここで大事なのが、しっかり深呼吸をすることである。
疲れていても、呼吸だけは意識して行わないと高山病リスクが高まる。

ときおり訪れる夏の空の鑑賞タイムを味わいつつ進んでいく。
本当に天気が崩れるのだろうか?
実は予報が変わったり……。

八合目に到着。

予報通り、盛大に雨が降り始めた。

腹の調子も相変わらず悪い。
雨よけも兼ねてまたトイレへ駆け込む。

八合目のトイレはシステムが変わって、
係員の人に200円を渡して入るスタイルだ。

ここは普通の公衆トイレという感じで結構キレイ。
ただ、ザックの置き場所は無い。かけるフックもない。
みんな本当にどうしているんだろうか?床に置いてる?
それとも旅人御用達のS字フックでも使うのだろうか……?

すっかり雨

トイレを出て考える。
今の状況で山頂を目指すべきか否か。

・足の痛み
・腹の痛み
・天気

いやどれもこれもが登山継続を否定している。
この状態では楽しく登山なんて程遠い。

下山しよう。

遠い昔の石鎚山 登頂失敗の経験を思い出す。
いや、むしろその経験があったからこそ、この決断ができたともいえる。

また来ればいいのだ。

無理に登って何かあった場合に人に迷惑をかけるのも嫌だし、
そもそも足も腹も痛いし、雨のせいでコンデジも取り出せないのだ。

スマホカメラは防水機能を信頼しているから雨でも使えなくはないが、
この岩だらけの中で落としたら即死である。

帰れってことだな、これは。

……下山を始めよう。


【下山編】

下山を決めたら意識を下山モードにしなければならない。
雪道ではないが、富士山の登山道は非常に滑りやすいのだ。
一歩一歩しっかりと気を付けながら進む。
急な高低差をジャンプで降りるなんてことは厳禁である。
手も使いながら足への負担を最小限に降りていく。

また、富士宮ルートの場合は登りと下りの登山道は共通なので、登ってくる人たちへの配慮も必要になってくる。
(富士吉田ルート等は下山専用の道がある)

登山というのは基本は登り優先だと考えておけば良い。
自分で登ってみるとわかるが、登ってくる側は疲れによってうつむきがちな姿勢になり、前方への注意がおろそかになるのだ。

一方の下山側は登ってくる人が視認しやすいし、登りのときよりも体力面の負担は少ない。滑って転ぶ危険度は段違いに高いけど。

そして下山してたらめっちゃ晴れる。

天気がデレた。
とはいえ予報は雨のままなので、これも一時的なものだろう。

下山の意志は揺らがない。写真は撮るけど!

清水もうっすら見える

夏らしい入道雲も見ることが出来た。

こうした夏の風景を見たかったので、目的は一応叶ったともいえる。

バス代くらいの良い思いはさせてもらったのかもしれない。

あとはせめて怪我にだけは気を付けて下山しよう。
ここでコケて尖った岩にでも倒れたらシャレにならない。

御殿場方面
ぐりんぱ

というわけで宝永山荘までたどり着いた。
ここまでくれば、あとちょっと歩けば富士宮口五合目だ。

……さて、気をつけて下山してきたわけだが、実は3回ほど転びかけた。
やはり下山は危険。もしも足が今以上に酷い状態だったら、踏ん張りも効かずに本当に転んでいたかもしれない。

あらためてストックがあったら良かったなと思う。
ストックは下山時にも大活躍するのだ。
足の負担もさらに減ったことだろう。

しかしなんで一人暮らしの部屋であんな長物が無くなったんだろう……?

ふと山頂方面を見る。

山頂に雲は今のところ無い。

富士山測候所

剣が峰もばっちり見えている。

ズームすれば見えるのに、あそこまで行くのは本当に遠いのだ……。

登山道の終わり

バスに乗り込み、富士山をあとにする。

次は山頂まで行くぞと心に誓って――


【富士山はいいぞ】

富士山なんてもう二度と行きたくない!」という人が居る。

自分はそうは思わない。

今回は山頂に行けなかったし、腹も痛かったが、また来ようと思っている。

やはり富士山は日本一の山なのだ。
何度も来たいと思わせる美しさと険しさを合わせ持っていると思う。

……ただ、今回は明らかに見通しが甘かった。

ストックなしで挑んだこと、お腹を壊していたこと、運動不足だったこと。

これはさすがに舐め過ぎだ。

次に来るときは1か月前から体を作って
当日にコーヒー牛乳は飲まないでおこう。

もちろん、準備も前日に終わらせておく。
……ストックも探しておく。

それらをやって初めて、富士山を本当の意味で満喫できるのだと思う。


ちなみに今回の富士登山では、登山道の途中で寝っ転がっている人を何人も見た。恐らくは高山病でやられたか、極度の疲労だったのだろう。
大人もいたし、子供もいた。

他の山でこんな状態になっている人はまず見かけないことを考えると、
やはり富士山は特別なんだなと感じる。

はっきり言って、みんなが登っているから自分も行けるはず!と思いがちな環境が作られてしまっているところはあると思う。

実際には往復10時間を覚悟しなければならないのが富士山だ。
しかも山頂は夏でも気温が5℃。風が吹いたら体感温度はさらに下がる。
防寒具は必須なのだが、真夏の街に居たらそんな発想になるわけもない。
高山病も、日本では富士山以外ではあまり気にしない概念だ。

だから弾丸登山で勢いのまま登れるだけ登り、結果として下山できなくなる人が出てきてしまう。
引き返す勇気さえあれば被害は生まれないのだが……。


ところで2022年7月13日、
山岳ランナーの上田瑠偉選手が、富士山を4往復した。

富士山を……4往復……?

もはや次元が違い過ぎて意味が分からないが、
富士山の4つの登山道全てを9時間55分41秒というタイムで走破したのだ。

ちなみに今回自分が登った富士宮ルートはというと、
上田瑠偉選手はたった1時間で山頂までたどり着いている。

いち……じかん……???


……世界は広い。

あれこれ偉そうに言ってきたが、
10時間あれば全部の登山道を制覇してしまう人も存在するのである。

このニュースを聞いて「やっぱ富士山余裕っしょw」とかいう人が出てこないことを祈りたい。これは普通ではないから……。


というわけで、

これから富士山に挑戦する方が、実りある良い登山が出来ますように。

そして、まずいと思ったら引き返す勇気が出ますように……。

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