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『片想い文芸部』あざとい彼女


 ナルさんの『片想い文芸部』、今回のお題は「あざとい」です。
#片想い文芸部

 ヘッドライン画像は「S様の従者M」さんの画像をお借りしました。どうもありがとうございます。



※ 今回は少々、グロよりな内容になっています。苦手な方はご注意くださいませ…🤢



「あざとい彼女」


 「“あざ”と“胃”っておまえ…ちょっと、斜め上すぎないか?」
 「なんですか“斜め上”って。チャームポイントは?って聞かれたから、そのまま答えただけなんすけどぉ~。」

 数分前の、上司との会話である。僕に彼女が出来たとどこからか仕入れてきた上司が、朝、顔をあわせるなり聞いてきたのだ。女性に対して全く興味がないと“勝手に”思い込み、あろうことか“アイツは同性愛者だ”と陰で言っていたようなのだけど、残念、僕は同性愛者ではない。ほんのちょっぴり、嗜好が人とズレていただけだ。彼は自分の言葉を否定する“彼女”の存在にケチを付けたかったようだけど、僕の返事を聞くと関わりたくないと思ったのか、さっさとデスクに戻っていった。

 しかし、どこから“彼女”の話が漏れたのか…。誰にも知られないように、かなりの注意をはらっていたのだけど…。より、気を付けていかなければいけない。
 そんな事を考えているうちに、帰宅時間となった。

 僕は家賃4.5万円という、今時ありえないほどの安アパートに住んでいる。想像できると思うけど、すでに廃屋のような見た目のボロアパートだ。最寄駅からは、徒歩で30分ほど。裏側は木の根っこがむき出しで崩れかけているような、どう考えても危険な山に面している。
 でも、僕にとっては、だからこそ都合がいいアパートだった。

 玄関を入ると、そこはもう部屋全部を見渡せる四畳一間となっている。トイレは共同で廊下の端にあり、風呂は当然のように付いていない。
 僕は部屋に入ると、靴も脱がずに汚れた畳の上を進んだ。部屋の中心の畳は剥がしてあり、そこには3メートルほどの深さの穴が開けられていた。立てかけてある梯子を下りていくと、5×3メートルくらいの空間に出る。
 そこが、“彼女”の寝室だった。
 そこには“腐敗臭”と“生臭さ”がこもっていたけど、僕はもう慣れてしまっているので何とも思わない。でも、もしもあの上司がここに来たならば、顔をぐしゃっと歪めて外に逃げ出していくことだろう。それを想像したら笑えてきた。

 「ただいま。」
 どうせ返事はないのだけど、いつものように挨拶をする。
 そこに横たわっている長い影は、ピクリともせずに、ただ天井を見ていた。

~・~・~・~・~

 僕が“彼女”に出会ったのは偶然だ。健康のための山散歩をしていた時、本当に偶然に出会った。“彼女”の首から胸元にかけてには、すごく特徴的な“あざ”があって、それはまるで銀河からこぼれ落ちて流れる、一筋の彗星のようだった。僕は一瞬で魅了され、“彼女”を部屋に連れ帰った。

 それから時間が経ち、“彼女”の身体は少しずつ変化していった。身長が伸び、長い髪が生え揃った頃、大きな変化が起こる。“胃”が表面に剥き出しになってきたのだ。その“胃”は普通の人と違って、ちょっと長めの“ハート”のようだった。“あざ”の下に現れてきた“胃”を見て、僕は失神するほど「美しい!」と思った。
 ああ、それを聞かされたらあの上司はきっと言うだろう。「お前、おかしいぞ! 狂ってるんじゃないか!」と。それで、精神病院にでも僕をブチ込もうとするんだろう。
 まあでも、それは僕にもわかる考えなんだ。実際、僕自身、子供の頃からのこういった“嗜好”について、もしかしたら僕は気が狂った不良品なんじゃないのかと思っていたから。いつだったかな。何かの本で、読んだんだけど、自分で“おかしい”と思える人は“おかしい”人ではないらしい。自分でその辺の判断が出来てるからってことだ。
 僕は、自分で“おかしい”んじゃないか、“狂ってる”んじゃないかと散々考えてきた。それは今も続いていて、だからこそ、僕は狂ってはいないし、たとえあの上司が僕を病院に押し込もうとしたって、それは不可能なのだ。
 そして、僕は“彼女”の、美しい“あざ”と“胃”と、この先もずっと寄り添っていくのだ。

~・~・~・~・~

 考え事をしていると、時間が経つのが早いな。そろそろ寝る時間か…。
 「おやすみ。」
 挨拶は大事だ。コミュニケーションが取れているとは言えないけれど、これは大事な日常の手順なのである。
 やはり、“彼女”はピクリとも動かず天井を凝視していた。
 僕はそれを目に焼き付けると、くるりと梯子のほうに歩きだした。

 その時だ。

 不意に、目の端にキラリと光る何かが映った。
 それはまるで、極彩色の蜘蛛の糸だった。気が付けばこの“寝室”の中はこの“糸”で埋め尽くされている。

 気配を感じて振り返ると、“彼女”が起き上がっていた。

 “彼女”の暗く落ち窪んだ眼が、じっと僕を見つめている。ああ、やっと、目が覚めたんだね。僕は無性に嬉しくなって、“彼女”に一歩近づいた。
 “彼女”は2センチほどの太さの1メートル以上の髪の毛を振り回し、その度に“極彩色”が濃くなっていく。首から胸元にかけて輝く“あざ”は赤く腫れあがり、そこに繋がるハートの“胃”が長々と、鞭のように揺れしなっていた。
 出会った時の“彼女”は体長50センチくらいのミミズっぽい生き物だった。それが、このように繭を作るたびに生まれ変わり、今は人に近い顔を持つ体長4~5メートルの生き物になっている。僕はどんどん輝きを増していく極彩色の中で、“彼女”の“あざ”と“胃”をずっと見ていた。真っ赤なソレは、極彩色の中でずっと踊り続けている。
 「綺麗だ…。」
 僕は意識せず呟きながら、また一歩、“彼女”に近付いた。
 すでに寝室の暗さはそこには無く、世界は繭という極彩色の中にあった。
 今度こそ、僕らはひとつになるのだ。本当の意味で。
 望みが叶うなら、あの美しい“あざ”と“胃”の中に取り込んでくれないだろうか。僕は永遠に、真っ赤になってそこで踊り続けるんだ。

 繭が完成する頃、僕は赤に包まれて夢を見る。もう少し寝室を広げなきゃな、と思いながら。

<終わり>


 はい、…ということで、「あざとい」がテーマのショートショートでした。…前回「月or星」との落差よ…😅

 “彼女”のイラストを最後のほうで挟むつもりだったんですが、ビジュアル化しちゃうより脳内で想像する方が気持ち悪さMAXに出来るよなと思い直して画像化はやめました。それぞれの、気持ち悪い“彼女”を想像(創造)して楽しんでくださいませ。

 途中までは〇して解体しちゃってるサイコパス野郎と思わせたかったんですけど、ソレ、表現できてたのかなぁ…?
 まあでも、結局この主人公はちょっと精神がアレな人なので、もうどうだろうとあんまり関係ないかもしれない (꒪-꒪.)‎


 最後まで目を通していただき、どうもありがとうございました。
 あと、イヤな気分になっちゃった人がいましたら、ゴメンヨ…。こんな話は滅多に書かないので、またよろしくお願いします…🙇🏻