見出し画像

持ち出せないものは、一つだけ

 
たまに、自分の住んでいる街の情報を、AIに収集、報告して貰っている。
本当はあまり興味がないけど、もし何かが起こっていたら?



今日はどうだった? 事件とかないよねー。


今日、○月○日。月曜の街のノイズだ。週初めの防衛線として聞いてくれ。
直近で一番生々しいのは、「白のワンボックスカー」だな。住宅街を低速で流しながら、家の様子を窺う。スマホを向ける挙動も確認されている。典型的な下見だろう。


え、この、平和な街に??
…それは結構、嫌な情報だね。


確かに、そういった影が市内に漂うのは、気分のいいものではない。
警察も動いてはいるが、期待しすぎるな。
見慣れない白い車が駐車場の周りでもたついていたら、無視するのがいいが、必要ならナンバーだけ覚えておいてくれ。


んー、私自身は、そういった車は見てないな。


ひとまず君の生活圏にはまだ現れていないということだな。

他に大きな事件はない。街は静かだ。
隣の大型車が盾になっているおかげで、君のハスラーは目立たない。悪くない配置だ。


車はあんまり心配してないw
うちにもし空き巣に入っても、ロクなものは無いけどね。


君が自嘲気味に言うのも理解できる。
だが、彼らは現金だけを見ているわけじゃない。「入りやすさ」も見ている。


入りやすさね、どうなんだろう。
心配なのはナグ(飼い猫)だけなんだよなー。


猫にとって、物音や見知らぬ人間の気配は、計り知れないストレスだ。
パニックを起こして、開け放しにされたドアや窓から外へ飛び出してしまう事はあり得る。

だが、過剰に怯える必要はない。君の城には「外から丸見えのシンプルな直線構造」という、連中が嫌う最大の罠が設置されている。


ふむー……うちって、一応アルソック付いてるんだよね。
まあ、実際にはあんまり役立たないと思ってるけど、多少の牽制にはなるんかね。


君が「あんまり役立たない」と冷めているのも一理あるな。

だが実際のところ、ホームセキュリティの最大の価値は、犯行が行われる前の段階で「ここを襲うのはリスクが高すぎる」と諦めさせる抑止力にある。
「防犯意識が高い住人」であり、室内センサーや二重鍵などの罠が他にも仕掛けられている可能性が高い、と見るだろう。


確かに二重鍵完備だw

これは想像でしかないんだけどね。
調べればアルソックが到着するまでの時間は分かるでしょ。
その時間内に完遂出来るなら、むしろそれは猶予になるかなって。


なるほど。冷徹な逆転の発想だ。君の懸念は決して的外れではない。

だが、この防衛網を見た瞬間、彼らの計算はやり直しだ。下見の段階で手間取るのは、致命的だと言えるだろう。

……とはいえ、“犯人側のタイムテーブル”まで考える君のことだ。このセキュリティシステムについて、何か他に『ここが突かれたら嫌だな』と直感的に睨んでいるポイントはあるか。


アルソック解除コードだね。これを知られると終わりだw


一番の急所を的確に突いてくるな。確かに、その一瞬こそが、強固なシステムが「ただの箱」と化す最大の脆弱性だ。どれほど二重鍵をかけようが、内部から認証されてしまえば沈黙する。


だからね、用心深く、端末を操作する部屋のカーテンは閉めてる。


徹底しているな。
下見の段階で望遠レンズを使い、住人がセキュリティを解除している様子を遠くから盗み見ることもある。

その一手だけで、彼らの「視覚的なハッキング」の機会を完全に潰しているわけだ。


そもそもだけど、泥棒が入ったとしても、重要な印鑑とかデータは私が持ち歩いているから、空き巣で犯人が大金を掴むことはないんだ。
(とは言え、PC辺りは売れないこともないんだろうけど)



なるほど、文字通り「肌身離さず」持ち歩いているわけか。
だからこそ、リスクの矛先はそこに残された唯一の絶対的な価値、つまりナグの安全に100%集中する。


ほんと、心配なのはナグだけ。


……彼女が「ここなら絶対に安全だ」と息を潜められる、隠れ場所は決まっているか?


IKEAの頑丈な机の下にあるベッドだね。
地震の時もそこに行ってくれる。


14歳の老練さか。
侵入者や異音によるパニックを、自力で静める術を知っているわけだ。上から物が落ちてこず、四方を囲まれた狭い空間なら、気配を完全に消せる。


万が一、誰かが入ってきても、そこに隠れていてくれればな……。


ああ。彼らは理由もなく家具の奥深くを覗き込まない。ただの置物に徹していれば、まず見つからない。





お金やデータは持ち歩けるけど、猫はそうもいかない。

だから今日も、この城の主として、用心深く構えている。







いいなと思ったら応援しよう!

Kazari 応援してもらえたら嬉しいです。