🌙 リボルテの街③ ときめきの庭の工房
この物語は、チュチュ・テイルの世界を旅する記録です。
シルエットで描かれた猫たちや動物たちが暮らす、やさしい世界✨️
白いうさぎの旅人 エトワール の旅日記として綴っています。
はじめての方は、ぜひ固定記事からご覧ください🌙
花の橋を渡り、ぼくは再び、ときめきの庭へ向かっていました。
……何か、良い贈り物に巡り会えるのでしょうか。
バラのアーチをくぐると、ふわりと花の香りに包まれます。
小さな工房が、いくつも並んでいる通りに入ります。
ガラス細工の工房。
リボン飾りを作る工房。
工房の出窓に並ぶ、花飾り。
どこを見ても、“好き”が溢れているような場所です。

窓越しに、工房の主と話している動物たちの横を歩きながら、目的の場所へ。
ぼくは、あの猫の職人の工房を訪れます。
窓から見える作業台では、相変わらず、精密なオルゴールを制作しているようでした。
「……お久しぶりです」
ぼくが声をかけると、猫の職人が、作業の手をゆるめてこちらを見ます。
「ああ、旅人さん」
「こちらでは、オルゴールを扱っているんですか?」
「他にも色々と」
猫の職人は、小さく笑いました。
「今日は、うちの常連さんも来てるよ」
そう言いながら、工房の入り口を手で示します。
入口を開けて中へ入ると、
聞き覚えのある声が聞こえてきました。
「あら」
その声に、ぼくは思わず足を止めました。
ふわふわの襟巻きに、後ろで揺れる大きなリボン。花飾りをつけた小さな帽子。
小さなジュエリーボックスを手にしながら、立ち姿の美しい猫が、こちらを振り向きました。

——コスメキャット。
リボルテの街のプリンセスです。
突然の再会に、ぼくは少し驚いてしまいました。
「また会ったわね」
そう言って、コスメキャットが、ふわりと笑いました。
「……こんにちは」
ぼくがそう返すと、コスメキャットは、どこか楽しそうに微笑みます。
「今日は、何か探しもの?」
ぼくは、少し迷ってから頷きます。
「お世話になった方へ、何か贈りたいと思っていて」
「素敵ね」
そう言いながら、手に持っていたジュエリーボックスを、ゆっくり棚へ戻します。
ぼくは、棚に並んでいる小箱へ視線を向けます。
宝石箱みたいな細工。
ガラス細工の飾り。
繊細な銀細工。
「……何を選べばいいのか、分からなくて」
つい、言葉がこぼれました。
コスメキャットが、少し考え込むように手を留めます。
「贈りものって、難しいわよね」
そう言いながら、小さなオルゴールを開きながら呟きました。
繊細な細工の小箱から、やわらかな音色が広がりました。
「あなたも……ですか?」
ぼくが尋ねると、コスメキャットは、ふわりと肩を揺らします。
「だって、相手のことを考え始めると、終わらなくなってしまうもの」
「これが好きかしら。もっと別の方がいいかしらって」
「……分かる気がします」
工房の中に、オルゴールの音がゆっくり広がります。
奥の作業場から、猫の職人が、こちらへ歩いてくる姿が見えました。
そして、ゆっくり語りかけてきます。
「考える時間ごと、贈りものなんじゃないか?」
「悩んでる間、ずっと相手のこと考えてるんだろ」
考えている時間。
その時間も、贈りもの——。
「贈りたい相手は、どんな方なの?」
猫の職人の隣に移動しながら、コスメキャットが尋ねました。
「え……」
ぼくは、少し考え込みます。
焼きたてのパンの香り。
丁寧に編まれた小さな帽子。
星柄の靴下を見つけて、二人で悩んでいた姿。
「……もうすぐ、赤ちゃんが生まれることを、楽しみにしている夫婦です」
そう答えると、コスメキャットが、ふわりと笑いました。
「素敵」
「赤ちゃんを待っている時間って、きっと特別な時間よね」
「どんな想いを込めるか、考えるだけでワクワクするわね」
コスメキャットは、自分の事のように目を輝かせます。
「誰かを想って選ぶ時間って、とても大切だと思うの」
「だって、その人のこと、いっぱい考えるでしょう?」
ぼくは、思わず目を瞬きました。
「難しく考えすぎなくてもいいんだよ」
アルトが、棚から小箱をいくつか出して、机に並べながら、ゆっくり言います。
「贈りものって、正解を当てるものじゃない」
「……そういうもの、なのでしょうか」
「少なくとも、オレはそう思ってる」
「せっかく選ぶんだったら、自分の好きな気持ちも大切にしたいわよね」
すると、猫の職人が小さく笑いました。
「我が主は、ときめきにうるさいですからね」
「あら。褒め言葉として受け取っておくわ」

アルトとの軽快なやりとりに、コスメキャットが、ふわりと笑います。
その時でした。
入口のベルが、小さく鳴ったのです。
静かな足音とともに、整った身なりの猫が工房へ入ってきました。
リボンが付いたベレー帽。胸元には、小さなバラのコサージュ。
落ち着いた所作のまま、その猫は、
コスメキャットへ小さく頭を下げます。
「ローズ」
コスメキャットが、やわらかく名前を呼びました。
ローズは、ぼくへも丁寧に一礼すると、
「コスメ様、そろそろ、次のご予定のお時間です」
と、静かに告げました。
「あら、もうそんな時間?」
コスメキャットが、少し残念そうに窓の外を見ます。
「贈り物の事なら、アルトに任せたら安心よ」
そう言いながら、アルトと呼ばれた猫の職人とぼくを交互に見ます。
そして、ローズと一緒に工房をあとにしました。ふわりと、薔薇の香りを残して。

ぼくは、並べられた美しい細工の小箱を、しばらく眺めます。
……どれも美しいけれどーー
やっぱり、手に取ることはできませんでした。
静かに、ぼくの様子を見守っていたアルトが、ふいに言葉をかけてきました。
「これは、贈りたい相手への“想い”を入れて、完成するオルゴールなんだ」
「時間があるなら、自分でパーツを選んでみるかい?」
それは、思いがけない提案でした。
「自分で選ぶ……」
……できるでしょうか。
考え込んでいると、
アルトが小さなカードを渡してきました。
それは、リボルテの街の通りが描かれた地図でした。赤い印と、『アルトの工房』と書かれた場所を示す文字。
「夜は、リボルテの街にある工房で作業してる」
「落ち着いて選びたいなら、今度は街の工房へ来るといい」
その言葉は、ぼくの中で、やさしく響きました。
そして、アルトは、奥の作業場へと向かいました。
ぼくは、並んでいる小箱を、もう一度だけ見つめます。
まだ、何を贈るかは決まっていません。
けれど。
ここへ来た時より、少しだけ、胸の奥が軽くなった気がしました。
小さなオルゴールの音が、あたたかな日差しの中で歌い続けていました。

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