童話「海辺のマルゴ」試し読み 文学フリマ
こちら童話「海辺のマルゴ」の試し読みページになります。
「海辺のマルゴ」あらすじ
美しい入江の上に建つ喫茶店の主人は、太っちょ猫のマルゴ。豪快な性格でおいしいものが大好きなマルゴは、食への果てなき探究心を胸に、自らの船に乗って出航する。行く先は、さまざまな国を結ぶ巨大な内海──ネラドス海。心配性な相棒・トミーとともに、マルゴは世界各地の美味や珍味を味わい尽くしていく。
大人も子供も楽しめる、旅とグルメの童話です。
第一話あらすじ
ある月曜日の朝、一匹の青年猫がマルゴの店を訪れた。名はトミー。味覚に優れた青年だったが、少し悲しい顔をしていたーー。
【試し読み】
第一話 食の探究猫 マルゴ
レモンの花がほのかに香る初夏の朝、ターコイズブルーに輝く海の上をかもめたちが気持ちよさそうに飛び交っている。漁師たちが夜明けに獲ってきた魚が目当てかもしれない。町の朝市では色とりどりの野菜や大きくて丸い穴あきチーズ、瓶に詰められたフレッシュなオリーブオイルが宝石のように並べられ、今日も多くの町猫たちで賑わっている。
この豊かな海と自然に囲まれた町・アルヴァーノは田舎ながら食の町として広く知られている。
さて、町の少し外れたところに、あまり知られてない入江がある。手前が木々に囲まれ、少し見えにくいから秘密の入江と呼ばれていたりするとか。この入江の上に、一軒の喫茶店が建っている。赤いテラコッタの瓦屋根に白い壁、古い石造りの二階建て。木枠の窓辺からカーテンが風で揺れ、ドアの上にはペンキで「MARGO」と描かれている。
「カランカラン」
ドアのベルが鳴った。海辺の喫茶店に客が来たようだ。
入ってきたのは、緊張のあまり顔をカチンコチンにこわばらせた、ほっそりとひょろ長い猫。左耳の周りだけインクをこぼしたように黒い毛、あとは真っ白、その名はトミーといった。ビシッと着こなされたスーツにピカピカと磨かれた靴とカバン。まん丸の目で店の中をきょろきょろ見回している。
「いらっしゃい」
長いこと海風にさらされた大木のように、ざらついた声が店の奥から聞こえてきた。トミーが顔をあげる。
輝く海を絵画のように切り取った大きな窓。その前で、大きな毛むくじゃらの太った猫が椅子に腰掛け、にやぁ~と笑っていた。
真ん中に大きな魚が描かれたエプロンを着て、ゆったりサイズのパンツを履いている。
大きな猫の名はマルゴ。この喫茶店の主である。
マルゴは手に持ったコーヒーを一口すすり、いい顔をして、はぁ~とため息を吐いた。
「好きなとこに座りな」
トミーはまん丸の目を見開き、キョロキョロと誰もいない店の中を見渡した。目についたのは海の見える窓辺の席。
そこへきちんと座り、トミーは一息ついた。
きらきらと輝く海を、トミーはぼんやりとした顔で眺めていた。なにか物思いにふけっているようだ。
「なにか飲むかい?」
突然の店主からの声かけに、トミーはびくっとして顔をあげた。
マルゴはコーヒーをくいっと飲み干し、空いたカップをカウンターに置いて、ゆっくりトミーを見た。
そのなんともゆったりのんびりしたマルゴの動きを見て、トミーは少し安心したような気持ちになった。
「じゃあエスプレッソを。それと、なにか食べるものはありますか?」
「ちょうど今、クロワッサンが焼き上がったところだ」
マルゴがオーブンを開けると、ふわんとバターの香りが店じゅうに広がった。トミーは思わず、空に鼻を突き上げ、そのおいしい空気をおなかいっぱいに吸い込んだ。
「香ばしくて、いい匂い……」
トミーはうっとりとした顔でそう呟いた。
マルゴは、やかんからマキネッタ(小さなポットのようなコーヒーの抽出器)に水を注いだ。窓辺の調理棚からガラス瓶を手に取り、さらさらのコーヒーの粉をすくって、マキネッタの中へ。スプーンの裏で粉をぎゅうぎゅうと押し固め、そっと火にかける。
「シュー……コポコポ……コポコポ……」
心地よい音をたてながら、コーヒーが立ち上っていく。
トミーはその音を聞きながら、「こんなにゆったりした時間はいつぶりだろうか」と思った。
「ほい、お待たせ」
マルゴの大きなふさふさの手に持たれたカップは、まるでミニチュアのカップのようにも見える。
トミーの前にエスプレッソと、黄金色に輝くクロワッサンが湯気を立てて置かれている。
クロワッサンを一口かじる。一瞬にしてトミーの目は輝いた。
「さくっ、さくっ、さくっ」
無我夢中でかじりつき、エスプレッソをくいっと一口。
トミーの目は、もっとまん丸に見開いた。
「焼きたてのクロワッサンほど、幸せなもんはないよなぁ」
トミーを見ながら、マルゴは細い目でにやにやと笑った。
「はい、こんなにおいしいクロワッサン、初めて食べました。それにこのエスプレッソの味わい……。口の中にふわっとまろやかさが広がった後に、いろんな味わいに変化していきます。とても不思議だ……」
「そうかい。たとえばどんな味だい?」
「最初にまろやかな甘み、次に苦味とコク、そのあとにレモンのような味が舌に残ります」
「ほう、お前さん、なかなか良い舌を持ってるね」
トミーは照れたように笑った。けれど、心の奥がすこしだけ、きゅっと痛んだ。
ー試し読みおわりー
お読みいただきありがとうございました😺✨
前回の文学フリマ東京40にて販売した今作品に、
多数の挿絵を追加した増補版として文学フリマ東京41に向けて鋭意制作中!

---文学フリマ作品紹介---
童話「海辺のマルゴ」増補版
書籍:B6 / ページ数未定(100p以上)
価格:800円
文・絵:紡ちひろ
--出展ブース情報---
紡ちひろ
カテゴリ 小説|児童文学・絵本
ブース 南1-2ホール | M-25
カタログ https://c.bunfree.net/p/tokyo41/55222
最新情報はこちら→X@tumugi23chihiro
文学フリマ東京41
日程 2025年11月23日(日)
時間 12:00〜17:00
会場東京ビッグサイト南1-4ホール
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