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天上の音楽 Tristis est anima mea (Orlandus Lassus)

そうこうするうちに復活祭が1か月後ですね。
ということで私が学生時代に聖歌隊で歌った大好きな曲をご紹介します。
聖木曜日のミサに歌われる、Tristis est anima mea。ラッススの曲を私たちは歌いました。
 
※音楽の専門家ではないので、以下の記述で不正確な部分があると思います。先に謝ります。ごめんね。
 
作曲者のオルランドゥス・ラッスス(Orlandus Lassus、1532- 1594年)はポリフォニー形式の代表的音楽家。バッハが1685年生まれなので、その100年前の世代です。Tristis est anima meaも16世紀半ばの作品。学校の音楽でほぼ扱われることがない……

ホモフォニーとポリフォニー

そも、「ポリフォニー(polyphony)」とはなんぞや。
 
現代音楽は基本的に「ホモフォニー(homophony)」です。
主旋律(だいたいソプラノ)があり、他(アルト、テナー、ベースなど)がそれを支える役割をする音楽。小・中学校でやった合唱を思い出していただければ、それです。
 
メロディがあって、伴奏がある。
え、それ以外の音楽ってあるの? 
ホモフォニーが覇権を握ってから数百年、今やその形式以外の音楽は聞く機会がないですね。
 
今日ご紹介いたしますTristis~は五声のポリフォニー。
ポリフォニーには「主旋律」という概念がありません。各声部が対等で、それぞれの旋律を歌います。……聞いてもらった方が早いですね。
 

ああ、世にまたとない、天上の音楽……!
この先読まなくていいので、聞いてください……!!!

歌詞(ラテン語)とその背景

Tristis est anima mea usque ad mortem :
私の魂は死ぬほどに悲しんでいる

sustinete hic, et vigilate mecum :
ここにとどまり、私とともに目覚めていなさい

nunc videbitis turbam, quae circumdabit me.
今や、あなたがたは私を取り囲む群衆を見るだろう

Vos fugam capietis,
あなたがたは逃げ去るだろう

et ego vadam immolari pro vobis.
そして私はあなたがたのためにいけにえになろう

ラテン語!! 
好きなんですよ。大学選ぶとき、ラテン語の授業が取れるかどうかで決めたくらい。(実際受講したが初歩止まり……もちろん文法は全て忘れた……でもいいんだ、楽しかったから)
聖歌隊もラテン語の曲が歌えるのがうれしくてね。言葉の話はまた別の日に。
 
聖木曜日の歌なんですが、聖木曜日というのはカトリック典礼で非常に大事な、キリストの十字架刑直前の木曜日です。プロテスタントでも大事なはずなんですが、聖歌隊に入るまで知らなかったからなー(当方、プロテスタントのクリスチャン歴30年弱)。
 
この歌はイエスの言葉をもとに作られています。
ダ・ヴィンチの絵画で有名な、最後の晩餐ののち、弟子たちを伴ってゲッセマネの園へ行き、祈る場面。この直後に、裏切ったユダが群衆をつれてきて、イエスは逮捕される。そして、十字架へ―福音書中でも特にドラマチックな場面の一つです。

音楽と歌詞:波のように押し寄せる悲しみと慈しみ

静かに、1声ずつ、歌いだす。
“Tristis”「悲しい」の一語が重なっていく。
言葉の意味がわからなくても伝わってくるこの悲しみの深さ。「私の魂は悲しむ」。
そして一度だけ、そっと、usque ad mortem「死ぬほどに」と歌われる。
 
sustinete hic, et vigilate mecum ……天空を舞うソプラノ。
vigilate mecum「私とともに見張っていなさい」。
ああ、誰もあなたとともに目を覚ましていることはできない。それをあなたはご存じだった。
 
nuncは下4声が同時に入り、決然として「今、このとき」を感じさせます。そこまでのポリフォニックな様相からうってかわって、バシッと縦がそろう。2度目のnuncも上3声が同時で、作曲者の意図は明らか。

nunc「今」が4声でそろう

videbitisのクレッシェンドはturbam「群衆」が焦点となり、そこからまた各旋律が分かれて歌いだす。一かたまりになってイエスを捕らえにきた群衆と、彼らがイエス一行を取り囲む様子が表現されているようです。
「quae circumdabit meのベースが、近づく群衆の足音を表している」、と言ったのは誰でしたか。
 
我らが学生指揮者が「復活節で最も美しい3小節」と呼んだ39~41小節目。
内2声(Altus, Quintus)が音を交換します。四分音符で一緒に動くところ。「ミ」で交差する。こういうところがポリフォニーの喜びだし醍醐味なんです。歌わないとわからないかもしれないんですが。

復活節で最も美しい3小節はここだ!(?)

私たちが歌ったときは、アルトも “bi”で伸ばしてました。それが標準かな? 惜しいことに上にあげた音源は “da”の部分で伸ばしていて、Quintusの “cir”で伸ばすのと母音が合ってない。ここはぜひとも “i”の母音で合わせたいところじゃないでしょうか。
(ポリフォニー時代の楽譜ってたぶんバロック以降よりずっといいかげんというか、古いぶん原型が不確かなんでしょうね。合唱団によって・指揮者によって、歌い方が違うんですよ。歌詞の入るタイミングが変わるし、特定の音が半音違うとかざらです)
 
“Vos fugam capietis”「あなたがたは逃げ去るだろう」はフーガ形式というんでしょうか。同一の下降音階が次々に各パートに現れ、イエスを置いて逃げ去り四散する弟子たちの様子を見事に表現しています。
音楽はこんなにダイレクトに絵を描けるんだな。耳で聴くドラマ。

全部囲むの面倒だったからやめたけどとにかく次々てんでバラバラになって「逃げ去る」

ここを聞くと、「赦し」ってこういうことか、と思わされるんです。
「あなたがたはみんな私を置いて逃げ去るだろう、しかし私はそれをゆるすよ」と。
 

最後の一言は、どこまでも清澄に。
et ego vadam immolariは各声部3回ずつ、ホモフォニー的に進行して、
最後に一度だけ、pro vobis「あなたがたのために」で終わる。
 
悲しみも恐れもすべてを天上に向けて掲げるような、平穏の極地。
 

あくまで静かに歌われるこの曲、大げさな表現が何一つないのに、悲しみと慈しみが波のように迫ってくる。

学生時代の自分は歌うことに必死だったんですが、今座ってこれを聞いていると、涙が出てとどめようがないです。
 

(とても情熱的に歌われているバージョンもあったよ
教会の内部と聖歌隊の歌う姿も見られて素敵↓)

 

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