イディルとフルール
黒薔薇の領地へ向かおうと、ララネ皇女とホムンクルスのエンニオが決断した頃……
他色の薔薇の領地では、薔薇から生まれた人種の15歳ぐらいの娘イディル、同じぐらいの年齢の娘フルールが、3時のおやつで、ビスケットを食べていた。
「ねぇ、フルール。相変わらずこのビスケットは美味しいわ」とイディル。
「イディル、当たり前だわ。パルフェ国の名産のイチゴジャムとの相性が、抜群ですもの」とフルール。
彼女たちは……
今は人間の姿をしているが、人間ではない。
朝と昼は、人間として生活し、夜は薔薇の花々に戻るのだ。
ゆえに……
薔薇の領地の夜は、虫の鳴き声が主である。
「イディル?相変わらず足浴は嫌いなの?」とフルール。
「嫌いではないわ。冬は足浴は寒いもの……」とイディル。
彼女達は、人間としては生活しているものの、朝は冷たい水の足浴が日課である。
例え、それが、冬であっても……。
「そうね。でも、暑いお湯で足浴したら、夜になったときの姿は見苦しい姿よ?」とフルール。
「大丈夫よ!どうせ、薔薇達しか私を見ないもの!」と強気のイディル。
それはそうだけど……と小声のフルールは、少しムッとして頬を膨らました。
「ねぇ?フルール。最近、面白い話はないの?」とイディル。
「面白い話ね……」と頭を巡らせるフルール。
あ!と声をあげて、フルールは思い出したようだ。
「あるわ!」とフルール。
「なになに?教えて!」とイディル。
「近々、パルフェ国の皇女が、黒薔薇の領地へ視察するとの話があったわ!」とフルール。
「それの……どこが面白い話なの?」と不思議そうな表情のイディル。
「だって、パルフェ国の私達、他薔薇達の領地の4分の1しかない黒薔薇への視察よ?かつて、この国に皇族が、私達の領地へ視察にしたことがあったかしら?」とフルール。
「確かに……ないかも」と頷くイディル。
「パルフェ国の皇族達は、私達を怖がるのよ。だって、我が道を行く国王は、夜にここへかつて視察に来たわ。でも、あまりの静けさに恐怖を感じてさっさと帰ったそうよ」とフルール。
「仕方ないわよ。騒ぎたい国王だと……薔薇達の間では、噂の種だったもの」とイディル。
「それでね!黒薔薇の領地の……あの男が砂の女神との盟約を終わらせたいと、噂があるの」とフルール。
「黒薔薇の男って……見た目が20代から30代と言われるアストリットって……男の人?」とイディル。
「そうよ」とフルール。
「ふーん……砂の女神との盟約なんて、大して珍しいものじゃないじゃない?人間もホムンクルスも同じ道を辿るというのに」とイディル。
「そうね。私達も薔薇としての人生が終われば、砂になるの……それは、人間もホムンクルスも同じだわ……」と静かに言うフルール。
「砂の女神との盟約を終わらせるということは、薔薇としての人種でなくなるとの同じこと……それをあの……アストリットという男性は理解しているのかしら?とてもリスキーなのに……」と考えるフルール。
フルールと話をしながら、イディルは、自分の定位置の椅子に戻る。
そして、イチゴジャムのビスケットを一つ食べる。
「ん〜♪美味しい〜♪」と満足気のイディル。
「イディルの性格の少しを、アストリットという男性に分けてあげたいものね」とにこやかで客観的な物言いのフルール。
「ほんと、ほんと♪」とイディル。
イディルとフルールの薔薇の領地は……
今日も平和である。
